自動物流道路とは?必要とされる背景や世界の事例を解説

2024年7月25日、国土交通省は「自動物流道路のあり方 中間とりまとめ」を公表し、今後10年で自動物流道路の実用化を目指すことを示しました。

自動物流道路は、10kmを整備するのに70億~800億円の工費がかかる見込みで、大規模な取り組みになると考えられます。そのため、インフラ業界や物流の自動化に携わる業界にとっては、大きなビジネスチャンスとなるでしょう。

本記事では新規事業のアイデアを探している方に向けて、自動物流道路の概要や必要性、海外の事例をわかりやすく紹介します。

Contents

自動物流道路とは

出典:国土交通省「自動物流道路に関する検討会

自動物流道路とは、中央分離帯や地下に物流専用の空間を構築し、無人化・自動化された輸送手段を用いて物流の効率化や全体最適化を実現する構想です。簡単に言えば、自動運転トラックや自動運転カートなどの専用レーンを構築することです。

この章では、自動物流道路のコンセプトやこれまでの経緯と今後の流れ、概算工費を詳しく解説します。

コンセプト

自動物流道路のコンセプトは、「持続可能で、賢く、安全な、全く新しいカーボンニュートラル型の物流革新プラットフォーム」です。このコンセプトを柱に、以下の3項目の実現を目的としています。

物流の全体最適化

自動物流道路の目的は、輸送ルートの構築と徹底した省人化・無人化・効率化で、物流の全体最適化を図ることです。小口・多頻度の輸送の実現、人的リソースを真に必要な輸送へシフトすることが期待されています。

物流モードのシームレスな連結

自動物流道路の目的は、道路ネットワークの強みを生かし、トラック輸送・鉄道輸送・海上輸送・航空輸送などの輸送モードと連結することです。物流ネットワーク全体を最適化し、それぞれの輸送モードの強みを生かせると期待されています。

カーボンニュートラル

自動物流道路の目的は、物流の全体最適化や物流モードのシームレスな連結により、無駄な輸送を削減することで、物流全体の温室効果ガス排出量を削減することです。他にも、低炭素技術の導入、クリーンエネルギーの活用を前提とした自動物流道路の構築を目指しています。※カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を合算して実質排出量をゼロにすることです。

これまでの経緯と今後の流れ

自動物流道路は、2023年7月に閣議決定した「新たな国土形成計画」の方向性をもとに、社会資本整備審議会道路分科会国土幹線道路部会で議論され、2023年10月に「高規格道路ネットワークのあり方中間とりまとめ」が提言されました。2024年2月以降は、自動物流道路に関する検討会が実施され、目指す方向性や必要な機能、課題を検討しています。

今後は以下の3つのフェーズにより、社会実装の実現を目指すとのことです。

・フェーズ1 社会実験

新東名高速道路の建設中区間(新秦野~新御殿場)において、自動物流道路の社会実験を実施する予定です。

・フェーズ2 第一期区間

大都市近郊の渋滞が発生する区間、かつ小規模な改良で実装可能な地域において、10年をめどに自動物流道路の実用化を目指しています。第一期区間は、2024年夏ごろに想定ルートを選定する予定です。

・フェーズ3 長距離幹線構想

最終的な目標は、東京と大阪間を自動物流道路でつなぐことです。

概算公費

構想の規模をイメージしやすいように、この章では自動物流道路の概算工費を紹介します。地上と地下で構築した場合の概算工費は以下のとおりです。

●自動物流道路の概算工費

 地上地下
施工期間13年2.3年~4.8年/10km
施工スピード約3km/月300m~600m/月
概算工費254億円/10km70億円~800億円/10km

出典:国土交通省「自動物流道路に関する検討会

※地下は高速道路の地下40m程度の深さに、内径6m程度のトンネルを掘り、覆工と床版を設置することを想定しています。

地上では、既存の道路の中央分離帯や路肩などに設置が検討されています。施工スピードは約3km/月と予想され、東京と大阪間の約500kmを結ぶには13年が必要です。そのため、自動物流道路は長期間にわたって展開される構想と言えるでしょう。

自動物流道路の必要性が高まっている要因

2023年から自動物流道路の議論が加速している背景は、3つの要因により必要性が高まっているためです。ここでは、3つの要因を詳しく解説します。

トラックドライバーの人手不足

トラックドライバーは1995年以降、減少傾向が続いています。また、2024年4月には働き方改革関連法の施行により、トラックドライバーの時間外労働時間の上限が規制されました。

さらに、公益社団法人鉄道貨物協会の「平成30年度 本部委員会報告書」によると、2028年には27.8万人のトラックドライバーが不足すると試算され、人手不足による物流の停滞が懸念されています。

このようなトラックドライバーの人手不足の対策として、自動物流道路の必要性が高まっています。

出典:経済産業省「令和4年度産業経済研究委託事業 調査報告書

物流の小口・多頻度化の進行

EC市場規模や宅配便数の拡大により、物流件数は増加傾向です。しかし、貨物1件あたりの貨物量は、1990年と比較して半分以下に減少しており、物流の小口・多頻度化が急速に進行しています。

●貨物1件あたりの貨物量と物流件数の推移

 1990年2015年2021年
貨物1件あたりの貨物量2.43トン/件0.98トン/件0.83トン/件
物流件数の推移 (3日間調査)13,656件22,608件25,080件

出典:国土交通省「検討の背景② 物流を取り巻く現状と課題

さらに、トラック輸送の問題点は、積載率が40%以下と低い水準が続いていることです。そこで、小口・多頻度化に適した物流システムを実現できるとして、自動物流道路が必要とされています。

モーダルシフトの推進

カーボンニュートラルの実現に向け、物流業界ではモーダルシフトの推進が求められています。具体的には、温室効果ガス排出量の多いトラック輸送から鉄道輸送や海上輸送への移行です。実際に鉄道輸送は、トラック輸送よりも温室効果ガス排出量が13分の1で済み、必要な運転手も1人の運転士で最大65人のトラックドライバーの代わりを果たせます。

しかし、リードタイムの長さや希望する時間帯に利用することが比較的困難であることから、あまり活用されていません。その証拠に2021年の鉄道輸送の流動量は、全体のわずか1.32%でした。

そこで、モーダルシフトを推進して、カーボンニュートラルを実現するために自動物流道路が必要とされています。

海外における自動物流道路の事例

日本政府は国際競争力を高めるためにも、世界に先んじて最先端の物流システムの構築を目指しています。しかし、自動物流道路に取り組んでいるのは、日本だけではありません。ここでは海外の事例として、スイスとイギリスの取り組みを紹介します。

スイス

出典:Cargo sous terrain

スイスの自動物流道路の取り組みは、主要都市を地下トンネルでつなぎ、自動輸送カートによる物流システムの構築です。トンネル内には3線のレーンがあり、24時間・時速30kmで自動輸送カートが走行します。また、100%再生エネルギーを利用する予定で、環境負荷の低減にも配慮しているのが特徴です。

今後の流れは、2031年までに約70kmの区間で運用を開始し、さらに2045年までに全線の開通を目指しています。

イギリス

出典:Magway

イギリスの自動物流道路の取り組みは、リニアモーターを使用した物流システムの構築です。具体的には西ロンドン地区に全長16kmの専用線路を敷設し、大手物流事業者の施設から、小売業者・物流施設・店舗などへ直接輸送する仕組みを目指しています。現在はテスト施設において、開発・走行試験を行っている段階です。

自動物流道路は新たなビジネスチャンス

自動物流道路は、物流の全体最適化・物流モードのシームレスな連結・カーボンニュートラルの実現を目的に、政府が推進している構想です。始まったばかりの取り組みなので、これから多くのビジネスチャンスがあります。

さらに、東京と大阪間をつなぐには長期間かかると予想されます。そのため、新規事業のアイデアを探している方は、自動物流道路に関連した事業を検討してみてはいかがでしょうか。