新規事業を立ち上げることが決まったものの、やり方に迷っている方はいませんか。
新規事業の成功のポイントは、他部署を巻き込んだ合意形成(コンセンサス)が取れるかどうかです。とくに前例のない取り組みの場合は成功に大きく影響し、コンセンサスが取れていなければ途中で空中分解することもあるため注意が必要です。
本コラムは、弊社で開催させていただきましたラジオ風ウェビナー
『コンセンサスを伴う新規事業推進のためのワークショップデザインとは?』
の一部内容を編集して、全5回のシリーズに分けてお届けいたします。
1回目は、「日本企業に新規事業創出が求められる理由」と「新規事業の推進担当者が頻繁に直面する問題」について紹介します。
Contents
新規事業の実情とは?
そもそも、なぜ新規事業を立ち上げようとしていますか?
例えば、アフターコロナ・ウィズコロナ時代に合ったビジネスモデルや、次世代の収益の柱となる事業の模索といった理由でしょう。
日本国内では激変する外部環境に対応するために、多くの企業で新たなビジネスを模索する動きが広がっています。そこで、新規事業におけるコンセンサスについて理解を深める前に、日本企業での新規事業の実情について解説します。
いま、日本企業に新規事業創出が求められる理由
日本企業に新規事業創出が求められている理由は、「少子高齢化」と「デフレマインド」の2つがあります。この2つは、企業を存続させるためにも避けては通れない大きな問題です。
少子高齢化
日本の人口は2008年をピークに年々減少し続け、人口減少に歯止めがかからない状態です。そのため、2042年には総人口が1億人を割り、2055年には8,411万人になると予測されています。
参考:内閣府「総人口の減少と人口構造の変化」
人口減少に加えて少子高齢化も進むため、下記のグラフからもわかるように、高齢化率が上昇し14歳以下の人口がさらに減少していきます 。
引用:厚生労働省「令和4年版 労働経済の分析」
企業にとって少子高齢化の何が問題かといえば、労働人口が減少することです。
2017年の労働人口は6,720万人でしたが、2025年には6,552万人、2040年には5,846万人と予想されています。また2025年を境に、労働人口は急速に減少し始めます。
さらに高齢化により、医療や福祉にこれまで以上に労働力が必要です。医療・福祉の分野では就労者が増加すると見込まれているため、そのほかの産業では労働力を確保するのが難しくなるでしょう。
参考:厚生労働省「令和2年版厚生労働白書」
つまり生産、サービスに従事する人口が減少する中で、既存体制では事業継続が不可能になる企業も出てきます。
現に人手不足倒産と呼ばれる、後継者がいない、新たな人材を確保できないといった理由で継続が困難になる企業もあります。
そのため日本企業においては、少ない人員でも収益性を維持するために高付加な事業を創出する必要性があるのです。
DXや海外進出は打開策になりえるか?
総人口や労働人口の減少に伴い、注目されているキーワードに「DX」や「海外進出」があります。しかしすべての企業において、DXや海外進出が打開策になるかは疑問です。なぜなら業種によっては、これらの戦略が有効ではない場合もあるためです。
自社のビジネスモデルにあった戦略や、新規事業開発が多くの企業に有効な打開策といえるでしょう。
デフレマインド
少子高齢化に対応するためには、高付加・高単価の商品・サービスを展開しなければなりません。しかし、これらを阻害する要因にデフレマインドがあります。
デフレマインドとは、約30年間続く日本のデフレにより、「安いことが美徳」とされる消費マインドのことです。安くて品質も高いのが当たり前といった消費者心理があるため、企業もデフレ前提の事業展開を継続しなければなりません。
つまり、消費者はより安い商品を求め、それに答えるために企業はより安い商品を生み出そうと努力します。
デフレマインドの何が問題なのかは、下記の消費者物価指数と国内企業物価指数のグラフを見るとわかります。
参考:総務省「2020基準 消費者物価指数」
参考:日本銀行「企業物価指数の公表データ一覧」
昨今、物価が高騰していると叫ばれている中でも、国内企業物価指数と消費者物価指数の乖離が広がっています。
これが意味するのは、企業の仕入れ値が高騰しているのに、販売価格に転嫁できていない現状です。つまり企業が我慢をしながら経営を続けている状態で、デフレマインドが日本経済に大きな負荷をかけているのがわかるでしょう。
企業がこのような状況を打ち破るには、新たな高収益モデルの構築のために、新規事業開発の推進が必要なのです。
日本はこのままでいいのでは?
30年間デフレが続いてきたため、「日本はこのままでもいいのでは?」と感じている方もいるかもしれません。
しかし欧州や米国などがインフレなのに、日本だけが企業の体力を削られていくと、世界的な競争力が落ちていくでしょう。米中欧の各国が成長している中、日本だけ成長を止めてしまうと一層不利な境遇に落ちてしまうのは明白です。
このような時代だからこそ、新たな価値を創出する「新規事業」や「イノベーション」が必要なのです。
新規事業の推進担当者が頻繁に直面するリアル
日本企業は新規事業を推進する必要があるのに、実際には様々な要因で進まないことも珍しくありません。
新規事業推進の際に、以下の3つの声を聞いた経験がある方は多いでしょう。
「やる必要があるの?」
「誰がやるのよ?」
「俺は聞いていないぞ!」
これら3つの言葉は、新規事業推進のあるあるともいえるほどよく聞かれます。この章では、なぜこのような声が起きてしまうのか、理由や原因について考察します。
新規事業開発の一般的なフロー
実務担当者が直面する困難や不安について考察する前に、新規事業開発のフローの齟齬をなくしましょう。セルウェルが考える新規事業開発のフローは、8つのステップがあります。
- 現状整理
- 施策背景の把握
- 経営理念の確認
- プロセス設計
- 事業開発のゴールやマイルストーン、評価軸の策定
- 新規事業開発の価値観の共有
- アイデア量産
- 部署、役職をまたぐ多角的な視点からアイデアを洗い出す
- 事業モデルの仮構築
- 案を複数選定し、事業モデルを仮組
- Pros/Cons整理
- 簡易市場調査
- 市場性把握
- 定量/定性両面の調査が理想的
- バリューチェーン仮構築
- VCを仮設定しPros/Cons整理
- 実証
- 手元材料で財務分析
- 投資・撤退の判断
フローを図にまとめると、以下となります。
参考:北嶋貴朗著「イノベーションの再現性を高める 新規事業開発マネジメント 不確実性をコントロールする戦略・組織・実行」
新規事業を推進するためには、このフローを一通りすれば良いわけではなく、何度も回す必要があります。企業によりスパンは異なりますが、短ければ2ヵ月、長ければ1~2年サイクルが一般的です。
多くの企業では、このような新規事業開発のフローをイメージしてプロジェクトを進めているでしょう。
しかし実際の現場では、「プロジェクトが立ち上がらない…」や「いつの間にかチームが解散している」が多発しています。
なぜ新規事業開発はワークしないのか?
それでは、なぜ新規事業のプロジェクトが立ち上がらなかったり、いつの間にかチームが解散したりして、新規事業開発はワークしないのでしょうか。それに考えられる理由は主に3つです。
理由1:体質
理由2:人手
理由3:プロセス
推進担当者が頻繁に直面する、これら3つの理由について詳しく解説します。
企業の体質が新規事業にマッチしていない
企業の体質ともいえる事業体制や文化は、既存事業に最適化されているため新規事業に必ずしもマッチしているとは限りません。事業体制や文化が未発達であれば、これまでにはなかったサービス・商品を誕生させるのはハードルが高いでしょう。
一方、経営者は未来への危機感から、体質がマッチしていなくても「いま、しなければ…」と新規事業の必要性を強く感じています。しかし、その経営者の意識は実務担当者や末端まで詳しく伝わらないため、体質に関する不安や不満が発生するのです。
人手が不足している
推進担当者が直面する悩みに人手不足があります。新規事業を成功に導くためには、多くの人手を必要とするためです。
なぜなら、新規事業での業務内容は多岐にわたるため、1人や2人で行うのは非現実的だからです。どのような業務も人並み以上に、テキパキとこなせるスーパーマンのような社員であれば可能かもしれませんが、そのような人材が新規事業にかかりっきりということも難しいでしょう。
新規事業の特徴としては、大半の担当者が既存業務と兼任しているためです。
つまり、推進担当者の悩みを解消するためには、業務量・業務性質にあった人手をどのように確保するのかがポイントです。
プロセスの設計の不備や周知が足りない
推進担当者が直面する悩みの3つ目は、プロセスです。プロセスの設計に不備があれば、何をいつまでにすれば良いのか不明確となり、いつまで経っても進まない原因になります。
また新規事業のゴールは決まっていても、関係社員に適切な周知ができていなければ、共通のゴールが認識されません。すると、プロジェクトのメンバーの価値観が異なってしまい、空中分解を起こす原因にもなります。
プロセスの設計は新規事業を推進するうえで、重要なステップです。プロセスの周知についても、関係者同士で認識にズレを生じないような工夫が必要です。
マイナス要因の言葉は未知なる新規事業への恐れから
新規事業を立ち上げるときによく聞かれる3つの言葉は、実は社員の未知なる新規事業への恐れからです。
「やる必要があるの?」
「誰がやるのよ?」
「俺は聞いていないぞ!」
この恐れを体質・人手・プロセスの不安と絡めて考察すると、実務担当者の不安や不満がよく理解できます。
全従業員の視点
「やる必要があるの?」と発言するのは、上司・部下といった特徴はなく全従業員が言う傾向にあります。この言葉の不安や不満は体質と大きく関係しています。「トップの意図・実施意義を理解できない」と感じているためです。
つまり経営者がどのような意図で、新規事業を立ち上げたのかの説明が不十分であれば、全従業員が不安に感じながらプロジェクトに参加することになります。
このような状態では、新規事業の成功率を高められないでしょう。
実務者の視点
「誰がやるのよ?」と発言するのは、多くの場合で実務者となります。この発言から、人手への不安が見えてきます。
なぜなら新規事業に人手をとられると、既存業務が圧迫される可能性もあるためです。具体的には既存業務が成功しなかった場合に、どのようなペナルティや処遇が待っているのかを考えると、実務者にとっては恐怖でしかありません。他にも新規事業で必要なスキルが不透明な場合に、適切な人材を選べない不安も発言から見えてきます。
マネジメントの視点
「俺は聞いてないぞ!」と発言するのは、多くの場合でマネジメントの立場の役職者です。この言葉には、体質・人手・プロセスの不安や不満が詰まっています。
- 自分のポジションが脅かされる抵抗感
- 部下をとられて、自分の業務が回らなくなる懸念
- 自分が関与者として含まれなかったことへの不安や不満
これらのマイナスの感情がときには、新規事業推進の大きなブレーキとなります。
新規事業推進を疎外するのは漠然とした不安
3つのマイナスの言葉と不安が組み合わさることで、新規事業が空中分解してしまうことも珍しくありません。不安からモチベーションが上がらなかったり、漠然とした不安から不明瞭・不正確・不確実な取り組みとなったりするためです。
このような漠然とした不安からくる事業の失敗を予防するには、関与者全体への説明・理解を土台とした合意形成(コンセンサス)がポイントです。
本コラムでは新規事業の実情を通して、コンセンサスの重要性について紹介しました。次回は、コンセンサスに役立つワークショップについてお届けします。
セルウェルの新規事業における支援内容を紹介
セルウェルの新規事業における支援内容には、以下の3つの型があります。
- 点型支援
リサーチや検証支援といったスポットの支援
- 線型支援
特定の事業部や担当者に伴走するマーケティング支援
- パルス型支援
コンセンサス形成にフォーカスした支援
新規事業の担当者の方で、まだぼんやりとしたお悩み事でも、整理のお手伝いができるかもしれません。お気軽にご相談ください。