太陽光パネルのリサイクル義務化とは?議論が進む背景や課題を解説 

環境省と経済産業省は、2024年9月13日に、太陽光パネルのリサイクル義務化について議論する第1回合同会議を開きました。太陽光パネルの解体・撤去費用を誰が負担するのか、事業終了後に放置した場合の措置などについて継続的に議論されており、2024年末には制度の大枠が示される方針です。本記事では基礎知識として、太陽光発電の現状や太陽光パネルのリサイクル義務化が議論される背景などをわかりやすく解説します。 

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国内の太陽光発電の現状 

日本の電源構成比において、2022年度には太陽光発電が占める割合が9.2%まで伸びました。このように、日本で太陽光発電が普及した大きな契機は2012年7月に施行されたFIT制度(固定価格買取制度)です。 

FIT制度とは、再生可能エネルギーから作られた電気を電気事業者が一定期間買い取ることを義務付けた制度です。同制度では、以下の5つの再生エネルギーについて買取を義務付けています。 

  • 太陽光 
  • 風力 
  • 地熱 
  • 水力発電 
  • バイオマス 

2012年の太陽光発電による電気の買取価格は、太陽光発電施設が10kW以上の場合、1kWあたり40円で買取期間が20年間でした。当初は買取価格が高く設定されていたことから、事業者の参入が相次ぎ、事業用太陽光発電の導入量が急増しました。以下のグラフからも2012年から2015年にかけて、事業用太陽光の新規導入量が増えていることがわかります。 

出典:一般社団法人 太陽光発電協会「太陽光発電の現状と自立化・主力化に向けた課題」 

太陽光発電による電気の買取金額は毎年減額され、2024年度は9.2円から16円の間の価格になっており大幅に減少しています。このように買取金額が減り、利益を上げにくくなったことから、2016年以降は事業用太陽光の導入量が減少しています。 

世界でみると日本の太陽光発電の累積導入量は、中国とアメリカに次ぐ世界3位です。2023年12月末時点で、累積導入量は73.1GWに達しています。なお、累積導入量から日本には、約2億枚の太陽光パネルが設置されたとのことです。 

出典:一般社団法人 太陽光発電協会「太陽光発電の現状と自立化・主力化に向けた課題」 

太陽光パネルのリサイクル義務化が議論される背景 

日本では戸建住宅の約11.6%に太陽光パネルが設置されており、2016年以降に建てられた戸建住宅に至っては22.2%にもなるとのことです。このことから、太陽光発電は日本に浸透していると言えるでしょう。そのような中、太陽光パネルのリサイクル義務化の議論がなぜ始まったのか、その背景について解説します。 

2030年代後半に予想される太陽光パネルの大量廃棄 

1つ目の背景は、2030年代後半に太陽光パネルの大量廃棄が問題になると予想されているためです。 

先の章で紹介したように、FIT制度が開始した2012年から2015年にかけて、多くの太陽光パネルが設置されました。そして、太陽光パネルの寿命は20年から30年と言われているため、2030年代後半から次々と寿命を迎える見込みです。 

環境省の推計によると、使用済み太陽光パネルの排出量は2030年代後半以降、年間50万から80万トンと予想されています。なお、2021年の日本全体の処理能力は年間約7万トンで、将来に必要となる処理能力と大きな開きがあります。 

参考:環境省「再生可能エネルギー発電設備の廃棄・リサイクルに係る現状及び課題について」 

太陽光パネルが寿命を迎えると問題なのは、所有者が処分費用を用意できず、不法投棄や放置などが増えることです。このような事態を避けるためには、リサイクル費用を事前に確保する必要性があることから義務化について議論されています。 

太陽光パネルに含まれる有害物質による悪影響 

2つ目の背景は、太陽光パネルに含まれる有害物質による悪影響です。太陽光パネルの種類によっては、鉛・カドミウム・ヒ素・セレンなどの有害物質が含まれています。これらの有害物質は、それぞれ適切な処分方法が必要です。 

しかし、廃棄物処理業者に有害物質が含まれていると伝わらないと、本来は「管理型最終処分場」で埋め立てる必要があるのに、一般的な処分場に埋め立ててしまうことも考えられます。そのため、地震や大雨などの災害によって、処分場内から有害物質が漏れだして環境汚染を引き起こすことが懸念されています。 

最終処分場のひっ迫 

3つ目の背景は、最終処分場がひっ迫する恐れがあることです。先に紹介したように、2023年代後半には、太陽光パネルの廃棄は1年間で最大50万トンが排出される見込みです。この量は、2021年度の産業廃棄物の最終処分量の6%に相当します。排出量の急激な増加は、最終処分場を想定よりも満杯になる可能性があります。 

資源の再利用の促進 

4つ目の背景は、太陽光パネルに使われている資源の再利用を促進するためです。太陽光パネルは大部分がガラスで構成されていますが、一部、アルミや銀などの価値のある資源も含みます。そのため、太陽光パネルを回収することで、資源の有効利用につながります。 

太陽光パネルのリサイクル義務化の議題 

環境省と経済産業省は、2024年11月20日時点で、5回にわたり太陽光パネルのリサイクル義務化に関して合同会議を開きました。その会議では、太陽光パネル(モノ)を適切に処理するために、必要な「費用」と「情報」が円滑に流通する枠組みとして、モノ・費用・情報の3つの視点から議論されています。ここでは、それぞれの視点の論点を紹介します。 

モノの論点 

モノに関する論点は以下のとおりです。 

  • 事業用や家庭用、既存施設、今後に新設する施設など、規制の対象となる太陽光パネルをどの範囲に設定するか。 
  • 太陽光パネル以外の施設や設備について、太陽光パネルと同様に何らかの対策が必要か。 
  • 関係事業者間での処理の責任分担をどのようにするか。 
  • 所有者からリユース・リサイクル事業者に、太陽光パネルを確実に引き渡される仕組みをどのように構築するか 
  • 事業終了後に太陽光発電設備が放置された場合にどのような措置が必要か。 
  • 太陽光パネルの排出量のピークの平準化を図るためにどのような方法があるか。 
  • リユースされた太陽光パネルの利用促進のために、どのような方策があるか。 
  • 排出された太陽光パネルを円滑にリサイクルするために、必要な処理能力をどのように確保するか。 

費用の論点 

費用に関する論点は以下のとおりです。 

  • 解体・撤去・運搬・埋立などの費用は、どのような負担の仕方が適切か。 
  • 再資源化に係る費用について、どのような負担のあり方が適切か。 
  • 解体や再資源化などの費用を設定すべきか。 
  • 確実に解体・再資源化の実現に向けて、いつ、どのような形で費用を確保するか。 
  • リサイクル事業のコスト低減に向けた支援をどのようにするか。 

情報の論点 

情報に関する論点は以下のとおりです。 

  • 使用済み太陽光パネルを適切に解体・再資源化する上で、いつ、どのような情報が必要となるか。 
  • 太陽光パネルのトレーサビリティを確保するために、どのような形で情報を管理するべきか。 

※トレーサビリティとは、製造から消費、廃棄までの履歴を追跡できる仕組みのことです。 

海外の太陽光パネルのリサイクルに関する規制の現状 

海外の諸外国においても太陽光のリサイクル化について議論されており、義務化されている国や地域もあります。この章では、海外の太陽光パネルのリサイクルに関する規制の現状について紹介します。 

アメリカ 

アメリカでは一部の州において、太陽光パネルのリサイクル義務化が定められていますが、国全体としての制度はありません。また、アメリカにおいても2050年までに、550万から1,000万トンの太陽光パネルの大量廃棄が発生する可能性があります。 

中国 

中国は、太陽光パネルの生産量1位の国で、世界シェアの8割を獲得しています。しかし、太陽光パネルのリサイクル義務化に関する規制はありません。 

EU 

EUは、2000年ごろから世界に先駆けてFIT制度を導入し、2012年には使用済み太陽光パネルの回収・運搬・処理が義務化されました。 

太陽光パネルのリサイクル義務化は新たなビジネスチャンス 

日本では2030年代後半以降に、太陽光パネルの大量廃棄が問題になると考えられています。年間50万トンの太陽光パネルが廃棄されるとみられていますが、2021年時点で日本の処理能力は年間7万トンです。そのため、リサイクル義務化に加えて、処理技術や処理能力を高める必要があります。新規事業のアイデアにお悩みの経営者様は、太陽光パネルのリサイクル関連の事業を検討してみてはいかがでしょうか。