建設資材価格指数は2026年に入っても最高値を更新し続け、建設業の倒産は12年ぶりに2,000件を超えた。セメント大手2社は2027年4月にトン当たり3,000円超の値上げを予告し、LIXILとTOTOも建材・住宅設備を最大15%値上げする。一方で国は2025年12月、技能者に払うべき「適正な労務費」の基準値を初めて勧告したが、価格交渉での転嫁率はなお54.2%と道半ばだ。値上げの通知が積み重なる中で、建材を売る側も使う側の中小企業も、何を、いつまでに、どの順番で決めるべきかを、数字を並べ直しながら考える。
当コラムで注目する用語
- 建設資材価格指数:主要建設資材の価格動向を示す指数。値上げ交渉の根拠に使われる。
- 転嫁率:仕入価格の上昇分を、販売価格へどれだけ反映できたかの比率。
- 適正な労務費:国が示した技能者への支払い基準。見積・契約での不当な値引きを抑える狙い。
- ウッドショック:木材価格が急騰した供給ショック。建材全体の値上げ圧力の一因になった。
- 技能者:建設現場で施工を担う資格・技能を持つ労働者。高齢化と不足が同時に進む。
- 見積内訳:材料費と労務費などを分けて書いた見積。転嫁交渉の土台になる。
まず数字を四つ並べる——資材価格指数・倒産件数・転嫁率の中身
民間の建設物価調査会が公表する建設資材物価指数は、2026年6月分で建設総合150.1(前月比+1.5%)となり、19カ月連続の上昇を記録した。土木部門は2020年6月以降73カ月連続で上昇し最高値を更新中だ。別系統の経済調査会「積算資料」も同じ2026年5月調査で建築・土木総合147.7(前月比+1.9)と4カ月連続で最高値を更新しており、算出方法の異なる二つの民間指数がそろって「過去最高値の更新が続いている」と示している点は重い。同じ年に、帝国データバンクの集計では2025年の建設業倒産が2,021件(前年比+6.9%)となり、2013年以来12年ぶりに2,000件を超えた。2000年以降で初めての4年連続増加でもある。中小企業庁が2026年6月26日に公表した価格交渉促進月間(2026年3月分)の調査では、コスト上昇分の価格転嫁率は全産業平均で54.2%(前回比約+1pt)。上がる資材、増える倒産、道半ばの転嫁——この三つの数字がどうつながっているかを見ていく。
建材が上がる理由は一つではない——原油・円安・ウッドショック再燃の三重奏
建設資材の値上がりは単一の原因では説明できない。経済調査会の分析では、中東情勢の悪化による原油価格の先行き不透明感からストレートアスファルトが高騰し、瀝青材や再生アスファルト混合物に波及して指数を押し上げたとされる。木材は2021〜2022年の「ウッドショック」でいったんピークを付けた後、2023年以降は輸入材の増加で一時緩和したが、2025年以降は円安による輸入コスト上昇で再び高止まりしているとの解説がある(※この木材・鉄筋・生コンの個別上昇率は民間の建設業界メディアの分析であり、公的統計での逐語確認は済んでいないため参考値として扱う)。鉄筋(異形棒鋼)は中国の鋼材余剰でアジア市場が荒れたことに加え、国内高炉各社がインフラ需要増を見越して在庫を絞っているため需給が逼迫しているという見立てもある。石油化学系資材(塗料・断熱材・発泡スチロール等)は建設業団体の緊急調査で30〜80%の急激な上昇が報告されており、原油という一つの上流要因が、輸送・建材・住宅設備という異なる下流にそれぞれ別の経路で伝わっている構図が見える。
誰が値上げを決めているか——セメント2社の連続改定とLIXIL・TOTOの品目別スケジュール
上流の価格決定を具体的に見ると、UBE三菱セメントと太平洋セメントは2026年4月・5月にそれぞれ発表を出し、2027年4月1日荷渡し分からセメント・固化材をトン当たり3,000円以上値上げすると予告した。両社は2022年以降すでに複数回の改定を重ね、2025年4月出荷分でもトン2,000円の値上げを実施している。UBE三菱セメントは自社の公表資料で「2030年までに想定しているコスト上昇をトン当たり少なくとも5,000円以上」と見積もっており、今回の3,000円はその途中段階だと説明している。住宅設備・建材側でも動きは同時に進む。LIXILは2026年5月18日、水まわり・タイル商品を8月3日受注分から(トイレ・浴室は平均13%程度、水栓金具8%程度)、外壁・屋根を9月1日受注分から13%程度、住宅サッシ・ドアやインテリア建材を10月1日受注分から13〜15%程度値上げすると発表した。TOTOも2026年12月1日受注分から衛生陶器13%・ユニットバス8%等の値上げを予定しており、10月1日から見積り開始・11月30日受注分までが現行価格という移行スケジュールを示している。値上げは一度に来るのではなく、品目ごとに数カ月おきに段階的に届く。
資材だけでなく人も足りない——技能者高齢化と時間外労働の新しい上限
建材の話は人手不足の話と切り離せない。総務省「労働力調査」(令和6年平均)によれば建設業の技能者のうち60歳以上が25.8%、30歳未満はわずか11.7%にとどまる。この構造の中で、2024年4月1日、建設業にも時間外労働の上限規制が適用された(他業種より5年遅れの適用で、いわゆる「建設業2024年問題」)。原則は月45時間・年360時間、特別条項付きでも年720時間以内・複数月平均80時間以内・月100時間未満(休日労働含む)・月45時間超は年6回まで、という枠組みだ。日本建設業連合会が2026年5月11日に発表した調査(会員59社、3億円以上の土木工事1,719現場が対象)では、原則ルールに抵触する現場が42%と前年から3ポイント上昇し、発注機関別では国土交通省の道路・河川工事で48%(前回37%)まで悪化していた。人が足りないまま工期の枠だけが厳しくなれば、答えは「追加の人員を確保する」しかなく、それは単価の上昇に直結する。国土交通省によれば公共工事設計労務単価は平成24年から令和7年までの13年間で全国全職種平均約90%上昇しており、2026年3月適用分は14年連続の上昇となった。
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国が示した「適正な労務費」という新ルール——2025年12月の基準値と禁止事項
この状況を受けて、中央建設業審議会は2025年12月2日、「労務費に関する基準」を作成・勧告した。第三次・担い手3法(令和6年法律第49号による建設業法等改正)に基づく制度で、全面施行は2025年12月12日。基準の考え方は単純で、「適切な職種の公共工事設計労務単価(円/人日)×施工条件に照らして適正な歩掛(人日/単位施工量)」で計算した額を、その工事に必要な労務費の目安とする。専門工事業団体・元請団体・国土交通省による「職種別意見交換会」を型枠・鉄筋・住宅分野から25回重ねた上で、2025年12月までに13職種分野99工種(作業)について具体的な基準値が公表された(建設業許可29業種のうち15業種の一部作業に対応)。改正建設業法は、この基準を著しく下回る見積り・契約締結を禁止し、材料費・労務費を内訳明示した見積書の作成を努力義務化した。総価一式契約という建設業特有の慣行の中で労務費が「削りやすい部分」として扱われてきた構造に、初めて数字の下限を示した点が新しい。
それでも転嫁は道半ば——原材料55.7%、労務費50.0%という格差
基準ができたことと、実際に価格が通ることは別の話だ。中小企業庁の価格交渉促進月間(2026年3月分・2026年6月26日公表)調査では、コスト要素別の転嫁率は原材料費55.7%に対し労務費は50.0%、エネルギーコストは48.9%。原材料費より労務費の転嫁が5ポイント以上低く、人件費の上昇分を価格に反映しきれていない構図が続いている。官公需に限ると転嫁率は48.4%で、前回の52.1%から4ポイント低下し、特に市区町村発注では45.7%まで落ち込んだ。さらに、同サイトが示す2025年3月調査時点のデータでは、サプライチェーンの階層が深くなるほど転嫁率が下がる傾向が明示されている。1次請けの転嫁率は5割超に対し、4次請け以上は4割程度にとどまり、4次請け以上では「全額転嫁できた」企業が1.5割程度、「全く転嫁できなかった・減額された」企業が3割近くに達する。基準値という「相場観」ができても、それが下請けの深い層まで届くかどうかは、この先も継続的に確認すべき論点として残る。
倒産という結果——建設業2,021件のうち、人手不足型は初の100件超
転嫁できない負担は最終的に経営を圧迫する。帝国データバンクの「建設業」倒産動向(2025年)によれば、2,021件の倒産のうち、人手不足を直接要因とする「人手不足倒産」は前年の99件から113件に増え、建設業として初めて100件を超えた。一方「物価高倒産」は240件で前年の250件から減少しており、これは鋼材・木材価格の上昇に一服感が出たことが背景と分析されている。同社の別調査(人手不足倒産の動向調査2025年)では、全業種の人手不足倒産427件(前年342件・+24.9%)のうち77.0%(329件)が従業員10人未満の小規模企業に集中していた。もう一つ見逃せないのが、建設業の経営者の「病気・死亡」を主因とする倒産が78件で2000年以降最多となった点だ。建設業の社長の平均年齢は60.3歳(2025年3月時点)で、1995年比+6.1歳という高齢化の進み方は不動産業に次いで大きい。価格・人手・経営者の年齢という三つの制約が、同じ業界の同じ時期に重なっている。
中小が最初に決めること一つ目——見積書に材料費と労務費を内訳で書く
ここまでの数字を踏まえると、建材を仕入れて工事を請け負う中小企業がまず着手すべきは、総価一式の見積りから、材料費・労務費を内訳明示した見積書への切り替えだ。改正建設業法(第20条)はこれを努力義務としており、罰則はないが、労務費に関する基準を著しく下回る見積り・契約は禁止されるため、内訳がなければ「著しく下回っているかどうか」自体を発注者側も判断できない。国土交通省の基準値ポータルサイトでは、施工場所の都道府県に対応する公共工事設計労務単価と職種ごとの標準的な歩掛を組み合わせた基準値が公開されており、型枠・鉄筋・住宅分野など先行して意見交換が行われた職種ではすでに具体的な数値が示されている。自社の見積りをこの基準値と並べて説明できる状態にしておくことが、価格交渉の出発点になる。労務費だけでなく、材料費についても、いつのメーカー発表・いつの受注分から新価格が適用されるかを記録し、根拠として提示できるようにしておく必要がある。
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中小が最初に決めること二つ目——メーカーの値上げ実施日から発注者との交渉日を逆算する
もう一つの実務は、時間軸の管理だ。セメント2社は2027年4月1日荷渡し分、LIXILは商品ごとに2026年8月・9月・10月受注分、TOTOは2026年12月1日受注分と、値上げの実施日はすでに公表されている。長期の工期を持つ工事では、契約時点の想定価格と実際の調達価格の差が開きやすく、改正建設業法は請負金額や工期に影響を及ぼす事象が発生する可能性がある場合の発注者への事前通知を求める方向で運用の重みを増している。つまり「値上げが実施されてから困って相談する」のではなく、メーカーの発表時点で、自社が抱える工事のうちどの契約が影響を受けるかを洗い出し、発注者への通知・見積りの見直しのタイミングを先に決めておく必要がある。価格交渉促進月間は毎年3月・9月に固定されているため、メーカーの値上げ実施日とこの月間のタイミングを合わせて交渉のスケジュールを組む、という逆算の発想が実務上は現実的だ。
表層ニュースで起きやすい誤読——「資材が下がれば楽になる」ではなく供給そのものが制約になりつつある
建材業界に新しく関わる人が誤解しやすいのは、「価格が落ち着けば元に戻る」という前提だ。実際には、業界メディアの分析では、骨材(砂利・砕石)を運搬する船舶の重油不足によって生コンクリートの生産が止まりかねないリスクが2026年5月以降に指摘されており(この点は日経ビジネスの報道を引用した二次情報であり、一次資料での確認は済んでいないため参考情報として扱う)、これは「価格の問題」ではなく「供給できるかどうかの問題」への質的な変化を示す事例として紹介されている。人の面でも同様で、技能者の絶対数が急に増える見通しはなく、日建連の調査では資機材を運ぶ物流業も建設業と同時に時間外労働の上限規制の対象となり、運搬費・資機材コストが1〜2割上昇した現場が39%に上ったと報告されている。価格が一時的に落ち着く局面があっても、供給できる量そのものが増えるわけではない、という前提で在庫・工期・発注ロットを組み直す発想が必要になる。
この先の分岐——2027年4月の一斉値上げと、基準値が広がるかどうか
今後の分岐点は大きく二つある。一つは2027年4月、セメント大手2社が予告するトン3,000円以上の値上げが実際に一斉実施されるかどうかだ。信用調査会社の分析では、近年の値上げは以前より受け入れられやすくなっている一方、発表から実施までのタイムラグが長く、交渉に時間がかかる上に開始時期もばらつきがあるため、一斉実施できるかは不透明だとされている。もう一つは、2025年12月にできた「労務費に関する基準」が、現在13職種99工種にとどまる基準値をどこまで拡大し、下請けの深い階層まで実効性を持って浸透させられるかだ。国土交通省は基準を著しく下回る見積り・契約への指導・監督や、「建設Gメン」による個別契約の調査といった実効性確保策を並行して用意しているが、制度が始まって間もないため、2026年内にどの程度定着するかはまだ検証段階にある。値上げの通知と基準値の拡大、この二つのカレンダーを両方見ながら、自社の契約更新のタイミングを合わせていくことが、次の1年の実務になる。
よくある質問
Q. 建設資材の価格は今後下がる見通しはあるのか?
2026年8月時点で下落を示す材料は見当たらない。民間の建設資材物価指数は19カ月以上連続で上昇し最高値を更新中で、セメント大手2社は2027年4月出荷分からの追加値上げを予告している。中東情勢に伴う原油価格の不透明感が続く限り、石油系資材を中心に高止まりが続くとみられている。
Q. 「労務費に関する基準」ができたことで、下請けへの支払いはすぐ改善するのか?
すぐには改善しない可能性が高い。基準は2025年12月にできたばかりで、対象は建設業許可29業種のうち15業種の一部(13職種分野99工種)にとどまる。2026年3月調査では労務費の価格転嫁率は50.0%で、下請けの階層が深くなるほど転嫁率が下がる傾向も別途確認されている。
Q. LIXILやTOTOの値上げはいつから効いてくるのか?
品目によって時期が異なる。LIXILは水まわり・タイル商品が2026年8月3日受注分、外壁・屋根が9月1日受注分、住宅サッシ・ドア・インテリア建材が10月1日受注分から値上げされる。TOTOは2026年12月1日受注分から住宅設備機器を値上げする予定で、10月1日から新価格の見積りが始まる。
Q. 中小の建設業者はなぜ倒産が増えているのか?受注が減っているからか?
受注の有無よりも、人件費・建材費の上昇に価格転嫁が追いつかないことと人手不足が主因とされる。2025年の建設業倒産2,021件のうち、人手不足を直接要因とする倒産は113件で業種として初めて100件を超えた一方、資材価格上昇による「物価高倒産」はやや減少している。
主な出典
本稿はAtlas DataLakeの一次情報ファクト(industry-vertical/construction/housing・general-contractor セル等)に加え、国土交通省・中小企業庁・帝国データバンク・セメント各社・LIXIL・TOTOの公開一次情報を参照して作成した。業界メディアの分析に基づく数値(個別品目の価格上昇率等)は本文中に出典と留保を明示している。
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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。
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