
企業が成長するためには、組織全体が一丸となり、同じ方向に進むことが不可欠です。方針が部門ごとに異なったり、社員が何を優先すべきかブレたりすると、意思決定や行動がバラバラになるためです。企業本来の目的を見失うリスクもあります。
そこで役立つのがミッションステートメントです。本記事ではミッションステートメントの意味や役割、作り方、大手企業の事例をわかりやすく解説します。
ミッションステートメントとは
ミッションステートメントとは、企業が存在する目的や社会的な存在意義(パーパス)を実現するための行動指針です。「自社がなぜ存在するのか」「どのような価値を社会に提供するのか」といった問いに対する答えを、簡潔な文章で示します。
言葉の意味を分解すると、ミッションは「使命」、ステートメントは「宣言」です。つまり、ミッションステートメントとは企業としての使命を宣言したものです。
この宣言には、企業が大切にする価値観や行動基準、社会的責任などが凝縮されており、経営判断や日々の業務における行動の指針として活用されます。
経営理念との違い
経営理念とは、創業者や経営陣が示した企業としての基本的な考え方や価値観のことです。しかし、抽象的な表現が多く、社員が日常の行動に落とし込むのは簡単ではありません。
そこで役立つのが行動指針であるミッションステートメントです。つまり、経営理念を実現するために、「どのような行動をすれば良いのか」を示すものがミッションステートメントと言えます。
ビジョンステートメントとの違い
ミッションステートメントと混同しやすい概念に、ビジョンステートメントがあります。
ビジョンステートメントとは、企業が目指す理想の姿や将来像を示す文章です。ミッションステートメントが「現在、何をすべきか」を示すのに対して、ビジョンステートメントは「企業が目指す地点」を示します。
2つを組み合わせることで、社員は日々の行動が企業の目標とどのように結びつくのかを理解でき、結果として組織全体の方向性がそろいます。
MVVとの違い
MVVとは、ミッション(使命)、ビジョン(将来像)、バリュー(行動指針)の3つの要素で構成される企業経営の考え方です。各要素の内容は次のとおりです。
| MVVの要素 | 内容 |
| M:ミッション | 企業の存在意義や果たすべき役割を示す |
| V:ビジョン | 中長期的に目指す理想像や目標を示す |
| V:バリュー | 社員の日々の意思決定や行動の基準を示す |
このようにMVVは、経営理念やミッションステートメント、ビジョンステートメントの概念を体系的に整理したものです。
MVVの詳細は、「MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは?必要性と作り方を解説」の記事をご参照ください。
ミッションステートメントの役割

ミッションステートメントは、企業が成長するために重要な役割を果たします。ここでは、主な3つの役割を紹介します。
社員に企業の方向性を示す
ミッションステートメントには、社員に行動の方向性を示す役割があります。企業の存在意義や価値観を明文化することで、社員は「何を優先すべきか」を理解しやすくなるためです。これにより、組織全体で同じ目標に向かって進みやすくなり、部署間の連携も円滑になります。また、社員自身が自分の行動が企業の方向性に沿っているかを判断できるのもポイントです。
意思決定の基準を明確にする
ミッションステートメントは、経営判断や日常業務の意思決定の判断基準としても機能します。どのプロジェクトを優先すべきか、どのような対応や行動に価値があるのかを判断できるためです。特に、複雑な状況や判断に迷う場面でも経営理念に沿った行動がとれるため、組織としての一貫性を保つのに役立ちます。
社外に経営理念や価値観を伝える
ミッションステートメントは、経営理念や価値観を社外に伝える重要な役割を担っています。例えば、公式サイトに掲載することで、顧客や取引先、投資家に自社の考え方を伝えることが可能です。
また、社会的責任や存在意義に基づいた行動指針を打ち出すことで、企業の信頼が高まり、ブランド価値の向上も期待できます。さらに、採用活動において、ミッションステートメントに共感した人材が集まりやすくなるという効果も期待できます。
このことから、ミッションステートメントは、外部に自社の理念を伝えるための効果的なツールと言えるでしょう。
ミッションステートメントの作り方

役割を果たすのに有効なミッションステートメントを作るには、検討する際の手順が重要です。ここでは、具体的な作り方を3つの手順に分けて解説します。
手順① チームを結成する
まずは、ミッションステートメントを策定するためのチームを結成します。ここでのポイントは次のとおりです。
・経営層を含める
企業の存在意義や価値観との整合性を保ち、スムーズな意思決定を行うため。
・多職種からメンバーを選抜する
営業や開発、人事など、異なる職種の視点を生かし、組織全体の考え方を反映させるため。
このように経営層と現場の両方の視点を取り入れることで、実践的なミッションステートメントを検討できます。
手順② 7つの質問から内容を検討する
経営理念や組織の価値観をもとに、ミッションステートメントに盛り込む内容を整理します。ここでは、以下の7つの質問の回答を検討します。
1. 誰のために存在しているのか?
2. どのような価値を提供するのか?
3. なぜそれを行うのか?
4. 他社と何が違うのか?
5. どのように実現するのか?
6. 社会にどのような影響を与えたいのか?
7. 社員にどのような価値を提供するのか?
これらの質問をチームで議論することで、ミッションステートメントの核となる要素を洗い出します。
手順③ 文章化する
チームで整理した議論内容をもとに、ミッションステートメントを文章化します。文章化する際のポイントは以下のとおりです。
・短く端的な文章にする
・行動を意識した言葉を使う
・誰でも理解しやすい言葉を使う
・社員が共感できる表現にする
文章化が完了したら、社内で共有するとともに、公式サイトや採用資料などに掲載します。これにより、社員や外部関係者への認知度が高まり、組織全体の行動指針として有効活用できます。
ミッションステートメントの企業事例
役割や作り方について解説しましたが、「実際にどのような文章がミッションステートメントとして使われているのか」と疑問に思う方もいらっしゃるでしょう。そこで、日本企業の具体的な事例を2つ紹介します。
小野薬品工業株式会社
小野薬品工業株式会社は、300年以上の歴史を持つ日本の医薬品メーカーです。同社は「病気と苦痛に対する人間の戦いのために」を経営理念として掲げています。この経営理念をもとに設定されているミッションステートメントは以下のとおりです。
■めざす姿
熱き挑戦者たちであれ
■行動原則
・小野は、世界を変えるチームとなる
・小野は、壁にぶつかった時ほど奮い立つ
・小野は、矜恃を胸に行動する
この2つの項目により、全世界の社員が進むべき方向性や行動のあり方を示しています。
引用:小野薬品工業株式会社「ミッションステートメント」
株式会社大塚商会
株式会社大塚商会は、システムインテグレーション事業や通信機器、ソフトウェアの販売及び開発を行うIT企業です。同社は使命や目標を達成するためのミッションステートメントとして、以下の「行動指針」を定めています。
■行動指針
・常にお客様の目線で考え、お互いに協力して行動する。
・先達のチャレンジ精神を継承し、自ら考え、進んで行動する。
・法を遵守し、社会のルールに則して行動する。
さらに、ミッションステートメントの具現化のためにやるべきこととして、次の3項目を挙げています。
・お客様目線で、お客様の課題やビジョンを共有します
・経営環境の変化やお客様の要求に柔軟にお応えします
・従業員の成長と自己実現を支援します
引用:株式会社大塚商会「ミッションステートメント」
このように、ミッションステートメントは行動原則や行動指針、あるいはMVVとして示されます。ただし、企業によって解釈が異なるため、必ずしも行動指針の名目で挙げているとは限りません。
組織の方向性をそろえて成長を促そう
ミッションステートメントは、社員の判断や行動を導き、組織全体の方向性をそろえるための重要な行動指針です。方向性が統一されることで、企業の成長に役立ちます。まだ設定していない場合は、この機会に行動指針を策定してみてはいかがでしょうか。
