テルモは、体温計の会社ではなく、心臓血管・血液・病院向け医療機器を世界に売るメーカーです。1921年、第一次世界大戦で輸入が途絶えた体温計の国産化を目的に設立されました。2026年3月期の連結売上収益は1兆1,319億円(+9.2%)、営業利益1,763億円。海外売上は9,093億円で、連結の約80%を占めます。本記事では、創業からの転換、カンパニー別の数字、主な買収、日本の医療機器輸出構造での位置づけまでをわかりやすく解説します。
当コラムで注目する用語
- 心臓血管カンパニー:カテーテル・ニューロ・人工肺など。売上の約6割。
- メディカルケアソリューションズ:病院ケア、血糖・体温計等ライフケア、製薬向け受託。
- 血液・細胞テクノロジー:血液バッグ、成分採血、血漿採取など。
- 調整後営業利益:営業利益から買収無形資産償却などを除いた管理指標(セグメント利益)。
- テルモBCT:旧カリディアンBCT。血液事業の中核子会社。
- 海外売上比率:顧客所在地ベースの海外売上÷連結売上。
テルモとはどんな会社?
社名イメージは体温計でも、いまの売上の中心は心臓血管カンパニーです。FY2026(2026年3月期)は売上6,764億円(+8.3%)、調整後営業利益1,640億円前後(利益率約24%)と、規模と利益率の両方で全社を牽引します。
血液・細胞は売上2,310億円(+15.4%)と伸び率が高く、メディカルケアは2,161億円(+2.3%)で国内ホスピタル基盤を支えます。海外が約8割なので、為替と米欧の病院需要が四半期の顔になります。
まずは「どのカンパニーの商談か」を固定することが大切です。連結の営業利益1,763億円と調整後営業利益約2,194億円の差は、買収に伴う無形資産償却などが主な要因です。IR資料を読むときは、どちらの利益かを必ず注記してください。会社概要は以下のとおりです。
| 会社名 | テルモ株式会社(医療機器・医薬品の製造販売) |
|---|---|
| 創業 | 1921年9月(赤線検温器株式会社設立・体温計の国産化) |
| FY2026連結売上収益 | 1兆1,319億円(+9.2%) |
| 同・営業利益/調整後営業利益 | 1,763億円/約2,194億円 |
| 主力カンパニー | 心臓血管6,764億円/血液・細胞2,310億円/メディカルケア2,161億円 |
| 海外売上 | 9,093億円(連結の約80%) |
| FY2026(2026年3月期) | 売上収益 | 調整後営業利益(目安) |
|---|---|---|
| 連結 | 1兆1,319億円(+9.2%) | 営業利益1,763億円/調整後約2,194億円 |
| 心臓血管 | 6,764億円(+8.3%) | 約1,640億円(利益率約24%) |
| メディカルケア | 2,161億円(+2.3%) | 約216億円(利益率約10%) |
| 血液・細胞 | 2,310億円(+15.4%) | 約336億円(利益率約15%) |
| 海外売上 | 9,093億円(連結の約80%) | — |
1921年、体温計の国産化から始まった経緯
テルモの公式沿革は、1921年9月の赤線検温器株式会社設立から始まります。第一次世界大戦の影響で良質な体温計の輸入が途絶えたことを受け、北里柴三郎博士ら医学者の発起で国産化を目指した、と会社が説明しています。
長いあいだ検温器が事業の顔でした。転機は、使い捨て注射筒や輸液、そしてカテーテル治療・血液事業への拡張です。1971年には米欧に現地法人を置き、海外展開の骨格を作ります。
創業100年史では、病院現場のニーズに合わせて製品領域を広げてきた経緯が整理されています。創業の物語は「体温計」でも、いまの決算を動かすのは医療現場の手技と輸血・血漿の装置です。歴史を紹介するときは、「始まり」と「いまの主力」を同じ段落で混ぜないことが、誤解を防ぐコツです。
心臓血管カンパニーの数字
心臓血管カンパニーは、インターベンショナルシステムズ(冠動脈など)、ニューロ、カーディオバスキュラー、アオルティックなどで構成されます。FY2026売上6,764億円のうち海外が6,193億円、日本が572億円です。
短信は、海外でインターベンショナルシステムズ事業を中心に全事業が伸長(+8.6%)、日本でもインターベンショナルとニューロが好調(+5.9%)と説明しています。調整後営業利益率は約24%と高く、買収無形資産の償却を除いた「本業の稼ぎ」が見えやすいセグメントです。
カテーテル治療は手技・デバイス・アクセサリがセットで動くため、単品の単価交渉だけでは説明しきれません。日本企業がテルモを読むとき、最初に見るべきはここです。提案資料でも「心臓血管のどの事業ラインか」まで落とすと、相手の窓口が決まりやすくなります。
新規事業の「決め方」を、メールで。
市場の見極め方・撤退基準・成功事例のノウハウを毎週お届けします(無料)。 どんな内容か見る →
血液・細胞テクノロジーの数字
血液・細胞テクノロジーカンパニーのFY2026売上は2,310億円(+15.4%)、うち海外2,165億円です。北米の血漿イノベーションビジネスがグローバルブラッドソリューションを押し上げた、と短信が明記します。調整後営業利益は約336億円(利益率約15%)です。
事業の骨格は、2011年の米カリディアンBCT(現テルモBCT)買収で一気に広がりました。成分採血や血液製剤システムが中核で、細胞治療関連も含まれます。心臓血管が「治療の道具」、血液が「輸血・血漿のインフラ」と分けると、顧客も病院内の部署も違います。
伸び率が高い局面では、設備・消耗材・サービス契約のどれが伸びているかを短信の文言で確認すると、サプライヤー提案のタイミングが読みやすくなります。
メディカルケアソリューションズの数字
メディカルケアソリューションズは、ホスピタルケア(シリンジ・輸液など)、ライフケア(血糖・電子体温計など)、ファーマシューティカルソリューション(プレフィルド受託など)です。FY2026売上2,161億円(+2.3%)。
日本1,506億円に対し海外655億円で、国内比率が相対的に高いカンパニーです。短信は、国内で一部事業終了の影響がある一方、ファーマシューティカルが伸長したこと、海外は北米・欧州が増収だったことを書いています。調整後営業利益は約216億円(利益率約10%)です。
体温計の残像は、ライフケアの一角に残っています。ただし売上の主役ではありません。
海外比率と地域別売上
地域別売上(顧客所在地)は、米州4,434億円、欧州2,427億円、中国913億円、アジア他1,319億円、日本2,226億円です。海外計9,093億円は連結1兆1,319億円の約80.3%です。前期の海外計8,190億円から+11.0%でした。
生産でも海外比率は6割超(コーポレートデータファイルでは2026年3月期の海外生産比率64.3%)と高く、需要地に寄せた供給網が前提です。日本の医療機器メーカーの多くが国内承認と海外規制(FDA・MDR等)の二正面を抱えるなか、テルモはすでに売上の主戦場を海外に置いています。
輸出構造上の位置づけは、「国内向け体温計メーカー」ではなく「米欧病院向け治療デバイスの日本発グローバル企業」です。地域別の増減は四半期ごとに揺れるため、年次の海外比率だけを見て「常に米州が伸びる」と決めつけないことも大切です。案件の前提地域を一語で固定してから、数字を引用してください。
主な買収(BCT・カテーテル・OrganOx)
転換を加速したのは大型買収です。血液分野では、米カリディアンBCT(現テルモBCT)のグループ加入が転機になりました(当時報道では約26億ドル規模)。
心臓血管では、2017年1月に米セント・ジュード・メディカルとアボットのカテーテル関連事業の一部(血管閉鎖デバイスAngio-Seal/FemoSeal等)の買収を完了した、と会社が適時開示しています。
直近では、2025年10月29日にOrganOx社を完全子会社化し、当期から「オーガンテクノロジーズ事業」を報告セグメントに追加しました(売上約80億円規模)。臓器の常温機械灌流など、移植領域への参入が公式の狙いです。
買収は「売上の足し算」だけでなく、無形資産償却が調整後指標と営業利益の差を生む点にも注意が必要です。ネット上の二次記事では買収相手の社名が混線することがあるため、引用するときは適時開示や英文プレスの対象事業名を必ず突き合わせてください。
新規事業の「決め方」を、メールで。
市場の見極め方・撤退基準・成功事例のノウハウを毎週お届けします(無料)。 どんな内容か見る →
日本企業が取引で見るポイント
部材・装置・OEMの提案なら、相手カンパニーを先に書きます。カテーテル周辺は心臓血管、採血・血漿は血液、シリンジ・輸液・CDMOはメディカルケアです。
海外8割なので、仕様は日本の薬事だけで閉じず、米国・欧州の規格と納期が論点になります。例えば、北米の血漿ビジネスが伸びる局面では、血液カンパニーの設備投資とサプライヤー選定が動きやすいです。逆に、国内ホスピタルの単価交渉だけを見ていると、全社の成長ドライバーを取りこぼします。
まずは直近短信のカンパニー別表を一枚印刷し、自社製品がどの行に刺さるかを赤入れするのが実務的です。営業資料の冒頭に「想定カンパニー/想定地域/参照利益指標」の三行を置くだけでも、相手の理解速度は上がります。
よくある誤解(体温計の会社だと思う)
誤解は、家庭用体温計のブランド記憶で会社全体を語ることです。ライフケアに電子体温計は残りますが、売上の約6割は心臓血管、伸び率は血液が先行します。
もう一つの誤解は、海外比率を「円安だけの話」と片付けることです。物量と価格政策、血漿ビジネスの展開が短信の本文に書かれています。正しく読むなら、創業1921年の物語と、FY2026の1.1兆円・海外8割を同じページに並べ、どちらが今の決裁を動かすかを分けます。
まず確認すること
次の四半期までに押さえたいのは次の5点です。(1) 提案先が心臓血管/血液/メディカルケアのどれかを固定する。(2) 使う利益が営業利益か調整後営業利益かを注記する。(3) 海外案件なら米州・欧州・中国のどの数字を前提にするかを書く。(4) 買収案件を引用するときは年次と対象事業を一次で確認する。(5) 「体温計」は創業ストーリーとして使い、現状の売上説明には使わない。
テルモとは何かを一文で言うなら、「体温計国産化から始まり、いまは心臓血管と血液を中核に海外8割で稼ぐ医療機器メーカー」です。カンパニーを分けた資料だけが、次の商談の窓口を通せます。
読み解きのポイント ①創業1921・体温計国産化 ②FY26売上1兆1,319億・営利1,763億 ③心臓血管6,764/血液2,310/メディカルケア2,161 ④海外約80%(9,093億) ⑤BCT・カテーテル・OrganOxで事業領域を拡大
テルモは、創業の体温計を忘れない一方で、数字の重心をカテーテルと血液に移した会社です。カンパニーを分けた資料だけが、次の商談の窓口を通せます。
よくある質問
Q. テルモは何の会社ですか?
医療機器・医薬品の製造販売会社です。FY2026連結売上は1兆1,319億円で、主力は心臓血管・血液・病院向け製品です。
Q. いまも体温計が主力ですか?
創業事業ですが、売上の中心ではありません。ライフケアの一角に残り、売上の約6割は心臓血管カンパニーです。
Q. 海外比率はどれくらいですか?
FY2026の海外売上は9,093億円で、連結の約80%です。最大地域は米州です。
Q. 血液事業はいつ大きくなりましたか?
カリディアンBCT(現テルモBCT)のグループ加入が転機です。FY2026は血液・細胞売上が+15.4%と伸びました。
主な出典
テルモ「2026年3月期 期末決算短信〔IFRS〕(連結)」(売上1,131,877百万円、営業利益176,320、海外909,274/日本222,603、カンパニー別:心臓血管676,421・メディカルケア216,138・血液・細胞231,037、OrganOx 2025-10-29取得)/テルモ CORPORATE DATA FILE(調整後営業利益・セグメント利益率)/テルモ「2026年3月期 決算概要」説明資料/テルモ公式「会社概要」「100th HISTORY」「沿革」(1921年設立・体温計国産化、カリディアンBCT)/テルモ適時開示「セント・ジュード社とアボット社のカテーテル関連事業の一部買収を完了」(2017-01-23)/薬事日報ほかカリディアン買収当時報道(金額)/調査時点:2026年8月11日。
セルウェルは市場調査・マーケティング支援の会社として、国内市場のデータ整備から商品戦略の実装まで一貫して支援しています。検討中のテーマがどこまで固まっているかを短時間で確かめたい方は事業化スコア診断(無料)を、個別のご相談はお問い合わせからお気軽にどうぞ。
※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。
その企画、いま投資する価値はあるか。
10問・無料3分の「事業化スコア診断」で、調査・事業化に進む前の投資判断を可視化します。







