2026年3月期、デンソーの営業利益は前期比6.5%増、アイシンは12.7%増だった。一方、JTEKTは35.4%減、豊田自動織機は38.2%減だった。4社とも「トヨタグループ系の自動車部品メーカー」という同じ括りに入る。しかし決算は増益2社・減益2社と正反対に分かれた。この差は今期だけの偶然ではない。デンソーとアイシンは戦後の混乱の中でトヨタから切り離された会社であり、JTEKTは2006年に生き残りのため合併した会社であり、豊田自動織機は2024年のエンジン認証不正を経て2026年に株式市場から去る会社だ。生まれ方も、今回沈んだ理由も違う。1940年代の分離独立から2026年の株式非公開化まで、この産業の転換点をたどると、利益がどこで分かれるのかが見えてくる。

当コラムで注目する用語

  • トヨタグループ系:トヨタ自動車と資本・取引関係が深い部品メーカー群の通称。業績は一様ではない。
  • 電装:エンジン制御や車載電子など、電気・電子系の部品領域。
  • ベアリング:回転部の摩擦を減らす機械部品。独立系メーカーの祖業領域でもある。
  • UN-R155/R156:車両のサイバーセキュリティとソフトウェア更新に関する国連規則。
  • TOB:株式公開買付け。経営権や非公開化のために既存株主から株式を買い集める手法。
  • 認証不正:排ガス・燃費などの型式認証で不正な試験や記載が行われた問題。供給停止リスクに直結。

1921年〜1949年、系譜が分かれた出発点——ベアリング独立系・トヨタ分離の機械・電装・航空機

「自動車部品メーカー」という言葉でひとくくりにされる会社も、出自はまったく違う。光洋精工(現JTEKTの一方の源流)は1921年に大阪で創業したベアリング専業メーカーで、トヨタとは無関係の独立系として出発した。対照的に、豊田工機(JTEKTのもう一方の源流)は1941年、トヨタ自動車工業の工作機械部門が分離して設立された、生まれながらのトヨタ系企業だ。デンソーは1949年12月16日、企業再建整備法に基づきトヨタ自動車工業の電装工場が分離して日本電装として設立された。資本金1,500万円に対し、累積赤字1.4億円を借入金として継承し、自己資本比率は5%という船出だった。豊田喜一郎社長は「トヨタ」の社名使用を許さず、倒産時にトヨタ本体のブランドを傷つけないための距離を意図的に置いた。アイシンの源流も変わっている。1943年にトヨタ自動車工業と川崎航空機の共同出資で航空発動機部品メーカー「東海飛行機」として設立され、終戦で本業を失った後、ミシンと自動車部品の製造に転換し、1949年に愛知工業として再発足した。独立系ベアリング・トヨタ分離の機械・トヨタ分離の電装・戦時航空機からの転換という4つの異なる出自が、後の4社の性格の違いにつながっている。

1953年〜1965年、独立への転換——デンソーのボッシュ提携とアイシン精機の対等合併

分離独立しただけでは会社は育たない。デンソーは1953年11月、ドイツのロバートボッシュ社と燃料噴射ポンプなど電装品の技術導入契約を結んだ。この提携を軸に、トヨタ以外の自動車メーカーにも部品を供給する独立部品メーカーへと成長していく。トヨタの商号を名乗れなかったことが、結果的に他社との取引を後押しした。アイシンの系譜では、1965年8月に愛知工業と、同じくトヨタ自動車工業と川崎航空機の共同出資を源流に持つ兄弟会社・新川工業が合併し、アイシン精機が発足した。社名は吸収する側・される側という上下関係ではなく、「愛知工業」の愛と「新川工業」の新を組み合わせたもので、対等合併であることを示している。この段階で、デンソーは「トヨタの外に売る」独立路線、アイシンは「トヨタグループ内で機能部品を束ねる」統合路線という、異なる成長戦略を選んでいたことになる。

2006年1月1日、光洋精工と豊田工機の合併——JTEKT誕生の裏にあった生き残りの危機感

独立系のベアリングメーカーとトヨタ系の工作機械メーカーという別系統の2社が1つになったのが、JTEKTの発足だ。光洋精工と豊田工機は2005年2月に合併の基本合意を発表し、当初予定の2006年4月1日から3カ月前倒しして、2006年1月1日に合併期日を迎えた。合併に際して公表された文書は、その目的を「モノづくりの基盤である工作機械事業を有する自動車部品会社として顧客に信頼され期待される企業に飛躍、成長し、厳しい経営環境に対処すること」と説明している。生き残りをかけた統合という位置づけだ。光洋精工を存続会社としつつ商号をジェイテクトへ変更し、ベアリング(光洋精工)・工作機械(豊田工機)・ステアリング(両社が別々に手がけていた事業)の3事業を1社に集約した。デンソー・アイシンが個社としての独立性を保ちながら成長したのに対し、JTEKTは競合していた2社が統合によって規模を確保する道を選んだ、性格の異なる成長の形だった。

2019年、カルソニックカンセイとマニエッティ・マレリの統合——KKR主導の「グローバル最大級」誕生の代償

日本国内の再編とは別に、海外では別の統合モデルが動いていた。日産系列だったカルソニックカンセイと、イタリアの部品大手マニエッティ・マレリが2019年5月に統合し、マレリという新会社が発足した。米系プライベート・エクイティ・ファンドのKKRが主導した買収・統合で、両社を合わせることで自動車電装・内装分野のグローバル最大級のサプライヤーを作る狙いだった。ところが統合後の財務状況は悪化を続け、日本の製造業としては過去最大規模となる約1兆1,000億円の債務を抱える事態に陥った。トヨタグループのデンソー・アイシンが本業の技術提携や対等合併で規模を積み上げたのに対し、マレリはPEファンド主導のレバレッジド・バイアウト型M&Aで規模を作った。この違いが、後年の財務危機の伏線になる。

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2022年〜2025年、私的整理から連邦倒産法へ——マレリが辿った再建手続きの変遷

債務に苦しむマレリは2022年3月、日本の準則型私的整理手続きである事業再生ADRの適用を申請した。ADRは全ての対象債権者の同意が成立条件だが、総債権の95%以上の同意を得ながらも、一部の外国金融機関が同意せず不成立に終わった。マレリはその後、2021年の産業競争力強化法改正で新設された「簡易再生手続」に移行した最初の事例として、2022年7月に東京地方裁判所へ申し立てた。しかし2024年に入ってもEVシフトや半導体不足の影響で資金繰りは改善せず、2025年6月11日、米国デラウェア州連邦倒産裁判所にチャプター11(連邦倒産法第11章)の適用を申請する事態となった。既に債権者の約80%が再建支援契約に署名しており、11億ドルのDIPファイナンスを確保。同年7月末までに全額の利用承認を取得し、主要債権者主導のもと2026年を目途にチャプター11からの脱却を見込んでいる。日本の私的整理制度から米国の事業再生制度へ移行した、グローバル部品メーカーとしては稀な事例だ。

2023年〜2024年、豊田自動織機のエンジン認証不正——フォークリフトから自動車用ディーゼルへ拡大した不正

豊田自動織機は2023年3月、フォークリフトなど産業車両用エンジン4機種の耐久試験で、実測値ではなく推定値を使ったり試験中に部品を交換したりする不正を公表し、国土交通省に約7万2,000台のリコールを届け出た。2023年3月期の連結決算には、リコールと仕入れ先への補償費用として207億円を引き当てている。問題はそこで終わらなかった。特別調査委員会の調査が続くなか、2024年1月29日、トヨタが認証申請用に委託した自動車用ディーゼルエンジン3機種(1GD・2GD・F33A)の出力試験でも、量産用と異なるソフトを使ったECUで測定値のばらつきを抑えて報告する不正が新たに発覚した。対象エンジンを搭載する車両はグローバルで10車種、うち日本向けは6車種(ランドクルーザープラド、ハイエース、グランエース、ダイナ、ハイラックス、ランドクルーザー300など)に及び、トヨタは国内外で生産・出荷を一時停止した。産業車両用エンジンでも新たに7機種の不正が加わり、合計11機種に拡大している。国土交通省は排出ガス性能の確認まで出荷停止を指示し、豊田自動織機はその後も再発防止に向けた体制改革を続けている。

2024年、UN-R155/R156が全ての継続生産車に適用拡大——規模を問わず全社が負うセキュリティコスト

個別企業の不正とは別に、業界全体に共通するコスト圧力も強まっている。国連欧州経済委員会(UNECE)が定めるサイバーセキュリティ規則UN-R155とソフトウェアアップデート規則UN-R156は、日本では道路運送車両の保安基準に取り込まれ、無線通信(OTA)対応の新型車から段階的に義務化が始まった。適用は2022年7月にOTA対応の新型車、2024年1月にOTA非対応の新型車、2024年7月にOTA対応の継続生産車、2026年5月にOTA非対応の継続生産車という4段階のスケジュールで拡大している。対応するには、サイバーセキュリティ管理システム(CSMS)とソフトウェアアップデート管理システム(SUMS)を構築し、認証を取得することが型式認証取得の前提条件になる。この投資は増益企業か減益企業かを問わず、全ての自動車OEM・Tier1部品メーカーに等しくかかる固定費に近いコストであり、利益率が低い会社ほど重くなる構造だ。

2025年6月〜2026年3月、豊田自動織機TOB成立——株価は2度引き上げられ買収総額は5.9兆円に

トヨタ自動車を中心とする陣営は2025年6月3日、豊田自動織機を公開買付け(TOB)で買収し、株式を非公開化すると発表した。トヨタグループの株式持ち合いを整理する狙いで、当初の買付価格は1株16,300円、買収総額の見込みは約4.7兆円だった。ところがTOBが実際に始まった2026年1月15日の時点で価格は既に18,800円へ引き上げられており、さらに応募期限(3月23日)の直前となる2026年3月6日には20,600円へ再び引き上げられた。最終的に買付予定数の下限(42.01%)を上回る63.60%の応募が集まり、TOBは成立。買収総額は国内企業同士のM&Aとして過去最大となる約5.9兆円に達した。デンソー・アイシン・豊田通商もTOBに応募し、豊田自動織機が保有する各社株式を買い取る自己株式公開買付けを通じて、長年続いた株式持ち合い関係を解消する。豊田自動織機は臨時株主総会を経て、2026年6月1日付で東証スタンダード市場での上場を廃止する予定だ。1926年創業以来トヨタグループの源流企業として株式市場に立ち続けた会社が、100年目を目前に非公開企業へ姿を変える。

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2026年3月期決算——デンソー・アイシンは増益、JTEKT・豊田自動織機は減益という分岐

2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)の4社の決算を並べると、増益2社・減益2社にはっきり分かれる。デンソーは売上収益7兆5,399億円(前期比5.3%増)・営業利益5,525億円(同6.5%増)・営業利益率7.3%。米国関税、部材費の高騰、人への投資増加というコスト圧力があったが、合理化努力と操業度の改善でこれを吸収し、増収増益を確保した。アイシンは売上収益5兆1,177億円(同4.5%増)・営業利益2,287億円(同12.7%増)・営業利益率は前期の4.1%から4.5%に上昇した。同様のコスト圧力を、企業体質改善努力と構造改革の効果が上回った。一方、JTEKTは売上収益1兆9,249億円(同2.2%増)に対し営業利益は248億円(同35.4%減)・営業利益率は前期の2.0%から1.3%に低下した。本業の儲けを示す事業利益は756億円(同16.5%増)と伸びているのに、決算上の営業利益が落ち込んだのは「その他の費用」が345億円から568億円へ224億円(65%)増えたためだ。同期にチェコの軸受子会社の持分売却など事業の入れ替えを進めており、その影響が含まれている可能性がある(⚠️内訳は決算短信に開示されていない)。豊田自動織機は売上高4兆3,695億円(同7.0%増)と過去最高を更新した一方、営業利益は1,370億円(同38.2%減)にとどまった。エンジン認証関連費用の増加、人件費・研究開発費の増大、米国関税が利益を圧迫し、自動車セグメントの営業利益は前期比62%減の171億円まで沈んだ。需要が伸びていることは4社共通なのに、コスト構造とガバナンスの状態によって利益の方向が真逆に分かれている。

数字の見え方の落とし穴——「トヨタ系」だから安泰、ではない

デンソー・アイシン・JTEKT・豊田自動織機はいずれもトヨタグループに属し、トヨタ自動車を筆頭株主・筆頭顧客に持つという共通点がある。JTEKTの場合、トヨタ自動車グループ向け売上収益は8,214億円と全社売上の4割超を占める。この構造から「トヨタ系だから需要が安定していて安泰」という見方が生まれやすい。しかし2026年3月期の決算が示すのは、同じ顧客基盤・同じグループの傘の中にいても、利益の行方は各社が抱える固有の事情——品質管理体制、事業ポートフォリオの入れ替え、財務規律——によって大きく分かれるという事実だ。豊田自動織機は「トヨタ系」であることが不正の再発防止や信頼回復を免除してくれるわけではなく、むしろグループの源流企業であるがゆえに非公開化という大きな決断を迫られた。「トヨタ系=安定」という単純な図式は、この産業を理解するうえでは実態を見誤らせる。

この先の分岐——EUが2035年内燃機関禁止の撤回提案に動く中、部品メーカーの生存線はどこに引かれるか

この産業の次の転換点は、欧州の規制方針にある。EUは2023年に採択したCO2規制で、2035年に新車のCO2排出量を2021年比100%削減(実質ゼロエミッション化)する方針を法制化していた。ところが欧州委員会は2025年12月16日、この方針を事実上撤回する提案を発表した。新提案では2035年の削減率を100%ではなく90%に引き下げ、残り10%分は合成燃料・バイオ燃料・EU域内産の低炭素鋼の使用などで相殺することを条件に、ハイブリッド車や一部の内燃機関車の販売継続を認める内容だ。この提案は2026年8月時点でまだ欧州議会とEU加盟国政府の承認を得ておらず、確定した制度ではない。ドイツ自動車工業会は「実現が難しい条件が付けられた」と批判し、環境側からは普及にブレーキがかかるとの懸念も出ている。もしこの緩和が最終的に承認されれば、内燃機関向け部品(燃料噴射・変速機など)を持つメーカーには時間的な余裕が生まれる一方、EV部品への投資を先行させてきたメーカーとの競争条件は変わる。デンソー・アイシンのような独立性の高い部品メーカーが両方の技術を並走させられるか、JTEKT・豊田自動織機のような会社が財務再建や信頼回復と並行して次の投資判断を下せるかが、次の5年の利益率を左右する。

よくある質問

Q. デンソーとアイシンが増益で、JTEKTと豊田自動織機が減益になったのはなぜか?

デンソー・アイシンは米国関税や部材費高騰などのコスト圧力を、合理化努力・構造改革の効果で吸収し増益を確保した。JTEKTは本業の儲け(事業利益)自体は16.5%増えているが、「その他の費用」の大幅増加で営業利益は35.4%減った。豊田自動織機はエンジン認証不正関連の費用増加が主因で営業利益が38.2%減った。同じ需要環境でも、各社が抱える個別のコスト・ガバナンス要因によって結果が分かれている。

Q. 豊田自動織機はなぜ株式を非公開化するのか?

トヨタグループ各社(トヨタ自動車・アイシン・デンソー・豊田通商)との株式持ち合いを整理し、資本関係を簡素化する目的で、2025年6月にトヨタ自動車を中心とする陣営がTOBを発表した。買付価格は2度引き上げられ最終的に1株20,600円、買収総額は国内企業同士のM&Aとして過去最大の約5.9兆円に達し、2026年6月1日付で上場廃止となる予定だ。

Q. UN-R155/R156のようなサイバーセキュリティ規制は、どの規模の部品メーカーにも同じ負担になるのか?

認証取得・維持のコストは基本的に固定費に近く、売上規模の小さい会社ほど負担割合が重くなりやすい。日本では2022年7月から段階的に適用が始まり、2026年5月にOTA非対応の継続生産車まで対象が広がる。規模の大きいTier1だけでなく、Tier2・Tier3の部品メーカーにも実装が求められる。

Q. EUが2035年内燃機関禁止を撤回すれば、ガソリン車向け部品メーカーは安心できるのか?

まだ確定していない。欧州委員会は2025年12月に緩和案を発表したが、2026年8月時点で欧州議会とEU加盟国政府の承認を得ておらず、最終的にどのような条件で決着するかは不透明だ。仮に緩和されても、EU域内産の低炭素鋼の使用など新たな条件が付く見通しで、単純な「規制前」への巻き戻しにはならない。

主な出典

本稿はAtlas DataLakeの一次情報ファクト(industry-vertical/automotive/tier1-parts・oemセル等)を骨格に、デンソー・アイシン・JTEKT・豊田自動織機の決算短信・決算説明資料等の一次公開情報、トヨタ自動車・トヨタ不動産・豊田自動織機・マレリの公式発表・EDINET開示資料、日本経済新聞・時事通信・ロイター等の報道、UNECE規則の適用スケジュール解説、欧州委員会のCO2規制見直し提案に関する報道を参照して作成した。各社の沿革は公式社史・有価証券報告書・The社史の記述で相互確認した。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。

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