事業ポートフォリオマネジメントとは?概要やフレームワークを紹介

企業の収益性や価値を高めるには、事業ポートフォリオマネジメントが重要です。企業が持つ複数の事業を適切に分析・管理することで、経営資源の最適な配分や成長戦略を明確化できるためです。本記事では、事業ポートフォリオマネジメントの重要性やメリット、実践に役立つフレームワークを紹介します。

事業ポートフォリオマネジメントとは

事業ポートフォリオマネジメントは、各事業の収益性や成長性、市場環境などを評価し、経営方針や戦略を見直す手法です。どの事業に経営資源を投入すべきか、どの事業を縮小・撤退すべきかを判断するための指針にもなります。事業ポートフォリオマネジメントを適切に実施することで、企業は経営資源を有効に活用でき、全体の収益性や企業価値の向上が期待できます。

事業ポートフォリオマネジメントが重視される理由

事業ポートフォリオマネジメントが企業経営において、重要とされる理由として次の2つが挙げられます。

変化する外部環境への対応

近年、技術革新のスピードや競争環境の変化、顧客ニーズの多様化が加速し、企業を取り巻く外部環境の不確実性が高まっています。外部環境の変化に対応が遅れると、急激に経営状況が悪化するリスクがあります。そのようなリスクに備えるには、各事業の収益性や成長性、市場の動向などを定期的に把握し、変化に応じた戦略の見直しが重要です。

低収益事業の整理による成長機会の創出

複数の事業を展開する企業では、収益性や成長性が低下した事業を抱えていることも少なくありません。こうした事業に経営資源を投入し続けても、得られるリターンは限られ、企業全体の成長を阻害する要因となります。そのため、事業ポートフォリオマネジメントを通じて、収益性の低い事業を整理することが重要です。成長分野や新規事業に浮いた経営資源を配分することで、組織全体の活性化や成長につながります。

事業ポートフォリオマネジメントのメリット 

企業は事業ポートフォリオマネジメントを実施することで、全体の方向性を明確にし、経営の質を高めることができます。ここでは、具体的な4つのメリットについて解説します。

メリット① 経営判断がしやすくなる

事業ごとの収益性や成長性、外部環境を定量的に把握することで、経営層は客観的なデータに基づいた意思決定が可能です。「どの事業を強化すべきか」「どの事業を縮小すべきか」といった判断を分析結果に基づいて行えるため、迅速な経営判断が期待できます。

メリット② リスクへの備えや対策がしやすくなる

市場の成長性が鈍化している事業や、競合が激化している分野を早期に特定することで、経営上のリスクを明確にできます。また、事業ポートフォリオ全体を俯瞰することで、特定の事業に依存しすぎているといった構造的な課題も把握できます。こうした分析により、リスクへの備えや対策がしやすくなるのがメリットです。

メリット③ 経営資源を適切に配分できる

事業ポートフォリオマネジメントを実施することで、リターンが見込める事業に経営資源を適切に配分できます。低収益事業への過剰な投資を防ぐことで、経営資源を有効活用できるためです。

メリット④ 収益性や企業価値の向上が期待できる

成長性の高い事業に経営資源を投入することで、収益構造を強化できるのがメリットです。また、外部環境の変化に応じて戦略を見直すことで、持続的な成長が期待できます。これにより企業価値も向上します。

事業ポートフォリオマネジメントのポイント

事業ポートフォリオマネジメントの効果を高めるためには、分析や評価を適切に行うだけでなく、継続的に実施することが大切です。ここでは、実践する際の3つのポイントを解説します。

ポイント① 外部環境を正確に把握する

事業ポートフォリオマネジメントを効果的に実施するには、外部環境を正確に把握することが重要です。そのために、不可欠なのが市場調査です。市場調査を通じて、外部環境の変化を把握し、自社の事業が置かれている状況を客観的に判断しましょう。

ポイント② 評価基準を明確にする

事業を評価する際には、あらかじめ明確な評価基準を設定することが重要です。評価軸が不明確だと、担当者や部門によって判断がばらつき、適切な意思決定ができないためです。具体的には、収益性・成長性・競争優位性・市場シェアなどの指標を活用すると、客観的かつ一貫性のある評価ができます。

ポイント③ 定期的に実施する

事業ポートフォリオマネジメントは、一度実施して終わりではありません。外部環境は変化するため、定期的に見直しを行うことが重要です。年単位や四半期単位で評価を行うことで、成長機会やリスクの把握、迅速な意思決定に役立ちます。

実践に役立つフレームワーク:PPM分析

事業ポートフォリオマネジメントの実践に役立つフレームワークは、PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)分析です。PPM分析は、各事業を市場成長率と市場占有率の2つの軸で評価し、次の4つのポジションに分類する手法です。

花形:市場成長率・占有率ともに高く、将来の収益を牽引する事業

金のなる木:市場占有率は高いが成長率は低く、安定的な収益源となる事業

問題児:市場成長率は高いが占有率は低く、事業の成功のためには投資により「花形」へのステップアップが必要な事業

負け犬:市場成長率・占有率ともに低く、撤退や縮小を検討すべき事業

各事業がどのポジションに位置するかを把握することで、将来性のある事業へ経営資源を集中させることや、撤退の判断などの意思決定が容易になります。

PPM分析についての詳細は、「PPM分析とは?やり方やメリット・デメリットを解説」の記事をご参照ください。

事業ポートフォリオマネジメントの注意点

事業ポートフォリオマネジメントは、企業運営において重要な手法の一つです。ただし、実施する際には、以下の3つの点に注意する必要があります。

注意点① 事業間のシナジー効果を考慮する

PPM分析は、各事業を個別に評価するフレームワークです。事業間のシナジー効果を考慮していない点に注意が必要です。単独では収益性が低い事業でも、他の事業との連携によって企業の収益に貢献している場合があります。縮小や撤退を判断する際には、事業間のシナジー効果についても十分に考慮する必要があります。

注意点② 企業体制によっては実行しにくい

事業ポートフォリオマネジメントは、企業の体制によって円滑に進まないことがあります。例えば、各事業の権限が強い場合です。このような体制では、適切な意思決定が難しくなるためです。場合によっては、企業体制の見直しが必要になることもあります。

注意点③ 新規事業の評価には向いていない

PPM分析は、過去の実績を基に事業を評価する手法です。そのため、新規事業の評価には向いていません。他のフレームワークとの併用がおすすめです。

PPM分析以外のフレームワークについては、「新規事業開発担当になったら知っておくべきフレームワーク」の記事をご参照ください。

まとめ

事業ポートフォリオマネジメントは、企業が持つ複数の事業を整理・評価し、戦略を見直す手法です。経営資源を最適に配分することで、収益性や成長性の向上が期待できます。継続的な成長を実現するために、事業ポートフォリオマネジメントに取り組んでみてはいかがでしょうか。