海洋関連産業は、一枚の海ではなく、洋上風力・海底ケーブル・養殖技術・海洋観測/資源開発が並ぶ地図です。稼ぐ場所が違うと、取引先も評価指標も変わります。本記事では、まず品目の区分を示し、2024年12月の一般海域公募の選定結果、着床式と浮体式の裾野差、NECのCandle受注、EEZと安全保障の読み方までをわかりやすく解説します。
当コラムで注目する用語
- 成長17分野「海洋」(⑦):政府の成長戦略で位置づけられる17分野の一つ。公式の品目は海洋ドローン(海洋無人機)・海洋状況把握(MDA)・革新的海底開発技術・システムの3つで、洋上風力(GX分野)・海底ケーブル(情報通信分野)・養殖(フードテック分野)は別分野の品目。
- 再エネ海域利用法:一般海域で洋上風力の占用公募を進める法律の通称。
- 着床式/浮体式:海底に立てる基礎か、浮体で支えるかの違い。水深とサプライチェーンが変わる。
- OCC:NECグループの通信ケーブルメーカー。光海底ケーブルの製造を担う。
- EEZ:排他的経済水域。資源開発と安全保障が重なる海域。
- 裾野企業:基礎・ケーブル・据付・メンテ・港湾・部品など、本体以外で稼ぐ企業群。
海洋関連産業の4つの品目
| 品目(所管は分野により異なる) | 典型の稼ぎ方 | 中小が受注しやすい業務 |
|---|---|---|
| 洋上風力(周辺含む)※GX分野 | 発電事業・EPC・部材・据付・O&M | 港湾工事、部品、点検、物流 |
| 海底ケーブル※情報通信分野 | システム供給・ケーブル製造・敷設 | 陸上接続、陸上工事、部材 |
| 養殖技術※フードテック分野 | 種苗・飼料・設備・陸上養殖 | センサー、水質、加工、設備メンテ |
| 海洋資源・観測※海洋分野 | 探査・観測機器・データ・試掘 | センサー、ROV部品、解析ソフト |
内閣官房が2026年7月21日に閣議決定した「日本成長戦略」では、成長17分野「海洋」(⑦)の公式の品目は海洋ドローン(海洋無人機)・海洋状況把握(MDA)・革新的海底開発技術・システムの3つです。本記事で扱う洋上風力はGX分野、海底ケーブルは情報通信分野、養殖はフードテック分野の品目に位置づけられますが、港湾・造船・観測・資源開発の現場では海洋分野と実務がつながっています。海洋分野自体は経済安全保障・危機管理の性格も併せ持ち、平時の売上だけでなく、冗長性・復旧・観測の価値も見ます。
ここでの実務の出発点は、「海で稼ぐ」ではなく「どの品目で稼ぐか」です。例えば同じ「ケーブル」でも、洋上風力の送電ケーブルと、国際通信の光海底ケーブルでは、顧客・規格・工期が違います。社内の案件管理表も、品目ごとに列を分けると取り違えが減ります。
洋上風力:2024年12月の公募選定で何が決まったか
経済産業省と国土交通省は、2024年12月24日、一般海域の公募で「青森県沖日本海(南側)」と「山形県遊佐町沖」の選定事業者を公表しました。青森はつがるオフショアエナジー共同体(JERA、グリーンパワーインベストメント、東北電力)、山形は山形遊佐洋上風力合同会社(丸紅、関西電力、BP Iota Holdings、東京ガス、丸高)です。
両区域とも着床式です。青森は出力61.5万kW(1.5万kW×41基)、山形は45.0万kW(1.5万kW×30基)。風車はSiemens Gamesa製と公表され、運転開始予定はいずれも2030年6月です。公募期間は2024年1月19日から2024年7月19日でした。
価格評価では、ゼロプレミアム水準(本公募では3円/kWh)以下なら価格点が満点になる仕組みが使われました。結果として、差は事業実現性の評価に寄った、と読むのが実務的です。中小企業が受注しやすいのは、落札コンソーシアムそのものより、港湾・据付・部材・点検の業務です。地域の漁業調整や港湾利用の協議も、早期に動く論点です。選定後すぐに本体工事が始まるわけではないので、いま取るべきは「準備工程」の発注です。
着床式と浮体式で裾野企業がどう変わるか
着床式は、比較的浅い海域で基礎を海底に固定します。港湾工事、基礎製作、据付船、陸上からの部材供給まで、関わる工程が集まっています。今回の青森・山形も着床式なので、当面の国内案件で仕事を取りやすいのはこの範囲です。基礎の鋼材、グラウト、防食、輸送架台なども見積に入ります。
浮体式は、深い海域で浮体と係留が中心になります。造船・海洋構造物、係留チェーン、浮体設計、沖合メンテの比重が上がります。同じ「洋上風力」でも、見積の品目表が変わります。深い海域の案件が増えるほど、浮体側の設計と認証の会話が増えます。
ご担当者様が提案書を書くときは、「風力」一語で終わらせず、着床か浮体か、運転開始予定年、風車メーカー、コンソーシアムの代表企業を1行で書いてください。この4点が揃うと、社内の技術と調達が同じ前提で話せます。
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海底ケーブル:NECのCandle受注が示す位置
成長17分野③情報通信の品目である「海底ケーブル」は、国際通信インフラ側の話です。海洋分野そのものの品目ではありませんが、敷設・陸揚げの現場は海洋産業と重なります。NECは2025年9月24日、日本とシンガポールなどを結ぶ光海底ケーブルシステム「Candle」の供給契約を発表しました。総延長は約8,000km、24ファイバーペア構成、運用開始は2028年予定とされています。アジア地域内で24ファイバーペアを採用する点が、容量面の売りです。
パートナーにはMeta、ソフトバンク、TM Technology Services、XLSmartなどが名を連ねます。NECはシステムインテグレーターとして、製造からルート設計、敷設、試験までを担う、と説明しています。ケーブル製造はグループのOCCが担う体制が、業界では一般に語られます。
2026年7月3日には、インドと東南アジアを結ぶ光海底ケーブルシステム「I-2SEA」(総延長約3,600km、Lightstorm・Microsoft・Singtel・Tata Communications連合)の供給契約締結をNECが発表し、運用開始は2029年予定とされています。受注の有無は四半期ごとに更新されるので、提案前に最新の公式発表を確認してください。
中小企業にとっては、ケーブル本体より、着陸局周辺の陸上工事、電源・空調、監視、予備品、保守の方が受注しやすいことが多いです。例えば地方の着陸候補地では、自治体・通信事業者・工事会社の三者のタイミングがずれると、工期が止まります。提案では、本体の納期表ではなく、着陸局の許認可と電源工事のクリティカルパスを先に見せると、会話が具体になります。
深海探査機・海中ロボットの仕事はどこにあるか
成長17分野⑦海洋の公式品目「海洋ドローン(海洋無人機)」にあたる深海探査機・海中ロボットは、資源調査、インフラ点検、防災観測に分かれます。洋上風力の基礎点検、海底ケーブルのルート調査、港湾施設の水中点検など、既存インフラのメンテ需要が入口になります。
受注状況は企業ごとに開示粒度が違います。公開IRで「深海」や「海洋ロボ」が単独セグメントになっていない会社も多いです。したがって、売上ランキングより、どの用途(点検/探査/防衛関連)で実績があるかを先に見てください。
例えば、港湾工事会社が水中点検を外注しているなら、そこが最初の受注先候補です。大型探査船の新造を待つより、既存の点検予算の方が、商談の周期が短いことが多いです。カメラ、ソナー、ケーブルリール、船上クレーンの周辺も、同じ案件の周辺需要になります。
養殖技術は海洋とフードテックの交差点
成長17分野の公式品目では、養殖は「⑯フードテック」の陸上養殖として位置づけられ、海洋(⑦)の品目には入りません。ただし海上の生簀を含む養殖技術・養殖設備は、漁協や港湾の現場としては海洋産業と実務上つながります。同じ設備でも、海上の生簀と陸上の循環式では、顧客と規制が違います。
中小企業が受注しやすいのは、飼料・種苗・センサー・ポンプ・水質・加工です。洋上風力や海底ケーブルほど「大型公募」が見えにくい一方、漁協・食品メーカー・設備メーカーとの相対取引が多く、中小が参入しやすい品目でもあります。
ただし、赤潮や疾病、価格変動で設備投資が止まりやすいのが弱点です。提案では、設備の能力だけでなく、メンテ契約と予備品の供給速度をセットで出すと、現場の決裁がしやすいです。輸出を視野に入れる場合は、相手国の衛生証明と輸送温度の条件も先に確認します。
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EEZと安全保障で資源・通信をどう読むか
排他的経済水域(EEZ)では、資源開発と安全保障が重なります。海底のレアアース泥は内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)とJAMSTEC(海洋研究開発機構)が、コバルトリッチクラストなどはJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)が中心になって試掘・調査を進めてきましたが、商用化の時期とコストはまだ不確実です。稟議では「資源がある」と「今すぐ売上が立つ」を分けて書いてください。
通信の海底ケーブルは、切断や迂回ルートの不足が地政学リスクとして語られます。修復に時間がかかる、という一般論は現場でも共有されています。だから、Candleのような冗長ルートの増設は、容量だけでなくリスク分散の話でもあります。
洋上風力も、海域利用・漁業調整・港湾・系統接続が絡むため、単なる発電設備ではありません。再エネ海域利用法の枠組みの中で、占用と地域合意がセットになります。系統連系の遅れは、発電所本体より先に案件を止めることがあるので、電力側の工程も確認しておいてください。
中小企業が最初に取れる3つの仕事
(1) 着床式洋上風力の港湾・据付・部材・点検。(2) 海底ケーブル着陸周辺の陸上工事と保守。(3) 養殖・水中点検のセンサーとメンテ。この3つは、大型本体を取れなくても、案件の近くに立てます。
「海洋産業に参入する」より、「どの品目のどの工程に入るか」の方が、社内説明としては通ります。例えば「青森・山形の着床式案件の点検」と書けば、技術部門が必要資格と人員を数えられます。
大型コンソーシアムの一員になる話は、後段です。先に、既存の港湾・通信・水産の顧客リストから、海側の発注が取れないかを洗う方が早いです。既存顧客の「海側の困りごと」を1社ずつ聞くだけでも、受注につながる情報が集まります。困りごとが点検なのか、部材なのか、許認可支援なのかを分けると、次の見積が早く出せます。
読み違えやすい点と確認リスト
読み違えやすいのは、まず、洋上風力の送電ケーブルと国際通信の光海底ケーブルを同じ「ケーブル案件」として扱うことです。規格も顧客も違います。
次に、公募選定をそのまま工事発注と読むことです。運転開始が2030年予定の案件では、今の発注は調査・設計・港湾準備の段階から始まります。
そして、EEZ資源を「すぐ輸出できる資源」と読むことです。調査と商用化は段階が違います。例えば試掘のニュースだけで設備投資を決めると、回収期間の前提が崩れます。
確認リストは次です。(1) 対象の品目は風力/ケーブル/養殖/探査のどれか。(2) 着床か浮体か。(3) 公式の選定日・運転開始予定。(4) 契約主体の正式名称。(5) 自社が取れる工程は本体か裾野か。この5点を案件票の固定欄にすると、週次レビューが速くなります。
読み解きのポイント ①海洋関連産業は4つの品目に分かれる(所管は分野ごとに異なる) ②R3選定は2024-12-24(青森JERA系・山形丸紅系・着床式) ③Candleは約8,000km・2028運用予定 ④着床と浮体で裾野が変わる ⑤中小は港湾・着陸・点検から
海洋産業で稼ぐ位置を決めるときは、海の大きさではなく、品目の区分と工程の近さをセットで見てください。
よくある質問
Q. 成長17分野の「海洋」は何を指しますか?
政府の成長17分野「海洋」(⑦)の公式の品目は、海洋ドローン(海洋無人機)・海洋状況把握(MDA)・革新的海底開発技術・システムの3つです。洋上風力(GX分野)・海底ケーブル(情報通信分野)・養殖(フードテック分野)は別分野の品目ですが、現場では海洋産業とつながります。
Q. 直近の洋上風力公募で何が決まりましたか?
2024年12月24日、青森県沖日本海(南側)と山形県遊佐町沖の選定事業者が公表されました。いずれも着床式で、運転開始予定は2030年6月です。
Q. 中小企業はどこから入れますか?
着床式の港湾・据付・部材・点検、海底ケーブル着陸周辺の陸上工事・保守、養殖・水中点検のセンサーとメンテが、中小企業にとって入りやすい業務です。
Q. Candleとは何ですか?
NECが供給契約を発表した、日本とシンガポールなどを結ぶ光海底ケーブルシステムです。総延長約8,000km、2028年運用開始予定とされています。
主な出典
経済産業省/国土交通省「青森県沖日本海(南側)及び山形県遊佐町沖における洋上風力発電事業者の選定結果」(2024-12-24)/NEC「Candle」供給契約プレス(2025-09-24)/NEC「I-2SEA」供給契約プレス(2026-07-03)/内閣官房「日本成長戦略」(2026-07-21閣議決定)及び「戦略17分野における『主要な製品・技術等』の官民投資ロードマップ」(2026-07-21日本成長戦略本部決定。海洋は⑦で公式品目は海洋ドローン・MDA・革新的海底開発技術・システム。洋上風力は資源・エネルギー安全保障・GX分野、海底ケーブルは情報通信分野、養殖(陸上養殖)はフードテック分野の品目)/内閣府・JAMSTEC「南鳥島EEZ海域でのレアアース泥採鉱システム接続試験の結果について」(2026-07-24発表)/JOGMEC「コバルトリッチクラストの掘削試験」(南鳥島南方EEZ)/調査時点:2026年8月14日。
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