新規事業開発を進める際に、押さえておきたい市場調査のポイント

新規事業開発を任された方は、「必ず成功させたい」と誰しも思うことでしょう。

しかし残念ながら新規事業の多くは失敗に終わります。その証拠に中小企業庁の調べによると、1,050事業のうち754事業が失敗でした。つまり新規事業の約70%は失敗するのです。(引用:中小企業庁「新事業展開の促進」)

この高い失敗確率の壁を乗り越えて、成功をつかみとるためには市場調査がポイントです。

新規事業を成功させて会社からの評価をあげるためにも、市場調査の重要性や方法、注意点について理解を深めましょう。

新規事業開発に市場調査が必要な理由

新規事業開発に市場調査が必要な理由は、ずばり「成功確率を高められる」ためです。

以下のグラフは「自社の強みの把握」「市場ニーズの把握」「自社の製品・サービスのPR活動を実施する情報戦略の立案・実行」「マーケティング活動の評価・検証」を全て実施している企業と、いずれも実施していない企業の経常利益率の比較です 。

引用:中小企業庁「新事業展開の促進

市場調査をしっかりと実施し、分析している企業は経常利益が増加もしくは横ばい傾向にあるのがわかります。新規事業においても同様の傾向で、事業失敗と回答した事業者は「市場ニーズの把握が不十分である」「販路開拓が難しい」などの課題をあげています。

このように新規事業の失敗確率を抑える秘訣は、自社のおかれている環境の調査にあるといえるでしょう。

そもそも市場調査とは

市場調査とは、参入する市場やターゲットユーザーに関するデータを収集することです。市場調査は大きく分類すると定量調査・定性調査の2種類があります。それぞれについて詳しく解説します。

定量調査

定量調査とは、調査結果を数値やグラフに表せる調査の総称です。定量調査の代表例はアンケート調査です。例えば商品の使用感について、善し悪しを5段階で評価するアンケートに回答した経験がある方も多いでしょう。

調査結果は分布図としてグラフ化することで視覚的に判断できたり、平均値や割合を算出することでマーケティングの参考にしたりできます。

雑誌や新聞などを見ていると「95%の方から好評をいただきました」と見かけることもあるでしょう。このような割合は定量調査によって得られたデータを、広告の訴求力を強めるために使用している例です。

定量調査のメリットは調査結果を数字で示せるので、説得力の高いデータを提示できることです。稟議の際には、このような数値化された説得力の強いデータがあると便利でしょう。

定性調査

定性調査とは、顧客の言動といった数値化できないデータを収集することです。定性調査の代表例にはインタビュー調査があります。インタビュー調査はインタビュアーが顧客の思いやニーズを深掘りしてくれるため、より詳しい情報が知りたいときに適しています。

例えば商品の使用感についてのアンケートでは、データ化できるものの個々の項目について詳しく知れません。そこで詳しく知りたい項目については、インタビュー調査をすることで情報の質を高められます。

定性調査にはグループインタビューやデプスインタビューといったインタビュー調査以外にも、観察調査があります。実際に顧客が使っている様子を観察し推察する方法です。

新規事業開発に役立つ市場調査の方法

新規事業開発に役立つ市場調査をするためには、どのような方法があるのかを把握することが大切です。自社のターゲットや参入する市場によって、効果的な方法が異なるためです。ここでは5つの方法について詳しく解説します。

アンケート調査

アンケート調査とは、項目ごとに設定した複数の選択肢から回答してもらう調査方法です。回答のしやすさから多くの回答を得られやすいのが特徴です。また「Googleフォーム」や「Questant」など、オンラインのシステムを利用したアンケート調査は、低価格で手軽に収集・分析できることからよく利用されています。

アンケート調査は、以下のような内容を調査したい場合に向いています。

・ターゲットユーザーの価値観
・ターゲットユーザーのニーズ
・ターゲットユーザーの課題・悩み
・新商品の関心度
・類似商品の購入経験
・類似商品を購入した決め手

アンケート調査を実施するには、以下の5つの手順が必要です。

アンケート方法を決定する

まずはオンライン・オフラインのどちらにするか、回答者の選別方法はどのようにするかなど、アンケート方法を決定します

アンケートを作成する

調査したい内容について回答が得られるアンケートを作成します。選択肢を提示する方法は集計が簡単です。自由に記述できる方法は集計がしにくいかわりに、詳しい情報を把握できます。定量調査をしたいのか、定性調査をしたいのかによって内容を変えましょう。

アンケートを実施する

準備ができるとアンケートの実施です。

データを集計する

アンケートを回収してデータを集計します。オンラインのシステムを使うと、データ集計が簡単にできるのでおすすめです。

レポートを作成する

情報を共有できるように、数値化したデータからレポートを作成します。

デスクリサーチ

デスクリサーチとは誰でも読める報告書などから情報を収集する方法です。官公庁・Web・新聞・雑誌など、様々な情報源があります。

冒頭に紹介した中小企業庁の資料も官公庁が公開しているデータのため、デスクリサーチといえるでしょう。

このように官公庁だけでも、数多くのデータが公開されています。無料で閲覧できるため、新規事業に関連のある報告書については目を通しておきましょう。

官公庁の白書や報告書を探す際には、「e-Stat」を利用すると便利です。

インターネットを利用して情報を収集できるのも、デスクリサーチの魅力です。Web上の様々な媒体からリサーチすることで、費用を抑えながら鮮度の高い情報を得られます。ただし情報源には注意しましょう。公開している媒体が信用できるかが重要になるためです。

2次データであれば、データが脚色されている可能性を否定できません。Web上からデータを収集する場合は、1次データと呼ばれる大元の情報を利用してください。

インタビュー調査

インタビュー調査とは、インタビュアーが回答者に対して会話や質問をしながら詳しい情報を引きだす調査方法です。回答者それぞれの思いやニーズなどに焦点をあてられるため、ターゲット層の理解を深めたいときに向いています。

インタビュー調査の方法は大きく分けると以下の2つです。

デプスインタビュー

デプスインタビューはインタビュアー1人と回答者1人で、面談する方法のことです。「デプス」とは奥行き・深さなどを意味する言葉なので、デプスインタビューは個人の内面深くのインタビューを意味します。その名前のとおり、本音を聞き出しやすいのが特徴です。

・グループインタビュー

グループインタビューはインタビュアーと複数の回答者で、座談会のように話し合いながら情報を収集する調査方法です。複数人の話し合いのなかから、様々なアイデアや意見が期待できます。

この2つの方法に加えてオンライン・オフラインによる違いや、回答者に会場まで来てもらうのか、自分たちが出向くのかによっても違いがあります。

行動観察調査

行動観察調査はエスノグラフィー調査とも呼ばれ、顧客が行動する様子を観察する方法です。

例えば店舗に並んでいる商品をどのように顧客が手にとり、どのようなポイントを確認して購入しているのかを観察します。すると購入に至った経緯や、反対に購入しなかった経緯から顧客の内面を推察できます。

行動観察調査のメリットは、顧客の行動を実際に観察することで生の声や表情を確認できることです。そこから考えてもみなかった商品の長所や、短所が見つかることもあります。

ただし行動観察調査は、観察する側のスキル・経験が調査結果を左右します。顧客の同じ行動を見ても調査員によって、何かを感じ取ることもありますし、何も思わないこともあるためです。

また撮影機材が必要となったり、長時間の観察が必要になったりと不慣れな方が実施するにはハードルが高いといわざるを得ません。そこで効果的な行動観察調査をするために、外部コンサルタントの活用をおすすめします。

データ解析

データ解析は実店舗であればPOSなどから得られる購買履歴、ECサイトであればアクセスログや購買履歴などから調査する方法です。これらの自社が保有するデータには、既存顧客や見込み顧客の情報が詰まっています。分析することで顧客の新たなニーズの発見や、新規事業のアイデアを思いつくこともあるでしょう。

顧客一人ひとりにパーソナライズされたサービスを模索するのに向いている方法です。

新規事業の市場調査で注意すべきポイント

市場調査は有用ですが、調査方法によっては期待したほどの効果を得られないことがあります。そうならないためにも、新規事業開発の際には以下の3つのポイントに注意しましょう。

・仮説を立ててから調査する
・目的を明確にする
・調査にかけるコスト・時間を設定する

これら3つの注意点について詳しく紹介します。

仮説を立ててから調査する

1つ目の注意点は仮説を立ててから市場調査を実施することです。

例えば新規事業で売り出そうとしている商品について、どのような項目の調査が必要だと感じますか。仮説がなければ「価格」「機能性」「デザイン」「使用感」「カラー」「重量」「サイズ」など、できる限り幅広い内容を調査したくなるため、項目はまだまだ増えていくでしょう。

このような調査内容の場合、手軽に回答できるアンケート調査であっても、記入項目が多いため負担に感じ途中で記入をやめてしまうかもしれません。

そこで仮説を立ててから市場調査を実施します。仮説を立てることで調査結果も予測できるためです。すると詳しく確認すべき調査内容を絞れるので、知りたい項目について深掘りできます。

さらに調査項目が減るほど回答者の負担が減り、アンケート作成やデータ集計の手間も省けるので時間短縮にもなります。

目的を明確にする

市場調査をする際の注意点は、事前に調査の目的を明確にすることです。目的のない調査をしても適切な情報を収集できないためです。

例えばターゲットが高齢者なのに、オンラインでの調査方法を実施してしまうと、想定したような回答数を得られないことがあります。なぜなら高齢者のなかには、オンラインの操作に不慣れな方もいるためです。ターゲットが高齢者の場合は、オフラインの調査方法を実施するのも1つの方法でしょう。

目的を明確にすることで、ターゲット設定や適切な調査方法の選択ができます。調査内容もブレなくなるため、一貫性のある調査で円滑に進みやすくなります。

調査にかけるコスト・時間を設定する

新規事業開発時はとくに、コストやスケジュールを適切に管理しなければなりません。新規事業はある程度の期間で結果が求められたり、不必要に予算を消費すると必要なときにコストをかけられなくなったりするためです。

調査したい項目が多すぎると、ずるずると調査期間が長引くので注意してください。期間が長引くほど人件費などのコストもかさみますので、新規事業開発時には、市場調査にかけるコスト・時間は、あらかじめ設定しましょう。

決まった予算・期間内で必要な調査・分析をすることが大切です。

新規事業の市場調査は収集データの分析で決まる

新規事業において市場調査は、自社の環境を確認するために必須ともいえるほど大切です。

新規事業を立ち上げる際に向いている市場調査の方法は以下の5つです。

・アンケート調査
・デスクリサーチ
・インタビュー調査
・行動観察調査
・データ解析

アンケート調査やデスクリサーチであれば、難しくないと感じる方もいるでしょう。しかし市場調査で重要なことは収集したデータを分析しどのように活用するかです。

中小企業庁の調べによると、新規事業展開時に外部リソースを利用する場合と利用しない場合の違いは以下のとおりです。

引用:中小企業庁「新事業展開の促進

この図から「マーケティング活動の評価・検証」に外部リソースが関わっているかいないかで、成功確率に大きな違いがあるとわかります。

理由は市場調査の企画・実施・分析するには専門の知識・スキルが必要なためです。そのような人材を確保するのは困難な場合がほとんどでしょう。そこで新規事業の成功確率を高めるために、市場調査のプロである外部コンサルタントの利用を検討してみてください。