新規事業のアイデアを考えては、「出ない」「思いつかない」と悩んでいる方も少なくないでしょう。それは既存の製品やサービスを上回るアイデアを出すのは、容易ではないからです。新規事業のアイデア出しで悩んでいる方のために、以下の4つのトレンドキーワードを紹介します。
- デザイン思考
- バックキャスティング
- PoC
- アクセラレータープログラム
これらの概念の理解を深めて、新規事業のアイデア出しにお役立てください。
Contents
デザイン思考
デザイン思考とは、デザイナーがデザインするプロセスを事業の課題解決に応用した考え方です。具体的にはユーザー視点に立ち、サービスや製品の課題、ニーズを発見し改善します。
デザイン思考の始まりは1969年ハーバート・サイモンの「システムの科学」で、デザインを思考の方法として紹介したことです。さらに、1987年にピーター・ロウの「デザインの思考過程」において「デザイン思考」の名前が登場します。
デザイン思考のプロセス
デザイン思考には5つのプロセスがあります。特徴は各プロセスを一方向に進むのではなく、行ったり来たりすることです。繰り返しの検討で、質の高いアイデアを創出できます。
- 共感:Empathize
共感は課題やニーズなどをユーザー視点で洗い出すことです。インタビューやアンケートなどで、「どのようなニーズがあるのか」「エンドユーザーが困っているのは何か」などを調査します。
- 定義:Define
定義は、共感の情報からユーザーのニーズの仮定です。ユーザーがどのようなことに困っていて、どのようなニーズがあるのかを具体的にします。
・概念化:Ideate
ユーザーのニーズを定義できたら、次は概念化です。概念化とは、課題の解決やニーズに対応するための具体的なアイデアを探ることです。
- 試作:Prototype
アイデアが決まると試作品を作成して、実際に具現化します。試作品で、新たな問題点や課題に気づく場合もあるためです。
- テスト:Test
試作品をユーザーにテストしてもらい課題を解決できているか、ニーズを満たせているかを確認します。期待した結果が得られない場合は、定義のプロセスで仮定したニーズや課題を見直す必要があるでしょう。
デザイン思考を用いた成功事例
デザイン思考を用いた成功事例として有名な企業はAppleです。具体的な製品は、iPodやiPhoneなどが挙げられます。
iPhoneの登場まではガラケーと呼ばれる携帯電話が主流で、電話とメールが主な機能でした。しかしiPhoneは、アプリと呼ばれる機能追加システムやタッチパネルでの操作で、爆発的な人気の獲得に成功しています。
なぜならゲームや音楽、動画などアプリを変えることで、ユーザーに合った使い方ができるようになったためです。デザイン思考をうまく活用し、デザイン性と機能性で成功した製品といえるでしょう。
デザイン思考のメリット
新規事業のアイデアを出すうえで、デザイン思考には以下の4つのメリットがあります。
- アイデア提案がしやすくなる
- 様々な意見に耳を傾けやすくなる
- ユーザー視点に立てる
- チームの連携が強化される
デザイン思考で大切なのは、様々な知識や経験を持つ多様なメンバーがそれぞれアイデアを出すことです。多種多様なアイデアによって、思いもよらなかったアイデアが出ることもあるためです。
デザイン思考のデメリット
デザイン思考のデメリットは、これまでにない製品やサービスを生み出しにくいことです。なぜならユーザーが課題と感じていない場合やニーズがない場合は、定義のプロセスが困難なためです。
まったく新しい製品やサービスは、ユーザーが体験していないため、課題もニーズもわからずアイデアを出すことも難しくなるでしょう。
バックキャスティング
バックキャスティングとは未来のあるべき姿や理想の姿から逆算して、現在から未来への道筋を探る手法です。1990年ジョン・B・ロビンソンの「Futures under glass: A recipe for people who hate to predict」で提唱されたのが始まりです。
バックキャスティングは10年先や20年先といった、長期の事業の方向性やアイデアの模索に向いています。例えば2050年にCO2の排出量を60%削減や、カーボンニュートラルの実現に向けたロードマップの作成に用いられています。
反対に、現在できるアイデアや施策から積み上げる考え方はフォアキャスティングです。フォアキャスティングはバックキャスティングとは違い、将来の姿よりも今実現できるかに焦点をあてたアイデアの模索方法といえます。
バックキャスティングを新規事業で用いる際は、長期的なスパンで発展させる戦略を練るための活用がおすすめです。
バックキャスティングのプロセス
バックキャスティングには4つのプロセスがあります。
- 未来の姿の設定
バックキャスティングで重要なポイントは、未来の姿の設定です。未来の姿はあるべき姿や理想の姿なので、現時点で実現可能かを考慮する必要はありません。「いつ」「どのようになっているか」を具体的に設定しましょう。
- 課題の明確化
未来の姿を設定すると現在の姿とのギャップがわかります。次に、ギャップを埋めるための課題を明確にします。例えば人員が不足していないか、資金が足りないか、経験やスキル、あるいは設備面に課題がないかなどです。ギャップを埋めるほど未来の姿に近づくため、可能な限り多くの課題を洗い出すことがポイントです。
- 課題解決のアイデアを模索
洗い出した課題を解決できるアイデアを検討します。ここでも現時点で実現可能かどうかを考慮する必要はなく、課題解決に焦点をあてたアイデア出しが大切です。
- 時間軸を考慮して施策の優先順位を決定
アイデアから考えられる施策を、時間軸を考慮しながら優先順位を決定します。時間軸を考慮して施策を並べてみると、新たな課題が見つかることもあります。それらの課題の解決方法も新規の施策として追加しましょう。
バックキャスティングの事例
バックキャスティングを事業に取り入れている企業として有名なのはトヨタ自動車です。トヨタ自動車は、2015年に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表しています。
「トヨタ環境チャレンジ2050」の目的は、自動車が持つ地球環境などのマイナス要因を可能な限り排除し、サステナブルな社会の実現です。
具体的にはCO2排出や水不足、資源枯渇に対して、6つのチャレンジに分けて目標を掲げています。また中間目標として、2030年に達成すべき目標値も公表しています。
2050年の未来のあるべき姿から、2030年のあるべき姿を想像し、さらに現在すべき施策にまで落とし込んでいるので、バックキャスティングの参考とすべき事例です。
参考:トヨタ自動車「6つのチャレンジ」
バックキャスティングのメリット
バックキャスティングは、様々な事業で活用されている考え方です。例えば新規事業やサービス開発、DX推進やSDGsの達成などです。その理由は「大きな目標に対してアプローチできる」や「新しい発想により解決策や戦略を生み出せる」といったメリットが挙げられます。
現状では実現不可能と思われるような高い目標であっても、バックキャスティングを用いることで、解決の糸口を見つけられるでしょう。
バックキャスティングのデメリット
バックキャスティングのデメリットは、高い目標であるがゆえに解決方法を確実に実現できるとは限らないことです。
また未来の姿から考える方法であるものの、近い未来に対しては向いていません。例えば、1年後の未来の姿から逆算といった具合です。短期的な場合、現在実現できる施策かどうかが重要なためです。
あくまでも10年や20年といった、長期的なロードマップの作製に向いているフレームワークといえるでしょう。
PoC
PoCとはProof of Conceptの略で、新たなアイデアやコンセプトの実現の可能性、期待した効果が得られるかなどの検証です。日本語で概念実証とも呼ばれます。
PoCはもともと製造業や製薬業、映画業界などでよく用いられていました。例えば薬であれば期待する効果が得られるのかを臨床試験で実証しますし、映画であればコンセプトフィルムなどで新規の技術の実用性を検証します。
近年ではIoTやAI、DX推進など「新しい概念」の検証にも注目されている手法です。
PoCのプロセス
PoCは以下の4つのプロセスが一連の流れとなります。
- ゴールの設定
はじめに目的であるゴールの設定です。新規事業であれば、顧客の課題解決やニーズへの対応が考えられます。具体的に顧客満足度などを設定しましょう。
- 進め方の検討
次に概念実証の進め方の検討です。実証実験ですので、可能な限り小規模でありながら、ターゲットユーザーに近いモニターや環境を整える必要があります。
- 検証の実施
決定した進め方に沿って検証します。例えば試作品をターゲットユーザーに使用してもらい、アンケートから顧客満足度の数値化といった具合です。
- 評価
検証結果を分析して、設定したゴールに到達しているかを評価します。評価結果が不十分な場合はPoCを繰り返すことで、さらに効果の高い製品・サービスを生み出せます。
PoCの成功事例
PoCの成功事例は、自動運転バスを実現したDOLDLYです。
DOLDLYは日本の地方に自動運転バスのニーズがあることに着目し概念実証を続け、2020年に茨城県堺町で自動運転バスの運行を実用化しました。
高齢化社会に対応すべく、社会モデルの実証として多くの自治体から注目を集めています。DOLDLYの取り組みは、他の自治体での実証実験や定常運行など大きな広がりを見せつつあります。
PoCのメリット
PoCは試作品などにより効果を試すことで、得られるメリットが3つあります。
- リスクを抑えられる
- スモールスタートができる
- 意思決定の判断材料となる
新規事業のアイデアを思い浮かんでも、成功するかどうかは実際に事業をスタートしてみないとわからない部分もあるでしょう。
そこで本格的な参入の前に、PoCでテスト的に事業をスモールスタートさせるのがおすすめです。開発コストなどのリスクを抑えながら、アイデアの可能性を検証できて意思決定の判断に役立つためです。
PoCのデメリット
PoCのデメリットは設定した目標を達成できないと、「PoC疲れ」を引き起こすことです。なぜならPoCは目標を達成できない場合、PoCを繰り返す必要があるためです。
何度もPoCを繰り返すと、多くのコストや時間を費やしてしまいます。また結果が出ないと、担当者が疲弊しモチベーションを下げる原因にもなります。
「PoC疲れ」を避けるためには、繰り返す回数に制限を設けると良いでしょう。
アクセラレータープログラム
アクセラレータープログラムとは事業者や自治体が主催者となり、スタートアップ企業との協業や出資を目的に開催される取り組みです。
アクセラレータープログラムの実施で、新規事業のアイデアの募集や事業の立ち上げなどをスピーディに進められます。
アクセラレータープログラムのプロセス
アクセラレータープログラムのプロセスは以下の4つで、募集から成果発表までが1つの取り組みです。成果発表で一度区切るのがアクセラレータープログラムの特徴ともいえるでしょう。
- アイデアの募集
はじめにアクセラレータープログラムの内容を公表し、広く企業や大学機関などからのアイデアを募集します。
- 選抜・選考
応募アイデアのなかから、魅力的なアイデアを選抜・選考します。
- 実施
実施は、実証実験や効果を検証しながらアイデアを具現化することです。アクセラレーターはアイデアを実現できるように、スタートアップ企業や大学をフォローアップします。アクセラレータープログラムには支援期間が設定されており、支援期間を「アクセラレーション」と呼ぶこともあります。
- 成果発表
アクセラレータープログラムの最後は成果発表です。実施して得られた結果をプレゼンして、資金調達やリソースの調達、サービスのPRなどにつなげます。成果発表はアクセラレーターだけではなく、様々な関係者を招待するケースもあります。
アクセラレータープログラムの成功事例
アクセラレータープログラムの成功事例は、JAアクセラレーターです。
JAアクセラレーターは2020年から2021年、2022年と実施されているアクセラレータープログラムで、第1期と第2期で300以上の企業から応募がありました。その応募アイデアのなかから15社が選ばれ、JAグループとの協業につながっています。
JAアクセラレーターの特徴は、JAグループのスタッフ伴走やPoCの費用出資など、応募者にメリットがあることです。
JAグループも出資先や協業先を確保できるメリットがあり、双方にとってウィンウィンの関係を構築できるアクセラレータープログラムといえるでしょう。
アクセラレータープログラムのメリット
アクセラレータープログラムはアクセラレーターと、スタートアップ企業双方にメリットがあります。
- アイデアや技術を取り込める
アクセラレータープログラムを主催するメリットは、新たなアイデアや技術を取り込めることです。自社では思いつかなかったアイデアや自社にはない技術により、新たなビジネスの可能性を模索できます。
- リソースを確保できる
スタートアップ企業におけるメリットは、大手のノウハウやリソースを活用できることです。自社単体ではリソース不足で実現できなかったアイデアに挑戦できるため、チャンスを広げるのにも役立ちます。
アクセラレータープログラムのデメリット
アクセラレータープログラムを主催するデメリットは、多くのリソースを投入する必要があることです。なぜならプログラムの公表から成果発表までに、多くの工数がかかるのに加えて、伴走のために人員を割く必要もあるためです。
中長期的な目線で新規事業を育てることで、これらのデメリットをカバーできるでしょう。
新規事業のマーケティング支援ならセルウェル
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