ニデックは、京都発の精密小型モーターメーカーが、買収を重ねて家電・産業用モーターと工作機械まで抱えた会社です。検索では「HDD用モーターの世界首位」が先に出ますが、2025年3月期(2025年9月訂正後の短信)で売上いちばん厚いのは家電・商業・産業用の1兆527億円です。車載は同6,646億円まで伸ばしたあと、eアクスルの価格競争と会計不正の調査が重なり、2026年3月期の通期決算は2026年8月時点でも確定していません。本記事では、製品グループ、買収の経緯、いま使える数字の限界までをわかりやすく解説します。

当コラムで注目する用語

  • 精密小型:HDD用スピンドルやその他の小型モーター、水冷モジュールなどです。創業時からの主力にあたります。
  • ACIM:家電・商業・産業用のモーターと、発電機・BESSです。連結でいちばん売上の厚い層です。
  • 車載(トラクション):eアクスルなどの駆動用です。伸びたあとに損失と調査が集中しました。
  • 機器装置:工作機械・減速機・検査装置などです。買収で加わった層にあたります。
  • 特別注意銘柄:東証が指定する区分です。与信ではカタログより先に確認します。

ニデックとはどんな会社?

創業は1973年、永守重信氏による日本電産です。社名は創立50周年にあたる2023年4月1日にニデック株式会社へ変わりました。HDDのスピンドルモーターで世界シェアを取り、その後「回るもの、動くもの」へと領域を広げたと会社は説明しています。

2025年3月期の連結売上高は、2025年4月24日開示の短信では2兆6,070億9,400万円でした。その後、子会社の関税未払いなどの会計処理を理由に、2025年9月26日付で2兆6,078億1,300万円へ訂正されています。あわせて営業利益は2,381億1,600万円、親会社帰属利益は1,643億6,500万円となりました。

さらに2025年10月28日には東証の特別注意銘柄に指定され、会計監査人は2025年3月期有報の連結に監査意見を表明していません。数字の骨格は残っていますが、「確定した通期」としては使えないというのが2026年夏の前提です。会社概要は次のとおりです。

会社名ニデック株式会社(旧日本電産、2023年4月1日商号変更/証券コード6594)
本社・創業京都市南区/1973年
2025年3月期連結売上(2025年9月訂正後)2兆6,078億1,300万円
同・営業利益/親会社帰属利益2,381億1,600万円/1,643億6,500万円
売上いちばん厚い層家電・商業・産業用(ACIM)1兆526億5,500万円
創業からの主力/拡大後に損失が出た層精密小型4,878億8,900万円/車載6,646億2,300万円
いまの経営岸田光哉社長(2024年4月1日〜)。永守氏は2026年2月26日に完全退任
東証区分(2026年8月時点)特別注意銘柄(2025年10月28日指定)。通期は未確定
見るもの内容(時点)
本業の厚い層家電・商業・産業用モーター/発電機・BESS(2025年3月期・2025年9月訂正後)
創業からの主力精密小型(HDD用+その他小型+水冷モジュール)
拡大後に損失が出た層車載(eアクスル・トラクション)。2026年3月期1Qは営業損失829億円
買収で加えた層工作機械・減速機など機器装置(三菱重工工作機械2021年8月など)

創業と事業領域の広がり

HDD用モーターで規模を取った経緯

本社は京都市南区にあります。創業当初の柱は精密小型モーターで、パソコンやサーバー向けHDDのスピンドルに使われました。

PC用HDDの台数はタブレットの普及以降は伸びていませんが、データセンター向けのニアラインHDDには容量需要が残ります。2025年3月期(2025年9月訂正後で、この製品グループの数値は訂正前後で同じ)の精密小型は、外部売上4,878億8,900万円、営業利益583億7,000万円です。

うちHDD用は1,002億1,900万円(前期比+41.9%)、その他小型は3,876億7,000万円です。その他小型には、AIサーバー向けの水冷モジュールが含まれます。例えばこの水冷モジュールのように、創業の主力は形を変えて残っていますが、連結全体の2兆6,000億円超に対しては2割弱にとどまります。

買収で広がった事業領域

会社のM&A一覧と沿革ページによると、節目は次のとおりです。2003年10月に三協精機製作所へ資本参加し(のちのニデックインスツルメンツ)、2010年代には米エマソンのモーター事業、2017年1月には同社のモーター・ドライブと発電機事業を取得しました。これにより家電・商業・産業用(ACIM)が連結で最大のブロックになりました。

車載側では、2014年3月にホンダエレシス、2019年10月にオムロンオートモーティブエレクトロニクス(のちのニデックモビリティ)を取得しました。2019年10月には広州汽車グループとeアクスルの合弁も設立しています。

工作機械は2021年8月に三菱重工工作機械、2023年2月にイタリアのPAMAを取得しました。2025年4月1日には、ニデックモビリティを存続会社としてニデックエレシスと合併しています。買収の狙いは「時間を買う」ことだと会社は書いており、結果として売上の重心は精密小型からACIMへ移りました。

車載とeアクスルの現状

eアクスル(駆動用モーター・インバータ・減速機をまとめたユニット)は、創業者が主導した成長案件として、2019年前後に量産へ入りました。

中国では現地メーカーの価格競争が速く、汎用品の「赤い海」になったと岸田社長は2026年5月18日の日本経済新聞インタビューで述べ、広州汽車との合弁解消を進めたいと語っています。欧州のステランティスとの合弁については、同インタビュー時点では協議に入っていません。

2026年3月期第1四半期の短信では、車載の外部売上1,656億4,700万円に対し、営業損失は829億4,100万円でした。内訳には、契約損失引当金359億1,500万円、非金融資産の減損308億9,200万円、仕入先求償の和解債務190億100万円が並びます。

上期の説明資料では、車載の特定要因を合計877億円(契約365・減損317・求償195)と整理しています。例えばこの内訳のように一時的な項目が大きく、トラクション単体で本業が黒字かどうかは、会計訂正が終わるまで切り分けられません。

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2025年3月期の製品グループ別業績

家電・商業・産業用(ACIM)がいちばん厚い

2025年9月26日付で訂正された通期短信(IFRS)では、製品グループの外部売上と営業利益は次のとおりです。精密小型・機器装置・電子光学部品は訂正の前後で変わらず、車載と家電・商業・産業用が訂正で変動しています。

精密小型は4,878億8,900万円/583億7,000万円です。車載は6,646億2,300万円/257億8,000万円で、訂正前は263億7,800万円でした。前期の営業損失311億9,200万円からの黒字化だと当時は説明されています。

家電・商業・産業用は1兆526億5,500万円/1,183億500万円です。訂正前は1兆519億3,600万円/1,197億9,100万円でした。

機器装置には工作機械・減速機・検査装置などが入り、売上は約3,146億円、営業利益は約379億円です(補足資料の通期)。電子・光学部品の売上は約844億円です。

発電機とBESS、海外拠点

ACIMでは、データセンターの非常用発電機と蓄電池システム(BESS)の需要増を会社が理由に挙げ、インド・フランス・北中米で能力増強を進めると1Q短信にも書いています。海外の工場では、例えばベトナム(ホーチミンのサイゴン・ハイテクパークなど)と米国に、モーター・部品の拠点があります。

決算延期と会計不正

四半期は車載だけが赤字

2026年3月期第1四半期(2025年4〜6月)の連結売上高は6,380億2,600万円(前年同期比▲1.6%)で、営業損失264億700万円、親会社帰属損失93億8,300万円です。

精密小型は売上1,190億500万円・営業利益171億5,000万円、ACIMは売上2,615億5,100万円・営業利益299億1,500万円、機器装置は売上695億9,200万円・営業利益99億3,700万円で、車載以外は黒字です。車載の829億円の損失が、連結の営業損益を押し下げました。

決算発表の延期

2026年4月27日、会社は2026年3月期の決算発表を延期すると開示し、ロイターも同日伝えています。さらに2026年5月13日には、部材・工程・設計の無断変更や検査データの不適切な取扱いなど「品質に関する不適切行為」の疑いを公表し、外部専門家による調査委員会を設置しました(結果は2026年8月末を目途に公表予定)。

会計調査と品質調査が重なった結果、2026年8月5日には2026年4-6月期(2027年3月期第1四半期)決算の開示も延期すると発表しました。未提出の2026年3月期有価証券報告書の提出期限は、2026年9月30日まで延長されています。通期のセグメント確定値は、これらの手続きが終わるまで使えません。

会計不正と特別注意銘柄

第三者委員会は2025年9月3日に設置され、最終報告(追補)は2026年4月17日に会社が受領・開示しました。調査対象の中心は、2021年3月期から2025年6月までです。

会計不正等による当期利益への累計影響は▲1,607億円、営業利益は▲1,664億円、売上高は▲331億円です。論点別では減損回避が▲563億円と最大で、事業別では車載が▲723億円と最大でした。2025年3月期単独の当期利益影響は▲957億円で、当時公表の親会社利益1,676億円の約6割に相当します。

加えて、主に車載ののれんや固定資産で約2,500億円規模の減損を検討すると、2026年3月3日付リリース以降も会社が書いています。東証は2025年10月28日に特別注意銘柄へ指定し、改善計画の改訂版は2026年4月27日に公表されました。取引先の与信では、カタログの「世界首位」よりも、指定区分と訂正作業の進捗を先に確認します。

永守氏から岸田体制への交代

2024年2月14日付の開示で、2024年4月1日にソニー出身で車載事業本部長の岸田光哉氏が社長執行役員CEOに就き、永守氏は代表取締役グローバルグループ代表へ、小部博志氏は取締役会長へ移りました。永守氏は最長4年、M&Aと求心力を担うと当時の開示にあります。

会計疑義の調査が続くなか、2025年12月19日付で永守氏は代表取締役および取締役を辞任し、非常勤の名誉会長となりました。さらに2026年2月26日付でその名誉会長職も辞任し、経営から完全に退いています。取締役会の議長は岸田社長が引き継いでいます。

1Q短信は、車載の不採算機種の見直し、ACIMへの車載オーガニック統合、モビリティとエレシスの合併を、体制側の打ち手として挙げています。創業者の「買収で時間を買う」から、岸田体制の「赤い海からの撤退・固定費削減」へ、公式文書上の重心は移りました。役員の法的責任については、2026年3月に設置された役員責任調査委員会の結論待ちです。

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取引先が見誤りやすい点

よくある誤解は、HDD用モーターの発注窓口と話せば、グループ全体の納期と与信が読めるという見方です。例えば精密小型の水冷モジュール、ACIMの発電機、工作機械の据付、車載のeアクスルは、担当する法人も工場もサイクルも違います。

もう一つの誤解は、2025年3月期の「過去最高の売上・利益」を、2026年夏の取引判断にそのまま使うことです。特別注意銘柄の指定と、純利益影響1,607億円の訂正、約2,500億円の減損検討が、その数字の上に乗っています。

正しく読むなら、製品グループ×契約法人×東証の指定区分の3つで見ます。インド二輪向けの駆動モーターのように、精密小型の延長で伸びる品目もあります。品目が車載トラクションであれば、合弁の解消交渉と減損が先に来ます。

まず確認すること

次の四半期までに押さえたいのは、次の5点です。

  1. 自社が触れる相手が、精密小型/ACIM/機器装置/車載のどれかを固定します。
  2. 契約書の当事者法人が、ニデック本体か、モビリティ・インスツルメンツ・マシンツールなどの子会社かを登記名で書きます。
  3. 東証の特別注意銘柄の指定が続いているかを確認します。
  4. 使う財務数字が「訂正前の短信」か「訂正後」か、「四半期のみ」かを注記します。
  5. 車載eアクスルの案件なら、広州汽車の合弁解消協議と、約2,500億円の減損検討の範囲に自社債権が入らないかを与信で見ます。

ニデックをHDD1台のイメージだけで捉えると、売上の厚いACIMを見落とし、車載の損失や指定銘柄を後から知ることになります。品目と法人、そして訂正前か確定後かを分けた資料が、次の発注と与信を支えます。

読み解きのポイント ①社名変更は2023年4月1日 ②2025年3月期(2025年9月訂正後)売上2兆6,078億円、厚いのはACIM1兆527億円 ③車載1Q営業損失829億円(引当・減損・求償) ④第三者委:利益影響累計▲1,607億円、車載▲723億円 ⑤特別注意銘柄は2025年10月28日指定

ニデックは小型モーターの会社であると同時に、買収で家電・産業用と工作機械を抱えたグループです。品目と法人、そして訂正前か確定後かを分けた資料だけが、次の発注と与信を支えます。

よくある質問

Q. 日本電産とニデックは別会社ですか?

同じ会社です。2023年4月1日に商号を日本電産株式会社からニデック株式会社へ変更しました。証券コードは6594です。

Q. いま一番大きい事業は何ですか?

2025年9月訂正後の2025年3月期では、家電・商業・産業用(発電機やBESSを含む)の売上1兆527億円が最大です。創業の精密小型は約4,879億円です。

Q. EV用モーターは伸びていますか?

台数の話と利益の話は分かれます。eアクスルは中国の価格競争で合弁解消を検討中です。2026年3月期1Qの車載は営業損失829億円で、引当と減損が大きいです。

Q. 決算数字は使ってよいですか?

通期は訂正と監査の途中です。四半期短信と第三者委の影響額は一次資料として使えますが、「確定した過去最高益」としては使わないでください。

主な出典

ニデック「ニデック株式会社への社名変更について」(2023-04-01)/同「社長交代および代表取締役の異動等に関するお知らせ」(2024-02-14:岸田CEO 2024-04-01)/同「代表取締役、取締役の辞任および役職変更に関するお知らせ」(2025-12-19:永守氏代表取締役・取締役辞任、名誉会長就任)および「名誉会長辞任に関するお知らせ」(2026-02-26:永守氏名誉会長辞任・完全退任)/同 沿革・M&Aの歴史(三協精機2003-10、ホンダエレシス2014-03、米エマソンのモーター・ドライブ・発電機事業2017-01、オムロンAE 2019-10、広州汽車合弁2019-10、三菱重工工作機械2021-08、PAMA 2023-02、モビリティ⇔エレシス合併2025-04-01)/2025年3月期決算短信〔IFRS〕(2025-04-24開示:売上2,607,094百万円・営利240,200・親会社利益167,688。2025-09-26付訂正・数値データ訂正のお知らせで売上2,607,813・営利238,116・親会社利益164,365へ訂正。精密小型487,889/58,370は訂正前後で同一、車載664,623/26,378→25,780、ACIM1,051,936/119,791→1,052,655/118,305に変動)/2026年3月期第1四半期短信(売上638,026・営損△26,407・親会社△9,383。車載売上165,647・営損△82,941、引当35,915・減損30,892・求償19,001)/FY25 2Q「決算概要および現況のご報告」(上期売上13,023億円、車載特定要因▲877億円:契約365・減損317・求償195。監査人結論不表明・数値修正の可能性を明記)/第三者委員会最終報告受領開示(2026-04-17:利益▲1,607・営利▲1,664・売上▲331、減損回避▲563、車載▲723、追加減損検討約2,500億円)/ニデック「会計に関する第三者委員会の調査結果を踏まえて」(第三者委2025-09-03設置、特別注意銘柄2025-10-28、改善計画改訂2026-04-27)/ロイター 2026-04-27(26年3月期決算発表延期)/日本経済新聞2026-05-18(岸田氏:eアクスルは赤い海、GAC合弁解消を志向。ステランティスは協議未着手)/ニデック「当社及びグループ会社における品質に関する不適切行為の疑いと外部専門家で構成される調査委員会の設置に関するお知らせ」(2026-05-13)/同「第53期(2026年3月期)有価証券報告書の提出期限延長に係る承認申請書提出のお知らせ」(新期限2026-09-30)/日本経済新聞2026-08-05(26年4-6月期決算発表延期、品質問題調査は8月末目途)/ベトナム・米国拠点は会社沿革および公開クラスター情報/調査時点:2026年8月12日。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。

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