「ホシザキ」の氷を見たことがある人は多いが、会社の実態を知る人は少ない。愛知県豊明市に本社を置くホシザキ株式会社は、全自動製氷機で国内シェア59.1%、業務用冷蔵庫で46.4%を握る業務用厨房機器の国内最大手であり、2025年12月期の連結売上高は4,858億9,000万円、その53%超を海外で稼ぐ多国籍企業でもある。1947年に名古屋で創業した自動販売機メーカーが、なぜここまでの規模と海外比率を持つに至ったのか。本稿では2025年12月期決算の4つのセグメント、同社史上最大の買収、そして2018年に発覚した不適切取引という「数字の裏側」を一つずつ分解しながら、ホシザキという会社の輪郭をたどる。
ホシザキ要点数値(2025年12月期・一次資料)
4,858億9,000万円 2025年12月期売上高(前期比+9.1%・過去最高)|10.7% 同期営業利益率|53.3% 海外売上高比率(森が自算)|560億9,900万円 米ショーケース大手SCC買収の取得対価(2025年7月)
4,858億9,000万円——2025年12月期、過去最高売上の四つの顔
2026年2月13日に発表された決算短信によれば、ホシザキ株式会社(東証プライム・名証プレミア上場、証券コード6465)の2025年12月期(2025年1月〜12月)の連結売上高は4,858億9,000万円で、前期比9.1%増となり過去最高を更新した。営業利益は519億3,200万円(同1.7%増)、経常利益は563億500万円(同1.9%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は381億4,800万円(同3.3%増)だった。会社はのれん等の償却費と超インフレ会計の影響を除いた「調整後営業利益」も指標として開示しており、これは610億9,400万円(同5.5%増)で、会計上の営業利益より実力に近いとされる。売上が9.1%伸びたのに対し営業利益の伸びが1.7%にとどまった理由は一つではない。日本・米州・欧州・アジアの4セグメントが、それぞれ異なる理由で数字を動かしたためだ。以下、セグメントと製品、そして買収という切り口で4,858億円の中身を解剖する。
59.1%と46.4%——製氷機と冷蔵庫、二つの国内シェアの意味
ホシザキ公式サイトによれば、全自動製氷機の国内シェアは59.1%、業務用冷蔵庫は46.4%で、いずれも一般社団法人日本冷凍空調工業会の自主統計(2024年度・4月〜3月の国内出荷台数)に基づく自社算出値である。製氷機は単独ブランド別でのシェアであり、飲食店・医療機関・宿泊施設に「ホシザキの氷」という言葉が定着するほど浸透している。この2製品が主力になった経緯は古い。1947年2月、名古屋市で「星崎電機株式会社」として設立された同社は、当初はジュース自動販売機(1957年発売)を手がける会社だった。転機は1964年、日本初の全自動製氷機を開発し、1965年1月に発売したことである。その後1972年には製氷機で培った冷却技術を応用して冷蔵庫事業に進出し、2005年には業界初とされるインバーター制御業務用冷蔵庫を投入した。「一つの製品で技術を確立し、隣接製品に横展開する」という成長パターンが、後の食器洗浄機・ディスペンサ事業にも繰り返され、現在の主力4製品群の骨格を作った。
53.3%——電機メーカーからフードサービス機器の多国籍企業への転換
2025年12月期の外部顧客向けセグメント売上高を合算すると、海外3地域(米州1,211億8,300万円・欧州576億4,800万円・アジア803億1,900万円)の合計は2,591億5,000万円(森が自算)に達し、連結売上高4,858億9,000万円に対する海外比率は約53.3%になる。国内の電機メーカーから海外比率5割超の多国籍企業へ変わった転換点は、社名の変遷そのものに刻まれている。1989年12月に社名を「ホシザキ電機株式会社」に統一した後、2006年に米ディスペンサー大手LANCER CORP.、2008年にデンマークのGRAM COMMERCIAL A/Sを相次いで完全子会社化するなど海外M&Aを積み重ねた。そして2016年7月1日、事業領域が電気機器に留まらない実態に合わせるため「電機」を外し「ホシザキ株式会社」(英文:HOSHIZAKI CORPORATION)に社名を変更した。単なる呼称の整理ではなく、「日本の電機メーカー」から「世界のフードサービス機器メーカー」への自己認識の転換を映す出来事だった。
817億1,900万円、前年比+18.1%——アジアセグメントを支えるインドという賭け
2025年12月期のアジアセグメントは売上高817億1,900万円(前年同期比18.1%増)、セグメント利益144億3,000万円(同25.0%増)と、4セグメント中もっとも高い成長率を記録した。決算短信は「インドを中心に、冷蔵庫等の販売が好調に推移した」と説明する。この事業の起点は2013年1月10日にさかのぼる。ホシザキ電機(当時)は、インド・マハーラーシュトラ州の業務用冷蔵庫メーカーWestern Refrigeration Private Limited(当時売上高約46億9,000万円)の株式50.01%を第三者割当増資と既存株主からの一部取得によって取得し、子会社化した。当時の発表では「今後4年間で100%の株式を段階的に取得する」方針が示されており、成長市場に長期でコミットする意思決定だったことがわかる。買収から12年を経て、インド事業はアジアセグメント全体の成長エンジンとして、いまグループの数字を動かす存在になっている。
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14億6,100万円、前年比▲54.6%——欧州セグメントが映すトルコの数字
一方、欧州セグメントは2025年12月期に売上高591億2,700万円(前年同期比7.4%増)と増収を確保したものの、セグメント利益は14億6,100万円(同54.6%減)と大きく落ち込んだ。決算短信は「トルコにおいては、超インフレ経済環境下によるコストアップの影響に加え、超インフレ会計の適用に伴う損益への影響も受けた」と説明する。トルコ子会社オズティ(Öztiryakiler Madeni Eşya Sanayi ve Ticaret Anonim Şirketi、1958年創業、イスタンブール本社)は、ホシザキが2019年11月に出資を開始し、2024年1月1日(みなし取得日)・同年3月4日(株式取得日)に議決権比率を11.21%追加取得して51%まで引き上げ、連結子会社化した企業である。トルコ国内に加え欧州・中東・アフリカ・アジア市場にも販売網を持ち、欧州向け冷蔵庫のラインナップ強化やアジア向け食器洗浄機の供給拠点としてグループ内シナジーを担う一方、トルコの3年累積インフレ率が100%を超えたことで国際会計基準(IAS第29号)の超インフレ会計を適用せざるを得ない状況にあり、これが欧州セグメントの利益を直接押し下げた。
560億9,900万円——ホシザキ史上最大の買収が動かした米州セグメント
米州セグメントは売上高1,219億1,300万円(前年同期比12.5%増)と大幅増収だったが、セグメント利益は110億600万円(同2.6%減)と減益になった。決算短信は「買収関連やERPシステム導入に伴う一時的な費用に加え、人件費等のコストアップの影響を受けた」と説明する。ここでの「買収」とは、2025年6月12日の取締役会決議に基づき、米ミシガン州の食品ショーケースメーカーStructural Concepts Corporation(SCC、スーパーマーケット・コンビニ・カフェ・レストラン向けに展開)の親会社SC Holding Corp.を、2025年7月31日付で全株式取得(取得議決権比率100%)したことを指す。取得対価は現金560億9,900万円、発生したのれんは暫定540億4,000万円で、公表資料で確認できる範囲ではホシザキ史上最大規模の買収である。連結決算に貢献したのは2025年10〜12月の第4四半期のみだが、これによって同社の米国事業ラインナップは食品ショーケースという新たな製品カテゴリーまで広がった。
17,041人と1,157人——連結従業員と単体従業員の差が語る「直販網」の強さ
有価証券報告書によれば、2025年12月31日現在の従業員数は連結17,041人(前年比+980人)に対し、ホシザキ株式会社単体では1,157人(前年比+2人)にとどまる。両者の差、約1万6,000人の大半は、国内の販売子会社と海外の現地法人が抱える人員である。地域別では日本8,862人・米州3,452人・欧州2,121人・アジア2,606人で、国内従業員の多くはホシザキ本体ではなく「ホシザキ東京」「ホシザキ東海」「ホシザキ京阪」など地域別の販売子会社に所属している。この体制は、家電量販店やECを介さず、地域販売子会社が顧客(飲食店・医療機関・宿泊施設等)を直接訪問して営業・設置・保守を行う「直販網」モデルによるものだ。据付作業やアフターサービスの比重が大きい厨房機器では、この直販網が競合との差別化要因になっている一方、後述する2018年の不適切取引問題の背景の一つにもなった。
98人という数字——2018年、過酷な営業目標が生んだ不適切取引
2018年9月、連結子会社ホシザキ東海(名古屋市)の過去の取引について内部通報があり、実態のない工事発注等の疑義が発覚した。会社は同年11月1日に社外有識者を中心とする社内調査委員会を設置し、12月5日の調査報告書ではホシザキ東海で総勢70名の営業担当者が関与する不正・不適切な取引が確認された。しかし2018年12月期の決算監査を進める中で、監査法人トーマツが第4四半期まで同様の行為が継続していたことを発見。ホシザキは2019年2月25日、社外有識者(弁護士・会計士)のみで構成する第三者委員会を新たに設置し、国内の全販売子会社を対象に再調査した。2019年5月7日公表の調査報告書では、ホシザキ東海で98名の営業担当者が関与する「貸し借り」(原価の付け替え)に加え、ホシザキ北海道・北関東・阪神・中国の4販社でも同様の事例が確認された。報告書は、週2回の「成約デー」に象徴される過酷な営業目標の運用が、未成約案件を売上として先行計上する「空売り」を組織的に許容する風土を生んだと指摘している。財務諸表の訂正は行われなかったが、2018年12月期の売上高2,927億円・純利益257億円はともに当時の過去最高であり、不正の発覚が業績の急落と直結したわけではない点も記録しておく必要がある。
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10.7%と6.4%——競合フジマックとの営業利益率の差はどこから来るか
同じ業務用厨房機器業界の上場企業として比較されるのがフジマック(東証スタンダード、証券コード5965)である。フジマックの2025年12月期の連結決算は、売上高474億3,600万円(前期比3.9%増)、営業利益30億4,100万円(同4.3%減、営業利益率6.4%)、純利益23億4,300万円(同3.4%増)だった。同じ2025年12月期で比較すると、ホシザキの売上高4,858億9,000万円はフジマックの約10.2倍、営業利益率はホシザキ10.7%に対しフジマック6.4%と4ポイント以上の差がある。差の一因は事業の広がり方にある。フジマックはスチームコンベクションオーブン等の熱機器・調理機器を中心に国内市場に強みを持つのに対し、ホシザキは製氷機・冷蔵庫という2つの国内トップシェア製品を土台に、米LANCER・デンマークGRAM・インドWestern Refrigeration・トルコ・オズティ・米SCCなど複数の海外買収で、販売網と製品ラインナップそのものを取り込んできた。なお、ガス給湯・厨房機器メーカーのリンナイ(2025年3月期・連結売上高4,603億1,900万円、海外売上高比率57.6%)も広い意味での近接業種として参照できるが、厨房機器専業でホシザキと同じ土俵にある上場企業としてはフジマックが最も近い。
結論を急ぐと見誤る点——ホシザキは「家電メーカー」でも「電機メーカー」でもない
「ホシザキ」という社名と、1989年から2016年まで使われていた旧社名「ホシザキ電機」という響きから、家庭用の白物家電メーカーだと誤解されることがある。実際には同社が扱う製氷機・冷蔵庫・食器洗浄機・ビールディスペンサーはいずれも飲食店・医療機関・宿泊施設向けの業務用機器であり、個人が家電量販店で購入する製品はほぼ存在しない。もう一つの誤解は、ダイキン工業やリンナイのような「総合空調・熱機器メーカー」の一つだと考えてしまうことである。ホシザキの事業はエアコンや家庭用給湯器ではなく、あくまで「食を扱う現場」に特化した機器・保守サービスに一貫している。この特化戦略こそが、1965年の全自動製氷機発売以来60年間、同社が守り続けてきた軸であり、2016年の社名変更で「電機」を外した理由も、この「フードサービス機器」への自己認識を明確にするためだった。
5,200億円という予想——2026年12月期に見る次の分岐
ホシザキは2026年12月期の連結業績予想として、売上高5,200億円(前期比7.0%増)、営業利益556億円(同7.1%増)、調整後営業利益682億円(同11.6%増)、純利益382億円(同0.1%増)を示している。前提となる為替レートは米ドル150円・ユーロ170円。この予想が示す分岐は二つある。一つは、2025年10〜12月期のみ連結されたSCCの業績が2026年は通年で反映されることによる米州セグメントの伸びで、買収関連費用が一巡すれば米州の利益率は回復に向かう可能性がある。もう一つは、トルコの超インフレがいつ収束するかという欧州セグメントのリスクであり、IAS第29号の適用が続く限り、会計上の利益は実態と離れた振れ方をし続ける。会社は2026年2月13日の取締役会で上限300億円・800万株の自己株式取得も決議しており、配当性向40%以上の方針とあわせ、海外買収で拡大したバランスシートを株主還元でも調整していく姿勢がうかがえる。読者企業にとっての含意は明確だ。海外M&Aで規模を追う成長企業ほど、決算の「見た目の増収」と「実態の収益力」の間にズレが生まれやすく、調整後営業利益のような会社独自の指標が何を除外しているかを読み解く視点が欠かせない。
よくある質問
Q. ホシザキはいつ、どのような会社として創業しましたか?
1947年2月5日、名古屋市で「星崎電機株式会社」として設立されました。ジュース自動販売機の製造から始まり、1965年1月の全自動製氷機発売が事業の転換点になりました。1989年12月に「ホシザキ電機株式会社」、2016年7月に「ホシザキ株式会社」へ社名を変更しています。
Q. 2025年12月期の業績はどうでしたか?
連結売上高4,858億9,000万円(前期比9.1%増・過去最高)、営業利益519億3,200万円(同1.7%増)、親会社株主に帰属する当期純利益381億4,800万円(同3.3%増)でした。海外売上高比率は約53.3%(森が自算)に達しています。
Q. ホシザキの国内シェアはどのくらいですか?
公式発表によれば、全自動製氷機の国内シェアは59.1%、業務用冷蔵庫は46.4%です(一般社団法人日本冷凍空調工業会自主統計・2024年度出荷台数基準)。
Q. 2025年の買収は何ですか?
2025年7月31日、米ミシガン州の食品ショーケースメーカーStructural Concepts Corporation(SCC)の親会社を全株式取得しました(取得対価560億9,900万円)。公表資料で確認できる範囲ではホシザキ史上最大の買収です。
Q. フジマックなど競合との違いは何ですか?
フジマックの2025年12月期は売上高474億3,600万円・営業利益率6.4%であるのに対し、ホシザキは売上高4,858億9,000万円・営業利益率10.7%です。製氷機・冷蔵庫の国内トップシェアと海外M&Aによる販売網拡大が、規模と利益率の差を生んでいます。
主な出典
ホシザキ株式会社「2025年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年2月13日・JPX開示)/ホシザキ株式会社 有価証券報告書 第80期(2026年3月25日提出・EDINET)/ホシザキ「事業ラインナップ」公式サイト/ホシザキ「数字で分かるホシザキ|採用情報」公式サイト/ホシザキ「沿革」公式サイト(Global)・EDINET DB沿革・IRBANK沿革データ/ホシザキ「商号の変更に関するお知らせ」(2016年2月10日)・「新商号への変更に関するお知らせ」(2016年9月21日)/ホシザキ「インドの業務用冷蔵庫メーカーの株式を取得し子会社化」グループ報告書(2013年4月)・日本M&Aセンター記事(2012年12月14日)/ホシザキ「トルコのフードサービス機器メーカーを連結子会社化」プレスリリース(2024年3月5日)/ホシザキ「当社子会社における不適切な取引行為判明による社内調査委員会設置に関するお知らせ」(2018年10月30日)/ホシザキ「第三者委員会の調査報告書公表等に関するお知らせ」(2019年5月7日)/日本経済新聞「ホシザキ、ホシザキ北海道など4販社で不正発覚」(2019年5月8日)/フジマック「2025年12月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」(2026年2月13日)/フジマック株式会社 有価証券報告書 第77期(EDINET)/Wikipedia「ホシザキ」/ぎょうかいダイジェスト「ホシザキ2025年12月期通期決算分析」/リンナイ株式会社 有価証券報告書 第75期(2024年4月〜2025年3月・EDINET)。金額は各社公表の億円・百万円単位を基本とし、一部は森が独立して換算・合算した数値には注記で「自算」と明示しています。
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