レスポンシブルツーリズムとは?意味や注目される背景、事例を紹介 

2023年の訪日外客数は年間2,500万人を突破し、新型コロナウイルスが流行する前の2019年の78.6%にまで回復しました。 

インバウンドの回復は、観光業から歓迎される一方で、騒音や渋滞などにより地域住民の負担が増えています。そこで注目されているキーワードは、レスポンシブルツーリズムです。 

本記事では観光業のトレンドを知りたい方に向けて、レスポンシブルツーリズムの意味や注目される背景、取り組み事例を紹介します。 

参考:JNTO「訪日外客数(2023年12月および年間推計値)」 

Contents

レスポンシブルツーリズムとは 

レスポンシブルツーリズムとは、「責任ある観光」を意味する言葉です。具体的には、観光客が旅行先に配慮した行動をすることや、観光地域が観光客に対して地域や環境に負荷を与えない行動を求めることです。 

観光地にキャパシティ以上の観光客が押し寄せるオーバーツーリズムが問題視されるなか、持続可能な観光を実現するためのキーワードとして注目されています。 

レスポンシブルツーリズムが注目される背景 

2015年の持続可能な社会の実現に向けた目標(SDGs)の採択や、新型コロナウイルスの流行などを経て、レスポンシブルツーリズムが注目されるようになりました。その背景は主に以下の2つです。 

  • 高まる環境負荷への対策 
  • オーバーツーリズムの対策 

2つの背景は観光地で起きている問題と大きく関係しています。現代の観光地の抱える問題を押さえるために、背景について詳しく解説します。 

背景①高まる環境負荷への対策 

レスポンシブルツーリズムが注目される背景は、観光客の増加による環境負荷の高まりです。例えば、ゴミのポイ捨てによる環境汚染、野生動物に餌やりをすることによる生物多様性への悪影響などです。 

SDGsの採択後、世界中で持続可能な社会の実現に対して意識が高まりました。観光地においても同様です。その観光地で持続可能な社会を実現するためには、観光客にも適した行動が必要となっているのです。つまり、「旅の恥はかき捨て」の考え方は、もはや過去のものになっています。 

背景②オーバーツーリズムの対策 

インバウンドの回復により、観光地に多くの観光客が訪れています。 

例えば、日本の観光地として人気の京都市では、2022年の1年間で4,361万人の観光客が訪れました。京都市の人口は、約144万人であることから、人口の30倍以上の観光客が訪れていることになります。 

このような観光客の増加により、世界中の観光地ではオーバーツーリズムが問題となっています。オーバーツーリズムの代表的な問題は、物価の高騰やゴミのポイ捨て、渋滞などです。 

観光客に観光を楽しんでもらいながら、オーバーツーリズムの発生を抑えるために、レスポンシブルツーリズムの取り組みが注目されているのです。 

レスポンシブルツーリズムのメリット 

レスポンシブルツーリズムは、現地住民や観光客にメリットがあります。ここでは、レスポンシブルツーリズムの双方へのメリットについて紹介します。 

観光地のメリット:環境への負荷や費用を減らせる 

レスポンシブルツーリズムによる観光地のメリットは、環境への負荷や費用を減らせることです。 

先に紹介した京都市では年間4,000万人以上の観光客が訪れます。住民の30倍以上の観光客が出すゴミの処理は、環境に対してだけではなく、費用面でも大きな負担です。 

そこでレスポンシブルツーリズムの考え方によりゴミを持ち帰ってもらうことで、観光地の負担を減らせます。また、観光客のゴミの処分を有料化し、費用の一部を観光客に負担してもらう取り組みを試験的に実施している地域もあります。 

現地住民のメリット:安心して生活ができる 

レスポンシブルツーリズムによる現地住民のメリットは、安心して生活できることです。 

オーバーツーリズムでありがちな問題は、観光客による夜間の騒音や民家の敷地内の無断撮影、無断駐車などです。観光客が観光地の住民に配慮するように意識を変えることで、このような迷惑行為が減り、現地住民も安心して生活できます。 

観光客のメリット:得られる観光体験の質が向上する 

レスポンシブルツーリズムは観光地だけではなく、観光客自身にも観光体験の質が向上するメリットがあります。 

例えば、観光地のゴミ箱や街中にゴミが溢れているとどのように思いますか。多くの方は嫌な気持ちになるでしょう。このような観光客によるゴミの増加やゴミのポイ捨ては、景観の悪化につながり、観光体験の質を大きく下げる要因です。 

反対にレスポンシブルツーリズムの考え方が浸透し、多くの人が「ゴミになるものを持ち込まない」や「ゴミを持ち帰る」を意識することで、観光地本来の魅力を味わえるでしょう。 

オーバーツーリズムは、観光客の満足度が下がる要因です。観光地に期待する観光体験を得るには、観光客自身の行動が重要になっているといえます。 

レスポンシブルツーリズムの取り組み事例 

レスポンシブルツーリズムには、具体的にどのような取り組みがあるのか知りたい方もいるでしょう。そこで、レスポンシブルツーリズムの取り組み事例3選を紹介します。 

竹富町:8つのアクション 

出典:竹富町「責任ある観光」 

竹富町は、沖縄県にある日本最南端の町です。9つの有人島と7つの無人島で構成された町で、沖縄の観光地として人気があります。 

その竹富町では、「またねっ!と、言いたいから。」をモットーにレスポンシブルツーリズムの取り組みを行っています。 

具体的に竹富町を訪れる旅行者に対して、以下の8つのアクションを周知・促進することです。 

1. 島民の暮らしをたいせつに 

民家の敷地をのぞいたり、ドローンで撮影したりするのを控え、島民に出会ったら挨拶をすること。 

2. 島の文化に敬意を 

島民が大切にする神聖な場所には立ち入らないこと。 

3. 可能な限りゴミを持ち帰る 

ゴミになるものは持ち込まず、可能な限り持ち帰ること。 

4. 自分の健康をたいせつに 

小さな診療所しかないため、自分の健康に留意すること。 

5. 身なりをととのえ、はきものはきれいに 

海岸以外の水着は避け、はきものについた砂をはらうこと。 

6. 海では安全と向き合う 

救助や手当をする体制がほぼないため、ライフジャケットなどの準備がなければ遊泳は避けること。 

7. 山でも安全と向き合う 

安全な装備で、かつ2人以上でなければ登山を避けること。 

8. 動物に優しい運転を 

希少動物が交通事故にあうのを避けるため、動物に優しい運転を心がけること 

このように竹富町の事情を考慮して、旅行客に守って欲しいことを8つのアクションプランに盛り込んでいます。 

白川村(白川郷):マナーガイド 

出典:白川村「白川郷レスポンシブル・ツーリズム」 

岐阜県の白川村の白川郷は、合掌造りの集落で人気の観光地です。しかし、多くの観光客が訪れることで、オーバーツーリズムが問題となっています。 

そこで、白川村ではレスポンシブルツーリズムの取り組みとして、白川郷を訪れた際のマナーガイドを漫画で発信しています。具体的には、「花火は禁止です」「ごみは持ち帰りましょう」「ドローンの撮影はご遠慮ください」などです。 

白川村の公式サイトでは、「漫画で読む白川郷マナーガイド」として、合計20の来訪時のマナーを紹介しています。 

レスポンシブルツーリズムで旅先のマナーが重要に 

レスポンシブルツーリズムは日本だけではなく、世界でも注目されているキーワードです。世界の多くの観光地で、オーバーツーリズムの問題を抱えているためです。今後、海外旅行や出張に行く際は、現地のレスポンシブルツーリズムの取り組みを確認してみましょう。