「おもてなし」そのものは輸出できません。輸出できるのは、部屋数・シフト・料金・現地雇用を回す運営の型です。星野リゾートは公式サイトで、バリ、台湾・谷關、グアム、中国・天台山、ハワイの海外施設を公開しています。国内では訪日客が過去最高の一方、宿泊施設の7割が人手不足と答えています。本記事では、海外展開の実例と統計を突き合わせ、中小が検討するときの確認順をわかりやすく解説します。

当コラムで注目する用語

  • 運営受託:建物の所有者と運営会社が分かれ、運営会社がブランドと現場を担う契約。
  • リブランド:既存ホテルの名称・運営を切り替え、自社ブランドで再オープンすること。
  • 延べ宿泊者数:延べ人泊。同じ人が2泊すれば2人泊と数える。
  • 客室稼働率:売れた室数÷販売可能室数。
  • ADR:Average Daily Rate。平均客室単価。
  • 特定技能:人手不足業種で外国人材を受け入れる在留資格の枠。宿泊も対象業種に含まれる。

「おもてなし」は輸出できるか——先に答えの置き方

結論から書くと、空気や心遣いをそのまま船積みすることはできません。海外で残るのは、現地語のマニュアル、シフト表、品質点検、料金の決め方です。星野リゾートの海外ページは、施設名と立地を並べています。ブランド名の横に「日本のおもてなし」と書いてあるわけではありません。

ご担当者様が社内で「サービス輸出」と書くなら、対象を「運営受託と人材育成のパッケージ」に置き換えた方が会議が速いです。曖昧な語のまま稟議に載せると、投資と人件費の数字が後から割れます。

例えば調理や清掃は現地採用が中心になります。日本から持っていけるのは、点検項目と、総支配人クラスの少数です。輸出の単位は「人」ではなく「型」です。

星野リゾートは海外で何を運営しているか

公式の海外一覧(2026年8月時点)は次の5施設です。星のやバリ、星のやグーグァン(台湾・台中・谷關)、リゾナーレグアム、嘉助天台(中国・天台山)、サーフジャック ハワイ(ホノルル・ワイキキ)。

星のやバリは、会社発表で2017年1月20日開業です。星のやとしては海外1軒目、当時は国内外合わせて37軒目、と書いています。客室はヴィラ30室、敷地約3ヘクタールです。少室数のラグジュアリーで、国際チェーンの都市型数百室とは設計が違います。

星のやグーグァンは、2019年6月30日開業と発表されています。コンセプトは「温泉渓谷の楼閣」。全室に源泉かけ流しの半露天風呂を置く、台湾で初めてプロデュースするラグジュアリー温泉、という説明です。星のやとしては海外2軒目です。

リゾナーレグアムは、2023年4月1日のリブランドオープンです。会社発表では、既存のオンワード ビーチ リゾート グアムを名称変更し、リゾナーレとして海外初、星野リゾートとしては海外5施設目、客室428室です。少室数の星のやと、中規模リゾートのリゾナーレが並んでいる点が実務上の分かれ目です。

嘉助天台とサーフジャック ハワイは、公式海外一覧に載っています。開業年の一次発表を本稿では確定していないため、一覧にある、という事実までに留めます。

運営受託と自社所有はどこが違うか

海外展開では、土地・建物を買うか、オーナーから運営だけ受けるかが先に分かれます。グアムの例は、既存施設のリブランドです。新規に山を切り開くバリ・谷關型とは、初期投資と許認可の厚みが違います。

中小が「星野と同じことをする」と考えると、まず資金規模で止まります。現実的な入口は、海外オーナーからの運営受託か、日本国内のインバウンド施設で型を固めてから、少室数の海外1軒、です。

契約書で見るのは、ブランド使用料、人件費の負担、品質監査の頻度、途中解約の条件です。おもてなしという言葉は契約条項になりません。監査項目の数と、不合格時の是正期限が条項になります。

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インバウンドは国内の人手にどんな圧力をかけたか

JNTOの2025年計(2026年1月21日発表の推計)は、訪日外客数4,268万3,600人、前年比15.8%増です。過去最高だった2024年を約580万人上回りました。

観光庁の宿泊旅行統計(2025年年間・確定値)では、延べ宿泊者数は全体6億6,111万人泊(前年比+0.3%)、日本人4億8,118万人泊(同-2.7%)、外国人1億7,992万人泊(同+9.4%、2019年比+55.6%)です。客室稼働率は全体61.6%。施設タイプ別は旅館38.2%、リゾートホテル56.9%、ビジネスホテル75.3%、シティホテル74.1%、簡易宿所29.6%です。

需要の伸びは外国人側に偏っています。日本人は前年割れです。現場の忙しさは「客室が埋まる曜日」と「外国語対応が要る時間帯」に集中します。人が足りない、という訴えは、総客数の微増だけでは説明できません。

令和8年版観光白書(2026年7月閣議決定)は、2025年12月〜2026年1月に宿泊施設522施設へ行ったアンケートで、72.2%が「人手不足の状況にある」と答えた、と載せています。規模別は中規模(売上1億〜10億円)77.1%、大規模69.9%、小規模66.0%です(売上回答516施設)。

同白書は、宿泊業の年間賃金を2025年413万円、全産業546万円(常用10人以上・一般労働者、厚労省就労条件総合調査令和7年に基づく観光庁作成)と対比しています。非正規雇用割合は宿泊業54.7%、全産業36.5%です。

帝国データバンクの2026年4月調査では、旅館・ホテルの非正社員不足感は38.5%で、2022年2月以来4年2カ月ぶりに3割台へ低下した、とあります。白書の72.2%(施設アンケート)とTDBの不足感(企業の過不足)は調査対象が違います。両方を「人手不足は消えた/消えていない」の一択にしないでください。

白書側は「施設が不足と感じるか」、TDB側は「非正社員が足りないと感じる企業の割合」です。正社員の不足は全産業でなお50.6%(TDB、2026年4月)と高いです。宿泊の現場では、パートが集まりやすくなっても、支配人・調理・夜勤の正社員が空く、という割れ方が残ります。海外展開の稟議では、国内の正社員が何人足りないかを先に書いてください。

海外の高級チェーンと比べると、何の数字が違うか

接客品質を国際比較する公的スコアは、観光庁統計にはありません。使えるのは稼働と単価の層です。国内では、シティ・ビジネスが高稼働、旅館と簡易宿所が低稼働、という非対称が2025年確定値に出ています。

東京商工リサーチが上場ホテル運営12社(13ブランド)を集計した2025年度は、客室単価1万7,818円(前年度比8.6%増)、稼働率83.3%です。対象はビジネス・シティが中心で、星のやバリの30室ラグジュアリーとは層が違います。同じ「ホテル」でも、比較表の列を分けてください。

国際ラグジュアリー(フォーシーズンズやアマンなど)は、少室数・高単価・現地採用の支配人、という型が近い相手です。星のやバリの30室は、その型に近い。リゾナーレグアムの428室は、家族向けリゾートの型です。ブランドを一つにまとめて「日本のおもてなし対海外チェーン」としない方が正確です。

価格帯の会話では、円建てのADRと現地通貨のラックレートを混在させないことが先です。税・サービス料込みか、朝食込みかも、列を揃えます。品質の会話では、外国語スタッフの人数と、クレーム対応の権限が現場にあるか、を先に聞きます。

サービスを「型」にするときに詰まる4点

1点目は言語です。日本語の気働きを英語・中国語・インドネシア語の手順書に落とすと、行数が増えます。増えた行を現地スタッフが守れるか、が品質です。

2点目は労働時間と休日です。白書が指摘する繁閑差は、日本の温泉地でも海外リゾートでも起きます。固定休館日を入れるかどうかは、オーナーと先に決める項目です。

3点目は食材と宗教・嗜好です。バリでは現地の食文化が商品そのものです。日本の朝食をそのまま出す、が売れるとは限りません。星のやバリの発表も、土地の地形と文化を前面に出しています。

4点目は許認可と雇用です。外国人材(特定技能など)は国内不足の補完であり、海外拠点の現地採用とは別制度です。海外法人の労働法は、日本のシフト慣行をそのまま持ち込めません。

この4点が契約とマニュアルに落ちて初めて、「型の輸出」と呼べます。社内研修の動画を翻訳しただけでは、輸出にはなりません。

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中小が海外展開を検討するときの確認順

先に国内のインバウンド対応が回っているかを見てください。外国人が延べ宿泊の約27%(1億7,992万/6億6,111万)を占める市場で、自社の外国語対応と夜勤が崩れているなら、海外1軒目は早いです。

次に、持ち出す型を1枚に書きます。チェックイン、清掃、食事、苦情の4工程で、誰が何分で何をするか。書けない工程は、まだ輸出対象ではありません。

3番目に、相手がオーナーか、共同出資か、リブランドかを決めます。グアム型(既存施設の運営切替)と、バリ型(新規ラグジュアリー)では、必要資金が桁で違います。

企業様が商社や地域銀行に相談するなら、持参は施設一覧ではなく、この3点のメモで足ります。星野の施設名は事例であり、自社の投資額の根拠にはなりません。

よくある取り違え——言葉・人手不足・星野コピー

「おもてなしを輸出する」は、マーケティング文としては使えます。投資委員会の資料では、運営受託・リブランド・現地雇用、に言い換えてください。

人手不足は、白書の72.2%とTDB非正社員38.5%が同時に存在します。調査の聞き方が違います。片方だけを見て「もう楽になった」「まだ壊滅」と決めない方が安全です。

星野の海外5施設を真似る、は戦略になりません。30室と428室では、必要な支配人数もシステムも違います。自社の室数に近い1施設だけを、比較対象にしてください。

提案資料に残す数字の最小セット

資料は4行で足ります。(1) 訪日4,268万人(JNTO 2025年計)。(2) 外国人延べ1億7,992万人泊と稼働のタイプ差(観光庁確定値)。(3) 人手は白書72.2%とTDB非正社員38.5%を並記。(4) 自社が輸出する型は何室・何工程か。

この4行があれば、「おもてなし」を標題に残しても、中身は運営の話になります。数字の出典と時点(年)を各行に括弧で付けてください。

よくある質問

Q. おもてなしは輸出できますか。心遣いそのものは輸出できません。輸出できるのは、点検項目とシフトと契約に落ちた運営の型です。

Q. 国内の人手不足は inbound で悪化していますか。訪日客と外国人延べ宿泊は増えています。施設アンケートでは7割が不足と答え、TDBの旅館・ホテル非正社員不足感は改善も出ています。指標を分けて読んでください。

Q. 中小が最初にやることは何ですか。国内の外国語対応と4工程の手順を1枚に書くことです。書けてから、運営受託かリブランドかを検討します。

主な出典

セルウェルは市場調査・マーケティング支援の会社として、国内市場のデータ整備から商品戦略の実装まで一貫して支援しています。検討中のテーマがどこまで固まっているかを短時間で確かめたい方は事業化スコア診断(無料)を、個別のご相談はお問い合わせからお気軽にどうぞ。

※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。

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