ワークマンはいまも「作業服の会社」だと思われがちだが、中身はすでに変わっている。2026年3月期のチェーン全店売上高は2,092億3,400万円、プライベートブランド(PB)比率は71.9%、店舗の92.0%はフランチャイズ(FC)が占める。2021年に完全撤退したはずのテレビCMは2026年3月、6年ぶりに復活した。そして2026年8月には台湾に100%出資の子会社設立を決議し、2029年の海外初出店に向けて動き出している。「作業服専門店」という看板の内側で何が起きたのかを、決算短信・有価証券報告書・IR資料という一次情報から数字で追う。
1980年、群馬のスーパーが始めた「職人の店」
ワークマンの出発点は、1959年に群馬県伊勢崎市で創業した衣料品専門店「いせや」(現・ベイシアグループの前身)にある。1980年6月28日、いせやの営業部は関西で繁盛していた作業着専門店の存在を聞きつけ、視察チームを派遣した。そのわずか3カ月後、いせやの1事業として「職人の店 ワークマン」1号店が群馬県内に開店する。作業服という、当時は競合チェーンがほとんど存在しなかったニッチ市場に、職人の指名買いという強い需要が見込めたことが決め手だった。
法人としての「誕生日」は、実は三つある
ワークマンの創業年は「1982年」と紹介されることが多いが、法人としての経緯はもう少し複雑だ。有価証券報告書の沿革によれば、1979年11月30日に群馬県伊勢崎市で「株式会社蘭豆」(旧商号あっぷるでーと)が設立されており、これが法人格上の起点になる。1982年8月19日、いせやの衣料事業部から分社独立する形で「株式会社ワークマン」が設立され、これが事業実体としての創業年である。さらに1994年4月、株式会社蘭豆を存続会社として合併したうえで商号をワークマンに統一し、法人格と実質を一致させる組織再編を完了した。1979年・1982年・1994年という3つの日付のどれを「誕生日」とするかで、社歴の見え方が変わる点は押さえておきたい。
2014年9月、「1,000店で頭打ち」という危機感から生まれた変革ビジョン
転機は2014年に訪れた。当時専務(現任)の土屋哲雄氏は、国内の作業服市場規模が2,000億円以下とみられるなか、ワークマンが既に700店舗超・売上高約700億円に達していることに気づく。このペースで出店を続ければ2024年には1,000店・1,000億円で成長が頭打ちになると試算された。加えて、作業服の主要顧客である建設技能労働者は2040年ごろに現在より2〜3割減少するとの見立てがSWOT分析で浮かび上がった。これを受けて2014年9月、ワークマンは「客層拡大」を掲げる「中期業態変革ビジョン」を発表し、勘や経験ではなく数字で市場を捉える「データ経営」を新業態運営の武器と位置づけた。単体売上高は2014年3月期481億円から2025年3月期997億円へ、約11年で2倍以上に伸びている。
2018年9月5日、ららぽーと立川立飛で始まった「客を変える」実験
変革ビジョンの発表から4年、2018年9月5日、東京都立川市の商業施設「ららぽーと立川立飛」に新業態「WORKMAN Plus」1号店が開店した。売り場面積61坪に約300アイテムを並べたが、商品自体は職人向けに磨いてきた高機能・低価格品とほぼ同じで、変えたのは照明・陳列・出店立地という「見せ方」だった。開店から半年で全国16店舗に拡大し、2019年には単体売上高498億円を記録している。商品を変えずに客層だけを広げる、という中期業態変革ビジョンの狙いが、最初の実験で裏づけられた形になった。
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2020年10月、作業着を置かない店ができた日
WORKMAN Plusで増えた一般客のなかでも、とくに反応が大きかったのが女性だった。2020年10月16日、神奈川県横浜市の商業施設「コレットマーレ」に、作業着を一切置かない新業態「#ワークマン女子」1号店が開店する。売り場面積は従来のモール型店舗の1.5〜2倍にあたる452平方メートルで、女性専用売り場を4割、男女兼用を2割、男性専用を4割という構成に変え、入口には女性マネキンを配置した。品ぞろえはWORKMAN Plusと100%同じで、変えたのは売り場構成と見せ方だけである。翌11月には全国47都道府県への出店を達成しており、客層拡大のスピードの速さがうかがえる。
2023年9月、1,000店達成と同時に生まれた「Workman Colors」
2023年9月、ワークマンは営業店舗数1,000店を達成すると同時に、東京・銀座にデザイン主導の新業態「Workman Colors」1号店を開店した。#ワークマン女子はその後Workman Colorsへ順次統合され、2026年3月期末時点でColors系(前身の女子業態を含む)は87店と、前期末の17店から5倍超に増えている。一方で、一般客の増加によって職人客が混雑するという課題も生まれ、2021年12月には職人向けに立ち返る新業態「WORKMAN Pro」も開店したが、こちらは前期末62店から2026年3月末31店へと数を絞り込んでいる。客層を広げる業態と、絞り込む業態を同時に動かしているのが、いまのワークマンの店舗網である。
1,094店のうち1,006店がFC——92.0%という出店モデルの中身
2026年3月期末の店舗数は合計1,094店(前期末1,051店、+43店)。内訳は個人フランチャイズ・ストア1,000店、法人フランチャイズ・ストア6店の合計1,006店がFC、残る88店が直営店(業務委託店・トレーニングストア・SC運営委託店の合計)で、FC比率は92.0%(前期末比▲0.7pt)となった。個人加盟に必要な資金は税込223.75万円(加盟金・開店手数料・研修費・保証金の合計)で、うち保証金100万円は契約満了時に返還される。契約期間は3年。荒利益は加盟店40%・本部60%で分配され、店舗荒利益率は36.9%(前期比+0.7pt)まで改善した。地代家賃・設備投資・配送・チラシなど主な経費は本部が負担し、商品代金も本部が加盟店に貸し付けるため、加盟店側の資金繰り負担は小さい設計になっている。
| 運営形態 | 店舗数(2026年3月末) | 前期末比 |
|---|---|---|
| 個人フランチャイズ・ストア | 1,000店 | +26店 |
| 法人フランチャイズ・ストア | 6店 | +6店 |
| 直営店(業務委託・TS・SC運営委託の合計) | 88店 | +11店 |
| 合計 | 1,094店 | +43店 |
出典:ワークマン2026年3月期決算短信・決算説明会資料。FC比率=(個人FC+法人FC)÷合計店舗数=92.0%(自社開示)。
PB比率71.9%——プロ向けの高機能が、なぜ低価格のまま一般に届くのか
2026年3月期のPB商品売上高は1,501億3,000万円(原数値150,130百万円を÷100で億円換算)で、チェーン全店売上高に占める比率は71.9%、前期比+3.4ptとなった。2024年3月期67.8%→2025年3月期68.5%→2026年3月期71.9%と、3期連続で上昇している。ブランド区分別ではCASUALが前期比+79.4%の490億3,300万円と急伸し、構成比32.7%まで広がった。低価格を支えるのは、値引きをしない定価販売比率約98%と、複数年度にわたって売れる機能性重視の商品設計で、店舗荒利益率約36%でも高収益を維持できる構造になっている。プロ向けに磨いた高機能素材を一般向けカジュアルへ転用することで開発コストを分散しながら価格を抑える、というのがPB戦略の骨格である。
| PBブランド区分 | 2026年3月期売上高 | 前年比 | 構成比 |
|---|---|---|---|
| WORK | 612億7,300万円 | +2.5% | 40.8% |
| SPORTS | 129億4,600万円 | +3.4% | 8.6% |
| OUTDOOR | 268億7,700万円 | +4.9% | 17.9% |
| CASUAL | 490億3,300万円 | +79.4% | 32.7% |
| PB合計 | 1,501億3,000万円 | +19.9% | 100.0% |
出典:ワークマン2026年3月期決算説明会資料「PB商品販売状況」。原数値は百万円、億円換算は当社。
広告宣伝費率0.8%からの出発点——2019年、無償のアンバサダー制度
ワークマンのマーケティングは、SNS上の「異例の売れ方」を発見することから動き出した。防寒作業服「イージス防水防寒スーツ」で、普段あまり売れない差し色が東京で急に売れ始め、社員がSNSやYouTubeをエゴサーチしたところ、バイク乗車時の防寒着として使う投稿を見つけたことがきっかけとなり、2019年に企業アンバサダー制度が制度化された。アンバサダーには金銭報酬を原則支払わず、新商品の先行体験や開発への参加という非金銭的な関係を築く。初代アンバサダーの一人である濱屋氏(愛称サリーさん)は、2023年6月29日開催の定時株主総会での選任を経て、インフルエンサーとしては異例のワークマン社外取締役に就任している。この方式のもとで、2025年3月期の販売費(チラシ・販促媒体・製品発表会等)はチェーン全店売上高比0.8%(15億4,400万円)にとどまっていた。
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2021年に消したテレビCMを、2026年3月に6年ぶりに戻した理由
ワークマンは2020年までテレビCMで製品紹介を続けていたが、2021年3月に完全撤退し、広告の軸をSNS・インフルエンサー起用へ切り替えた。ところがリカバリーウエア「MEDiHEAL(メディヒール)」が2025年9月の本格発売から2026年3月までの累計で約684万着・約115億円を売り上げ、店頭で欠品が相次ぐほどの人気となったことを受け、2026年3月11日、タレントの武井壮氏・吉田沙保里氏を起用した6年ぶりのテレビCMを放映開始した。土屋哲雄専務は「テレビCMによりブランドの認知度を高め業界1位の売上高を目指す」と説明している。5月22日からはEXILEのメンバーを起用したファンウエアのCMも放映を始めた。この結果、2026年3月期の販売費はチェーン全店売上高比1.3%(27億1,900万円)まで上昇し、前期の0.8%から拡大している。SNS発の口コミだけに頼る段階から、SNSと従来型広告を併用する段階へ軸足が動いたことになる。
ワークマン・要点数値(2026年3月期)
2,092億円 チェーン全店売上高(前期比+14.3%)|92.0% FC比率(1,094店中1,006店)|71.9% PB比率(前期比+3.4pt)|1.3% 販売費のチェーン全店売上高比(前期0.8%)
織物・衣服小売業が前年割れでも、ワークマンだけ二桁成長した2026年
経済産業省の商業動態統計によれば、業種「織物・衣服・身の回り品小売業」の販売額は2026年1月に前年同月比▲2.1%、2026年2月に同▲3.1%と、いずれも前年を下回って推移している。同じ期間を含む2026年3月期を通じて、ワークマンのチェーン全店売上高は前年比+14.3%、既存店売上高でも+9.0%増と、業種全体の傾向とは逆方向に伸びた。既存店の客数は+8.7%、客単価は+5.1%といずれも伸びており、値引きをしない定価販売と、リカバリーウエアなど新カテゴリーの投入が両方に効いている。もっとも、これは業種平均との単純な優劣比較ではない。月次の商業動態統計と通期の企業業績とでは集計期間も対象範囲も異なる点には注意が要る。
この数字を読むときの3つの注意 ①チェーン全店売上高はFC店の販売分を含む集計であり、ワークマン単体(本体)の売上高とは別の指標 ②PB比率はチェーン全店売上高に対する比率であり、営業利益率とは別の指標 ③商業動態統計の前年同月比は月次データであり、企業の通期決算(4月〜翌3月)とは集計期間が一致しない
2029年、台湾に開く海外1号店——「客層拡大」の次の舞台
2026年8月3日、ワークマンは取締役会で台湾に100%出資の子会社「台灣哇酷曼股份有限公司」(予定)を2026年9月に設立することを決議した。資本金は2億台湾ドル(約10億円)で、代表の董事長には大内康二社長が就任する。国内での「客層拡大」の次に据えたのが海外展開で、2029年に台湾中心部の百貨店・商業施設内に台湾初の常設直営店を開く計画である(出店地は精査中で、台北市に置く子会社が中心となって進める)。海外進出の発端は、2024年2月に沖縄で開店した「#ワークマン女子イオンモール沖縄ライカム店」で台湾人観光客から機能性衣料が好評だったことと、日本と台湾の気候が近いことにあるという。土屋哲雄専務は2025年7月の取材に「台湾出店を契機に現地での生産体制を構築する」「台湾を足掛かりに将来は東南アジアに進出したい」と語っており、現在ほぼ売上ゼロの海外事業を将来の収益源に育てる構想を描いている。
マス化と「しない経営」は両立するか
ワークマンは長年、「社員のストレスになることはしない」「価値を生まない無駄なことはしない」という「しない経営」を掲げ、値引きなし・営業ノルマなし・広告費最小という抑制的な経営で店舗網を広げてきた。しかし2026年3月期以降は一転して、5つの重点商品群で「マス化製品政策」を掲げ、各商品でチェーン全店売上高の10%を目指すという踏み込んだ目標を置いている。2027年3月期には国内出店を1,130店、中長期には1,500店体制を目指す一方、1店舗当たり年商2億円という収益性の目標も併記されており、店舗数を増やす方向と、1店舗ごとの稼ぐ力を上げる方向を同時に追う段階に入った。そこに台湾という初めての海外拠点が重なる。国内で「客層拡大」を総仕上げする局面と、海外という未知数の市場を開く局面が同時に進んでいることが、この先の数字を読むときの前提になる。
よくある質問
Q. ワークマンは今も「作業服の会社」なのですか?
商品区分では今もWORK(作業関連)が構成比の中心ですが、2026年3月期はCASUAL区分が前期比+79.4%と急伸し、PB比率全体は71.9%に達しています。作業服専門店から、高機能・低価格を軸にした複数業態のチェーンへ実質的に転換が進んでいます。
Q. フランチャイズ加盟店の負担はどれくらいですか?
加盟に必要な資金は税込223.75万円(うち保証金100万円は契約満了時返還)で、契約期間は3年です。地代家賃・設備投資・配送・プロモーションなど主な経費は本部が負担するため、コンビニ等に比べて加盟店側の固定費負担は小さい設計になっています。
Q. PB比率が7割を超えているのはなぜですか?
値引きをしない定価販売(比率約98%)と、複数年度にわたり販売できる機能性重視の商品設計により、店舗荒利益率約36%でも高収益を確保できる構造があるためです。プロ向けに培った高機能素材を一般向けカジュアルへ転用することで開発コストも分散しています。
Q. テレビCMをやめたのに、なぜ2026年に再開したのですか?
2021年3月の完全撤退後はSNS・インフルエンサー主体の広告に切り替えていましたが、リカバリーウエア「メディヒール」が想定を超える人気で欠品が相次いだため、認知拡大を目的に2026年3月、6年ぶりにテレビCMを再開しました。
Q. 海外進出は日本での成功とどう関係しますか?
台湾進出のきっかけは、沖縄の店舗で台湾人観光客から機能性衣料が好評だったことです。国内で確立した「高機能・低価格」というPB戦略を、気候が近い台湾で試したうえで、将来は東南アジアへ広げる構想が語られています。
主な出典
ワークマン「2026年3月期 決算短信」「2026年3月期 決算説明会資料」(自社IR、2026年5月11日)/ワークマン「2026年3月期 報告書」(自社IR)/ワークマン「個人投資家向け会社説明資料」(2025年11月10日)/ワークマン「台湾子会社(特定子会社)設立に関するお知らせ」(2026年8月3日)/ワークマン公式サイト「加盟条件と契約内容」「個人フランチャイズ経営者募集」/ワークマン公式サイト お知らせ「6年ぶりの放送」(2026年3月)/7564 ワークマン 有価証券報告書 沿革(IRBANK)/The社史「ワークマンの沿革年表」「WORKMAN Plusによる客層転換(2018年)」「#ワークマン女子による新業態進出(2020年)」/日本経済新聞「ワークマン、9月に台湾子会社設立」(2026年8月3日)「ワークマンの土屋哲雄専務『台湾出店、東南アジア進出の足掛かりに』」(2025年7月14日)「ワークマン、6年ぶりのテレビCM」(2026年3月)/FASHIONSNAP「ワークマンが台湾に子会社を設立」(2026年8月3日)「ワークマンが海外初出店」(2025年5月12日)/日経ビジネス電子版「ワークマン誕生秘話」/ネットショップ担当者フォーラム「『しない経営』『データ経営』で4000億円の空白市場を切り開いたワークマンのマーケティング手法」/日本ネット経済新聞「ワークマンにアンバサダーとUGC活用術を聞く」/Business Insider Japan「ワークマンが語る『テレビCMゼロ』の宣伝戦略」/経済産業省「商業動態統計」2026年1月分・2026年2月分(e-Stat)。
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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。
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