キッコーマンは醤油の会社ですが、稼ぎの中心はすでに海外にあります。2026年3月期の連結売上収益は7,455億3,900万円。ファクトブック上の所在地別では、海外売上収益が5,830億8,000万円で全体の約78%です。本記事では、まず直近の数字表を置き、1917年の野田醤油設立から1973年の米国ウィスコンシン工場、現地レシピ戦略と円安・原料高の影響までをわかりやすく解説します。

当コラムで注目する用語

  • 売上収益:IFRSの連結売上に相当する開示項目。
  • 事業利益:売上収益−売上原価−販管費。キッコーマンが本業の稼ぐ力として使う指標。
  • 海外食料品製造・販売:海外での醤油・デルモンテ等の製造販売セグメント。
  • 海外食料品卸売:国内外で東洋食品等を仕入れて売る卸売セグメント。
  • 所在地別海外比率:日本/海外の所在地で分けた売上の割合。
  • 現地化:現地生産・現地雇用・現地レシピで食習慣に入れる戦略。

まず見る:2026年3月期の全体像

指標(2026年3月期)金額・比率前期比など
連結売上収益7,455億3,900万円+5.2%
事業利益795億1,200万円+2.9%
営業利益759億4,000万円+3.0%
親会社帰属当期利益616億1,500万円△0.1%
所在地別・海外売上5,830億8,000万円(約78%)日本1,695億8,000万円
所在地別・海外事業利益715億8,000万円(約90%)海外が利益の大半

「海外比率7割超」は、所在地別の売上で見ると約78%です。利益ではさらに海外比重が高く、事業利益の約90%が海外側に寄ります。醤油メーカーという社名イメージと、数字の重心は一致しません。国内の醤油棚だけで会社を見ると、規模感を取り違えます。

ご担当者様が稟議で使うなら、「醤油=国内中心」ではなく、「海外製造と海外卸売の二層」と書いてください。二層のどちらが案件の相手かを先に固定すると、見積と与信の前提が決まります。

セグメント別:国内製造・海外製造・海外卸売

セグメント(2026年3月期)売上収益前期比事業利益前期比
国内食料品製造・販売1,601億3,800万円+3.8%98億8,600万円+15.9%
海外食料品製造・販売1,735億600万円+3.8%409億2,900万円+2.7%
海外食料品卸売4,329億4,100万円+6.2%306億6,800万円+0.8%

売上の最大塊は海外卸売です。4,329億円は、北米・欧州・アジア・オセアニアで東洋食品などを仕入れて売る事業です。製造の海外1,735億円と合わせると、海外側の売上は国内製造を大きく上回ります。国内製造1,601億円は、グループの「顔」ではあっても、売上の最大ではありません。

一方、利益率の見え方は違います。海外製造の事業利益409億円は、売上規模に対して厚いです。海外卸売は売上最大でも、事業利益は306億円です。国内製造は売上1,601億円に対し事業利益99億円前後で、価格改定の寄与が短信で語られています。

例えば「海外が強い」と一口に言っても、製造の利益率と卸売の売上規模は役割が違います。提案資料では、どちらと組む話かを分けて書いてください。卸売は仕入販売なので、在庫回転と取引先与信の話が先に出ます。

なぜ海外比率が7割を超えたのか:数字の分解

海外比率が高い理由は、3つに分解できます。(1) 1973年以降の現地製造で醤油そのものを現地需要に合わせて供給できるようになったこと。(2) 卸売が日本食・アジア食の流通を広げ、製造より大きな売上塊になったこと。(3) 国内しょうゆ市場が成熟する一方、海外の家庭用・業務用が積み上がったこと。

所在地別で海外約78%、事業利益で海外約90%という数字は、売上の拡大だけでなく、海外製造の利益貢献が厚いことを示します。国内は増収でも、グループ全体の利益構造は海外依存です。依存を悪い意味だけで読まず、「どこで稼いでいるか」の地図として使ってください。

円安は換算を押し上げますが、短信や解説では、為替を除いても海外需要が堅調だった、という読み方が示されます。ただし為替前提は毎期変わるので、来期計画の想定レートも併記してください。想定レートが変わると、見た目の成長率が変わります。

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1917年設立から1973年ウィスコンシン工場まで

キッコーマンのルーツは1917年の野田醤油株式会社設立に遡ります。醤油の製造販売を軸に、国内でブランドを育てたあと、海外は輸出から入りました。歴史は長いですが、海外比率の決定打は1970年代の現地生産です。

1957年、米国に販売会社を設立し、日本から醤油を輸出して市場を育てます。需要が増えると、海上運賃・関税・在庫の負担が効くため、瓶詰めの現地委託を経て、一貫生産へ進みます。輸出赤字のままでは規模が伸びない、という現実が現地工場の動機でした。

1973年6月、ウィスコンシン州ウォルワースの工場が稼働し、Made in USAの醤油が出荷されました。公式の海外展開史では、「キッコーマンのアメリカ工場ではなく、アメリカのキッコーマン工場」という当時の社長挨拶が残っています。経営の現地化——地元企業との取引、現地社員の登用——が方針として語られます。

1998年にはカリフォルニア州フォルサムに第2工場も開設されました。北米の製造拠点が、その後の海外比率の土台です。製造が安定すると、卸売の品揃えも広げやすくなります。

海外で醤油を食習慣に入れる戦略

海外製造の短信では、北米の家庭用で主力醤油に加え、醤油ベースの調味料を拡充した、と説明されています。加工・業務用では顧客ニーズに合わせた対応が寄与した、とも書かれます。家庭用と業務用を同時に厚くするのが、浸透の型です。

欧州ではドイツ、フランス、イタリア、オランダなど主要市場が前年を上回った、と短信にあります。アジア・オセアニアではインドネシア、フィリピン、中国などで売上を伸ばした、とされています。地域ごとに伸び方が違うので、北米一本で海外を語らないでください。

戦略の要点は、醤油を「日本の調味料」として置くだけでなく、現地の肉料理・卵料理・サラダなどに入るレシピを先に作ることです。公開の回顧でも、現地専門家によるレシピ開発が家庭浸透の手段として語られます。例えばテリヤキは、醤油を肉の味付けに載せる入口になりました。

卸売側は、日本食レストランや小売のアジア食品コーナー向けに、醤油以外の東洋食品もまとめて届けます。製造がブランドを作り、卸売が棚と厨房の幅を広げる、という役割分担です。将来も、この二層が海外比率を支える構図です。

円安・原料高が採算に与えた影響

2026年3月期は、世界的なインフレや中東情勢の不透明感が続く中でも、国内外で増収となりました。国内食料品製造は価格改定の効果が事業利益の伸び(+15.9%)に表れています。国内は売上より利益の伸びが大きい点が特徴です。

海外は、円安による換算増と、現地通貨建ての需要増が重なります。読み方を誤ると、「円安だけで伸びた」になります。実務では、為替影響を除いた現地ベースの伸びと、換算影響を分けて見る必要があります。

原料高は、しょうゆの大豆・小麦や、卸売の仕入商品に効きます。短信は地域別の需要を中心に語り、原料コストの詳細は注記・説明資料で確認してください。ご担当者様が競合比較をするなら、価格改定の有無と、海外製造の事業利益率をセットで見てください。利益率だけを切り取ると、卸売の役割を見落とします。

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キッコーマンを読むときの注意点

1つ目は、海外比率の定義です。所在地別(日本/海外)と、セグメント別(国内製造/海外製造/海外卸売)は切り口が違います。7割超は所在地別の約78%で説明できます。資料に「海外比率」と書くときは、定義を括弧で添えてください。

2つ目は、売上最大が卸売であることです。醤油工場だけの会社ではありません。卸売は仕入販売なので、利益率の議論は製造と分けます。

3つ目は、親会社帰属利益がほぼ横ばい(△0.1%)であることです。売上・事業利益が増えても、当期利益は別要因で動き得ます。増収増益を営業利益までで止めて読むか、当期利益まで見るかを先に決めてください。

実務で最初に確認すること

(1) 直近通期の売上・事業利益・当期利益。(2) 所在地別の海外比率。(3) 3セグメントの売上と事業利益。(4) 北米製造の歴史(1973年ウォルワース)。(5) レシピ・業務用の説明が短信のどこにあるか。(6) 来期の想定為替。

この6点が揃えば、「醤油メーカーなのに海外7割超」の理由を、数字で説明できます。将来の見通しも、国内しょうゆの成熟と海外製造・卸売の積み上げ、という骨格で語れます。会議では、まず表の2枚(全体像とセグメント)を共有すると、議論が速くなります。表のあとに歴史を置くと、聴き手が数字の意味を取り違えにくくなります。

取引先・競合比較で使うときの使い方

食品メーカーの海外展開を語るとき、キッコーマンは「現地製造+卸売」の教科書例です。製造だけの会社や、輸出だけの会社と比べるなら、所在地別海外比率と、卸売売上の有無を先に揃えてください。数字の単位(百万円)も、比較表の冒頭で揃えておきます。

ご担当者様が競合表を作るなら、列は「海外売上比率/海外製造の有無/卸売の有無/直近の価格改定」の4つで足ります。例えば卸売が大きい相手には、物流と与信の提案が刺さりやすく、製造が厚い相手には品質・規格の話が先です。

読み解きのポイント ①売上7,455億円・海外所在地別約78% ②海外卸売4,329億円が最大塊 ③海外製造の事業利益409億円が厚い ④1973年ウィスコンシン稼働 ⑤定義は所在地別とセグメント別を混同しない

キッコーマンを見るときは、醤油の歴史と、海外製造・卸売の数字をセットで読んでください。

よくある質問

Q. キッコーマンの海外比率はどの数字ですか?

2026年3月期ファクトブックの所在地別では、海外売上収益が約78%です。事業利益では海外が約90%です。

Q. 売上でいちばん大きいのはどの事業ですか?

海外食料品卸売で4,329億4,100万円です。海外製造は1,735億600万円、国内製造は1,601億3,800万円です。

Q. 米国の工場はいつからですか?

ウィスコンシン州ウォルワースの工場が1973年6月に稼働しました。1998年にカリフォルニア州フォルサムの第2工場も開設されています。

Q. 海外で醤油はどう浸透しましたか?

現地生産に加え、現地の料理に入るレシピ開発や、醤油ベース調味料の拡充、業務用対応が短信・公開史で語られます。

主な出典

キッコーマン「2026年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」/キッコーマン「ファクトブック」(2026年3月期・所在地別売上・事業利益)/キッコーマン公式「北米、ヨーロッパ、アジアへ」(ウィスコンシン工場1973年・フォルサム1998年)/調査時点:2026年8月14日。

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