2026年7月、食品の値上げ要因のうち「包装・資材」が69.8%を占めました。8月も64.0%。帝国データバンクの調査で、この数字は過去最高水準で推移しています。「原材料が上がったから値上げ」という説明は聞き慣れていても、「包装が上がったから値上げ」という理由は意外に感じる人も多いはずです。震源は、ホルムズ海峡の混乱で急騰した石油化学製品の原料・ナフサです。この記事では、値上げの現場で語られている「包装・資材69.8%」という数字を出発点に、ナフサ→樹脂→フィルム・トレー→食品価格という経路を逆算しながら、6兆1,357億円規模の包装資材という産業の地図と、値上げと同時に「減量」も起きる理由、そして2026年に国内外で同時に動いた規制の転換点までを一次資料で整理します。

「値上げの7割は包装・資材」という数字から逆算する——2026年に何が起きているのか

帝国データバンクは主要食品メーカー195社を対象に、毎月「価格改定動向調査」を公表しています。2026年7月の調査では、値上げ要因のうち「原材料高」が92.5%で最多、次いで「物流費」71.9%、「包装・資材」69.8%(前年同月から10.5ポイント上昇)、「中東情勢」24.7%という順でした。8月の調査では「原材料高」90.9%、「物流費」65.8%、「包装・資材」64.0%、「中東情勢」27.8%と続いています。同社はさらに6月時点の速報で「『包装・資材』由来の値上げは全食品の7割を超え、過去最高水準で推移した」と総括しています。値上げの主因は原材料だが、包装・資材という「モノを包む部分」のコストだけでも、値上げ品目の6〜7割に食い込んでいる。これが2026年後半の食品価格を読み解く最初の手がかりです。ここから、なぜ包装資材のコストがここまで押し上げられているのかを、原因の側から逆算していきます。

逆算ステップ①:値上げの起点はどこか——ホルムズ海峡の混乱とナフサ価格の急騰

震源は中東情勢です。2026年、米国とイスラエルによるイランへの攻撃を発端に中東の地政学リスクが急激に高まり、ホルムズ海峡の航行が混乱しました。この影響で、石油化学製品の基礎原料であるナフサ(粗製ガソリン)の価格が急騰しています。アジア市場の指標であるスポット価格(東京オープンスペック)は、2026年の年初は1トン565〜590ドル程度と平時並みでしたが、3月に1,000ドルの大台を突破し、3月末には1,200ドル超まで急騰しました。円換算では2026年初の6万円台前半から4月には13万円台へ、スポットベースで2倍超に達しています。国内取引の基準となる国産ナフサ基準価格も、2026年1〜3月期は1キロリットル65,700円とほぼ横ばいでしたが、中東情勢を反映する4〜6月期には前期比で2倍近くまで上昇し、過去最高水準を更新しました。原油由来の原料が、輸入されて国内価格に反映されるまでには数カ月の時間差があり、この「高値の原料が今ちょうど製品価格に表れている」状態が、2026年後半の値上げラッシュの実体です。

逆算ステップ②:ナフサ高が樹脂に伝わる経路——エチレン稼働率67%という異常値

ナフサはエチレンなど石油化学製品の原料になり、そこから食品用フィルムやトレーの原料となる汎用合成樹脂(ポリエチレン・ポリプロピレン等)が作られます。石油化学工業協会の発表によれば、2026年4月のエチレン生産設備稼働率は67.3%と過去最低を更新し、5月も68.1%と低水準にとどまりました。原料のナフサを中東以外から確保する動きが進む一方、稼働率が上がらないほど供給不安が強かったことになります。この結果、汎用合成樹脂の取引価格は2026年3月比で3割上昇し、食品包装材を中心に値上げが広がったと報じられています。なお、6月下旬にはホルムズ海峡の通航正常化への期待からナフサのスポット価格は衝突前の水準近くまで下落しましたが、高値で調達した原料が国内に到着し製品化されるまでには時間差があるため、高値在庫の負担は当面残ると化学各社は説明しています。「原料価格が下がった」というニュースと「包装資材はまだ値上がりが続く」という現場の実感が、同時に成立してしまうのはこの時間差のためです。

2026年・値上げの逆算チェーン
2倍 国産ナフサ基準価格(1〜3月期→4〜6月期)|67.3% エチレン稼働率(4月・過去最低)|+3割 汎用樹脂取引価格(3月比)|69.8% 食品値上げ要因「包装・資材」(2026年7月・前年同月+10.5pt)

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紙の側でも起きている逆算——古紙は上がらないのに、なぜ紙製品は値上がりするのか

石油由来のプラスチックだけでなく、紙製の包装材でも値上げは進んでいます。ただし紙の場合、経路がプラスチックとは異なります。専門メディア「古紙ジャーナル」の集計では、2026年に入ってもアルミ・鉄くずなどの資源物価格が2〜3倍に跳ね上がる中、段ボール古紙の価格はそれほど上がっていません。実際、2026年7月積みの段ボール古紙の輸出価格(関東地区)は1キログラムあたり22.1円で、原料そのものが暴騰しているわけではありません。それでも紙製の包装材が値上げされるのは、①エネルギー・輸送費(重油・電気代)の上昇、②人件費の上昇、③段ボール原紙の需給を規定する設備の統廃合や更新投資という、原料以外のコスト要因が重なっているためです。日本製紙グループは新たな段ボール工場の建設や老朽化した加工機の更新、生産拠点の統廃合を進めており、王子ホールディングスも新聞用紙生産設備の停止など生産体制の最適化を進めています。「古紙は安いのに紙製品は上がる」という一見の矛盾は、原料費以外のコスト構造の変化を映しています。

包装資材業界の地図を描く——6兆1,357億円のうち、誰がどれだけ作っているのか

公益社団法人日本包装技術協会の統計によれば、2025年の日本の包装・容器出荷金額は6兆1,357億円(前年6兆1,079億円、前年比100.5%)、これに包装関連機械の生産金額5,309億円を加えた包装産業全体では6兆6,666億円になります。出荷数量は1,759.9万トンで前年比99.5%とわずかに減少しており、数量が減る一方で金額はほぼ横ばいから微増という「単価が上がっている」構図が続いています。材料別では、金額ベースで紙・板紙製品が長年最大のシェアを占め、次いでプラスチック製品、金属製品、ガラス製品という順です。2024年の統計では紙・板紙製品が前年より約6.7%増額して3兆円を超え、全体構成比も拡大した一方、プラスチック製品は金額・構成比ともに減少しました。プレーヤーの中心にいるのは、製紙から段ボール・紙器・軟包装までを一貫体制で手がける王子ホールディングス・日本製紙・レンゴーの3社です。レンゴーは自らを「ゼネラル・パッケージング・インダストリー(GPI)」と位置づけ、製紙・段ボール・紙器・軟包装・重包装・海外の6事業を軸に、フィルム包装から段ボール箱・パレット・包装システムまでを一括提案する体制を敷いています。同社は2030年3月期に売上高1兆2,000億円・経常利益720億円・EBITDA1,350億円・ROE8.5%を掲げる中期ビジョン「Vision120」を進行中です。王子ホールディングスは段ボールの国内生産シェア22.3%(2022年度・矢野経済研究所調べ)を持つ一方、脱プラスチック包装の技術を持つフィンランドのWalki社(2024年4月)、液体紙容器のイタリアIPI社(2023年5月)を買収し、プラスチック包装の紙化をグローバルに進めています。ここに、包装機械側のプレーヤーとして世界の多列計量・包装機で高いシェアを持つイシダ(1893年創業、旧社名は石田衡器製作所)のような企業も連なり、包装資材産業は原料メーカー・容器メーカー・機械メーカーが積み重なる多層構造になっています。

なぜ「値上げ」だけでなく「減量」も起きるのか——シュリンクフレーションという選択の逆算

帝国データバンクの調査は、価格を据え置いたまま内容量を減らす「実質値上げ」、いわゆるシュリンクフレーションも値上げ集計の対象に含めています。なぜ企業は本体価格を上げる代わりに、内容量を減らす選択をするのか。これも逆算すると理由が見えてきます。本体価格を上げると、店頭の「〇〇円」という表示が変わり、消費者の値上げへの反応(買い控え)が強く出ます。一方で内容量を減らせば、表示価格は変わらないまま、実質的に単価は上がります。特に包装資材のコストが上昇している状況では、内容量を減らすことは同時に「使う樹脂・紙の量そのものを減らす」効果も持つため、企業にとっては原材料費と包装費の両方を抑える一石二鳥の手段になります。帝国データバンクの分析でも、値上げ品目が最も少ない「乳製品」(64品目)について、「原料乳の価格据え置きなどを背景に値上げが比較的抑制されているものの、足元では飲料用紙パックの値上げなど包装・資材コストや輸送費、人件費など各種コストも上昇している」「中東情勢悪化による影響が長期化する場合、パック牛乳を中心に本体値上げや容量変更といった動きが活発化する可能性もある」と指摘されています。値上げが目立ちにくい分野ほど、次に動くのは「容量変更」だという読み方です。

直近の転換点①:国内——2026年4月施行、再生プラスチック利用の義務化

2026年4月、改正資源有効利用促進法が施行されました。この改正で、プラスチック製容器包装(飲料用ペットボトルを除く食品・医薬品等は対象外)が新たに「指定脱炭素化再生資源利用促進製品」に指定され、年間製造・輸入量が1万トン以上の事業者に、再生プラスチックの利用目標を定めた計画の策定と、その後の定期報告が義務化されました。最初の計画提出は2026年10月1日以後に開始する事業年度から適用され、原則として毎年度9月末日までに提出する仕組みです。従来の容器包装リサイクル法が「家庭から出た容器包装ごみの分別収集・再商品化」という出口側の仕組みだったのに対し、この改正は「製造段階での再生材利用」という入口側を規制する点が特徴です。対応が不十分な場合は主務大臣による勧告・公表・命令という段階的な措置が用意され、命令に違反すれば罰則(50万円以下の罰金)が科されます。なお、生鮮食品のトレーや惣菜・弁当容器のように汚れの付着や素材の混在でリサイクルが進みにくい食品用容器包装は、今回の改正の対象からは明確に除外されており(対象はプラスチック製容器包装全般〔食品用・医薬品用は対象外だが飲料用ペットボトルは対象〕・自動車・家電4品目)、この分野への対応は農林水産省の食品分野タスクフォース等で別途検討が続いている段階です。

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直近の転換点②:海外——2026年8月12日、EU PPWRが本格適用される

国内の規制強化とほぼ同じタイミングで、欧州でも大きな転換点が来ます。EUの包装・包装廃棄物規則(PPWR、Regulation (EU) 2025/40)は2025年1月22日に公布され、2025年2月11日に発効しましたが、主要な規定の本格適用は2026年8月12日です。この規則は、1994年制定の従来の包装廃棄物指令(94/62/EC)を置き換えるもので、包装材の設計段階からリサイクル可能性・リサイクル材含有率・廃棄物削減を義務化する点が特徴です。2030年からは一部の使い捨てプラスチック包装(ホテル・レストランの個包装調味料や、1.5キログラム未満の生鮮青果物向けの使い捨てプラ包装等)が禁止され、リサイクル材の最低含有率も包装の素材・用途カテゴリー別(接触感受性PET/非PET、使い捨て飲料用ボトル、その他プラスチック包装の4区分)に義務化されます。日本の包装資材メーカー・包装機械メーカーにとっては、EU市場向けの製品をモノマテリアル(単一素材)設計に切り替えたり、再生材の調達網を確保したりする対応が必要になります。国内の再生プラ利用義務化(2026年4月)と、EU PPWRの本格適用(2026年8月)が同じ年に重なったことで、包装資材業界にとって2026年は「規制対応の年」として記憶される可能性が高い年になっています。

2026年に重なった国内外の規制転換点
2026年4月 改正資源有効利用促進法施行(再生プラ利用計画・目標策定義務化)|2026年8月12日 EU PPWR主要規定 本格適用|2030年 EU 使い捨てプラ包装の一部禁止・リサイクル材最低含有率義務化

取り違えやすい一点——「包装資材の値上げ」は「メーカーの便乗値上げ」ではない

「食品が値上がりするたび、パッケージまで値上げの理由にされるのは便乗ではないか」という受け止め方をされることがありますが、これはこの記事で逆算してきた構造とは異なります。ナフサ価格の急騰は中東情勢という外部要因であり、国産ナフサ基準価格・エチレン稼働率・帝国データバンクの値上げ要因調査という複数の独立した一次データが、同じ2026年前半の時期に同じ方向で動いていることを示しています。むしろ理解しておくべきなのは、包装資材が食品コストの「見えにくい部分」だという点です。原材料(小麦・食用油・乳製品等)の値動きは消費者にも伝わりやすい一方、トレー・フィルム・段ボールのコストは商品そのものの品質と直接関係しないため、値上げ理由として説明されても実感が薄くなります。しかし2026年のように、値上げ要因の6〜7割を包装・資材が占める局面では、この「見えにくいコスト」が実は最大の変動要因になっています。包装資材業界の外にいる企業ほど、自社の商品コストのうち包装費が占める割合と、その変動要因を把握しておく必要性が高まっています。

これから数年の分岐点——モノマテリアル化・薄肉化・国内再編の行方

2026年のナフサ危機とEU PPWR・国内資源循環法制の同時進行は、包装資材業界に3つの方向性を示しています。第一に、複数素材を貼り合わせた複合包装から、リサイクルしやすい単一素材(モノマテリアル)への設計転換です。第二に、同じ強度・機能を保ちながら使用する樹脂・紙の量を減らす薄肉化・軽量化で、これは原材料コストの抑制と環境対応を同時に満たす技術投資になります。第三に、需要縮小と原料高が重なる局面での生産拠点の統廃合です。日本製紙グループは豪州Opal社でグラフィック用紙事業からの撤退(2023年)や非中核の製袋事業の譲渡(2026年)を進め、王子ホールディングスも新聞用紙生産設備の停止と大人用紙おむつ・家庭紙の生産体制再構築を進めています。一方で両社とも液体紙容器やサステナブルパッケージという高付加価値分野には海外企業の買収を含めて資源を投じており、「汎用品から退き、高付加価値品に寄る」という再編の方向性は共通しています。ホルムズ海峡情勢が落ち着けばナフサ価格は平常化する可能性がありますが、2026年4月・8月に定まった規制の枠組みは平常化しません。原料価格の逆算だけでなく、規制対応という時間軸でもこの産業を見ておく必要があります。

よくある質問

Q. 2026年に食品の値上げが増えているのは、包装資材のせいなのですか?

帝国データバンクの調査では、値上げ要因のトップは依然として「原材料高」(2026年7〜8月で90.9〜92.5%)です。ただし「包装・資材」も69.8%(7月)・64.0%(8月)と過去最高水準にあり、2番目以下の要因として大きな比重を占めています。震源はホルムズ海峡混乱によるナフサ価格急騰です。

Q. なぜ古紙の値段は上がっていないのに、紙製の包装は値上がりするのですか?

段ボール古紙の輸出価格(2026年7月・関東地区)は1キログラム22.1円程度で大きくは上がっていません。紙製包装の値上げは、原料費よりもエネルギー・輸送費・人件費の上昇や、製紙会社の生産拠点統廃合・設備更新といったコスト構造の変化が背景です。

Q. 「実質値上げ(シュリンクフレーション)」とは何ですか?

価格を据え置いたまま内容量を減らす手法です。帝国データバンクの調査でも値上げの集計対象に含まれています。包装資材コストが上昇している局面では、内容量を減らすことで樹脂・紙の使用量そのものを減らせるため、企業にとって原材料費と包装費を同時に抑える手段になります。

Q. 2026年に包装資材業界で起きている規制の変化は何ですか?

国内では2026年4月に改正資源有効利用促進法が施行され、プラスチック製容器包装に再生プラスチック利用計画の策定・報告が義務化されました。海外では2026年8月12日にEUの包装・包装廃棄物規則(PPWR)の主要規定が本格適用され、リサイクル可能な設計やリサイクル材の含有率が義務化されます。

Q. 包装資材業界の外にいる企業にも関係がありますか?

あります。日本の包装・容器出荷金額は6兆1,357億円(2025年)の規模があり、王子ホールディングス・日本製紙・レンゴーのような総合メーカーだけでなく、包装機械(イシダ等)や材料メーカーなど裾野の広い産業です。自社商品の原価に占める包装費の比率と、その変動要因を把握しておくことが、価格戦略やサプライヤー選定の判断材料になります。

主な出典

株式会社帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査(2026年6月速報・2026年7月・2026年8月)/公益社団法人日本包装技術協会「2025年日本の包装産業出荷統計」「2024年日本の包装産業出荷統計」/日本経済新聞「国産ナフサ価格、1〜3月ほぼ横ばい 中東危機で4〜6月は2倍弱上昇へ」「エチレン設備稼働率、5月68.1%で4月から改善」「ナフサ価格がアジアで下落、衝突前下回る」/石油化学工業協会 エチレン設備稼働率発表資料/古紙ジャーナル「古紙輸出価格動向」(2026年7月)/環境省・経済産業省「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」関連資料/環境省「資源有効利用促進法」改正関連資料(2026年4月施行)/EU PPWR Regulation (EU) 2025/40(EUR-Lex)/王子ホールディングス統合報告書2025・株主向け決算資料/日本製紙グループIR資料2025/レンゴー株式会社決算資料(2025年・Vision120)。金額は各社・各機関が開示する億円・百万円単位をそのまま使用しています。

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※2026年8月時点の情報をもとに作成しています。監修:森英朗。

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