2025年度の学校基本調査(文部科学省・確定値)では、小学生が581万2千人、中学生が310万5千人となり、いずれも過去最少を更新しました。「学習塾市場は少子化で構造的に縮む」という前提は自然に見えます。ところがナガセ(東進ハイスクール)、早稲田アカデミー、明光ネットワークジャパン(明光義塾)、スプリックス(森塾)といった上場学習塾各社の直近決算は、揃って売上高を前年から伸ばしています。生徒の絶対数が減る一方で、単価・チャネル・海外という別の変数が動いている——その内訳を、決算短信・有価証券報告書という一次資料の数字だけで分解します。

小学生581万人、中学生310万人——過去最少の年に、学習塾6社は売上を伸ばした

文部科学省「学校基本統計」の確定値(各年5月1日時点)を4か年並べると、小・中学生の減少は緩やかどころではありません。小学生は2020年度の630万1千人から2025年度の581万2千人まで、5年で約49万人減っています。減少幅も年々広がっており、2025年度の12万9千人減は単年としても過去最大級です。

調査年度(5月1日時点)小学生中学生
2020年度630万1千人(前年度比▲6.8万人)321万1千人(同▲0.7万人)
2023年度605万人(同▲10.2万人)317万8千人(同▲2.8万人)
2024年度594万2千人(同▲10.8万人)314万1千人(同▲3.6万人)
2025年度581万2千人(同▲12.9万人・過去最少)310万5千人(同▲3.6万人・過去最少)

出典:文部科学省「令和7年度学校基本統計」確定値(2025年12月26日公表)ほか各年度確定値。一方、上場している学習塾大手6社の直近決算を並べると、売上高はいずれも前年同期を上回っています(学究社は例外で、後述する東京都の制度変更が主因です)。

会社(証券コード)直近決算期売上高(前年比)主なブランド
ナガセ(9733)2026年3月期・通期641億8,300万円(+16.2%)東進ハイスクール・東進衛星予備校
早稲田アカデミー(4718)2026年3月期・通期376億5,800万円(+7.4%)早稲田アカデミー・個別進学館
明光ネットワークジャパン(4668)2025年8月期・通期248億2,700万円(+10.0%)明光義塾
リソー教育グループ(4714)2026年2月期・通期TOMAS単独177億2,300万円(+0.8%)TOMAS
スプリックス(7030)2026年9月期・中間期190億9,900万円(+10.9%)森塾・湘南ゼミナール
学究社(9769)2026年3月期・通期130億6,900万円(▲1.7%)ena

学習塾大手・要点数値(各社直近決算・一次資料)
641億8,300万円 ナガセ2026年3月期売上高(前年比16.2%増、過去最高)|5,286人 スプリックス森塾セグメントの2026年9月期中間期の生徒数増加(校舎数は+20)|581万2千人 2025年度の小学生数(前年度比12万9千人減・過去最少)

東進ハイスクール、生徒数4%増と値上げ7%を同時に見込んだ2026年3月期

ナガセの2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)決算短信によれば、東進ハイスクール・東進衛星予備校・早稲田塾等で構成する「高校生部門」のセグメント売上高は300億6,800万円(前年同期比9.9%増)でした。セグメント利益は57億4,700万円(同23.0%増)です。校舎数は東進ハイスクール直営96校(2025年7月に勝どき駅上校を新規開校)、早稲田塾12校、東進衛星予備校のフランチャイズ加盟校920校です。

この伸びは1年前から見えていました。2025年5月開示の決算説明会資料で、ナガセは2026年3月期の高校生部門計画(前年比10.4%増)の前提を「前期末の在籍生徒数増加(約4%)と4月からの値上げ(約7%)を勘案し」と明記しています。実際の増収率9.9%は、この2つの前提とほぼ一致します。会社全体の営業収益641億8,300万円(前年比16.2%増・過去最高値)にはスポーツ事業のグループ化効果も含まれますが、高校生部門単体は「生徒数増加+値上げ」の2枚を同時に切った結果と見た方が正確です。

早稲田アカデミー、塾生50,837人——小学部が伸ばした4.0%増の内側

早稲田アカデミーの2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)決算短信では、期中平均塾生数が50,837人(前期比4.0%増)となりました。学部別では小学部30,666人(同4.9%増)、中学部17,136人(同1.0%増)、高校部2,879人(同13.0%増)で、増加分の大半を小学部が担っています。売上高は376億5,800万円(前期比7.4%増)、営業利益は39億6,000万円(同11.6%増)、経常利益は39億6,800万円(同10.2%増)となり、15期連続の増収・5期連続の各段階利益過去最高益を更新しました。2027年3月期の会社予想は売上高405億2,000万円(前期比7.6%増)です。

個別進学館とフランチャイズの東進衛星予備校

同社は個別指導ブランド「早稲田アカデミー個別進学館」をフランチャイズ含めて76校体制まで広げ、前々期から新領域として開始した東進衛星予備校の運営も9校体制まで拡大しています。集団指導だけでなく個別指導・映像授業という受け皿を同時に持つことで、学部間の生徒の移動を自社グループ内に留めている格好です。

明光義塾、在籍103,207人——フランチャイズは直営の2倍という比率

明光ネットワークジャパンの2026年8月期第1四半期(2025年9月〜11月)決算短信によれば、明光義塾の在籍生徒数合計は103,207人(前年同期比1,946人増)。内訳は直営34,725人、フランチャイズ68,482人で、フランチャイズは直営のおよそ2倍の規模です。教室末端売上高(直営の授業料等+フランチャイズ教室の授業料等の合計)は91億400万円(前年同期比4億1,400万円増)でした。

通期では2025年8月期の売上高が248億2,700万円(前期比10.0%増)、当期純利益は17億2,700万円。2026年8月期の会社予想は売上高255億円(同2.7%増)に対し、当期純利益は10億1,000万円(同41.5%減)です。増収でも純利益は圧縮する計画になっており、生徒数の増加が利益に直結しない業界構造がうかがえます。

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TOMASの月謝はなぜ7万5000円なのか——リソー教育、増収減益の理由

リソー教育グループの2026年2月期(2025年3月〜2026年2月)決算では、TOMAS事業の売上高が177億2,300万円(前年同期比0.8%増)にとどまりました。TOMAS事業の経常利益(親会社への経営管理料を含まない事業単独の数字)は13億5,100万円(同13.4%減)です。グループ全体の経常利益は27億3,200万円(同7.0%減)です。会社側の説明では、期初の在籍生徒数がTOMASと伸芽会受験局で計画に届かず、下期に多少挽回したものの通期計画は下回った、とされています。同社は2025年9月に持株会社体制へ移行し、広告・不動産管理を一元化する組織再編を進めています。

TOMASの価格帯が高いのは、講師1人に生徒1人の完全1対1指導という業態に理由があります。学習塾比較サイト「塾選」が塾生129名に行ったアンケート(2024年公表・民間調査)では、TOMASの月額授業料の平均値は75,000円、年間料金の平均値は110万円(最高300万円)という回答結果でした。1対1は1対2以上の個別指導塾より人件費の配分が重く、単価が上がりやすい構造です。2026年3月からはグループ授業「最難関大学受験部Gコース」も開講し、1対1指導だけに依存しない収益構成を試しています。

森塾、生徒5,286人増——個別指導フォーマットが伸びる理由

スプリックスの2026年9月期中間期(2025年10月〜2026年3月)決算短信では、連結売上高が190億9,900万円(前年同期比10.9%増)、営業利益は19億9,700万円(同75.9%増)でした。主力の個別指導塾「森塾」セグメントは売上高が同14.9%増、セグメント利益が同29.9%増で、校舎数は20校増、生徒数は5,286人増と、いずれも会社全体の増益を牽引しています。同四半期時点の自己資本比率は44.2%から47.7%へ改善しました。参考として2026年9月期第1四半期末(2025年12月末)の森塾生徒数は57,362人(前年同期比8.6%増)、校舎数249校です。

森塾は「先生1人に生徒2人まで」という個別指導フォーマットに、成績が伸びなければ授業料を保証する制度を組み合わせています。集団指導と映像授業(グループ内の湘南ゼミナール・河合塾マナビス)を別ブランドで並走させることで、生徒側の学習スタイルの好みが変わっても、グループ外への流出を抑える設計になっています。

ena、都立中受験生の数字が崩れた1年——学究社2026年3月期の減収

学究社の2026年3月期(2025年4月〜2026年3月)決算短信は、6社の中で唯一、売上高が前年を下回りました。売上高は130億6,900万円(前年同期比1.7%減)。要因として会社が挙げているのは、東京都による私立高校授業料の実質無償化拡充の影響で、同社が強みとする都立中・都立高を目指す生徒数が減少したことです。ena小中学部・ena個別・ena看護のいずれも生徒数が前年を下回りました。一方で費用の効率化が進み、営業利益は29億400万円(同10.8%増)、経常利益は30億400万円(同13.0%増)と、いずれも過去最高益を更新しています。

同社は2027年3月期の計画で売上高146億5,600万円(前期比12.1%増)を見込み、「都立のena」から「都立も私立も合格できるena」への転換を進めています。最難関私国立中受験専門塾「極」の開校や、小学部全校舎への都立・私立コース設置がその具体策です。特定の受験制度(都立中高一貫校入試)への依存度が高かったことが、都の制度変更という1つの政策変化で業績に直結した事例といえます。

GAKKYUSHA USA・Canada・Europe——ena海外校の生徒だけが増えている

学究社には、国内のena以外にもう1つの事業があります。1987年2月にニューヨークで設立したGAKKYUSHA U.S.A.CO.,LTD.、1992年1月にデュッセルドルフで設立したGAKKYUSHA EUROPE GmbH(現ENA EUROPE GmbH)が中心です。これにGAKKYUSHA CANADA CO.,LTD.や学究社帰国教育を加えた、海外現地校のグループです。主な対象は、現地に住む邦人子女向けの補習・受験指導です。

2026年3月期の有価証券報告書によれば、国内のena小中学部・ena個別・ena看護はいずれも生徒数減で売上減となりました。一方、海外校舎の業績は逆です。有価証券報告書は「海外校舎を主に展開するGAKKYUSHA USAグループ(GAKKYUSHA U.S.A.CO.,LTD.、GAKKYUSHA CANADA CO.,LTD.、ENA EUROPE GmbH及び株式会社学究社帰国教育)につきましては、グループ生徒数が順調に推移したことにより、売上高は前年同期と比較して増加しました」と記しています。国内の受験人口という単一の需要源に依存する会社と、海外在住の邦人子女という別の需要源を1980年代から持っている会社とでは、同じ少子化でも受け止め方が違います。

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オンライン個別指導という言葉が指す4つの別サービス

「オンライン個別指導へ転換した」と一言で語られがちですが、公表されている実装は会社ごとに異なります。

いずれもコロナ禍が起点ですが、2025〜2026年時点でも縮小せず常設サービスとして残っています。対面授業の代替は、通塾が難しい生徒(部活・地方・海外赴任家庭)を取り込む窓口に変わりました。

この数字を読むときの3つの注意 ①各社の決算期はそろっていない(3月期・8月期・2月期・9月期が混在)。前年比の比較期間は個社ごとに確認する ②「生徒数」の定義が会社で違う。期中平均・期末在籍・セグメント売上高を同じ表で単純合算しない ③会社予想は会社側の見込みであり確定値ではない。明光ネットワークジャパンの純利益予想(前期比41.5%減)のように、増収でも減益を見込む計画もある

受講生一人当たり売上高は2016年以降増え続けている——経済産業省の見立て

個社の決算だけでなく、業界全体の動きを見ておく必要があります。経済産業省の経済解析室は2024年3月21日公表のコラムで、6歳から18歳までの人口が減少を続ける一方、受講生数に基づく「学習塾指数」(第3次産業活動指数の一部)の推移を分析しています。指数は2014年から2018年にかけて増加した後、2020年に新型コロナの影響で落ち込みました。その後2021年に2014年の水準まで回復し、2022年は若干の減少、2023年は再び下落傾向に戻ったとしています。

一方、特定サービス産業動態統計に基づく「受講生一人当たりの学習塾売上高指数」は2016年以降、増加を続けているとも指摘しています。同コラムはこの状況を「受講生の減少傾向を受講料の値上げにより売上高を確保し、人材を確保している姿が見える」と表現しています。要因としては、首都圏の私立・国立中学入試で受験者数が過去最高となるなど中学受験が過熱し、単価の高い中学受験塾の受講料や、個別指導の併用が増えたことを挙げています。ナガセの値上げ、TOMASの1対1高単価、森塾やそら塾の個別指導シフトは、いずれもこの業界全体の傾向と方向が一致しています。

「少子化だから縮む」という前提を、6社の数字が裏切っている

「学習塾業界=少子化で構造的に縮小産業」という前提そのものが、決算の数字とはずれています。誤解を招くのは「受講生の絶対数」と「業界・各社の売上規模」を同じ指標として扱ってしまうことです。受講生の絶対数(学校基本調査が示す小中学生の人数)は確かに減っていますが、売上高は6社中5社で前年を上回っており、唯一の減収要因も少子化ではなく東京都の授業料無償化という制度変更でした。

この先の展開は大きく2つに分かれます。1つは値上げと高付加価値化の継続です。ナガセの値上げ、TOMASの1対1高単価のように単価を上げて売上を維持・拡大する路線ですが、リソー教育のケースのように、在籍生徒数が計画を割り込むと一気に減益に転じるリスクも併せ持ちます。もう1つは需要源そのものの多様化です。学究社の海外現地校のように国内受験人口以外の需要を取り込む、あるいはリソー教育の学校内個別指導事業のように学校という別チャネルに入り込む動きです。どちらを選ぶにせよ、自社が国内の受験人口だけに依存しているかを数字で確認することが出発点になります。多業界の事業責任者にとっても、顧客単価戦略とチャネル多様化のどちらを先に動かすかは、業種を問わず共通する宿題です。

よくある質問

Q. 学習塾業界全体は、少子化でも成長しているのですか?

「成長している」とは単純に言えません。経済産業省の分析(2024年3月時点)では、受講生数に基づく「学習塾指数」は2023年に下落傾向へ戻ったとされています。一方で受講生一人当たりの売上高指数は2016年以降増加を続けており、値上げと個別指導シフトで売上高を確保する構図になっている、というのが実態です。

Q. 東進ハイスクールの生徒数は本当に増えているのですか?

ナガセが2025年5月に示した2026年3月期計画の前提は「在籍生徒数増加(約4%)」でした。実際の決算でも高校生部門の売上高が前年比9.9%増となっており、全国の高校生数(学校基本調査)が同時期に減っていることを踏まえると、生徒シェアを伸ばした可能性が高いと考えられます。

Q. オンライン個別指導はどの会社が最初に始めたのですか?

公表されている範囲では早稲田アカデミーの双方向Web授業(2020年4月13日開始)が最も早く、いずれも新型コロナウイルス対応が起点です。学究社の家庭教師Camp(2020年8月28日)、スプリックスのそら塾(2020年12月本格開始)が続きました。

Q. 明光義塾のようなフランチャイズ型と直営型はどちらが伸びていますか?

明光ネットワークジャパンの場合、2026年8月期第1四半期(2025年9月〜11月)時点の在籍生徒数はフランチャイズ68,482人・直営34,725人で、フランチャイズが直営のおよそ2倍です。前年同期比の増加数もフランチャイズの方が大きいです。

Q. 本稿の数字はどこで確認できますか?

上場している各社(ナガセ9733、明光ネットワークジャパン4668、リソー教育グループ4714、学究社9769、早稲田アカデミー4718、スプリックス7030)は、決算短信・有価証券報告書・決算説明資料を自社IR(投資家向け情報)サイトで公開しています。本稿の数値はすべてこれらの一次資料、および文部科学省・経済産業省の公表資料に基づきます。

主な出典

株式会社ナガセ「2026年3月期 決算短信」「2025年3月期 決算説明会資料」/株式会社明光ネットワークジャパン「2026年8月期 第1四半期決算短信」「2026年8月期 第2四半期決算説明資料」「2025年8月期 決算短信」/株式会社リソー教育グループ「2026年2月期 決算説明資料(通期・中間期)」/株式会社学究社「2026年3月期 決算短信」「有価証券報告書(第51期)」/株式会社早稲田アカデミー「2026年3月期 決算短信」/株式会社スプリックス「2026年9月期 第1四半期決算説明資料」「2026年9月期 中間期決算短信」/文部科学省「学校基本統計」確定値(令和2・5・6・7年度)/経済産業省 経済解析室「止まらない少子化、学習塾への影響は?」(2024年3月21日公表)/学究社プレスリリース「家庭教師Camp」開始(2020年8月28日)・「個別教師Camp」開始(2021年10月1日)/スプリックスプレスリリース「そら塾」本格提供開始(2021年6月)/早稲田アカデミー「双方向Web授業」開始発表(2020年4月13日)/学習塾比較サイト「塾選」TOMAS授業料アンケート(民間調査・参考値)。各社の決算期・生徒数の定義は個社ごとに異なるため、比較の際は本文中の注記を参照してください。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。

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