値上げが通る商品と通らない商品の違いは、値上げ幅の大きさや説明の丁寧さではなく、顧客がその商品を選ぶ理由が価格以外に存在するかにあります。同じ原材料高・同じ値上げ率でも、選ぶ理由が価格しかない商品は数量を失い、価格以外の理由がある商品は数量を保ったまま価格を通せます。2026年の値上げラッシュのデータから、この分かれ目を具体的に見ていきます。

2026年、値上げは終わるどころかピークを迎えている

帝国データバンクの「食品主要195社」価格改定動向調査(2026年7月31日発表)によると、主要食品メーカー195社の家庭用を中心とした飲食料品の値上げは次の水準です。

時期値上げ品目数備考
2026年8月2,311品目前年同月(1,262品目)から83.1%増。1回あたり平均値上げ率15%
2026年9月4,531品目2026年内で最多。2023年10月(4,758品目)以来の水準
2026年10月2,720品目(見通し)高水準が連続する見込み
2026年通年1万8,347品目(1〜11月判明分)2022年以降5年連続で1万品目超。前年(2万609品目)を上回る可能性
出典:帝国データバンク「食品主要195社」価格改定動向調査(2026年7月31日発表)。価格据え置き・内容量減による実質値上げも品目数に含む

重要なのは、値上げの理由が変わってきていることです。同調査の2026年8月分では「原材料高」が90.9%で最多ですが3月以降は低下傾向にある一方、「物流費」65.8%、「包装・資材」64.0%が高止まりし、中東情勢に起因する値上げが27.8%を占めました。ナフサ由来のトレー・フィルム・容器のコスト上昇が、商品価格に表面化している状態です。

分野別では通年で加工食品6,667品目、調味料5,197品目、酒類・飲料3,274品目、菓子1,219品目と、日常的に買われるカテゴリほど値上げ品目が多いという構図になっています。

倉庫に積まれた食品用トレーとフィルムなどの包装資材

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生活者側では「慣れ」と「選別」が同時に進んでいる

ここで見誤りやすいのが生活者の反応です。単純な節約志向では説明できない動きが出ています。

① 値上げそのものへの驚きは薄れた

くふう生活者総合研究所が生活者8,383名に実施した調査では、物価上昇が始まった2022年頃と比べた変化として「何もかも値上げしているから仕方ないと諦めるようになった」が49.5%、「あらゆる物の価格がどんどん上がる状況に疲れた」が42.0%、「10円20円程度など少々の値上げに驚かなくなった」が36.2%を占めました。値上げは、それ自体では離反の引き金になりにくくなっています。

② そのぶん「何を買わないか」の選別が厳しくなった

一方で2026年上半期の支出は、全項目で「減らした」が「増やした」を上回りました(日本インフォメーション調査)。特に減少幅が大きいのは菓子・スイーツ(増減差-40.3pt)、外食(-38.9pt)、国内旅行(-32.8pt)で、投資・資産運用(-17.9pt)や預貯金(-17.8pt)の減少幅は相対的に小さい。楽しみは削るが将来の備えは守る、という選別が働いています。

博報堂生活総合研究所の消費意欲指数も2026年4月に44.8点=過去10年の同月最低を記録しました。まとめると、値上げは受け入れられているが、買う対象そのものが絞られているのが2026年の実態です。

この2つを混同すると打ち手を間違えます。「値上げに反発されている」なら説明と告知の問題ですが、「買う対象から外された」なら選ばれる理由の問題です。2026年に起きているのは後者です。

分かれ目:値上げを「価格の話」で通そうとするかどうか

通らない商品通る商品
選ばれている理由価格・容量・入手しやすさ用途・体験・信頼・置き換えられない機能
値上げ時の顧客の反応同カテゴリの安い代替に移る頻度を落としてでも同じものを選ぶ
社内の議論「いくらまで上げられるか」「何を変えれば納得されるか」
打ち手値上げ幅の調整・告知の工夫用途の再定義・パッケージ・棚での見え方の再設計
結果価格は上がるが数量が落ち、売上が減る価格が上がり数量は維持される
値上げの成否は、値上げの実行方法よりも「選ばれる理由」の設計で決まる

値上げが通らない商品の多くは、値上げの伝え方が悪いのではなく、値上げ前から価格しか選ぶ理由がなかったという状態にあります。この場合、価格改定と同時に「なぜこれを選ぶのか」を作り直さないと、どんな告知をしても数量は戻りません。

逆に言えば、値上げは自社の商品が何で選ばれているかを検査する機会でもあります。値上げして数量が落ちなかった商品は、価格以外の理由が機能している証拠です。

商品サンプルを前に価格改定を議論する社内会議

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実務でやること:値上げ前に確かめる3つ

  1. 受容価格を実測する:社内の勘ではなく、価格を振った状態で購入意向を測る。手順は価格受容性テストを参照
  2. 離反しても構わない層を決める:全員をつなぎとめる前提だと値上げ幅が中途半端になり、コストを吸収できない。残す層を決めるのが先
  3. 棚と売り場での見え方を同時に変える:価格だけが変わると比較の軸が価格に固定される。パッケージ売り場での訴求を同時に動かす

包装資材のコストが上がっている構造はホルムズ海峡封鎖による日本企業への影響、円安局面での業界別の影響は円安で儲かる業界・企業で整理しています。食品・飲料業界の市場データは食品・飲料業界ファクトシートにまとめました。

値上げは価格の意思決定ではなく、「選ばれる理由」の意思決定です。セルウェルは市場調査・マーケティング支援の会社として、国内市場のデータ整備から商品戦略の実装まで一貫して支援しています。検討中のテーマがどこまで固まっているかを短時間で確かめたい方は事業化スコア診断(無料)を、個別のご相談はお問い合わせからお気軽にどうぞ。

よくある質問

Q1. 2026年の食品値上げはどのくらいの規模ですか?

帝国データバンクの調査(2026年7月31日発表)では、2026年8月の飲食料品値上げは2,311品目で前年同月比83.1%増、9月は4,531品目と2026年内で最多の見通しです。通年では1〜11月判明分で1万8,347品目となり、2022年以降5年連続で年間1万品目を超えています。

Q2. 2026年の値上げの主な要因は何ですか?

2026年8月分の集計では原材料高が90.9%で最多ですが、3月以降は低下傾向です。代わりに物流費65.8%、包装・資材64.0%が高止まりし、中東情勢に起因する値上げが27.8%を占めました。ナフサ由来のトレーやフィルムなど包装資材のコスト上昇が価格に表面化しています。

Q3. 値上げしても顧客が離れない商品の条件は何ですか?

価格以外に選ばれる理由があることです。用途・体験・信頼・置き換えられない機能のいずれかが確立していれば、購入頻度が落ちても同じ商品が選ばれ続けます。逆に価格・容量・入手しやすさだけで選ばれていた商品は、値上げと同時に安い代替品へ移られやすくなります。

Q4. 値上げの前に何を調べるべきですか?

価格を振った状態での購入意向(受容価格)の実測、離反を許容する顧客層の線引き、売り場やパッケージでの見え方の再設計です。価格だけを動かすと比較の軸が価格に固定されるため、選ばれる理由の側を同時に動かすことが重要です。

Q5. 実質値上げ(内容量を減らす方法)は有効ですか?

短期的には価格表示を維持できるため通りやすい一方、気づかれた時点で価格以外の選ぶ理由まで損ないやすい方法です。帝国データバンクの調査でも、価格据え置き・内容量減による実質値上げは値上げ品目に含めて集計されています。採用する場合は、量を減らす代わりに何を強めるのかを同時に決める必要があります。

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