エネルギーの歴史から学ぶ、新規ビジネスの着想法 vol.2

 

本コラムは、弊社で開催したウェビナーの一部内容を編集して全5回のシリーズでお届けします。

 

今からはじめよう!エネルギーの文脈を味方につける新規ビジネスの生み出し方
開催日:2022年2月2日

 

—————-

vol.1
 第0次エネルギー革命 火の発見
 産業革命前夜 エネルギーにまつわる2つのキーワード

 

vol.2
 第1次エネルギー革命 産業革命
 第2次エネルギー革命 電気と石油

 

vol.3
 これから訪れるエネルギー革命は予測できる

 

vol.4
 第3次エネルギー革命の構造 および環境要因としての「5つのD」
 マクロとミクロの視点でビジネスの参入ポイントを見極める

 

vol.5
 全体のまとめ

—————-

 

前回のあらすじ:

第0次エネルギー革命は「火の発見」です。火の発見は45万年前に起こり、その後は自然エネルギーと木材に頼った時代が長く続きました。結果として森林伐採がすすみ、森林の消滅とともに消え去った文明も数多くあります。

そのような背景で起こったのが第1次エネルギー革命です。第1次エネルギー革命を境に、エネルギーへの研究や、ビジネスとしての参入が本格化していきます。

本コラムは全5回シリーズの2回目で、第1次エネルギー革命と第2次エネルギー革命について紹介します。

—————-

本コンテンツの作成における参考文献は以下のとおりです。
いずれも読み応えのある著作物となりますため、本コンテンツにご興味を持たれた方は、是非ご購読・閲覧下さい。

エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来
著者:古舘 恒介
発売日:2021年8月16日

エネルギー文明史
著者:田中 紀夫
発行日:2003年11月

ご希望者様には、テーマに関連した推薦書籍をまとめたウェビナー参加者向け資料をご提供いたします。お気軽にお問い合わせください。

—————-

森林資源の枯渇が深刻に

第0次エネルギー革命以降、「国力=森林面積」が常識でした。しかし、国が発展するほど森林伐採がすすむため、森林資源の枯渇が問題となる国も多く存在していました。

その国の1つがイギリスです。

イギリスは山の面積が少ないため、18世紀には深刻な森林資源の枯渇が発生したのです。このイギリスにとって、逆境ともいえる状態こそが第1次エネルギー革命を生む原動力となります。

イギリスが当時、どれほど深刻な状態であったのかがわかる資料として、近年の森林面積の推移を紹介します。

イギリスの森林面積の割合
1965年7.4%
1980年9.0%
1998年12.0%
2019年13.1%

参考:農林水産省「林業統計2019年

この50年間で森林面積は回復傾向にあるイギリスですが、2019年時点でも13.1%です。日本の森林面積の67%と比べると、どれほど森林が少ないのかがわかります。

このことからも、当時のイギリスでは森林面積が極端に少ない状態であったことがイメージできるはずです。

第1次エネルギー革命はイギリスから

イギリスは他の国に比べて、森林面積が少なかったため、16世紀ごろより木炭の代わりとして石炭を燃料に利用する必要性がありました。この石炭と蒸気機関の発明が、イギリスに産業革命をもたらします。

石炭の歴史

日本での石炭の歴史は1469年で、ある百姓が枯草に火をつけた際に燃えた黒い石を発見したのが始まりです。

その石炭は森林資源の枯渇に悩んでいたイギリスで、16世紀ごろより燃料として利用されていました。

そして1709年に、イギリス中西部のエイブラハム・ダービーによって石炭を精製したコークスが発明されます。コークスはこれまでの燃料よりも高火力で、木炭に比べると約2倍の火力を実現できました。

すると製鉄効率が向上し、鉄の製造コスト削減にもつながっていきます。そのため、鉄の加工技術も同時に発達していくことになります。また木炭を使用しないため、イギリスは森林資源に頼らない燃料の確保にも成功しました。

蒸気機関の歴史

蒸気機関の始まりは1712年に、イギリスのニューコメンにより発明された大気圧機関です。

大気圧機関は石炭の採掘時に、湧き出る水を排出するために開発されたポンプの動力です。

大気圧機関は蒸気によってピストンを押し上げて、次に冷却水をシリンダーに注入して、一気に冷やして真空状態にすることでピストンが動きます。しかし効率が極めて悪く、多量の燃料を必要とするのがデメリットでした。

そのようななか、1774年にイングランド北西部に生まれたジョン・ウィルキンソンにより、シリンダーピストンが発明されます。

ジェームズ・ワットはこれらを改良して、実用的な蒸気機関の発明に成功しました。

蒸気機関の構造は車のエンジンなど、様々な動力源として今でも活用されています。

第1次エネルギー革命の結果

石炭や蒸気機関の歴史を見てもわかるように、どちらもイギリスにおいて開発・発展していきます。

これらの2つの発明は、様々な動力として活用されるようになります。例えば以下のとおりです。

・紡績や織機の動力源

・蒸気船

・蒸気機関車

蒸気機関は従来の帆船や水車、風車などの自然エネルギーに依存した装置にとって代わるようになります。

第1次エネルギー革命の結果、イギリスは森林資源に頼った生活様式からの脱却に成功し、世界経済を主導する国に発展します。つまり、エネルギー革命に成功したことで、莫大な富を得たのです。

その時代を象徴する名残として、スーツ文化があります。紡績業を工業化し、世界中にスーツを売り込むことでスーツ着用=礼儀といった価値観を定着させたためです。

石炭と蒸気機関のどちらが重要な役割を果たしたのか

今後のエネルギーの文脈を見出すために、石炭と蒸気機関のどちらが、より第1次エネルギー革命に重要な役割を果たしたのかを考察します。

石炭は木炭に代わる燃料として、森林面積=国力の概念を取り払うのに貢献しました。また蒸気機関は、もともと石炭を採掘するための排出用ポンプの動力源であったことから、石炭のほうが重要な役割を果たしたと思うかもしれません。

しかし、第1次エネルギー革命を広い視点で考えると、蒸気機関がより重要な役割を果たしたといえます。

その理由は、石炭やコークスは燃料の代替技術にすぎないためです。森林資源が枯渇している国にとっては、石炭やコークスは重要な燃料資源ですが、日本のような森林資源が豊富な国にとってはなくてはならないモノとまではいえません。

実際に蒸気機関が発明されるまでは、国内での石炭の利用方法は一部の地域で薪の代替燃料として利用されるにとどまっていました。

それでは蒸気機関が産業革命において、どのような役割を果たしたのかをメリットから考察します。

蒸気機関のメリット

蒸気機関のメリットは3つ挙げられます。

・出力調整が可能なこと
蒸気機関のメリットは、出力調整や長時間の稼働が可能なことです。

・どこでも動力を創出できること
従来の自然エネルギーを活用した帆船や水車、風車では適地しか運用できませんでした。蒸気機関は石炭などの燃料があれば、どこでも動力を創出できます。地理的な要因に縛られないのがメリットです。

・熱を運動エネルギーへ変換できること
蒸気機関のメリットは、熱エネルギーを運動エネルギーへ変換できることです。エネルギー変換の重要性の認知に役立ちました。

蒸気機関が世界に果たした役割とは

蒸気機関の役割は産業革命を加速させたことです。

人間よりもパワーが強くて、安定している蒸気機関を長時間稼働させることで、イギリスは大量の工業製品を作り出しました。

すると大量の工業製品は自国の需要を超えてしまい、周辺国へ工業製品が輸出されるようになります。そこで周辺国は、イギリスの工業製品に対抗するために、国を挙げて産業の工業化を推進しました。

日本も例外ではなく、列強諸国と並ぶために明治初期には「殖産興業」をスローガンとして、日本の産業革命を成し遂げていきます。

このような流れで、蒸気機関の登場が世界的な産業革命に発展していったのです。

産業革命の結果!エネルギー変換の研究が盛んに

蒸気機関の熱エネルギーを運動エネルギーに変える技術は、莫大な富をイギリスにもたらしました。つまりエネルギー変換の技術は、ビジネスになることが認知されたのです。

そのため、世界中の多くの国や企業がエネルギーにまつわる先端研究を本格化させていきます。そのおかげで、企業資本を基礎研究へ投資する循環型のビジネスモデルが創造されました。このビジネスモデルは、現在の企業にも受け継がれています。

エネルギー変換の1つの到達点が原子力

国や企業がこぞってエネルギー研究に取り組むことで、ついに人類は1つの到達点にたどりつきます。

それは原子力です。

原子力の発見はアインシュタインの特殊相対性理論で提唱された、質量(m)とエネルギー(E)の関係性を表す以下の公式から始まります。

E=mc^2

※c:光速

現在では原子力発電に代表されるように、エネルギー源として多くの地域で生活を支える技術に発展しています。

第2次エネルギー革命は19世紀~20世紀

第0次エネルギー革命から第1次エネルギー革命までは長い期間を要しましたが、第2次エネルギー革命はすぐに訪れます。

第2次エネルギーで主役となるのは、電気と石油です。電気と石油の発見は、19世紀~20世紀にかけて産業革命をさらに推進し、今日の高度なエネルギー文明社会を構築する要因となりました。

ここからは第2次エネルギー革命の理解を深めるために、電気と石油について詳しく解説します。

電気

今ではなくてはならない電気ですが、200年程度と歴史の浅い技術です。

日本の電気に関する歴史といえば、1776年に平賀源内がエレキテルを修復したことをイメージするかもしれません。しかしエレキテルは静電気を活用した装置で、エネルギー源というよりも、どちらかといえば見世物用のびっくり箱に近かったそうです。

電気の歴史

電気をエネルギーとして活用するまでの歴史について解説します。

・電磁誘導の発見
電気の歴史は1831年に、イギリスのファラデーが電磁誘導を発見したことから始まりました。

・電気の移送
1873年にベルギーのグラムが「電気を通じてエネルギーは移送可能である」と認識します。自然エネルギーや蒸気機関では、生み出したエネルギーはその場での利用が常識でした。しかし電機は送電線を使うことで、エネルギーを生み出した場所とは異なる場所で利用できることが判明します。

・白熱電球の発明
1879年にアメリカのエジソンが白熱電球の発明に成功します。これにより、電気を光源として活用する方法が発見されたのです。

・世界初の商用発電所の設置
1882年、エジソンが世界初の商用発電所をマンハッタン近郊に設置します。電気エネルギーの移送をビジネスとして実現させ、電気を家庭で利用する流れを作りました。

・交流電源の発見・普及
1882年にクロアチアのテスラが交流電源の基礎概念を確立し、次第にエジソンの直流電源から交流電源が普及していきます。

・現在
現在では照明や家電、電車、電気自動車など様々な製品が電気で動いています。

電気を信号化したIT・デジタル技術の登場 

電気の重要な歴史は、エネルギーとしてだけではありません。電気を信号化したIT・デジタル技術の発展も挙げられます。

1960年代には計算のために、コンピューターが登場しました。

国内では1995年に、「Windows 95」が家庭用パソコンの先駆けとしてブームを巻き起こしたのを覚えている方も多いはずです。

現在ではメタバースといった仮想空間などが創出されるなど、人がデジタル技術を通じて心を通わせるまでに進歩しています。

電気が人類にもたらしたメリット

第2次エネルギー革命をもたらした電気には以下のメリットがあります。

・移送可能なエネルギー

・闇夜の完全克服

・ITデジタル技術の発展

つまり明るさや動力源としての電気エネルギーに加えて、ITデジタル技術により高度情報化社会の形成に重要な役割を果たしました。

石油

石油の歴史は古く、紀元前4000年ごろから活用されており、エジプトでは天然アスファルトとしても利用されていました。

意外にもかなり以前から存在が知られていた石油ですが、産業として発展したのはごく最近のことです。

石油の歴史

石油が産業として発達した歴史について解説します。

・油井機械堀の成功
1859年にアメリカのドレークが油井機械堀に成功します。原油の産出量は1日約30バレルでした。

・内燃機関の技術革新
1876年にニコラウス・オットーがガソリンエンジンを開発します。

・自動車の誕生
1886年カール・ベンツによりガソリン自動車が発明され、自動車社会が幕を開けます。

このように、アスファルトの原料や軽油が主な利用方法だったのが、技術革新によりディーゼル機関やガソリン機関の燃料として石油が必要となります。

蒸気機関の石炭から石油への依存がすすみ、急速に重要性が高まっていきました。

石油のメリット

石油が急速に需要を拡大したのには、以下のようなメリットがあるためです。

・貯蔵や運搬が石炭よりも容易

・蒸気機関よりも効率的

・ナイロンなどの化学素材の原料

このように石油は石炭よりも様々な使い方ができる上に、運搬がしやすく、内燃機関の登場により動力としても性能・効率が向上しました。

そのため石油の重要性が高まりすぎて、石油をめぐって戦争が起きているほどです。

石油火力発電など電力源も一部は石油に頼るなど、20世紀は石油原料を基軸とした経済発展モデルといえるでしょう。

エネルギー変換が成功のカギ

森林資源の枯渇に苦しんでいたイギリスで、石炭や蒸気機関を開発したのが第1次エネルギー革命の始まりです。このイギリスで起こった産業革命は世界中に波及し、第2次エネルギー革命である石油や電気の発明につながっていきます。

2つのエネルギー革命で燃料を木材に頼った時代から、石炭や石油といった化石燃料へシフトしていきます。また動力源も自然エネルギーを活用した帆船・風車・水車から、蒸気機関・内燃機関へと移行します。2つの革命により人類は、地理的な制約や闇夜の克服に成功しました。

第1次エネルギー革命におけるポイントは、熱エネルギーが運動エネルギーに変換できることに気づいたことです。なぜならエネルギー変換が莫大な富を生み出すことがわかり、これを機に国や企業がエネルギー研究を本格化させたためです。

そこで次回は現代の状況を把握するために、これから起こるであろう第3次エネルギー革命について、どのような動きがあるのかを具体的に解説します。vol.3はこちらからご覧になれます。

—————-

本コンテンツの作成における参考文献は以下のとおりです。

エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来
著者:古舘 恒介
発売日:2021年8月16日

エネルギー文明史
著者:田中 紀夫
発行日:2003年11月

ご希望者様には、テーマに関連した推薦書籍をまとめたウェビナー参加者向け資料をご提供いたします。

お気軽にお問い合わせください。

—————-