従業員1,163人の会社が、営業利益率48.8%を叩き出している。横浜市港北区に本社を置くレーザーテック株式会社は、最先端半導体の製造に使われる「EUV(極端紫外線)マスク検査装置」のうち、EUV光そのものを用いるアクティニック検査という領域で、商業投入できる競合が極めて少ないメーカーである(会社自身はシェア数値を開示していない。複数の業界解説が「代替が効きにくい」と整理する)。始まりは1960年、医療用X線カメラの設計会社だった。そこから1976年の世界初フォトマスク検査装置、1986年の社名変更、2017年と2019年の二つの「世界初」を経て、TSMC・インテル・サムスン電子のサプライチェーンで外しにくい検査工程の供給者としての地位を築いた。2025年6月期に過去最高益を更新した直後、受注高は1年で61%減るという急落も経験している。本稿では創業から現在の中期経営計画まで、企業の来歴を軸にこの異常値の正体をたどる。

レーザーテック要点数値(2025年6月期・一次資料)
2,514億円 2025年6月期売上高(前期比+17.8%)|48.8% 同期営業利益率|▲61.4% 同期受注高の前年比減少率|4,000〜5,000億円 2030年6月期の中期経営計画目標売上高

1960年、医療用X線カメラの会社が掲げた「世界初」という誓い

レーザーテックの起点は、半導体とは無縁の医療機器にある。1960年7月、創業者(英語公式表記:Yasushi Uchiyama)は「東京ITV研究所」を設立し、医療用X線テレビカメラの設計・開発を手がけた。会社公式のFAQによれば、創業者は大手電機メーカーで働いていたが「世界にまだ存在しないものを作りたい」という思いを抑えられず独立したという。1962年にはNJS株式会社として法人化し、1970年代に入ると光学技術を応用して半導体産業向けの検査装置分野へ事業を広げていく。この「毎年、世界初の一つを作る」という創業の精神が、後年のEUV独占につながる長い技術投資の起点になった。当時のレーザーテックはまだ無名の中堅光学機器メーカーであり、半導体業界の主役になるとは誰も予想していなかった。

1976年10月、フォトマスク欠陥検査装置の世界初開発——後のEUV独占の原点

半導体の生産工程では、回路パターンの原版となる「フォトマスク」に微小な欠陥がないかを検査する工程が欠かせない。レーザーテックの公式企業プロフィール(英語版)によれば、1976年10月に世界初の自動LSIフォトマスク欠陥検査装置を開発し、これによって欠陥検出率を従来の60%からほぼ100%まで高め、検査時間を従来の10分の1に短縮した。この成功が、半導体業界における同社の技術的な足場を作った。以後、レーザーテックは自社の光学技術を応用してカラーレーザー走査顕微鏡や位相シフト測定システムなど「世界にまだない製品」を相次いで開発し続け、フォトマスク検査とマスクブランクス(フォトマスクの土台となるガラス基板)検査の分野で業界標準的な地位を積み上げていった。この「フォトマスク検査一本で世界初を積み重ねる」という戦略が、40年後のEUVマスク検査独占の伏線になっている。

1986年、「レーザーテック」への改名——半導体検査専業への転換

1986年、NJS株式会社は世界初のカラーレーザー走査顕微鏡の開発に成功したことを機に、社名を「レーザーテック株式会社」へ変更した。会社公式FAQによれば、これは半導体業界で知られていた旧社名「NJS」を捨ててでも、自社の中核技術である「応用光学技術」を明確に打ち出す狙いがあったとされる。同時期にレーザーテックU.S.A.をサンノゼに設立し、海外展開にも着手した。1970年代に医療機器から半導体検査へ軸足を移し、1980年代にレーザー光学を核とする専業メーカーへと社名まで変えて舵を切ったこの転換が、以後の会社の骨格を決めた。1990年に株式を店頭公開し、2004年のジャスダック上場を経て2012年に東京証券取引所市場第二部、2013年には東証一部へ上場するなど、資本市場からの評価も徐々に積み上がっていった時期である。

2017年と2019年、二つの「世界初」がEUV独占を完成させた

半導体の微細化が限界に近づく中、次世代の露光技術として実用化が期待されていたのがEUV(波長13.5nmの極端紫外線)リソグラフィだった。ただしEUV光は空気にも吸収されるほど扱いが難しく、大手装置メーカーの多くが採算の不確実性から距離を置いていた領域だった。レーザーテックはここに資源を集中させ、2017年に世界初となるEUVマスクブランクス欠陥検査・レビュー装置「ABICS」シリーズを開発する。続いて2019年9月12日、同社は世界初となるアクティニック(EUV光そのものを用いる)EUVパターンドマスク検査装置「ACTIS A150」を発表した。同社の公式発表によれば、ACTIS A150はDUV(深紫外線)光を用いる従来型の検査装置では検出できなかったEUV特有の位相欠陥まで捉えられる点が最大の技術的優位性だった。EUV露光装置はオランダのASMLが世界で唯一供給しているが、その装置で作られたマスクが量産に使えるかどうかを確認する検査装置は、レーザーテックが世界で唯一供給する側になった。

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「代替が効きにくい」の中身——市場の切り方で見え方が変わる

レーザーテックを紹介する記事の多くが「EUVマスク検査で世界シェア100%」と表現する。ただしこれはレーザーテック自身や公的統計が開示した数値ではなく、業界解説が「アクティニックEUVパターンドマスク検査」という狭い技術領域で商業量産投入できる競合がほぼ見当たらない、と整理している定性評価である(⚠️一次のシェア開示なし)。一方で、DUV方式も含めた「フォトマスク検査装置」全体という広い枠で見ると様相が異なる。半導体業界解説(ダイヤモンド・オンライン)は、この広い市場でのレーザーテックの位置づけを「米KLAに次ぐ有力プレイヤー」と紹介するが、記事単体で示される具体%は他ソースで相互確認できていないため、本稿では数値としては採用しない。KLAは半導体のプロセス制御・検査で世界有数の売上規模を持つ巨人であり(KLA自身のFY開示は売上高ベース、シェア%の一次開示ではない)、年間売上規模がレーザーテックの数倍に達する。それでもKLAがEUVアクティニック検査という狭いニッチに本腰を入れにくいのは、市場規模が相対的に小さく、EUV光源や真空チャンバーなど参入障壁が高いためだと業界解説は分析している。「小さすぎて大手が本気を出さない市場」を掘り続けたことが、代替が効きにくい構造の理由である。

2025年6月期、売上2,514億円・営業利益率48.8%という異常値

2025年8月7日に発表された2025年6月期(2024年7月〜2025年6月)の連結決算短信によれば、売上高は2,514億7,700万円(前期比+17.8%)、営業利益は1,228億4,300万円(同+51.0%)、経常利益は1,194億4,400万円(同+45.6%)、親会社株主に帰属する純利益は846億5,200万円(同+43.3%)だった。営業利益率は48.8%(前期38.1%)に達し、株主資本利益率(ROE)は46.9%、海外売上高比率は91.8%を占めた。品目別では半導体関連製品が2,029億6,500万円(+11.7%)、サービス事業が429億5,900万円(+48.3%)と、装置本体の販売拡大に加えて保守・サービス収入も伸びた。年間配当は1株あたり329円(前期230円)に増額し、従業員数は1,163人にとどまる。売上規模に対して従業員数が極端に少ないのは、自社工場を最小限に抑え生産を外部委託する「ファブライト経営」を採っているためであり、研究開発費は売上高比4.6%(同IR資料)を占める。

受注高が1年で61%減った——「好調」の裏で始まっていた変化

過去最高益を更新した2025年6月期決算だが、同じ決算短信の付属資料には別の顔が記録されている。通期の受注高は1,052億2,600万円で、前年(2,727億円台)比で61.4%の急減となり、期末の受注残高(バックログ)も3,159億4,500万円(前年比▲31.6%)に縮小した。レーザーテックは装置の出荷時点ではなく、顧客先で装置稼働を確認した「検収」の時点で売上を計上する会計方針を採っており、EUV関連装置は受注から出荷までに約1年、検収までさらに数カ月を要する(業界解説記事・FISCO)。つまり2025年6月期の好決算は1〜2年前に積み上がった受注が検収された結果であり、その裏側で新規受注そのものは大きく減速していた。会社側はこの受注急減の背景として、大手半導体メーカーのEUV設備投資減速を統合報告書で説明しており、2026年6月期については減収減益を当初から予想していた。

2026年1月30日、業績予想を上方修正——回復のシグナル

2025年8月7日時点でレーザーテックが示した2026年6月期の当初予想は、売上高2,000億円(前期比▲20.5%)、営業利益850億円(同▲30.8%)、純利益600億円(同▲29.1%)という減収減益だった。ところが2026年1月30日、会社は業績予想を上方修正し、売上高2,200億円(▲12.5%)、営業利益1,000億円(▲18.6%)、純利益720億円(▲14.9%)に変更した(前提とする為替レートも1ドル135円から145円へ変更)。さらに2026年4月30日発表の第3四半期累計実績は、売上高1,695億3,900万円(前年同期比+0.4%)、営業利益781億9,100万円(同▲1.4%)、純利益568億2,300万円(同+7.8%)となり、通期の受注高見通しも従来の1,700〜2,200億円から2,000〜2,400億円へ再度引き上げられた(業界メディア・FISCO報道)。ロジック半導体顧客の投資回復に加え、検査速度を従来機比3倍に高めた新製品「ACTIS A200HiTシリーズ」が成長ドライバーとして紹介されている。減益幅を段階的に縮めながら回復に向かうという、教科書的とも言える軌道を描いている。

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成長17分野「AI・半導体」に置かれた検査装置という裾野

PROVE DataLakeの国内政策データによれば、高市政権が2026年7月に策定した「成長17分野」のうち「AI・半導体」分野の裾野産業として、「検査装置」がロジック半導体・メモリ半導体・製造装置と並ぶ主要品目の一つに明記されている。同じデータは、熊本県菊陽町のTSMC・JASM工場を「国内最大の海外半導体投資」と位置づけ、装置・材料・人材の二次・三次集積が波及していると記録する。レーザーテック自身の生産拠点は横浜市港北区の本社および新研究開発拠点「Lasertec Innovation Park」に置かれており熊本に拠点は持たないが、TSMC・インテル・サムスン電子という同社の主要顧客が世界各地でEUV量産投資を進める構図の中で、日本国内の半導体投資拡大(Rapidus・JASM等)は同社の受注の一部を形づくる背景として位置づけられる。

ここを外すと議論が空転する——レーザーテックは「半導体メーカー」でも「ASML」でもない

半導体関連のニュースでレーザーテックの名前を初めて見た人が陥りやすい誤解が二つある。一つは「半導体を作っている会社」だという誤解で、実際には半導体そのものは作らず、半導体の生産工程で使う「検査・計測装置」を作るメーカーである。もう一つは、EUV関連という共通点から「ASMLと同じような会社」だと考えてしまう誤解である。ASMLはEUV露光装置(マスクのパターンをウェハに転写する装置、1台200億円超)を世界で唯一供給するメーカーであり、レーザーテックはそのマスクやウェハに欠陥がないかを確認する検査装置を供給するメーカーである。両社は「EUVという同じ技術世代の異なる工程」を担っており、競合関係ではなく補完関係にある。TSMCやインテルがEUV露光装置をASMLから買うたびに、そのマスクを検査する装置としてレーザーテックへの需要も連動して発生する構造であり、この二社を混同すると投資判断や業界分析を誤りやすい。

この先の分岐——1.4nm世代とファブ内検査という次の市場

業界解説記事(47NEWS・FISCO配信)は、TSMCやインテルによる2nm・3nm世代の量産投資が続いているだけでなく、将来的には1.4nm世代(A14)への微細化も見込まれており、回路線幅が縮小するほど歩留まり管理における欠陥検査の重要性が一段と高まると指摘する。加えて、新製品「ACTIS A200HiTシリーズ」による検査速度の向上は、従来はフォトマスク製造部門でしか使われていなかったEUV検査を、半導体工場(ファブ)内の生産ラインでも本格的に活用できる可能性を開くとされている。これが実現すれば、レーザーテックの市場は「マスクショップ向け」から「ファブ内の量産ライン向け」へと裾野を広げることになる。一方で、受注が一年で61%減った経験が示すように、同社の業績は大手数社の設備投資判断という少数の意思決定に強く依存する集中リスクを抱え続けている。中期経営計画で掲げる2030年6月期の目標(売上高4,000〜5,000億円、営業利益率35%以上)は、現在の48.8%という営業利益率よりむしろ低い水準であり、会社自身が今の高収益を「一時的な検収の集中」と見て、より安定した成長軌道への移行を目指していることを示している。

よくある質問

Q. レーザーテックはいつ、どうやって創業した会社ですか?

1960年7月、医療用X線テレビカメラの設計・開発を行う「東京ITV研究所」として創業しました。1962年にNJS株式会社として法人化し、1970年代に半導体検査装置分野へ進出、1986年に世界初のカラーレーザー走査顕微鏡開発を機に「レーザーテック株式会社」へ社名変更しました。

Q. 「EUVマスク検査で世界シェア100%」は本当ですか?

会社自身や公的統計が「100%」と開示しているわけではありません。EUV光そのものを用いる「アクティニックEUVパターンドマスク検査」という狭い技術領域では、商業的に量産投入できる競合が極めて少ない、という意味で業界解説が「代替が効きにくい/事実上の独占に近い」と整理している、と理解するのが正確です。DUV方式も含む広い「フォトマスク検査装置」市場では、米KLAなど他社も存在し、切り方によって見え方が変わります。

Q. 2025年6月期の決算はどうでしたか?

売上高2,514億7,700万円(前期比+17.8%)、営業利益1,228億4,300万円(同+51.0%、営業利益率48.8%)、純利益846億5,200万円(同+43.3%)と過去最高を更新しました。一方で受注高は前年比61.4%減少し、2026年6月期は当初、減収減益が予想されていました。

Q. 2026年6月期の業績予想はどう変わりましたか?

2025年8月時点の当初予想(売上高2,000億円・営業利益850億円)から、2026年1月30日に売上高2,200億円・営業利益1,000億円へ上方修正されました。第3四半期累計(2026年4月30日発表)は前年同期比増収増益に転じ、通期受注高見通しも2,000〜2,400億円へ引き上げられています。

Q. レーザーテックとASMLはどう違うのですか?

ASMLはマスクのパターンをウェハに転写するEUV露光装置を世界で唯一供給するメーカーです。レーザーテックはそのマスクやウェハに欠陥がないかを検査する装置を供給するメーカーで、両社はEUVという同じ技術世代の異なる工程を担う補完関係にあります。

主な出典

レーザーテック株式会社「Inventing for your success, inventing for the future(Company Profile)」公式PDF(英語版)/レーザーテック「FAQ」公式サイト(英語版)/レーザーテック「2025年6月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2025年8月7日)/レーザーテック「2026年6月期 第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年1月30日)/レーザーテック「2026年6月期通期業績予想の修正に関するお知らせ」(2026年1月30日・JPX開示)/レーザーテック「2026年6月期 第3四半期決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年4月30日)/レーザーテック「統合報告書」(EDINET DB要約)/レーザーテック株式会社 有価証券報告書(EDINET提出)/レーザーテック「ACTIS A150 Actinic EUV Patterned Mask Inspection System」プレスリリース(2019年9月12日)/Wikipedia「Lasertec Corporation」(英語版)/ダイヤモンド・オンライン「新・半導体産業のすべて|次のエヌビディアはどこか?レーザーテック」/47NEWS・FISCO配信「レーザーテック:受注高見通し上方修正、AI半導体需要追い風にEUV検査装置が再成長へ」/トウシル(楽天証券)「決算レポート:レーザーテック」/日本経済新聞「レーザーテクの25年7〜12月期、純利益5.6%増」(2026年1月30日)/PROVE DataLake(成長17分野・半導体装置の社内データベース)。金額は各社公表の億円単位を基本とし、一部百万円単位の原数値を億円に換算しています。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。

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