サンクコスト効果とは?ビジネスにおける失敗例と対応策、活用例

ビジネスでは採算性やリスクを考慮し、場合によっては商品開発の中止や事業の撤退といった判断が求められます。こうした判断は遅れると損失が拡大する恐れがあるため、迅速かつ合理的な意思決定が重要です。

しかし、すでに多くの費用や労力、時間を投じている場合、「もったいない」と判断を先延ばしにすることがあります。このような心理的な働きはサンクコスト効果と呼ばれ、合理的な判断を妨げる要因です。

本記事ではビジネスパーソンに向けて、サンクコスト効果の概要、ビジネスにおける失敗例と対応策を紹介します。

サンクコスト効果とは

サンクコスト効果とは、すでに投資した費用や労力、時間に対して「もったいない」と感じることで、合理的な判断ができなくなる心理的な現象です。アメリカの行動経済学者であるリチャード・セイラー氏が提唱し、日常生活のみならず、ビジネスシーンにおいて合理的な意思決定を阻害する要因として知られています。

なお、サンクコストは、すでに支払われた費用や費やした労力・時間など、回収不可能なコストを指します。

コンコルド効果との違い

コンコルド効果とは、サンクコスト効果と同じ意味を持ち、超音速旅客機「コンコルド」の事業失敗が由来の言葉です。

コンコルドは、マッハ2(時速約2,200km)で飛行可能な旅客機として開発され、1976年から2003年までの27年間にわたり運航されました。移動時間の大幅な短縮というメリットにより一定の需要はあったものの、「燃料消費量の多さ」や「座席数の少なさ」といった課題から、航空券の価格は高額に設定せざるを得ませんでした。その結果、一般顧客にニーズが広がらず、採算が合わなくなり事業の継続が不可能になりました。

採算が合わないことは開発段階から指摘されていたものの、「ここまで投資したからやめられない」という心理的な働きにより、早期の撤退を決断できなかったとされています。

サンクコスト効果による失敗例 

ビジネスでは、サンクコストが意思決定に影響を与えてしまうケースも少なくありません。ここでは、ビジネスでよくある失敗例を紹介します。

失敗例① 事業撤退の判断の回避

ビジネスでは、採算性が合わなくなった事業の撤退判断が遅れることがあります。「費用を回収したい」や「失敗を認めたくない」、あるいは「いつか事業が成功するはずだ」といった心理から、非合理的な判断をする場合があるためです。そのため、事業継続・撤退の判断をする際は、サンクコスト効果の影響を受けていないかを意識することが大切です。

失敗例② 商品開発の中止の遅れ

商品開発の段階で、採算が合わないことや想定よりも市場規模が小さいことが判明したり、競合他社が強力な類似商品を発売したりすることがあります。このような状況が発生すると開発の中止も検討する必要がありますが、商品開発に多くの時間や労力を投入しているため、合理的な判断ができないことがあります。

失敗例③ 無駄なマーケティング施策の継続

広告出稿などのマーケティング施策においても、サンクコスト効果が発生する可能性があります。例えば、「制作費がもったいない」という理由で、効果の出ていない映像をCMに使い続けてしまうといったケースです。このような目標達成につながらないマーケティング施策の継続は、無駄な出費を増やし、事業全体の運営に悪影響を及ぼす可能性があります。

サンクコスト効果が起きる心理

サンクコスト効果により失敗を避けるには、なぜそのような心理状態になるのかを把握しておくことが重要です。ここでは、背景となる3つの心理を紹介します。

損失を回避したい心理

人は得をすることよりも、損をすることを避ける傾向があります。つまり、損失を最小限に抑えることよりも、損失を回避するために「投じた費用や労力、時間を無駄にしたくない」という心理が働きやすいです。この心理が働くと、サンクコスト効果が発生しやすくなります。

無駄にしたと思われたくない心理

商品開発の中止や事業からの撤退といった判断には、サンクコストの発生が伴います。このような決断を下すと、「これまでの費用や労力が無駄になった」と周囲から思われることもあるでしょう。そのため、「無駄にしたと思われたくない」という心理が働き、たとえ非合理的であっても、事業の継続を選んでしまうケースがあります。

自己責任を回避したい心理

事業の進退の決定権がある責任者の場合、成功すると判断して進めた事業から撤退することは、自分の決定を自分自身で否定することを意味します。そのため、自分の行動に一貫性を持たせようとして「結果が出るまで続ける」といった、非合理的な判断をしやすくなります。

サンクコスト効果への対策方法

サンクコスト効果はビジネスにおいて、適切な判断を阻害し、損失を拡大させる恐れがあります。そのデメリットを防ぐためには、次の3つの対策方法が有効です。

対策① サンクコスト効果の理解を深める

サンクコスト効果は心理的な作用のため、あらかじめ理解を深めておくことが有効な対策方法の一つです。よくある失敗例や、そうした判断が起きやすい心理状態を知っておくことで、同じような状況に直面した際に、冷静かつ合理的な判断をしやすくなります。

対策② 判断基準を明確にする

非合理的な判断を避けるためには、判断基準を明確にしておくことが重要です。例えば、客観的なデータに基づいて判断を行えば、心理的な影響を受けにくくなります。さらに、第三者の意見を取り入れる、あるいは複数人で協議して意思決定を行うといった方法も合理的な判断をするのに効果的です。

対策③ 定期的に評価する

3カ月に1回や半年に1回など、定期的に事業の進捗を判断基準と照らし合わせて評価することが大切です。継続的な評価を行うことで、事業環境の変化に気づきやすくなり、より冷静で適切な判断がしやすくなります。

マーケティングにおけるサンクコスト効果の活用例

サンクコスト効果は、ビジネスにおいて必ずしもデメリットばかりではありません。上手く活用することで、売上の拡大につなげることも可能です。ここでは、マーケティングへの活用例を紹介します。

活用例① 試用版を提供する

試用版を提供して顧客を増やすマーケティング施策は、サンクコスト効果を活用した代表例です。試用版は無料で利用できるため、最初は顧客に「もったいない」と感じさせることが難しいかもしれません。

しかし、例えば業務用ツールなどの場合、顧客は操作方法を覚えるために時間や労力を費やす必要があります。一度そうしたコストをかけた顧客は、「せっかく覚えたのに、他のツールに乗り換えるのはもったいない」と感じやすくなり、そのまま継続して利用する可能性が高くなります。

活用例② 特典を付ける

商品やサービスを販売する際に有効なマーケティング手法として、特典を付与する方法があります。例えば、シリーズの書籍を全て揃えることで一つの付録が完成するような「おまけ」を用意して、初回盤に限定特典を付けたり、割引価格で販売したりする方法です。初回盤を購入した消費者は「全てを購入しないともったいない」という心理が働くため、継続的な購入を促進できます。

活用例③ 会員ランクにより優遇する

優良顧客向けのマーケティング施策の一つに、会員ランクの付与があります。一定期間の売上金額や利用頻度に基づいてランクを決め、ランクが高いほど優遇される仕組みです。会員ランクを付与し、各ランクに特典を設定すると、顧客は「特典は使わないともったいない」と感じるでしょう。この心理的な働きがサンクコスト効果を誘発し、顧客の購入行動を促します。

サンクコスト効果を意識してみよう

サンクコスト効果は、商品開発の中止や事業撤退といった合理的な判断を阻害する要因です。経営の安定のためには、この影響を避けることが大切です。また、マーケティングに取り入れることで売上拡大につながることもあります。このようなデメリットを避け、メリットを上手く取り入れるために、サンクコスト効果を意識しながらビジネスに取り組んでみてはいかがでしょうか。