コンコルド効果とは?ビジネスパーソンがハマりやすい意思決定の罠とその回避策

新規事業や商品開発などのプロジェクトを推進する際に、多くのビジネスパーソンが陥りやすい罠があります。この罠に気づかずに進み続けてしまうと、冷静で合理的な判断ができなくなり、結果として損失をさらに広げてしまう可能性があります。こうした損害を未然に防ぐためには、「コンコルド効果」という心理現象について理解しておくことが大切です。 

本記事ではビジネスパーソンに向けて、コンコルド効果の概要と具体例、回避策をわかりやすく解説します。 

コンコルド効果とは何?

コンコルド効果とは、すでに回収不能になった過去の投資をもったいないと感じることで、合理的に考えると中止すべき状況でもプロジェクトや活動を継続してしまう心理的傾向のことです。 

例えば、新規事業をスタートさせて、初期費用として100万円を投入したとします。しかし、途中で成功の確率が低いと判明しても「100万円がもったいない」や「初期費用だけでも回収したい」と感じて、プロジェクトを続けてしまうといった具合です。 

名前の由来:超音速旅客機「コンコルド」の失敗 

コンコルド効果の由来は、実際に起きた出来事が由来です。 

コンコルドとは、イギリスとフランスの企業が合同で開発した超音速旅客機です。1963年に初飛行に成功し、1970年にはマッハ2の飛行速度を達成。1975年には運用が開始されました。コンコルドの最大の特長は、マッハ2という圧倒的な飛行速度です。ニューヨークからパリまで、一般的な旅客機の半分程度の約3時間半で飛行できました。 

当初、コンコルドの採算分岐点は250機と言われていました。しかし実際に売れたのは、わずか20機でした。高額な運賃に加えて、音速を超える際に発生するソニックブームによる騒音問題などが嫌気されたためです。売れたコンコルドは、2003年まで運航されましたが、このプロジェクトは歴史的な失敗となりました。 

実は、採算性が悪いことは開発の途中からわかっていたそうです。しかし、すでに莫大な資金を投入していたことから、撤退できなかったのです。この一連の流れから、すでに回収不能になった過去の投資を「もったいない」と感じて、合理的な判断ができなくなる心理をコンコルド効果と呼ぶようになりました。 

サンクコスト効果との違い 

似た言葉として、「サンクコスト効果」を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょう。結論から言えば、コンコルド効果とサンクコスト効果は同じ意味です。どちらも回収不能なコストをもったいないと感じて、意思決定に悪影響が出ることを指します。 

サンクコスト効果について詳しく知りたい方は、「サンクコスト効果とは?ビジネスにおける失敗例と活用例」の記事をご覧ください。 

ビジネスシーンにおけるコンコルド効果の具体例 

コンコルド効果は、様々なビジネスシーンで起こり得る心理的な落とし穴です。ここでは、2つの具体例を通じて、コンコルド効果にハマる心理状況を紹介します。 

自社アプリの開発:終わりの見えないシステム開発 

具体例:A社は新規事業として、自社アプリの開発に乗り出しました。その際、アプリのシステム開発を内製する方針を選択します。当初の見積もりでは、開発期間が半年、開発費が3,000万円でした。しかし、開発が進むにつれて仕様変更が相次ぎ、気が付けば1年半が経過。それでも完成の目途が立っていない状況に陥っています。 

こうした場面では、「ここまで来たのだから、完成するまでやりきるしかない」や「今止めたら全員の努力が無駄になる」といった心理が働きやすくなります。その結果、コンコルド効果によって、いつ終わるのかわからないシステム開発にリソースを投入し続け、損失が膨らんでいくという悪循環に陥るでしょう。 

マーケティング:売れない商品への追加投資 

具体例:B社は開発した新商品に大きな期待を寄せており、マーケティングを通じて販路の拡大を目指していました。ところが、実際の売上は予想を大きく下回る結果となります。すでに多額の投資をしていることもあり、社内では「露出を増やせば認知度が上がるはずだ」や「もう少し広告キャンペーンを続けて、顧客の反応を見よう」といった声が上がり、打ち切りの判断が先送りにされました。その結果、広告費を投入し続けてしまいます。 

この具体例は、コンコルド効果によって冷静な判断力が失われている状態です。本来であれば、新商品が市場ニーズと合致しているかどうかを再評価すべき局面であり、戦略の見直しや撤退も含めた判断が求められます。 

コンコルド効果が引き起こすリスク 

コンコルド効果が引き起こすリスクは、「損失の拡大」と「機会損失」の2つです。これらのリスクについて解説します。 

リスク① 損失の拡大 

コンコルド効果の罠に陥ると、方針転換ができなくなり、見込みの薄いプロジェクトを不用意に継続してしまいます。その結果、時間・お金・人材といった貴重なリソースが次々と投入され、損失が拡大します。 

成功の可能性が低い事業にリソースを注ぎ込み続けても、得られる成果は限られており、かえって被害が大きくなる一方です。こうした損失の積み重ねは、単にプロジェクトの失敗にとどまらず、企業全体の経営を圧迫する要因にもなりかねません。 

リスク② 機会損失 

コンコルド効果の罠に陥ると、本来得られるはずだった機会を逃してしまうかもしれません。見込みの薄い事業を継続することで、有望なプロジェクトにリソースを集中できず、機会を損失する可能性があるためです。 

ビジネスパーソンがとるべき回避策 

コンコルド効果はビジネスパーソンにとって、合理的な判断を阻害するリスクと言えます。そのため、普段からコンコルド効果に陥らないように意識することが大切です。ここでは3つの回避策を紹介します。 

回避策① 撤退基準を明確化しておく 

コンコルド効果によって、見込みの薄いプロジェクトをいつまでも継続しないように、撤退基準を明確にしておくことが大切です。例えば、以下のとおりです。 

・半年間で成果が出なければ見直す 

・予算100万円がなくなったら再検討する 

このように、具体的な期限や予算を設定しておくと、判断がぶれにくくなります。 

回避策② 上限に到達したら損切りする 

撤退基準の上限に到達したら、思い切って損切りすることが大切です。プロジェクトの失敗を認め、早期に損切りすることで損失の拡大を防げます。また、これにより次のプロジェクトに取り組めるのもポイントです。 

回避策③ 第三者から客観的な意見をもらう 

コンコルド効果は無意識に陥るため、すでに冷静な判断ができなくなっている可能性があります。そこで、有効な回避策は第三者から客観的な意見をもらうことです。他の関係者や専門家の意見を得ることで、冷静な判断を下せるようになるでしょう。 

コンコルド効果を意識して合理的な判断をしよう 

ビジネスシーンでは、これまでにかけたコストや時間、人々の努力を無駄にしないようにするために、冷静で合理的な判断ができなくなることがあります。これは、コンコルド効果の典型的な心理的傾向です。 

このような意思決定の罠に落ちずに冷静な判断を行うには、普段からコンコルド効果を意識しつつ、回避策を取り入れることが大切です。そうすることで、貴重なリソースの無駄遣いを防ぎ、より成果につながる選択ができるようになります。