製紙メーカーの明暗は、国内の紙需要減より、海外パルプ市況と生活用品セグメントの持ち方で分かれます。王子ホールディングスは規模で突出しますが、2026年3月期は海外会社が営業赤字に転じました。大王製紙は売上規模が小さくても、ホーム&パーソナルケアの回復で営業利益を積み上げました。本記事では、両社の直近通期一次決算を表で先に置き、調達・営業が見る分岐をわかりやすく解説します。
まず見る比較表(王子1.8兆円台 vs 大王6,600億円台)
| 指標 | 王子HD | 大王製紙 |
|---|---|---|
| 2025年3月期 売上高 | 1兆8,493億円(+9.0%) | 6,689億円(▲0.4%) |
| 2025年3月期 営業利益 | 677億円(▲6.8%) | 98億円(▲31.7%) |
| 2025年3月期 親会社帰属純利益 | 462億円前後 | △112億円 |
| 2026年3月期 売上高 | 1兆8,617億円 | 6,668億円(▲0.3%) |
| 2026年3月期 営業利益 | 346億円(前期比▲331億円) | 240億円(+145.0%) |
| 海外の見え方 | 2025年3月期海外売上比率40.8%。2026年3月期は海外会社が営業赤字 | ブラジル等の生活用品と構造改革が利益を押し上げ |
売上ランキングなら王子が圧倒的です。利益の動きだけ見ると、2026年3月期は大王の方が営業利益の伸びが目立ちます。同じ「製紙」でも、何で稼いでいるかが違います。営業利益率で見ると、王子の2026年3月期は売上約1.86兆に対し営業利益346億円で薄く、大王は売上約6,668億円に対し240億円と、回復後の厚みが相対的に出ています。
この表を先に置く理由は、社名の知名度順に読むと「王子が強い/大王が弱い」で止まりやすいからです。直近2期を並べると、規模の順位と利益の順位が一致しない年がある、とわかります。
なぜ「紙が売れるか」だけでは足りないのか
国内の印刷用紙・新聞用紙は構造的に減っています。各社が価格改定を進めても、数量減と物流費・人件費の上昇が同時に来ます。ここで差が出るのは、海外のパルプ・板紙と、ティッシュや紙おむつなどの生活用品をどれだけ持っているかです。
例えば、パルプ市況が良い年は資源・環境系の海外拠点が利益を押し上げます。市況が折れると、同じ海外比率でも赤字に転じます。生活用品は市況商品とは別の需要で動くため、為替や現地価格改定の成否が効きます。「海外売上比率が高い=安定」ではありません。
包材や産業用紙の需要は、景気と荷動きに左右されます。印刷用紙の減り方とは別です。取引先が「紙全般がダメ」と一括りにすると、段ボール原紙と雑誌用紙を同じ交渉にしてしまい、単価の根拠が曖昧になります。
王子HD:売上1.8兆円と海外比率40.8%の両刃
王子の2025年3月期は、売上高1兆8,493億円(前期比+1,530億円、+9.0%)、営業利益677億円(▲49億円、▲6.8%)でした。短信は、Walki社の買収・連結や、サイクロン被災後のニュージーランドPan Pac社の復旧(2024年11月に全ライン稼働再開)が売上増要因だと書いています。海外売上高は7,545億円、海外売上高比率は40.8%(前期比+5.9ポイント)です。
営業利益は、海外のパルプ市況良化や販売数量増があった一方、物流費・人件費などのコスト上昇で減益、と説明されています。経常利益は686億円(▲20.3%)で、外貨建債権債務の評価替えによる為替差損なども記載があります。中期計画対比では、海外事業の未達とPan Pac被災影響で計画を下回った、とも書かれています。
2026年3月期(英語資料でFY2025)は、売上高約1兆8,617億円、営業利益346億円(前期比▲331億円)です。国内会社の営業利益は399億円、海外会社は53億円の赤字、という内訳が説明資料に出ています。海外のパルプ・紙市況悪化が主因で、純利益は資産売却益などにより556億円へ増えた、と整理されています。規模が大きいほど、海外市況の振れが営業利益に直結します。
設備投資と減価償却の水準も大きいです。2025年3月期短信の表では減価償却892億円、設備投資1,132億円などが並びます。市況が弱い期でも、投資サイクルはすぐには止まりません。調達側から見ると、供給能力は維持されやすい一方、値上げ圧力の根拠としてコスト増が残りやすい、という読み方ができます。
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大王製紙:売上6,600億円台でも営業利益が240億円へ戻る理由
大王の2025年3月期は、売上高6,689億円(▲0.4%)、営業利益98億円(▲31.7%)、親会社株主に帰属する当期純損失112億円でした。紙・板紙の国内需要減と原燃料・物流費の上昇が重なり、特別損失側にも構造改善費用などが載りました。
2026年3月期は、売上高6,668億円(▲0.3%)とほぼ横ばいながら、営業利益240億円(+145.0%)へ回復しました。短信は、ホーム&パーソナルケア国内事業でのソフトパックティシューや長尺トイレットペーパーなど付加価値品の伸長・価格改定の浸透、海外構造改革による固定費削減、いわき大王製紙のボイラー再稼働による紙・板紙のエネルギーコスト改善を増益要因として挙げています。海外ではブラジルの衛生用紙販売が回復し、中国・タイではベビーケアやフェミニンケアの付加価値品が伸びました。売上ランキングでは王子の約3分の1でも、利益の回復速度はセグメント構成次第、という対照です。
純利益と営業利益が同じ方向を向かない年もある点に注意してください。2025年3月期は営業黒字でも純損失でした。構造改善や減損が載る年は、本業の回復を純利益だけで追うと遅れます。交渉材料にするなら、営業利益とセグメント注記を先に見てください。
国内の価格改定と数量減は同時に進む
両社とも、国内では価格改定を進めています。それでも数量が減れば、固定費と物流費の単価負担が残ります。王子の2026年3月期説明では、国内の値上げ効果がある一方、数量減とコスト増が相殺した、と読めます。大王も紙・板紙側の需要減退を前提に、生活用品と構造改革で営業利益を積み直す形です。
営業が「値上げが通ったか」だけを聞くと不足です。どの品目の数量が落ち、どの品目の単価が残ったかを、セグメント別に見る必要があります。新聞用紙と段ボール原紙、ティッシュでは、需要の減り方が違います。店頭の生活用紙は、メーカーのホーム&パーソナルケアの価格改定と連動しやすい一方、産業用紙は荷主の生産量に引きずられます。
海外はパルプ市況型と生活用品型で分岐する
王子型は、パルプ・資源・産業資材を含む広い海外ポートフォリオです。市況が良いと海外比率の高さが武器になり、悪いと営業赤字の震源になります。Walki買収のようなM&Aで売上は増えても、利益率は市況次第です。2026年3月期の海外会社赤字53億円は、その典型です。
大王型は、ホーム&パーソナルケアを軸に、ブラジルやアジアの付加価値品を伸ばす型です。為替が逆風でも、現地のカテゴリーミックスで損失幅を縮められる場合があります。ただし紙・板紙の国内低迷は残るため、生活用品の比率が利益のクッションになります。同じ「海外売上」でも、パルプ市況連動か消費財現地販売かを分けてください。
交渉の現場では、相手がどちらの型かを先に決めると、聞くべき数字が変わります。市況型ならパルプ指標と海外会社損益の向き。生活用品型ならカテゴリー別の価格改定と現地販売の伸び。ここを混ぜると、単価の根拠が社内で共有しにくくなります。
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調達・営業が見るべき3つの分岐
紙・板紙・生活用紙・包材を買う側は、次の3点を取引先ごとに書いてください。
- 売上規模か、利益の震源か:王子は規模と海外市況、大王は生活用品の価格改定と構造改革。
- 海外の種類:パルプ市況連動か、消費財の現地販売か。
- 直近の特別損益:構造改善費用や資産売却が、本業の実力を上乗せ/下押ししていないか。
例えば段ボール原紙の値上げ交渉では、相手の海外パルプ損益が悪化している期は、国内数量減と合わせて交渉材料が複雑になります。生活用紙では、大王のようにカテゴリー別の価格改定が進んでいるかを、店頭売価だけでなくメーカー決算のセグメントで確認します。
契約面では、市況連動のサーチャージと、固定単価の長期契約を混在させないことが重要です。パルプ市況型の取引先には、改定頻度と指標(何の価格を参照するか)を一文で決め、生活用品型にはカテゴリー別の改定通知期間を分けてください。
パルプ市況が戻る場合/低迷が続く場合
パルプ市況が戻る場合:王子の海外会社損益が改善し、売上規模の優位が営業利益にも戻りやすいです。2027年3月期の会社側予想では営業利益600億円への回復を見込む説明もあり、市況と国内値上げの両方を前提にしています。中東情勢による原燃料コスト影響を織り込む記載もあるため、予想値は前提付きで読んでください。
市況が低迷し国内数量減が続く場合:規模が大きいほど固定費と海外在庫の影響が残り、生活用品比率が高い会社の方が営業利益の底堅さが出やすいです。調達側は、単価交渉と供給安定を分け、市況連動条項の有無を契約に明示する必要が増えます。
計画を書く側が次に取る一手は、取引中の製紙メーカーについて「海外売上比率」と「生活用品/パルプのどちらが直近の利益を動かしたか」を1行ずつ書くことです。ランキングの売上順位だけでは、来期の値上げ圧力の方向は読めません。王子と大王の対比は、その1行を書くための見本です。数字は短信の期を必ず添えて転記してください。
よくある質問
主な出典
出典(調査時点:2026年8月)
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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。
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