
新規事業のアイデア出しでは、将来の理想像から逆算してアプローチする方法もあります。それは、バックキャスティングと呼ばれる思考法です。現状にとらわれず、理想の未来から逆算して道筋を描くこのフレームワークは、新たな視点とアイデアの創出に役立ちます。本記事ではバックキャスティングの概要やフォアキャスティングとの違い、メリット・デメリット、事例をわかりやすく解説します。
バックキャスティングとは?

バックキャスティングとは、未来のあるべき姿や理想像から逆算して、現在取るべき施策やアイデアを模索するフレームワークです。企業が長期目標やパーパス(企業の存在意義)から逆算して、達成すべき目標を導き出す方法もバックキャスティングの一例と言えます。
フォアキャスティングとの違い

バックキャスティングの対となる考え方に、フォアキャスティングがあります。
フォアキャスティングは、過去や現在の課題、状況をもとに未来への道筋を考える思考法です。一方でバックキャスティングは、まず理想の未来を描き、そこから逆算して今すべきことを明確にします。
つまり、2つの違いは起点が現在にあるか未来にあるかという点です。
バックキャスティングのやり方
バックキャスティングを効果的に活用するには、やり方の手順を押さえておくことが大切です。ここでは、4つの手順を紹介します。
手順① 未来の姿の設定
最初の手順は、理想とする未来の姿を明確に描くことです。いつまでに、どのような状態を実現したいのかを具体的に言葉にします。例えば、以下のとおりです。
- 15年後には、半導体材料の業界でシェアNo.1になる
- 2030年までにカーボンニュートラルを達成する
この段階では、理想とする未来を自由に思い描くことが大切です。
手順② 課題の明確化
次に、その未来の姿を実現するために、障壁となる課題を洗い出します。例えば、以下の項目を検討します。
- 人員が不足していないか
- 資金は十分にあるか
- 社内外のどのような要素を変える必要があるか
課題を洗い出すことで、現状と理想像とのギャップを把握することが大切です。
手順③ 課題解決のアイデアを模索
明確になった課題に対して、どのような方法で解決できるかを検討します。自由な発想が重要となるため、ブレインストーミングやMECEなどの手法が有効です。
ブレインストーミングやMECEについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご参照ください。
手順④ 時間軸を考慮して施策の優先順位を決定
最後に、アイデアに優先順位をつけて、実行の順序を決めていきます。この際、時間軸を意識することがポイントです。理想の未来から現在へと逆算しつつ、アイデアを時系列で整理することで、実行可能なアクションプランを策定できます。
バックキャスティングのメリット
バックキャスティングは長期的な目標を達成するために、ビジネスでもよく使われるフレームワークです。取り入れることで3つのメリットを得られるためです。ここではそれぞれのメリットについて解説します。
メリット① 新たなアイデアが生まれやすい
バックキャスティングのメリットは、理想の未来像を起点に発想することで、現在の制約や常識にとらわれずにアイデアを広げられる点です。このアプローチによって、従来にない革新的なアイデアや新たなビジネスモデルが生まれる可能性が高まります。特に、新規事業の立ち上げやイノベーションが求められる場面で効果を発揮します。
「新規事業のアイデア出しにまつわるトレンドキーワード」の記事も併せてご覧ください。
メリット② 方向性を明確にできる
バックキャスティングのメリットは、理想像を設定することで、企業や事業としての方向性を明確にできる点です。これにより、チーム内で目指すべき方向性が共有され、一貫性のある取り組みがしやすくなります。
メリット③ 大きな成長が期待できる
バックキャスティングは理想像を起点にするため、現在の延長線では到達できないような目標を掲げることも可能です。これをアクションプランに落とし込み、実現できれば、より大きな成長が期待できます。
バックキャスティングのデメリット・欠点
バックキャスティングはメリットばかりではなく、デメリットや欠点もあります。この考え方を取り入れる前に、デメリットについても理解しておきましょう。
デメリット① 短期的な目標の実現に向いていない
バックキャスティングは短期的な目標の場合、かえって効率が悪くなります。例えば、短期間での売上向上やオペレーションの改善など、目の前の課題に対応するにはフォアキャスティングの方が適しています。
デメリット② 失敗のリスクが高くなりやすい
理想の未来像を起点にするバックキャスティングは、失敗のリスクが高くなりやすいのがデメリットです。現実とのギャップが大きいほど、実行の難易度が高くなり、計画通りに進まない可能性があるためです。また、未来像があまりに抽象的すぎると、現実的なアクションプランに落とし込むことが難しくなるケースもあります。このような失敗を避けるには、適宜アクションプランの見直しが必要です。
バックキャスティングの事例
バックキャスティングの考え方は様々な分野で取り入れられています。ここでは代表的な3つの事例を紹介します。
事例① SDGs

出典:日本ユニセフ協会「SDGsって何だろう?」
バックキャスティングの代表的な事例としてよく挙げられるのが、SDGs(持続可能な開発目標)です。SDGsは、2030年までに達成すべき国際的な目標として、17のゴールと169のターゲットが設定されています。
これらはすべて、「持続可能な未来を実現する」という理想像を起点に策定されたものです。例えば、気候変動の抑制、貧困の解消、平和な社会の実現など、人類が直面する課題を解決するための長期目標が示されています。
こうした未来から逆算して、現在すべき行動を促すプロセスは、まさにバックキャスティングの考え方そのものと言えるでしょう。
事例② 福島県郡山市
自治体においてもバックキャスティングを活用する動きが広がっています。その代表例が、福島県郡山市の予算編成における取り組みです。
郡山市では、2021年(令和3年)の予算編成においてバックキャスティングの手法を導入しました。将来想定される課題と目標を設定し、そこから逆算して、必要な事業を検討・展開しました。その主な事業は以下のとおりです。
- 全世代健康都市圏創造事業
- デジタルファースト推進事業
- 地球温暖化対策事業
- ICTを活用した働き方改革推進事業
- 新エネルギー普及促進事業
- 地域おこし推進事業
郡山市は、このような取り組みにより持続可能な社会の実現を目指しています。
事例③ Apple
Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズ氏は、「人々はインターネットを使うためにコンピューターを購入するようになる」という未来像を描いていました。この未来像に基づき、Appleは大衆向けのパソコンを開発したのです。その戦略が功を奏し、現在ではiPhoneやiPadなど様々な製品で成功を収めています。このことから、Appleはバックキャスティングの好例と言えるでしょう。
参考:GIGZINE「ジョブズは「ネットをするために人々はコンピューターを買う」と1985年に予言していた」
バックキャスティングで新たなアイデアを創出しよう
未来像から逆算する思考法「バックキャスティング」は、新規事業のアイデア出しにもおすすめです。フォアキャスティングとは異なる視点から事業を検討することで、これまでにないアイデアを創出できる可能性があるからです。
セルウェルでは、新規事業のアイデア出しや市場調査、競合調査などのコンサルティングサービスを提供しています。新規事業の開発にお悩みの経営者様は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

