メディパルホールディングス・アルフレッサホールディングス・スズケンの2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)決算を単純合計すると、売上高は約9兆4,081億円に達します。それでも3社の営業利益率は、いずれも1%台前半にとどまります。10,000円分の医薬品を右から左へ動かして、手元に残る営業利益はおおむね120円台から150円台という計算です。薄利多売という言葉自体は昔からありますが、この1年で薬価改定・後発品シフト・物流費上昇という3つの力が同時に強まり、3社の粗利率はそろって下がりました。各社の決算短信と、厚生労働省・中央社会保険医療協議会(中医協)の一次資料を基に、この構造がどこまで持つのかを一つずつ確認します。

売上9兆4,081億円、営業利益率1%台——3社の決算をまず並べる

まず数字を並べます。3社とも決算期は2025年4月から2026年3月までの同一期間で、比較の前提はそろっています。

会社売上高前期比営業利益前期比営業利益率
メディパルホールディングス3兆8,173億円+4.0%531億円▲4.4%1.4%
アルフレッサホールディングス3兆1,040億円+4.8%362億円▲5.0%1.2%
スズケン2兆4,866億円+3.6%364億円▲2.0%1.5%

出典:各社「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」。開示単位は百万円で、本稿では億円に四捨五入しています。営業利益率(営業利益÷売上高)は当社算出です。

3社合計・2026年3月期(当社算出)
約9兆4,081億円 売上高の単純合計|約1,257億円 営業利益の単純合計|3社とも増収減益という同じ形が、規模もビジネスモデルも異なる3社に同時に起きています。

なぜスズケンより売上が大きいアルフレッサの方が、営業利益率は低いのか

売上規模で見ると、アルフレッサ(3兆1,040億円)はスズケン(2兆4,866億円)より2割以上大きくなります。ところが営業利益率は、アルフレッサが1.2%、スズケンが1.5%で、規模の大きい方が低くなっています。差を生んでいるのは粗利率です。アルフレッサの売上総利益は2,178億8,000万円で、売上高比は当社算出で約7.0%(前期は約7.2%)。スズケンの売上総利益は1,925億2,400万円で、売上高比は約7.7%(前期は約8.0%)。0.7ポイントの差は、売上規模に当てはめると数百億円規模の差に相当します。

両社の事業構成にも違いがあります。スズケンは医薬品卸売事業(セグメント利益314億6,700万円、前期比▲1.4%)を中核としつつ、スペシャリティ医薬品流通受託事業やヘルスケア製品開発事業を持ちます。アルフレッサは医療用医薬品等卸売事業(売上高2兆7,825億8,400万円、営業利益332億9,700万円)に加え、セルフメディケーション卸売事業・医薬品等製造事業・調剤薬局等事業(アポクリート株式会社)を持ちます。どちらが優れているという話ではなく、同じ「医薬品卸」という業種の中でも、事業ポートフォリオの組み合わせによって平均的な利益率が変わるということです。

薬価は2年に1度ではない——2021年度以降、なぜほぼ毎年下がるようになったのか

薬価改定はもともと診療報酬改定と同じ2年に1度でした。それが変わったのは、2016年12月20日の四大臣合意(薬価制度の抜本改革に向けた基本方針)で、改定のない中間年にも薬価調査を行い、その結果に基づいて薬価を引き下げる「中間年改定」の方針が決まったためです。2021年度に初めて中間年改定が実施され(薬剤費ベースで約4,300億円程度の削減)、2023年度にも実施(対象は全品目の約69%、削減額約3,100億円)、2025年度も実施されました。2025年度は2025年4月に施行され、平均乖離率5.2%を基準にしつつ、新薬創出等加算対象品・後発品・長期収載品などカテゴリー別に対象範囲を分け、対象品目は9,320品目のうち53%、削減額は薬剤費ベースで2,466億円・国費ベースで648億円と厚生労働省が試算しています。さらに2026年度は通常改定の年にあたり、2026年3月5日に官報告示され、薬剤費ベースで▲4.02%、医療費ベースで▲0.86%の引き下げとなりました。2021年度から2026年度までの6年間で、少なくとも4回の薬価引き下げが実施されたことになります。

後発品の金額シェア68.7%——数量ではなく金額で見ると何が起きているか

中央社会保険医療協議会(中医協)総会(2025年12月3日開催・第632回)に報告された2025年9月時点の速報値では、後発医薬品の数量シェアは88.8%(前年比+3.8ポイント)、金額シェアは68.7%(同+6.6ポイント)でした。中医協はかねて後発品の金額シェアを2029年度末までに65%以上とする目標を掲げていましたが、この目標は既に上回っている状況です。

数量シェアと金額シェアを混同しない 数量シェア88.8%は「病院・薬局で使われる医薬品の9割近くが後発品」という意味です。一方、金額シェア68.7%は「後発品は単価が低いため、使われる量の割合よりお金の割合の方が小さい」ことを示しています。卸が実際に手を動かして届ける荷物の量(物流コスト)は数量シェアに近く動くため、単価が下がるほど「量は減らないのに、単価に連動する粗利の絶対額は増えにくい」という構造になります。

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「仕切価より安く売る」——一次売差マイナスという矛盾はなぜ消えないのか

医薬品卸の粗利の出どころには、独特の仕組みがあります。メーカーが卸に販売する価格を「仕切価」、卸が医療機関・薬局に販売する価格を「納入価」と呼びますが、日本ジェネリック製薬協会の解説によれば、卸間の受注競争や医療機関からの値引き要求により、納入価が仕切価より低くなる「一次売差マイナス」(逆ザヤ)が平成15年度以降続き、その率が拡大していると指摘されています。卸はこのマイナス分を、仕切価とは別にメーカーから支払われるリベート(二次マージン)やアローアンス(三次マージン)で補って利益を出す構造になっています。厚生労働省はこの状態を是正するため「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」を定め、2024年3月1日に改訂・同年4月から運用を開始しました。柱は、市場実勢価を踏まえた適切な仕切価設定による一次売差マイナスの解消、そして品目ごとに価格を決める単品単価契約の原則化です。

メディパルの医薬品セグメントは、なぜ粗利率6.18%まで下がったのか

メディパルホールディングスの決算短信は、セグメント別の粗利率まで開示しています。中核の医療用医薬品等卸売事業では、売上総利益自体は前期比+19億6,800万円(+1.3%)の増益でしたが、薬価改定の影響等による仕入原価上昇や商品構成比の変化により、売上高に対する比率は前期の6.34%から6.18%へ0.17ポイント下がりました。販売費及び一般管理費は事業投資費等の増加で+28億8,300万円(+2.3%)でしたが、比率としては前期の5.28%から5.19%へ改善しています。結果として営業利益は242億9,200万円、前期比▲9億1,500万円(▲3.6%)でした。会社全体の粗利率(6.97%→6.84%)も同じ方向に下がっており、化粧品・日用品セグメントの粗利率7.46%(前期7.49%)より医薬品セグメントの方が低い構造は変わっていません。アルフレッサの医療用医薬品等卸売事業も、薬価の中間年改定によるマイナス影響と人件費を含む物流費高騰という同じ逆風を受けながら、スペシャリティ医薬品等限定流通品の取扱い増加による増収効果で相殺し、売上高2兆7,825億8,400万円(+5.4%)、営業利益332億9,700万円(+0.7%)を確保しました。

バイオ医薬品の温度管理が、卸の物流コストを変えている

メディパルの化粧品・日用品、一般用医薬品卸売事業では、販売費及び一般管理費が前期比+49億1,600万円(+8.1%)と大きく増えました。要因として決算短信は「人材への積極的な投資に加えて、庫内人件費や配送費の単価上昇に伴う物流費の増加、また、物流キャパシティ確保を目的とした外部賃借センター稼働に伴う費用の増加」を挙げています。売上総利益も「物価上昇やドライバー不足を背景とするセンターフィー増加」の影響を受けました。スズケンは埼玉県草加市に、ロボット技術による自動化・省人化を実現する「首都圏物流センター」を2024年4月から本稼働させ、2025年5月には愛知県春日井市との間で「中部圏物流センター(仮称)」用地の売買仮契約を締結しています(2027年10月着工予定)。バイオ医薬品や再生医療等製品のように厳格な温度管理を必要とする製品が増えるほど、卸の物流投資は「量をさばく」設備から「温度と記録を守る」設備へ重心を移す必要が出てきます。GDP(医薬品の適正流通)ガイドラインに準拠した温度管理・記録体制は、いまや大手卸の物流センターに共通する前提になっています。

1990年381社、2026年68社——医薬品卸の再編はどこまで進んだか

日本医薬品卸売業連合会(医薬卸連)に加盟する会員構成員企業は、本社数にして68社(2026年8月1日現在)です。日本M&Aセンターの整理によれば、1990年には全国に381社あった医薬品卸が、2000年には217社まで減っており(⚠️民間調査会社による集計)、30年余りで大幅に集約が進んだ形になります。現在はメディパルホールディングス・アルフレッサホールディングス・スズケン・東邦ホールディングスの上位4社が全国流通を担い、みつきコンサルティングの分析では上位4社で市場の約85%を占めるとされています(⚠️M&A仲介会社による推計)。再編は止まっていません。メディパルは2026年5月11日、日用品卸大手PALTAC(連結子会社、出資比率52.40%)に対し1株6,650円・総額約1,924億円のTOBを発表し、7月8日の結果通知で議決権の92.64%を取得、完全子会社化の手続きに入りました。2026年8月7日には三菱商事とヘルスケア・食・日用品領域での業務提携を拡大し、両社が80対20で出資していたエム・シー・ヘルスケアホールディングスを50対50の共同経営体制へ移行しています。地域卸同士の統合はほぼ一巡し、再編の中心は化粧品・日用品卸や医療機関支援サービスといった隣接領域との組み合わせに移っています。

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調剤薬局の一括交渉は、単品単価交渉率をどこまで下げているか

厚生労働省が2025年6月20日の第39回「医療用医薬品の流通の改善に関する懇談会」に報告した調査によれば、交渉形態によって単品単価交渉率に大きな差があります。卸と医療機関・薬局が個別に交渉している場合の単品単価交渉率は95%ですが、法人・グループの本部等が一括して交渉している場合は34%まで下がり、そのうち価格交渉代行業者と交渉している場合は15%にとどまりました。基礎的医薬品(79%)や安定確保医薬品カテゴリーA(80%)、血液製剤(84%)といった「別枠品」では単品単価交渉が比較的浸透していますが、新薬創出等加算品でも68%です。ドラッグストア併設調剤の一例として、マツモトキヨシの調剤サポートプログラムは加盟薬局向けサービスの中で「価格交渉、支払いの集約化」を明示しています(同社公式サイト)。買い手側の購買力が本部単位で強まるほど、卸が品目ごとに価格の妥当性を説明する場面は少なくなっていきます。

アルフレッサの来期業績予想に、なぜ「米国MFN」が書き込まれたのか

アルフレッサホールディングスの2026年3月期決算短信「(4)今後の見通し」には、次の一文があります。「2027年3月期の連結業績見通しにつきましては、米国最恵国待遇(MFN)薬価政策のリスク影響を考慮した市場の低成長が予測されるなか、人件費を含む物流費高騰等により、売上高3兆1,440億円(当期比1.3%増)、営業利益339億円(同6.3%減)…を見込んでおります」。MFN(Most Favored Nation)薬価政策とは、2025年5月12日に米国のトランプ大統領が発令した大統領令に基づく仕組みで、米国内の処方薬価格を経済的に近い先進国の最低価格水準に合わせようとするものです(PwC Japanの要約による)。日本の薬価は米国より低いことが多く、日本が参照国として扱われれば、製薬企業が対米収益の悪化を避けるために日本への新薬投入を遅らせる「ドラッグロス」を増幅する懸念があると、厚生労働省への2026年度薬価制度改革意見でも指摘されています。日本製薬工業協会は2026年7月30日、新薬の6割が国内に投入されなくなった場合、2040年時点で医薬品産業全体の付加価値が年4.2兆円失われると試算を公表しました。米国発の薬価政策が、日本の卸売会社自身が開示する来期業績予想の文章の中にまで、すでに書き込まれています。

後発品の原薬7割は海外——安定供給という言葉の足元はどこにあるか

厚生労働省の資料によれば、安定確保医薬品カテゴリーB・Cに位置づけられる低分子医薬品のうち約70%が原薬を海外から調達しており、中国・インド工場での原薬等登録原簿(マスターファイル)登録が増加していると報告されています。別の厚生労働省委託調査(令和4年度実施)でも、医薬品原薬の製造の約7割近くを海外に依存しているとされ、その調達先は企業数・購買金額のいずれで見ても中国・インドが中心です。政策側もこの構造を課題として認識しており、2026年度薬価改定では、後発品を製造販売する企業の評価指標に「原薬の製造国の公表」の有無が加点・減点要素として組み込まれました。原薬の供給が特定国の工場トラブルや輸出規制で止まれば、実際に起きるのは欠品と代替品調整であり、その実務負担の多くは医療機関・薬局に一番近い場所にいる卸に集中します。薬価が安く抑えられているという「国内の事情」の足元には、原薬の調達先という「海外の事情」が組み込まれているということです。

スズケンが言う「フィービジネス」——薄利多売の先に何を売るのか

スズケンは2026年3月期決算短信の中期経営計画の項で、次のように述べています。「主力である医薬品卸売事業におきましては、従来のマージンビジネスに加え、機能によるフィービジネス(機能の事業化)に挑戦してまいります」。仕入れて右から左へ流す量に応じた利益(マージン)ではなく、在庫管理・情報提供・物流機能そのものに対価を求める発想です。PwC Japanのレポートも、広域卸が担う物流・在庫管理・価格交渉・与信・情報提供という多様な機能を定量的に示し、価値に見合った対価を求めることが「喫緊の課題」だと指摘しています。ここから先の展開は、大きく2つに分かれて見えます。1つは、機能への対価が実際に積み上がり、薬価差に依存しない収益源が育つ展開です。もう1つは、機能の言語化は進んでも対価の交渉力は買い手側(調剤薬局チェーンの本部やメーカー)に残り続け、薄利多売の構造そのものは変わらない展開です。どちらに向かうかは卸1社の努力だけでは決まりません。薬価制度と流通改善ガイドラインの運用実態、そして米国のMFN政策が実際にどこまで日本の新薬投入に及ぶかという、業界の外側にある変数にも左右されます。

よくある質問

Q. 医薬品卸の営業利益率が低いのはなぜですか?

薬価という公定価格のもとで、仕切価より安い納入価で売る「一次売差マイナス」が常態化し、リベートやアローアンスで補う収益構造が続いているためです。加えて薬価改定・後発品シフト・物流費上昇が同時に粗利を圧迫しています。

Q. メディパル・アルフレッサ・スズケンの中でどこが一番「強い」のですか?

指標によって順位は変わります。売上規模はメディパルが最大、営業利益率(当社算出)はスズケンが最も高く、純利益の伸び率は政策保有株式売却益などの特別利益の影響でアルフレッサが最も大きくなっています。単純な優劣ではなく、事業ポートフォリオの違いとして見る必要があります。

Q. 米国の薬価政策(MFN)は日本にどう関係するのですか?

米国が自国の薬価を先進国の最低水準に合わせる仕組みで、日本の薬価が参照されれば、製薬企業が対米収益を守るために日本への新薬投入を避ける「ドラッグロス」が増える懸念があります。アルフレッサは自社の2027年3月期業績予想の中で、このリスクに明示的に言及しています。

Q. 後発品の原薬が海外に依存しているとどんな問題が起きますか?

特定国の工場トラブルや輸出規制が起きた場合、供給が止まりやすくなります。実際に起きるのは欠品と代替品調整で、その実務負担の多くは卸の現場に集中します。

Q. 医薬品卸業界の再編はまだ続くのですか?

大手4社同士の統合はほぼ一巡しましたが、隣接領域(化粧品・日用品卸、医療機関支援サービスなど)を巻き込んだ再編は続いています。2026年のPALTAC完全子会社化や三菱商事との共同経営はその一例です。

主な出典

株式会社メディパルホールディングス「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年5月14日)/株式会社アルフレッサホールディングス「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年5月15日)/株式会社スズケン「2026年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年5月14日)/厚生労働省・中央社会保険医療協議会総会 第632回議事録(2025年12月3日)/厚生労働省 中央社会保険医療協議会薬価専門部会(第234回)資料(令和7年度薬価改定関連)/厚生労働省「医薬品卸の現状や課題を踏まえた今後の対応」/厚生労働省「医療用医薬品の流通改善に向けて流通関係者が遵守すべきガイドライン」(2024年3月1日改訂)/厚生労働省「医療用医薬品の流通の改善に関する懇談会」(第39回)報告(2025年6月20日)/厚生労働省「サプライチェーン強靭化」資料(原薬の海外依存に関する調査)/日本ジェネリック製薬協会「一次売差マイナスとは?」/日本医薬品卸売業連合会「医薬卸連ガイド」(2023年)/日本医薬品卸売業連合会公式サイト会員構成企業データ(2026年8月1日現在)/日本製薬工業協会 記者会見(2026年7月30日・日本経済新聞報道)/PwC Japan「最恵国待遇(MFN)政策の処方薬価格設定への影響」/厚生労働省への2026年度薬価制度改革に対する意見書(製薬業界提出)/株式会社メディパルホールディングス・三菱商事株式会社プレスリリース(2026年8月7日)/株式会社メディパルホールディングス PALTAC株式公開買付けに関する開示資料(2026年5月11日・7月8日)/日本M&Aセンター「医薬品卸業界のM&Aと事業承継の動向」/みつきコンサルティング「医療関連卸業のM&A」/マツモトキヨシ「調剤サポートプログラム」公式サイト。金額は各社開示(百万円単位)を億円に換算し、換算過程は別紙ファクトチェック台帳に記載しています。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。

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