経済産業省が取り組むウラノス・エコシステムとは?

経済産業省は2023年4月、官民を横断するデータの連携・活用を目的に、産業データ連携のイニシアティブ「ウラノス・エコシステム(Ouranos Ecosystem)」の立ち上げを発表しました。多種多様な企業間の産業データを共有することで、日本産業全体の効率化が期待されています。本記事ではウラノス・エコシステムの定義や具体的な取り組み、経済産業省が推進する背景を紹介します。 

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ウラノス・エコシステムとは 

出典:経済産業省「Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)」 

ウラノス・エコシステムとは、企業が業界を横断してデータを連携・活用する取り組みです。経済産業省では以下のように定義しています。 

「信頼性のある自由なデータ流通(DFFT)の実現に向け、複数のシステムを連携させ、企業・業界を横断したデータの利活用を促進することで、データ・システム・ビジネス連携を具体的に推進し、官民協調で企業・産業競争力強化を目指す取組」 

引用:経済産業省「ウラノス・エコシステムの概要」 

また、経済産業省の公式サイトでは、「Society 5.0の実現というビジョンに共感した方々とともに、取り組みを通じて実現を目指すイニシアティブ」と解説しています。 

なお、Society 5.0とは、日本が目指すべき未来の社会像のことです。これまでのSocietyは以下のように表します。 

Society 1.0:狩猟社会 
Society 2.0:農耕社会
Society 3.0:工業社会 
Society 4.0:情報社会

そして、日本政府はSociety 5.0として「持続可能性と強靭性を備え、国民の安全と安心を確保するとともに、一人ひとりが多様な幸せ(well-being)を実現できる社会」を目指しています。 

特徴 

ウラノス・エコシステムの特徴は、単に企業間でデータをやり取りするのではなく、企業間のシステムを連携することです。経済産業省は、ウラノス・エコシステムのプラットフォームの開発、システム連携のためのルール作りなどを行っています。 

具体的な取り組み 

これまでの取り組みとして、2023年度にはガイドラインの発行やオープンソースソフトウェアの提供が開始されました。現在は、先行事例として蓄電池サプライチェーンでのカーボンフットプリント算出に向けたデータ連携システムの運用を進めています。 

具体的には、2024年2月にトヨタ自動車株式会社や本田技研工業など、国内の自動車メーカーや自動車部品・蓄電池の業界団体によって「一般社団法人 自動車・蓄電池トレーサビリティ推進センター」が誕生しました。 

この一般社団法人が中心となり以下のような構造で、データ連携システムの構築を目指しています。 

出典:経済産業省「ウラノス・エコシステムの概要」 

ウラノス・エコシステムを推進する背景 

そもそも「なぜ官民でデータを共有する必要があるのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。そこで、ここでは経済産業省がウラノス・エコシステムを推進する背景を紹介します。 

社会課題の解決 

日本は少子高齢化・人口減少による人手不足に加えて、災害の甚大化など様々な課題に直面しています。例えば、「物流業界の人手不足により荷物を運ぶのが困難になる」や「過疎化により移動が難しい人がいる」などです。このような社会課題を解決するには、様々な分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する必要があります。その実現のためには、官民でデータを共有して活用できることが重要と考えられています。 

※DXとは、デジタル技術により人々の生活をより良いものに変容させること。 

自動運転車や自律移動ロボットが行き交う社会の実現 

次世代の移動手段や配送手段として、自動運転車やドローン、自律移動ロボットの開発が進められています。このようなモビリティの安全かつ経済的な運行に、官民のデータ共有が必要と考えられています。なぜなら、モビリティの運行をデジタル上でシミュレーションし、そのデータを活用することで実現できるとされているからです。 

サプライチェーンの強靭化 

経済産業省はウラノス・エコシステムの推進により、サプライチェーンの強靭化を図れるとしています。その理由は、契約から決済までの取引プロセスをデジタル化し、データ連携を可能にすることでサプライチェーン全体を最適化できるからです。また、この仕組みにより多くの企業がサプライチェーンに関与しやすくなり、中小企業やベンチャー企業がより活躍できる社会の実現も期待されています。 

国際的な法規制への対応 

ウラノス・エコシステムを推進する背景は、国際的な法規制への対応が求められているためです。例えば、自動車業界では欧州電池規制が挙げられます。欧州電池規制は欧州で販売される電池や蓄電池に関する規制で、この規制にクリアしないと欧州で電気自動車が販売できません。このような国際的な法規制やリスクに対応するために、他社とのデータ共有が有効と考えられています。 

海外におけるデータ共有の取り組み 

企業間のデータ共有に取り組んでいるのは日本だけではありません。ここでは、海外の取り組みについて紹介します。 

欧州の分散型データエコシステム:GAIA-X(ガイアX) 

GAIA-Xは2020年に、ドイツやフランスが中心となり立ち上げたデータインフラプロジェクトです。現在はベルギーに本社を置く非営利団体のGaia-X AISBLが運営し、ヨーロッパ全体の分散型データエコシステムの構築を目指しています。 

※データエコシステムとは、データを収集・保存・分析するために相互接続された複雑なネットワークのこと。 

GAIA-Xを発足した背景は、アメリカと中国の大手プラットフォーマー企業に対抗するためです。具体的にはアメリカのGAFAM(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)、中国のBAT(Baidu、Alibaba、Tencent)です。これらの企業は、世界規模のデータを収集し活用しています。しかし、ヨーロッパにはこれらの企業のような規模でデータを収集し活用している企業はありません。そこで、ヨーロッパ全体で大手プラットフォーマー企業に抵抗するために、GAIA-Xのプラットフォームを発足したのです。 

GAIA-Xの目的は、信頼できる環境の中でデータが共有・活用されるエコシステムを確立することです。最終的には、高性能な分散型データエコシステムを構築することで、ヨーロッパ全体の競争力の向上を目指しています。 

ドイツのIDSA(International Data Space Association) 

IDSAは、2017年にデータ共有のためのルールを策定する非営利組織として設立されました。ビジョンに「すべての企業が自主的に利用ルールを決定し、安全で信頼できる対等なパートナーシップのもと、データの価値を最大限に高めることができる世界」を掲げて、活動しています。現在では、31カ国の183の企業や組織が参加するグローバルな団体に発展しています。 

ウラノス・エコシステムの動向に注目しよう 

ウラノス・エコシステムは、官民を横断するデータの連携・活用を目的に発足したイニシアティブです。同システムはデータ共有だけではなく、企業間のシステム連携を目指しているのが特徴です。完成・普及すれば、企業の業務効率の改善やイノベーションの創出などに役立つとされています。すでに先行事例の取り組みを開始しているので、今後の動向にも注目しましょう。