タイヤ業界の話を「大手の売上だけ」で読むと、利益率の順位と国内需要の本数が噛み合いません。2025年12月期はブリヂストンが約4.4兆円で突出し、利益率ではトーヨータイヤが営業利益率16.4%と高い一方、指標の定義が会社ごとに違います。本記事では、売上・利益率・国内本数・2026年上期進捗を表で分解し、新車用(OEM=相手先ブランド製造)と市販用(交換)の読み分けをわかりやすく解説します。
国内需要の本数分解:JATMAで見る新車用/市販用
先に置くのは、日本自動車タイヤ協会(JATMA)の国内需要です。2026年自動車タイヤ国内需要の年央見直しでは、四輪車用の合計が1億153万本(前年比98%)とされています。内訳は新車用3,705.3万本(100%)、市販用6,447.7万本(98%)で、市販用が全体の約63.5%です。
社内表の1行目は、「自社の取引先がOEM(相手先ブランド製造=新車)寄りか、交換(市販)寄りか」です。本数の大半は市販側にあります。新車の生産台数ニュースだけを追うと、交換需要の落ち込みを取り違えます。
例えば、自動車メーカーの減産が続いても、市販のインチアップやプレミアム商品が伸びれば、タイヤメーカーの利益は別の動きになります。逆に、市販本数が微減でも、売値とMIXが悪化すれば利益は先に落ちます。本数と単価を同じ列に置かないことが、数字分解の出発点です。
更新ルールは、JATMAの年央見直しや各社短信が出たら確認日を直すことです。確認日がない表は、次の営業会議で差し戻す前提で扱います。差し戻しを減らすほど、値上げ交渉の準備時間が残ります。
本数表と売上表は、同じファイルの別シートに置くと混同が減ります。本数は業界需要、売上は各社連結です。単位も「万本」と「億円」で違うため、1枚のグラフに無理に重ねない方が安全です。
売上ランキング表:2025年12月期の4社
2025年12月期の連結売上(各社短信)を並べると、次のとおりです。
| 会社 | 売上 | 前期比 |
|---|---|---|
| ブリヂストン | 4兆4,295億円 | △0.01% |
| 横浜ゴム | 1兆2,349.59億円 | +12.8% |
| 住友ゴム工業 | 1兆2,071億円 | △0.4% |
| トーヨータイヤ | 5,949.23億円 | +5.2% |
売上規模ではブリヂストンが突出し、横浜ゴムと住友ゴムが1.2兆円前後で並び、トーヨーが約0.59兆円です。ここまでは「大きさ」の順位です。利益の順位は次の表で別指標になります。
中堅メーカーの読み方は、自社が納入している相手が、この4社のどの層の取引先かを先に書くことです。全社売上の順位だけを共有すると、価格交渉の論点が消えません。
売上の増減は、為替・関税・事業再編の影響を含むため、前期比の符号だけで「好調/不調」と決めない方が安全です。短信の増減要因を1行でメモします。
利益率ランキング表:定義差を先に固定する
利益率を並べる前に、指標名を固定します。ブリヂストンは調整後営業利益、横浜ゴム・住友ゴムは事業利益、トーヨータイヤは日本基準の営業利益です。同じ「利益率」でも中身が違います。
| 会社 | 利益指標 | 金額 | 利益率 |
|---|---|---|---|
| トーヨータイヤ | 営業利益 | 973.50億円(+3.6%) | 16.4% |
| 横浜ゴム | 事業利益 | 1,665.77億円(+24.0%) | 13.5% |
| ブリヂストン | 調整後営業利益 | 4,937億円(+2%) | 11.1% |
| 住友ゴム工業 | 事業利益 | 908億円(+3.2%) | 7.5% |
トーヨーの利益率が高く見えるのは事実ですが、「全社が同じ営業利益率」ではありません。社内資料では、指標名を列見出しに必ず書きます。書かない順位表は、後から数字が合わなくなります。
ブリヂストンは調整後営業利益が増益でも、事業再編費用などで営業利益は減益、という構図が短信にあります。調整後と法定の営業利益を混ぜないことが、数字分解のルールです。
読者向けの実務は、「利益率が高い会社=即時の値上げが通る」と読まないことです。利益率は過去のミックスとコスト構造の結果であり、次四半期の転嫁速度とは別です。
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上期(2026年1–6月)進捗表:明暗が分かれた数字
2026年12月期上期(1–6月)は、4社で動きが分かれます。
| 会社 | 上期の要点(短信・説明資料) |
|---|---|
| ブリヂストン | 売上2兆3,217億円(+10%)、調整後営業利益2,809億円(+20%)、利益率12.1% |
| 横浜ゴム | 売上6,393.97億円(+10.4%)、事業利益958.46億円(+54.3%)で過去最高圏。通期予想を上方修正 |
| 住友ゴム | 売上6,198億円(+8%)、タイヤ事業売上5,344億円(+9%・過去最高)。通期は売上上方・事業利益下方 |
| トーヨータイヤ | 売上2,841.90億円(+0.3%)に対し営業利益374.97億円(△22.2%)。通期営業利益予想を900億円へ下方 |
横浜・ブリヂストン・住友(タイヤ売上)は増収や過去最高圏。トーヨーは売上ほぼ横ばいでも営業利益が大きく減っています。業界紙では、北米市況や国内システムの初期トラブルによる供給制約が背景として語られます。個別の因果は会社開示の範囲を超えて断定しません。
上期表の使い方は、「通期予想の修正方向」とセットで見ることです。売上を守り利益を削る修正が出ている会社は、下期の価格転嫁と販売数量の両立が論点になります。
社内では、取引先がトーヨー系か横浜系かで、値上げ要請のトーンが違う前提を置き直します。同じ「タイヤ業界」一括のスライドは、上期以降は危険です。
事業ミックス分解:タイヤ比率と消費財/OHT
横浜ゴムの第1四半期短信では、タイヤセグメント売上が連結の約91.5%を占める、と説明されています。消費財の新車用・市販用、OHT(オフハイウェイタイヤ)など、社内ではさらに細分化されます。
住友ゴムの上期は、タイヤ事業売上が過去最高とされ、全社売上の伸びをタイヤが牽引する構図です。ブリヂストンは市販プレミアムや鉱山用超大型タイヤの堅調が、通期説明の中心に置かれます。
数字分解のポイントは、「全社売上の増減=乗用車タイヤの増減」と同視しないことです。OHTや化工品、地域ミックスが動くと、全社の符号と現場の体感がずれます。
中堅の部品・原材料メーカーが見るべきは、相手の短信でタイヤ消費財とOHTのどちらが増えているかです。増えている側の仕様変更・検査基準・納期が先に変わりやすいです。OHTは建機・農機向けなど、乗用車の季節需要とは別サイクルで動くことが多いです。
自社が乗用車向けゴム・金具・センサーを納めているなら、消費財の市販MIXの話が先です。建機向けならOHTの需要環境を先に見ます。同じ「タイヤ関連」でも、確認する短信の節が違います。
増減ブリッジ:売値・MIX/原材料・関税/本数
ブリヂストンの通期説明では、原材料高や棚卸未実現利益の減益要因を、売値・MIXの改善でオフセットした、という整理があります。米国関税影響への対策も並記されます。ここから読めるのは、「本数だけでは利益は決まらない」ことです。
トーヨーの上期減益は、売上横ばいのまま利益が落ちる典型です。原価・関税・MIX・供給制約が重なると、営業利益率の高い会社でも四半期で数字が振れます。高い利益率は「安全マージン」ではなく、前提が崩れたときの感度の指標にもなります。
社内のブリッジ表は、次の4列で足ります。本数/売値・MIX/原材料・関税/一時費用。空欄の列は未確認と書き、値上げ交渉の前に埋めます。
一時費用(工場閉鎖など)は、事業利益や調整後利益から除外される場合があります。短信の注記を読まずに利益率だけ比較しないでください。
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通期予想の修正差分:売上上方×利益下方のねじれ
2026年通期では、売上予想を上方修正しつつ利益予想を下方修正するねじれが複数社で見えます。住友ゴムは売上1兆3,300億円方向へ上方、事業利益960億円(前回比△160億円)へ下方、という整理が説明資料にあります。トーヨーは売上予想を6,200億円から6,380億円へ小幅上方修正しつつ、営業利益予想は900億円へ下方です。横浜は上期好調を受けて売上・事業利益を上方修正しています。
ブリヂストンの通期予想は、売上4兆5,000億円、調整後営業利益5,150億円(利益率11.4%)です。上期の利益率12.1%より通期想定がやや低いのは、下期のコスト・ミックス前提の置き方を見る材料になります。
ねじれの読み方は、「需要は残るがコストが先行する」局面かどうかを見ることです。中東情勢に伴う原材料高が下期に効く、という説明が業界報道にもあります。一次は各社の想定前提表で確認します。
Sellwell読者の実務は、取引先の通期修正が「売上だけ上方」か「利益も上方」かを1行でメモすることです。前者は、下期の値上げ・仕様合理化の打診が増える合図になりやすいです。
価格転嫁の速度差:新車用と市販で数字の置き方が変わる理由
OEM(相手先ブランド製造=新車用)は自動車生産に連動し、単価交渉の余地が小さく、転嫁は遅いことが多いです。市販(交換)は本数より売値・インチ・プレミアムMIXが利益を決めます。JATMAの本数でも市販側が大きいため、転嫁の主戦場は市販側に寄りやすいです。
今週の一手は、主要取引先3社について「OEM売上比率/市販売上比率/直近の値上げ通知日」の3列を埋めることです。埋まらない取引先は、見積の有効期限を短くします。期限を短くする理由は、原材料前提が四半期で変わるからです。
原材料・関税の負担が増える局面では、相手が生産連動のOEMか、交換需要の市販かを先に切り分けます。切り分けないまま「タイヤ業界全体で値上げ」と一括すると、通る案件と通らない案件が混ざります。混ざったまま稟議に載せると、却下理由が説明できません。
数字で読むタイヤ業界は、売上ランキングより、利益指標の定義と、OEM/市販の本数バランスの方が実務に近いです。表の確認日を残したチームから、交渉の論点が揃います。論点が揃うと、値上げの可否判断が会議1回で終わりやすくなります。
よくある質問
Q. 国内タイヤメーカーの売上トップは誰ですか?A. 2025年12月期連結ではブリヂストン(約4.43兆円)が突出しています。続いて横浜ゴム、住友ゴム、トーヨータイヤの順です。
Q. 利益率が一番高いのはどの会社ですか?A. 指標が違う前提で並べると、トーヨーの営業利益率16.4%、横浜の事業利益率13.5%、ブリヂストンの調整後営業利益率11.1%、住友の事業利益率7.5%(いずれも2025年12月期)です。定義の注記が必須です。
Q. 国内需要は新車用と市販用のどちらが大きいですか?A. JATMAの年央見直しでは市販用が約6,448万本で全体の約63.5%です。新車用は約3,705万本です。
Q. 2026年上期で明暗が分かれた理由は?A. 横浜・ブリヂストン・住友(タイヤ売上)は増収や過去最高圏。トーヨーは売上横ばいでも営業利益が大きく減りました。市況・MIX・供給制約の重なりは各社開示の範囲で確認してください。
主な出典
調査時点:2026年8月。利益指標の定義は会社ごとに異なります。個別の投資・取引判断は一次IRで再確認してください。
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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。
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