日本政府は、2022年11月「スタートアップ育成5か年計画」を決定し、5年後にスタートアップへの投資額を10倍以上にするという目標を掲げています。その実現のために注目されているのがディープテック分野のスタートアップ企業です。そこで本記事ではディープテックの概要や注目される背景、主要分野の事例を紹介します。
Contents
ディープテックとは
ディープテックとは、気候変動や食糧問題などの社会課題の解決に大きなインパクトを与えられる技術のことです。AIやIT、クリーンエネルギー、量子コンピュータといった幅広い分野の技術が該当します。
なお、経済産業省の産業技術環境局では、ディープテックを「特定の自然科学分野での研究を通じて得られた科学的な発見に基づく技術であり、その事業化・社会実装を実現できれば、国や世界全体で解決すべき経済社会課題の解決など社会にインパクトを与えられるような潜在力のある技術。」と定義しています。
引用:産業技術環境局「ディープテック・スタートアップ支援事業について」
ディープテックが注目される背景
ディープテックは、社会課題を解決できる可能性があるだけではなく、ビジネスとしても注目されています。その背景は以下のとおりです。
- 世界市場の拡大
- ディープテック分野へのVC(ベンチャーキャピタル)投資の増加
- 社会課題への意識の高まり
- 日本政府による支援
これら4つの背景をわかりやすく説明します。
世界市場の拡大
1つ目の背景は、ディープテックの世界市場規模が拡大すると予想されていることです。Future Market Insightsの「Deep Tech Market Outlook (2024 to 2034)」によると、ディープテックの市場規模は、2023年の5億9,210万ドルから2034年に38億5,710万ドルにまで拡大する見込みです。2024年から2034年の年平均成長率は18.7%に達し、急拡大が予想されています。このように市場規模の拡大が期待されているため、ビジネスチャンスが多い分野として注目されています。
ディープテック分野へのVC(ベンチャーキャピタル)投資の増加
2つ目の背景は、ディープテック分野へのVC投資の増加です。VC投資とは、将来有望な未上場企業に投資して、その企業が上場すると株式を売却して利益を得る投資方法です。例えば、ソフトバンクグループがAIの未上場企業のOpenAIに対して行った投資が挙げられます。同社が投資した規模は5億ドルと言われ、OpenAIは未上場企業でありながら、企業価値が1,570億ドルと評価されています。このような世界のVC投資額に占めるディープテック投資額の割合は、以下のとおりです。
出典:内閣官房 グローバル・スタートアップ・キャンパス構想推進室「スタートアップ・エコシステムの現状と課題」
上図のように、VC投資額の中でディープテック投資の割合が増加しており、投資家からも注目されていることがわかります。
社会課題への意識の高まり
3つ目の背景は、社会課題への意識の高まりです。2015年に採択されたSDGsにより、現代社会には様々な社会課題があると広く認知され、対策も進められるようになりました。その社会課題の解決に向けた取り組みとして、ディープテックが注目されています。
日本政府による支援
4つ目の背景は、日本政府による支援策です。ディープテックはその必要性から注目されていますが、一方で以下のような特徴も持ち合わせています。
- 実装までに長期間を要する上に不確実性が高い
- 多額の資金が必要
- 事業化・実装の際に既存のビジネスモデルを適用できない
これらの特徴から、イノベーションの循環が起きにくいとして政府は「ディープテック・スタートアップ支援事業」により、ディープテックのスタートアップ企業を支援しています。その予算規模は、5年間で1,000億円を予定しており、その規模の大きさからビジネスチャンスとして注目されています。
ディープテックの主要分野と事例
ディープテックは幅広い分野が該当するため、イメージしにくいというビジネスパーソンもいるかもしれません。そこで、この章ではディープテックの主要分野の中から、3つの分野と事例を紹介します。
AI:Idein(イデイン)株式会社
1つ目の主要分野はAIです。AIは多くの分野において、企業や社会の課題解決のために活用されています。例えば、天気予報などから食品の需要予測ができるAIをスーパーマーケットに導入することで、食品ロスの削減に役立ちます。
そして、エッジAIのプラットフォームの開発・提供に取り組んでいる企業が、Idein株式会社です。
エッジAIとは、AIを搭載したカメラやマイクなどのデバイスから情報を取得し、その場でAI解析を実行する技術のことです。必要最小限のデータのみ送受信するため、コストの削減やプライバシー保護、機密情報漏洩のリスクを低減できます。
Idein株式会社のディープテックは、AIソリューション開発企業向けの「エッジAIプラットフォーム」です。多くの企業がこのサービスを活用し、AIを実装しています。同社によると、すでに16,000台以上が運用されているとのことです。
核融合発電:京都フュージョニアリング株式会社
2つ目の主要分野は核融合発電です。核融合は、原子核同士を合体させたときに非常に大きなエネルギーを発生する反応のことです。核融合には以下のような利点があります。
- 燃料資源は海水中に豊富にある
- 高い安全性(暴走はしない)
- 二酸化炭素が発生しない
- 大規模な電力を供給できる
- 高レベル放射性廃棄物が生じない
これらの理由から、電力を生みだすための二酸化炭素の排出や資源の枯渇といった社会課題の解決に役立ちます。
核融合発電の分野に取り組んでいる企業が、京都フュージョニアリング株式会社です。
京都フュージョニアリング株式会社は、京都大学発のベンチャー企業で、核融合の主要装置やコンポーネントを開発しています。同社は2022年7月、世界初の核融合発電試験プラントの建設プロジェクトを始動しました。この取り組みは、核融合発電の実現に向けたディープテックとして注目されています。
量子コンピュータ:株式会社QunaSys(キュナシス)
3つ目の主要分野は量子コンピュータです。量子コンピュータは原子や光子を利用したコンピュータのことで、非常に高い演算能力を実現できます。量子コンピュータの計算速度は、スーパーコンピュータの1億倍とも言われています。まだ実用段階には至っていませんが、現行のコンピュータでは計算できない大規模な計算を実行できるのが強みです。新薬の迅速な開発、災害対策シミュレーション、製造プロセスの最適化などにより、様々な社会課題の解決に貢献すると考えられています。
その量子コンピュータのディープテックに取り組んでいる企業が、株式会社QunaSysです。株式会社QunaSysは、量子コンピュータの性能を十分に引き出すためのアルゴリズム・ソフトウェアを開発しています。実機を用いた実験にも成功するなど、量子コンピュータの実用化に向けた重要な技術として期待されています。
ディープテックに注目しよう
ディープテックは簡単に言えば、社会貢献に役立つ次世代の技術です。世界市場の拡大や日本政府の支援などにより、ビジネスチャンスの多い分野と言えます。新規事業のアイデアをお探しの経営者様は、ディープテックに関連した事業を検討してみてはいかがでしょうか。