エネルギーの歴史から学ぶ、新規ビジネスの着想法 vol.3

本コラムは、弊社で開催したウェビナーの一部内容を編集して全5回のシリーズでお届けします。

 

今からはじめよう!エネルギーの文脈を味方につける新規ビジネスの生み出し方
開催日:2022年2月2日

 

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vol.1
 第0次エネルギー革命 火の発見
 産業革命前夜 エネルギーにまつわる2つのキーワード

 

vol.2
 第1次エネルギー革命 産業革命
 第2次エネルギー革命 電気と石油

 

vol.3
 これから訪れるエネルギー革命は予測できる

 

vol.4
 第3次エネルギー革命の構造 および環境要因としての「5つのD」
 マクロとミクロの視点でビジネスの参入ポイントを見極める

 

vol.5
 全体のまとめ

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前回のあらすじ:

第1次エネルギー革命・第2次エネルギー革命により、長く続いた木材や自然エネルギーに頼った生活から抜け出し、現在の豊かな暮らしに発展しています。

現代はまさに、第3次エネルギー革命のさなかともいえる時代です。なぜなら脱炭素や地球温暖化が叫ばれ、石油燃料の依存からの脱却が求められているためです。

シリーズ3回目では、これから訪れるエネルギー革命の予想について解説します。

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本コンテンツの作成における参考文献は以下のとおりです。
いずれも読み応えのある著作物となりますため、本コンテンツにご興味を持たれた方は、是非ご購読・閲覧下さい。

エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来
著者:古舘 恒介
発売日:2021年8月16日

エネルギー文明史
著者:田中 紀夫
発行日:2003年11月

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Contents

過去のエネルギー革命を紐解く3つのキーワード

第0次エネルギー革命は「火の発見」、第1次エネルギー革命は「石炭と蒸気機関」、第2次エネルギー革命は「電気と石油」によってもたらされました。

それでは、「第3次エネルギー革命は何によってもたらされるのか」を予測することが新規ビジネスを考えるうえで必要です。具体的な未来を予想するには、過去に学ぶのが良いでしょう。

過去のエネルギー革命を紐解くと、3つのキーワードが浮かび上がってきます。

・時間的制約からの解放

・場所的制約からの解放

・イノベーション

これら3つのキーワードが未来のエネルギー革命を考えるうえで、重要なポイントとなります。

3つのキーワードをもとにエネルギー革命を振り返ると

これまでのエネルギー革命の過去から学ぶためには、「時間的制約」「場所的制約」「イノベーション」がキーワードです。3つのキーワードをもとに各エネルギー革命を振り返ってみましょう。

第0次エネルギー革命

第0次エネルギー革命は「火の発見」により、生存圏の拡大や、脳の進化をもたらしました。これらを3つのキーワードで振り返ると以下のとおりです。

・時間的制約からの解放
光源として火を活用することで、闇夜を克服し、1日あたりの活動時間を延長することに成功しました。

・場所的制約からの解放
火で暖が取れるようになり、これまで住めなかった寒冷地にも人類が進出しました。生存圏の拡大は場所的な制約から解放されたといえるでしょう。

・イノベーション
火を使った調理によって生活スタイルにイノベーションが起こります。効率的な栄養摂取や消化効率につながり、人類の脳はハード面・ソフト面から進化しました。

第1次エネルギー革命

第1次エネルギー革命は「石炭と蒸気機関」により、森林資源への依存を下げるのに成功しました。この第1次エネルギー革命を3つのキーワードで振り返ると以下のとおりです。

・時間的制約からの解放
蒸気機関の出現により、自然エネルギーではできなかった出力調整が可能になりました。また蒸気機関は長時間の稼働により、時間的制約を打ち破っています。

・場所的制約からの解放
水車や風車のように自然エネルギーを利用した機関は、活用するには地理的な制約がありました。蒸気機関の登場で、どこでも動力を創出できるようになり、場所的制約から解放されています。

・イノベーション
産業革命は熱エネルギーを運動エネルギーに変換するイノベーションを起こしました。つまり、エネルギー変換というイノベーションを起こすことが富の源泉といえるでしょう。

第2次エネルギー革命

第2次エネルギー革命では、エネルギー移送が可能となり、高度な近代社会が形作られていきます。第2次エネルギー革命を3つのキーワードで振り返ると以下のとおりです。

・時間的制約からの解放
エジソンらが白熱電球を普及させたことにより、人類は闇夜を完全に克服しました。今日ではコンビニのように、24時間営業をしているビジネスモデルも登場しています。

・場所的制約からの解放
グラムが「電気を通じてエネルギーは移送可能である」と認知したとおり、現在では発電所で作られたエネルギーを各家庭で使っています。さらにはバッテリーなどでエネルギーを持ち運ぶことにも成功し、場所的制約から解放されました。

・イノベーション
電気信号を用いたデジタル技術は、ITの発展をもたらし、仮想空間を創出するに至っています。

それぞれのエネルギー革命を整理した表は以下のとおりです。

3つのキーワードから見る第3次エネルギー革命

21世紀、現代の我々は第3次エネルギー革命のなかにいるといわれています。第3次エネルギー革命を予想するには過去のエネルギー革命が重要ですが、点で見ても全体の流れを把握できません。以下の表のように、線で見て第3次エネルギー革命を予想しましょう。

第3次エネルギー革命を3つのキーワードで考えます。

・時間的制約の解放
時間的制約の解放については以下の疑問点がカギとなります。

「現代に時間的制約はあるのか?」

「その時間的制約はどのように解決できるのか?」

「プログラムやデジタル技術なのか、それとも新たな技術によるものなのか?」

例えば、現代の時間的制約を人間の脳の限界に起因するとします。すると解決方法としては、量子コンピューターやAIなどがあげられるでしょう。高速な演算処理によって人間の脳では数年、あるいは数十年かかるような問題も瞬時に計算できるため、より時間を効率よく使えるためです

・場所的制約の解放
場所的制約も同様にして、以下のような疑問から検討します。

「現代に物理的制約はあるのか?」

「その物理的制約はどのように解決できるのか?」

「分散型発電や蓄電池、EV、通信、それとも新たな技術によるものなのか?」

物理的制約を解放した事例はリモート会議やリモートワークです。通信技術を用いることで、世界中どこにいても仕事や会議ができるようになったためです。このような物理的制約をなくす技術について考えてみましょう。

・イノベーション
イノベーションを予想するためには、今どこで常識を根底から覆すような技術が生まれているかアンテナを張り巡らすことが重要です。

第3次エネルギー革命は現在進行中

過去のエネルギー革命から未来の想像は、エネルギー分野だけではなく、消費財や食品といった別分野でも有効です。

取り扱っている商材やサービスに置き換えることで、新規事業のアイデアだしに役立ちます。

第3次エネルギー革命は進行中であり、まだ誰も答えを出し切っていません。ビジネスチャンスはまだまだ眠っているといえるでしょう。

現在のエネルギーは脱炭素がキーポイント

現在から未来にかけてのエネルギーを考えるうえで、避けては通れないのが脱炭素に関する世界情勢です。世界での大きなうねりとなりつつある脱炭素を注視することで、大きなビジネスチャンスを見つけられるでしょう。

以下より、誰が脱炭素を推進し、どのような背景があるのかについて解説します。

エネルギー動静を俯瞰するための2つの視点

脱炭素に関するエネルギー動静を俯瞰するためには、以下の2つの視点が必要です。

・経済復興と気候変動対策を両立させる欧州政策と欧・米・中のパワーゲーム

・電気エネルギーは大型集中型から分散型へシフト

それぞれの視点から脱炭素の背景を見ていきましょう。

視点1:欧州政策と欧・米・中のパワーゲーム

そもそも脱炭素を主導しているのは誰なのでしょうか。

その答えは、欧州です。欧州は経済復興と気候変動対策を両立させるグリーンリカバリー政策で、世界のエネルギー政策を主導しています。

欧州のグリーンリカバリー政策

グリーンリカバリー政策とは、コロナ禍により受けた経済的なダメージを、環境にやさしいグリーンな技術や企業に投資することで回復・浮上させる取り組みです。

欧州はグリーンリカバリー政策を通じて、政治的イニシアティブの再取得、経済的再興、気候変動への対応を進めようとしています。

具体的には、CO2排出量の多くを占める発電のグリーン化です。欧州各国では、それぞれの電源構成に基づいたグリーン化の施策が進められています。

このような動きは簡単にいえば、「産業革命をもう1回」を実現しようとしているのです。

欧州・米国・中国のパワーゲーム

脱炭素を主導する欧州に加えて、米国、中国を含めた3軸の視点で眺めると各国の思惑が見えてきます。

・米国
米国は2020年のバイデン政権への交代を機に、脱炭素への動きを加速させています。具体的には米政府独自の排出権取引制度の導入です。

また米国は世界有数の穀倉地帯です。直近は、トウモロコシや穀物のバイオ燃料への転用に意欲的で、食用の生産が圧迫されつつあります。

・中国
中国も同様に、脱炭素の取り組みが一対一路構想に役立つと見定めて、2020年に脱炭素を国連総会で宣言しています。脱炭素排出量取引制度を段階的に全土へ拡大していく方針です。

このように米国・中国も欧州に先を越されないように、脱炭素の動きを加速させているのです。

・日本
ところで日本はというと、2020年10月に菅首相が所信表明で、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。しかし、欧州や米国は100兆円を超える投資額なのに対して、日本のグリーンイノベーション基金は2兆円と小規模です。

言い換えると欧州・米国では、十分な投資によって資金調達しやすい環境が整っているのです。各国は政府と工業が一体となった産業推進を展開しているため、日本の取り組みの懸念点は投資額の規模といえるでしょう。

視点2:電気エネルギーは大規模集中型から分散型へシフト

エネルギーを俯瞰するためには、電気エネルギーの発電方法の変化に注目する必要があります。

これまでの電気エネルギーは、化石燃料による大規模集中発電が主でした。しかし、再利用可能エネルギー推進により、分散型発電へ移行していくことが予想されます。

・大規模集中発電
大規模集中発電は、発電と消費の機能が分離しています。1つの発電所で、地域一帯の消費電力を賄うことをイメージするとわかりやすいでしょう。電力の流れが発電所から消費者に一方通行で流れるのが特徴です。

・分散型発電(バーチャルパワープラント)
分散型発電は発電と消費が一体で、電力が双方向に流れます。太陽光発電や風力発電、再生可能エネルギーなど小規模発電を積み上げることで、ビル単位や地域単位での発電を可能にする方法です。分散している小規模の発電装置を、1つの大きな発電所のように取り扱う技術をバーチャルパワープラントと呼びます。

これまでの電気エネルギーは、発電と消費が別々の場所であることが常識でした。しかし、分散型発電の登場により、発電と消費がハイブリッドになり、電気をポータルに利活用できる時代となりつつあります。

ただし分散型発電を実現するためには、2つの課題があります。

課題1:電力の貯蔵と調整力

分散型発電を普及させるには、電力需給のバランス調整が課題です。従来、電力は貯蔵が困難なエネルギーのためです。

電力安定供給を維持するには、発電量に変動がある太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギー由来の電力を貯蔵・調整する技術が必要となります。

このような再生可能エネルギーの活用策にビジネスチャンスを見出した企業もあります。

例えば、ドイツのベンチャー企業のSunfireです。Sunfireは余剰電力を利用して水素精製や合成ガスの精製、熱エネルギーの利活用を行っています。

課題2:次世代電力システムの普及

分散型発電の2つ目の課題は、既存アセットとの対立が懸念されることです。

そのため発電・送配電および次世代エネルギーキャリアーをどのように実現すれば良いか、世界各国で開発実証が進められています。

日本においても地域ごとに古くなった送配電網のアップデートや、災害対策を踏まえた新しい分散型電力ネットワークの構築などが進んでいます。

これから訪れるエネルギー革命は予測できる

第3次エネルギー革命の予測は、これまでのエネルギー革命や、現在の国際情勢・課題などを組み合わせることで十分に可能です。

重要なポイントは、「時間的制約」「場所的制約」「イノベーション」の潮流を把握することです。どのように変化があり、現在どのような制約があるのか、どのようなイノベーションが生まれようとしているかを把握しましょう。

また、電気ビジネスを考えるうえで重要な要素は脱炭素です。マクロの大きな流れを理解したうえで、自国や自社のビジネスとの関連性を描くことが重要です。

次回のvol.4は、マクロとミクロの視点からビジネスの参入ポイントの見極め方について紹介します。

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本コンテンツの作成における参考文献は以下のとおりです。

エネルギーをめぐる旅――文明の歴史と私たちの未来
著者:古舘 恒介
発売日:2021年8月16日

エネルギー文明史
著者:田中 紀夫
発行日:2003年11月

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