「日本のフォークリフトメーカーを売上で並べると、豊田自動織機が圧倒的1位」——この言い方は半分正しく、半分危険です。豊田自動織機の産業車両セグメントは、2026年3月期(IFRS)で売上高3兆430億円、営業利益1,135億円です。三菱ロジスネクストの2025年3月期は売上高6,656億円、営業利益208億円。桁が違います。ただし産業車両にはフォークリフト以外(物流ソリューション・販売金融など)が混ざり、ロジスネクストも製品・アフター・リースが混在します。本記事では一次開示の表を先に置き、数字を分解すると何が見えるかをわかりやすく解説します。
表:まず比較単位を揃えて並べる
| 会社/単位 | 対象期 | 売上 | 営業利益 | 開示の注意 |
|---|---|---|---|---|
| 豊田自動織機・産業車両 | 2026年3月期(IFRS) | 3兆430億円(+9%) | 1,135億円(▲32%) | フォークリフト+倉庫機器+自動倉庫・物流ソリューション+販売金融 |
| 豊田自動織機・連結全体 | 同左 | 4兆3,695億円(+7.0%) | 1,370億円(▲38.2%) | 自動車・繊維機械も含む。フォークリフト専業ではない |
| 三菱ロジスネクスト・連結 | 2025年3月期 | 6,656億円(▲5.2%) | 208億円(▲51.3%) | フォークリフト中心の物流機器。のれん等償却前OPは311億円 |
| アイチコーポレーション・連結 | 2026年3月期 | 596億円(+0.5%) | 75億円(+1.0%) | 高所作業車が主。フォークリフト専業ではない(隣接比較用) |
同じ「産業車両」でも、期末が同じ3月期でも、会計基準(IFRS/日本基準)と中身は揃いません。1位・2位のラベルをそのまま「国内フォークリフト台数シェア」に使うのは危険です。表の右端「開示の注意」が空なら、その行は提案書から外します。
アイチを載せた理由は単純です。倉庫・建設現場の見積会議では、フォークリフト会社と高所作業車会社が同じ机に並ぶ。並べるなら用途列を必須にします。用途が空のまま「産業車両3社」と書く資料は作りません。
豊田自動織機:産業車両3兆の中身を分解する
豊田自動織機の2026年3月期連結は、売上高4兆3,695億円(+7.0%)、営業利益1,370億円(▲38.2%)です。減益要因として、エンジン認証関連費用、人件費、米国関税や研究開発費を含む諸経費の増加を会社は挙げています。
産業車両セグメントは売上高3兆430億円(前年から2,567億円・9%増)、営業利益1,135億円(532億円・32%減)。会社説明では、市場は中国が牽引して世界全体で拡大した一方、主力のフォークリフトトラックが欧州や中国で減少し、物流ソリューション事業が増収を支えた、とあります。売上の伸びとフォークリフト台数の伸びは、一致しません。
セグメント定義には、フォークリフト、ウェアハウス用機器、自動倉庫、物流ソリューション、販売金融。全社売上4.37兆円のうち産業車両が約3兆円と大きいですが、「産業車両=フォークリフト単体」と読むと外れます。社内表の注記は「産業車両(ソリューション・金融込み)」で足ります。
同社はトヨタグループ側の公開買付けを経て、2026年6月1日付で上場廃止となる見通しが示されています。非公開化後も事業は続く。一方で、短信の入手経路は変わり得ます。出典列のメモ例は「最後の通期短信(2026年4月28日発表)」——取得日を必ず残す運用です。
三菱ロジスネクスト:6,656億円を国内と海外に分ける
三菱ロジスネクストの2025年3月期は、売上高6,655億9,400万円(▲5.2%)、営業利益207億6,600万円(▲51.3%)、のれん等償却前営業利益310億8,100万円(▲41.2%)です。価格適正化や円安があった一方、北米でのエンジン認証遅延や代理店の在庫調整が減収要因——有価証券報告書の整理はこうです。
地域では、国内事業の売上高1,961億8,600万円(+3.0%)、海外事業4,694億800万円(▲8.2%)です。海外の減益が大きく、海外セグメント利益は151億400万円(▲59.8%)でした。全社売上だけを見て「日本市場が崩れた」と書かないでください。国内は増収でも、海外(特に米州)が連結を下げています。
収益の種類では、製品・アフターサービス・リースレンタル・その他に分かれます。2025年3月期の外部顧客向けでは、製品約4,050億円、アフター約1,942億円、リースレンタル約522億円、その他約142億円です(百万円単位の開示を億円に丸めた概数)。台数競争の話と、部品・保守・リースの話を同じセルに混ぜない方が安全です。
2026年3月期の会社予想は、売上高6,350億円(▲4.6%)、営業利益140億円(▲32.6%)などと下方修正された二次報道があります。本稿の主表は2025年3月期実績を正とし、予想は⚠️の別行にします。同社は2026年4月27日に上場廃止となった、との整理もあります。非公開化後の数字は、開示の継続可否を確認日付きで管理します。
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アイチコーポレーション:596億円は高所作業車の物差し
アイチコーポレーションの2026年3月期は、売上高596億1,300万円(+0.5%)、営業利益75億1,100万円(+1.0%)、親会社株主に帰属する当期純利益66億5,800万円(+5.1%)です。特装車売上は446億5,200万円(▲3.0%)、部品・修理は140億6,100万円(+10.8%)です。
特装車のうち高所作業車は405億4,500万円(+4.7%)で、同社の主軸です。穴掘建柱車は減収が大きく、特装車合計は減収でも高所作業車単体は増収——この分解が先です。フォークリフトの見積表にアイチを「3位」と置くのは誤りです。倉庫・建設の同一現場で比較するときだけ、用途を分けた行に載せます。
営業利益率は約12.6%と、ロジスネクストの連結営業利益率(約3.1%)や豊田自動織機産業車両の営業利益率(約3.7%)より高く見えます。事業ミックスと規模が違うため、利益率だけで「アイチが最も強いフォークリフト会社」と書かないでください。比較するなら、同種の機械・同種のチャネルに揃えます。
桁の差を分解する:3兆と6,656億のあいだ
産業車両3兆円とロジスネクスト6,656億円の差は、単純な「台数差」ではありません。豊田自動織機側には物流ソリューションと販売金融が入り、グローバル連結の厚みも違います。ロジスネクスト側はフォークリフト中心でも、アフターとリースが売上の一定割合を占めます。
分解の手順は3つです。1つ目は比較単位(連結全体/産業車両セグメント/製品売上のみ)。2つ目は地域(国内/米州/欧州/中国)。3つ目は収益の種類(新車/アフター/リース/ソリューション)。空欄は推定で埋めません。
「世界シェア3位」などの二次表現は、出典の定義(台数か売上か、いつの統計か)が取れない限り本文に使いません。必要なときは業界団体の出荷統計を別ソースで当て、無いなら「連結規模の参考」と注記します。
見積前の社内メモでは、相手の用途(カウンター/リーチ/自動倉庫/高所作業)を先に書き、その用途に合う会社だけを表に残します。用途が空の全社順位表は、営業会議の画面から外します。
非公開化が進む年:出典の取り方を変える
2026年は、豊田自動織機・三菱ロジスネクストの双方で上場廃止・非公開化の動きが重なります。短信や有価証券報告書が取れなくなると、社内の「売上ランキング表」は更新停止になります。更新停止を「業界が縮小した」と誤読しないでください。
対応は単純です。表に「最終公開期/確認日/次の入手経路(親会社開示・業界統計・取引先ヒアリング)」を列追加します。入手経路が空の行は、提案書の根拠に使いません。ヒアリング数値は⚠️とし、公開一次と混ぜません。
エンジン認証や関税の話は、両社の説明に出てくる共通テーマです。ただし費用の計上時期と地域が違うため、「認証問題でフォークリフト業界全体が減益」と一般化しません。会社ごとの注記を残します。
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取り違えやすい点
取り違え1は、産業車両3兆円をフォークリフト単体売上と同一視すること。取り違え2は、ロジスネクストの国内増収と海外減収を「日本市場の悪化」にまとめてしまう読み方です。取り違え3——アイチをフォークリフト3位に置くこと——は用途の取り違えです。取り違え4は、IFRSと日本基準の営業利益を注記なしで横比較してしまう点にあります。
取り違え5は、のれん等償却前営業利益と通常の営業利益を同じセルに入れること。取り違え6は、会社予想(ロジスネクスト通期見通しなど)を実績行と並べて順位を作ってしまうことです。
切り分けの質問は3つです。「見たいのは台数か売上か」「比較単位はセグメントか製品か」「出典はどの短信・有価証券報告書の何の表か」。
今週の実務1点:比較表の注記を1行にする
今週やる1点は、次の1行です。「案件名/見たい機械/使う会社と期/比較単位/混入する事業/出典見出し/確認日」。例:「倉庫リーチ/フォークリフト/ロジスネクスト2025年3月期・連結/製品+アフター混在/有報収益分解/2026-08-21」。
空欄の出典見出しは「未確認」と書き、提案書に載せる前に埋めます。未確認のまま「豊田織機1位」だけが残る資料は作りません。週次で未確認行の件数を数え、ゼロになるまで営業会議の冒頭に残します。
表ができたら、営業と調達で同じファイルを共有します。全社順位表と用途別の注記表を1枚に混ぜない方が手戻りは減ります。確認日が古い行は、次の開示が出たら上書きします。非公開化後は、業界統計の行を別シートへ移します。
よくある質問
Q. 豊田自動織機の産業車両3兆円はフォークリフトだけですか?A. いいえ。短信のセグメント定義には、フォークリフト以外に倉庫機器・自動倉庫・物流ソリューション・販売金融が含まれます。
Q. 三菱ロジスネクストはいつ時点の数字が確かなのですか?A. 本稿の主表は2025年3月期の有価証券報告書ベース(売上6,656億円・営業利益208億円)です。2026年3月期予想は別行の⚠️扱いにします。
Q. アイチコーポレーションはなぜ表に入るのですか?A. 高所作業車メーカーとして隣接比較用です。フォークリフト専業の3位ではありません。用途が違う行に分けてください。
Q. 今週やる1点は何ですか?A. 案件ごとに機械・期・比較単位・混入事業・出典を1行表にし、未確認を残さないことです。
主な出典
調査時点:2026年8月。主表は各社実績。ロジスネクスト通期予想・世界シェア二次表現は不採用または⚠️。台数シェアは業界統計が無い限り不掲載。
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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。
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