ビジネスでは、世代や役職に関わらず多様な視点を持つことが必要です。しかし、新たな概念や技術の知識を得る機会が少ないというビジネスパーソンもいるでしょう。そこで、注目されているのがリバースメンタリングです。本記事ではリバースメンタリングの意味や目的、メリット・デメリット、導入事例3選を紹介します。
Contents
リバースメンタリングとは
リバースメンタリングとは、通常とは反対に、若手社員が先輩社員に対して指導をする教育方法です。具体的にはSDGsなどの新たな概念やスマホやタブレットといったデバイスの使い方など、若手社員のほうが詳しいことを先輩社員に教えることを指します。
起源
リバースメンタリングは、1990年初頭にアメリカのジャック・ウェルチ氏が導入したのが始まりと言われています。当時、インターネットが普及したばかりで、その概念について理解を深めるために同氏も若手社員から学んだそうです。
リバースメンタリングを導入する目的
リバースメンタリングの目的は、社員同士の交流や社内のスキル向上です。若手社員に指導する役割を与えることで育成につながり、先輩社員は新たな概念やデバイスを取り入れることでイノベーションが生まれやすくなります。
このような目的から、以下のような企業に向いています。
- 人材の多様性を重視したい企業
- 年功序列型・ヒエラルキー型から脱したい企業
- 平均年齢が高い企業
リバースメンタリングのメリット
リバースメンタリングが注目されている理由は、得られるメリットが多いためです。ここでは、リバースメンタリングを導入するメリットを紹介します。
メリット① 新しい価値観や最先端技術の知識を共有できる
リバースメンタリングは、新たな価値観や最先端技術を社員全体で共有できるのがメリットです。先輩社員は新たな知識によりインスピレーションが湧き、これまでにはない事業案の創造やイノベーションにつながる可能性があります。
メリット② コミュニケーションを増やせる
リバースメンタリングの導入のメリットは、コミュニケーションの機会を増やせることです。若手社員や先輩社員はコミュニケーションが増えることで、信頼関係も構築しやすくなります。そのため、社員同士が気兼ねなく話し合えるフラットな関係性を作るのに役立ちます。
メリット③ 若手社員の育成につながる
指導する役割を与えることで、若手社員の成長を促せるのもリバースメンタリングのメリットです。例えば、情報を伝える能力やプレゼン能力などを強化できます。成長を実感することで、若手社員のモチベーションの向上も期待できます。
メリット④ 管理職のマネジメント力が向上する
リバースメンタリングのメリットは、管理職のマネジメント力が向上することです。なぜなら、部下とのコミュニケーションの機会を増やすことで、管理職は部下の価値観や能力を深く理解できるためです。
リバースメンタリングのデメリット
リバースメンタリングはメリットだけではなく、デメリットもあります。導入する前に、デメリットについても押さえておきましょう。
デメリット① 若手社員に負担がかかる
リバースメンタリングのデメリットは、若手社員に負担がかかることです。先輩社員に指導するのは精神的な負担がかかる上に、資料の作成といった業務も発生するためです。
指導方法について先輩社員から指導・助言があると、プレッシャーに感じて萎縮してしまうこともあります。リバースメンタリングを導入する際は、若手社員に過度な負担がかからないように配慮する必要があります。
デメリット② リソース不足になる可能性がある
リバースメンタリングのデメリットは、若手社員と先輩社員のリソースを割くことで、通常業務のリソースが不足する可能性があることです。通常業務に支障をきたしては、元も子もないため、十分なリソースを確保した上で実施する必要があります。
リバースメンタリングの導入手順
リバースメンタリングの導入を検討している方に向けて、導入手順を紹介します。
手順① 目的の設定
まずは、リバースメンタリングを実施する目的の設定です。「若い世代の価値観の共有」や「若手社員の育成」、「社員同士の信頼関係の醸成」などです。
手順② 人選
次に指導する若手社員と学ぶ先輩社員を誰にするか決定します。相性の悪い社員同士をマッチングすると、目的を達成できないこともあるので、慎重に検討してください。
手順③ 目的の共有
3番目の手順は、対象者への目的の共有です。目的を理解した上で実施することで、目標を達成しやすくなるためです。
手順④ 実施
4番目の手順で、リバースメンタリングを実施します。実施する際は、必要に応じて事前説明会などのオリエンテーションを実施して、話しやすい雰囲気を作ることも大切です。
手順⑤ フォローアップ
リバースメンタリングの実施中・実施後は、若手社員に過度な負担がかかっていないか、目的を達成できるかなどを考慮し、フォローアップします。
リバースメンタリングの事例
リバースメンタリングを導入した企業の中から、成功した3つの事例を紹介します。
資生堂
出典:資生堂「多様なプロフェッショナル人財」
資生堂は、スキンケアやメイクアップなどの化粧品を製造・販売している企業です。その資生堂では、ダイバーシティ推進の取り組みの1つとして、リバースメンタリングを導入しています。具体的には、若手社員がエグゼクティブオフィサーや部門長を対象に実施しており、2017年から2021年で累計684人が参加しました。
※ダイバーシティとは、多様性を意味する言葉です。人種や性別、年齢などの様々な属性を持つ人材が共存することを指します。
※エグゼクティブオフィサーとは、最高経営責任者や上級管理職のことです。
P&G
P&Gは、アメリカに本社を置く日用消費財メーカーです。パンパースやアリエールなどのブランド名で、日本でも知られています。そのP&Gは、管理職が「若い部下の気持ちの理解」や「仕事と子育てを両立する部下の悩み」を共有するために、リバースメンタリングを導入しています。
参考:内閣府男女共同参画局「【組織部門 優秀賞】P&G」
3M ジャパン
3Mは、アメリカに本社を置く粘着テープや研磨剤、医療用製品を製造・販売しているメーカーです。3Mの日本の拠点である3Mジャパンでは、世代間の壁や経験の違いを乗り越えて相互理解を深めるために、2018年にリバースメンタリングを導入しました。この取り組みはインクルーシブな文化の醸成につながるとして、2020年からはアジア太平洋全域で採用しています。
※インクルーシブとは、「包括的な」「包摂的な」を意味する言葉です。インクルーシブ社会は、お互いの人権と尊厳を認め合う社会を指します。
参考:3M「Advancing our impact」
リバースメンタリングを導入してみよう
リバースメンタリングは、若手社員の成長を促し、先輩社員の視野を広げるのに役立ちます。社員同士のコミュニケーションが活発になることで、多様性を重視する風土が作れるとして注目を集めています。年功序列型・ヒエラルキー型の企業風土から脱却したい経営者様は、この機会にリバースメンタリングを導入してみてはいかがでしょうか。