総合化学4社を売上で並べると、1位は三菱ケミカルグループ、2位は旭化成です。ただし旭化成の連結には住宅とヘルスケアが大きく入り、石化の順位ではありません。汎用のエチレン・ナフサは利益を削り、電子材料・産業ガス・医薬が本体を支えています。本記事では、2026年3月期の一次決算と、水島エチレン停止の発表を対比してわかりやすく解説します。
当コラムで注目する用語
- 総合化学:基礎石化から機能材料まで幅広い製品を持つメーカー。信越化学のような機能特化型とは分けて見ます。
- ナフサ:原油から取る石化原料。クラッカーに入れてエチレンなどを作ります。
- エチレン:プラスチックや合成繊維の上流。コンビナートの中核設備です。
- スペシャリティ:電子材料・医薬中間体・機能フィルムなど、数量より単価と仕様で稼ぐ領域です。
- コア営業利益:営業利益から事業撤退などの一過性を除いた、各社が使う実力利益です。
総合化学の順位は売上だけでは決まらない
取引先が最初に見るのは連結売上です。2026年3月期は、三菱ケミカルグループ3兆7,040億円、旭化成3兆745億円、住友化学2兆3,285億円、三井化学1兆6,688億円です。数字は各社の決算短信です。三菱ケミカルはIFRSの継続事業、旭化成は日本基準の売上高です。会計基準が違うので、利益の名称は原文のまま置きます。
信越化学は売上規模でこの並びに割り込むことがありますが、塩ビ・半導体シリコンが中心で、総合化学の比較表には入れていません。旭化成も、連結の半分近くが住宅とヘルスケアです。石化の担当が見るべきは、マテリアルやベーシックの列です。
まず見る:2026年3月期の4社比較
売上の大きい順に並べます。利益は、各社が重視する指標を使います。
| 順位 | 会社 | 連結売上 | 実力利益 | 石化・素材まわり |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 三菱ケミカルグループ | 売上収益 3兆7,040億円(6.2%減) | コア営業利益 2,250億円(1.7%減) | ベーシックはコア営業損失42億円。産業ガスは売上1兆3,525億円・コア2,007億円 |
| 2 | 旭化成 | 売上高 3兆745億円(1.2%増) | 営業利益 2,312億円(9.1%増) | マテリアル売上1兆3,062億円・営業利益683億円(116億円減) |
| 3 | 住友化学 | 売上収益 2兆3,285億円(10.7%減) | コア営業利益 2,084億円(48.3%増) | エッセンシャル売上6,788億円(2,202億円減)・コア144億円 |
| 4 | 三井化学 | 売上収益 1兆6,688億円(7.8%減) | コア営業利益 1,000億円(0.9%減) | ベーシック売上5,999億円(1,101億円減)・コア営業損失184億円 |
売上1位は三菱ケミカルです。コア営業の中身は産業ガスが大半で、汎用石化は損失です。旭化成は増収増益ですが、牽引はヘルスケアと住宅です。住友化学は売上が1割減でもコア営業は5割近く増えています。譲渡益と医薬が効いています。三井化学は売上が石化で削られ、コアはほぼ横ばいです。
汎用品——エチレンとナフサが利益を削る
4社に共通するのは、基礎石化の数量と価格です。三井化学の短信は、川下需要の鈍化で国内ナフサクラッカーの稼働が低調、と書いています。ベーシック&グリーン・マテリアルズは売上5,999億円(前期比1,101億円減)、コア営業損失184億円(損失が70億円増加)です。ナフサ下落に伴う在庫評価の悪化と市況悪化が主因です。
三菱ケミカルの短信では、国内ナフサ価格(期中平均)は1キロリットルあたり6万5,200円で、前期の7万5,600円より1万400円安いです。売上は原料安で下がります。ベーシックマテリアルズ&ポリマーズは売上7,907億円(1,959億円減)、コア営業損失42億円です。損失幅は104億円改善しましたが、黒字には戻っていません。酸化エチレンなどの減損も計上しています。
住友化学のエッセンシャル&グリーンマテリアルズは売上6,788億円(2,202億円減)です。ペトロ・ラービグ社の定期修繕、アルミニウム撤退、合成樹脂の事業譲渡が重なりました。コア営業は144億円で、729億円の改善です。内訳にはペトロ・ラービグ社の一部株式売却益が含まれます。数量が戻った、とは限りません。
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スペシャリティ——電子材料・産業ガス・医薬が支える
対になる列が、数量より仕様で売る領域です。三菱ケミカルの産業ガスは売上1兆3,525億円、コア営業利益2,007億円です。連結コア2,250億円のほとんどをここで稼いでいます。スペシャリティマテリアルズは売上1兆596億円、コア323億円(84億円増)。半導体製造装置向けエンプラや炭素繊維コンポジットが増えました。一方、MMA&デリバティブズは売上3,519億円、コア15億円の損失です。モノマー市況の下落が効いています。
三井化学のICTソリューションは売上2,795億円、コア369億円(102億円増)です。半導体・光学材料とICTフィルムが回復しました。ライフ&ヘルスケアは売上2,591億円、コア342億円。メガネレンズ材料が堅調です。モビリティは売上5,154億円、コア510億円で減収減益。米国関税やOEM減産でPPコンパウンドが減りました。
住友化学は、住友ファーマが売上4,519億円、コア1,084億円(731億円増)です。北米のオルゴビクスとジェムテサ、マイルストン収入、アジア事業の一部持分譲渡益が入ります。アグロ&ライフは売上5,193億円、コア563億円。ICT&モビリティは売上5,742億円、コア530億円(175億円減)で、偏光フィルムの構造改革と売価下落が響きました。
三菱ケミカルは産業ガスが本体、石化は損失
同社の2026年3月期短信(2026年5月13日、IFRS)では、売上収益3兆7,040億円、コア営業利益2,250億円、営業利益301億円、親会社帰属利益118億円です。営業利益がコアから大きく落ちるのは、非経常項目です。田辺三菱製薬は非継続事業に分類され、上記は継続事業です。製薬を足した昔の売上と比較しないでください。
海外売上収益比率は56.1%(同社IRダイジェスト、2026年5月更新)です。国内コンビナートのエチレン停止だけでは、連結の姿は変わりません。来期予想は売上3兆8,000億円、コア3,050億円。短信は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖は織り込んでいない、9月末まで続く場合はコア予想に対し約180億円の下振れ、と注記しています。
住友化学はコアが増えても、石化売上は削っている
住友化学の短信(2026年5月14日)では、売上2兆3,285億円、コア2,084億円、営業利益1,517億円、親会社帰属609億円です。コアの増加と営業利益の減少が同時に起きています。非経常の減損346億円、構造改善266億円が営業利益を押し下げ、前期にあった持分法の一過性益もなくなりました。
例えば、石化の売上を「まだ6,788億円ある」と読むと、2,202億円減と譲渡益込みのコア144億円を見落とします。来期予想は売上2兆3,600億円、コア2,150億円、親会社帰属700億円です。ナフサ前提は1キロリットル9万2,000円(今期実績6万5,200円)と、説明資料にあります。原料が高い前提で、数量回復は限定的です。
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三井化学と旭化成——石化減をどこで埋めるか
三井化学は売上1兆6,688億円、コア1,000億円、営業利益738億円、親会社帰属344億円です(2026年5月13日)。ベーシックは連結の36%を占める一方、損失です。中国フェノールの持分法減損も営業利益を押し下げました。ICTとライフが利益を足しています。2026年1月1日に株式を1株につき2株に分割しているので、1株利益の比較は分割後ベースです。
旭化成は売上3兆745億円、営業利益2,312億円、親会社帰属1,588億円です(日本基準、2026年5月12日発表の短信)。ヘルスケアは売上6,641億円・営業利益835億円。住宅は売上1兆774億円・営業利益998億円。マテリアルは売上1兆3,062億円・営業利益683億円で、減収減益です。エレクトロニクスは半導体向けで増益、エッセンシャルケミカルは水島の大規模定期修理と在庫受払差で減益、と本文は分けています。単独は売上6,508億円、営業損失35億円です。連結2位を「化学が強い」と読むと、住宅と医薬、親会社の石化赤字を取り違えます。
水島エチレン停止——2030年度に能力を半減する
汎用側の設備判断は、決算より先に出ています。2026年1月27日、旭化成・三井化学・三菱ケミカルは基本契約を発表しました。2030年度を目途に、三菱ケミカル旭化成エチレン(AMEC)水島工場(岡山県倉敷市)のエチレン設備を止め、大阪石油化学(OPC、大阪府高石市)へ集約します。西日本2基の能力は、定期修繕実施年で年95.1万トンから45.5万トンへ半減します。投資規模212億円、うち交付申請上限104億円です。経済産業省の令和7年度「排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業」の採択を受けています。
跡地は3社でグリーン用途を検討し、旭化成のRevolefin(バイオエタノールから基礎化学品)の初期設備を水島に置き、2034年度の商用を目指す、と発表しています。構造転換のCO2削減効果は、大阪の2023年度・水島の2024年度対比で年50.6万トン、完工は2029年度末まで、と発表本文にあります。止める話と、いつ止まるかは別です。2026年8月時点では、水島はまだ動いています。
ナフサの短期ショックも重なりました。2026年3月、三井化学は市原と高石でエチレン減産を始めた、とロイターと産経が報じ、三菱ケミカルも茨城で減産と伝えています。理由はホルムズ海峡の通航停滞によるナフサ調達減です。これは構造改革(2030年度の停止)とは別の、原料の途絶リスクです。契約と在庫は、二つのカレンダーを分けて書いてください。
取引先が先に見る3点
1つ目は、連結売上の順位で与信を止めないことです。三菱ケミカルは産業ガス、旭化成は住宅とヘルスケア、住友化学はファーマと譲渡益がコアを持ち上げています。石化の担当は、ベーシック/エッセンシャル/マテリアルの列を併記してください。
2つ目は、エチレンの供給元です。水島停止は2030年度目途、能力は半減です。今のグレードと数量を、2030年以降も同じ工場から取れる前提にしない。代替は大阪(OPC)と、各社の他拠点です。
3つ目は、原料価格の前提です。2026年3月期のナフサ平均は6万5,200円前後まで下がって在庫評価が悪化しました。住友化学の来期前提は9万2,000円です。三菱ケミカルはホルムズ影響を通期予想に入れていません。単価交渉の前に、「今期の原料安」と「来期の調達リスク」を1行に分けてください。
よくある質問
Q. 日本の総合化学1位は今も三菱ケミカルですか。2026年3月期の連結売上(継続事業)でははい。3兆7,040億円です。利益の中心は産業ガスです。石化だけの比較なら、売上も利益もこの順位にはなりません。
Q. 汎用石化からスペシャリティへ移れば利益は安定しますか。電子材料と産業ガスは、今期は増益の会社が多いです。一方、MMAや偏光フィルムのように、スペシャリティでも市況と構造改革で減益になります。移ったかどうかは、セグメント利益の符号で確認してください。
Q. 水島のエチレンはもう止まっていますか。2026年1月27日の発表は、2030年度を目途に停止する基本契約です。2026年8月時点では稼働中です。能力は西日本2基合計で年95.1万トンから45.5万トンへ減らす計画です。
主な出典
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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。
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