イノベーションの創出に役立つジョブ理論とは?活用方法と成功事例

定番の分析手法である5W1Hやペルソナだけでは、顧客の本質的なニーズを十分に捉えきれないことがあります。
その結果、「良い商品なのに売れない」や「マーケティング施策が空回りする」といった課題が発生します。 

こうした課題を解決するためのアプローチとして注目されているのが、「ジョブ理論(Jobs to be Done)」です。
本記事では、ジョブ理論の基本的な考え方、活用方法、成功事例をわかりやすく解説します。 

ジョブ理論(Jobs to be Done)とは? 

ジョブ理論(Jobs to be Done)とは、顧客が商品やサービスを購入する背景を明らかにするための考え方です。
略して「JTBD」とも呼ばれます。 

この理論の最大の特徴は、顧客の課題やニーズを「片付けるべきジョブ(仕事)」として捉える点です。顧客は何らかの「ジョブ」を達成するために、商品やサービスを雇用(消費)するという考え方に基づいています。そして、ジョブが完了すると、顧客はそのジョブから解雇(解放)されるという独特の視点を持っているのも特徴です。 
この理論を提唱したのは、アメリカの経営学者クレイトン・クリステンセン教授です。同氏は、「イノベーションのジレンマ」の提唱者としても広く知られています。 

※イノベーションのジレンマとは、大企業が既存顧客の要望に応えることに注力しすぎてしまい、革新的な技術や新しい市場への対応が遅れてしまう現象のことです。その結果、まったく新しい価値を提供する新興企業に、従来の市場を奪われてしまうことがあります。 

ジョブ理論が注目される背景 

ジョブ理論が近年注目される背景は、従来のマーケティング手法だけではイノベーションを生み出しにくくなっているからです。その背景には、先進国では人々の基本的な需要がすでに満たされているという現状があります。加えて、ライフスタイルの多様化により、顧客のニーズは細分化・複雑化してきています。 
このような状況では、「年齢」「性別」「年収」などの属性情報や、表面的なニーズに基づいたアプローチでは、本当に求められている価値を見つけることが困難になっているのです。 

そこで注目されているのがジョブ理論です。企業はジョブ理論を活用することで、顧客の本質的なニーズを明らかにし、独自の視点による商品開発やマーケティング戦略につなげることができます。 

例えば、携帯電話のジョブは「いつでもどこでも他者とコミュニケーションを取ること」です。これは本質的なニーズであり、「ボタンの有無」や「折りたたみ式かどうか」といった仕様は、それを実現するための手段にすぎません。 

スマートフォンが爆発的に普及したのは、こうした本質的なジョブをよりシンプルかつ効果的に達成できたからです。タッチ操作によって直感的な操作を実現し、インターネットやアプリとの連携により「場所や時間を選ばずにつながれる」という体験を提供したことで、従来の携帯電話に取って代わる存在となりました。 

ジョブの種類 

ジョブ理論では、顧客の「片付けるべきジョブ」を3つの種類に分類します。これらの特徴を理解することは、顧客が商品やサービスを選ぶ理由や背景を把握するうえで非常に重要です。 

  • 機能的ジョブ 

機能的ジョブとは、商品やサービスの「機能」や「性能」によって、現実的な課題を解決したり、目的を達成したりすることを目的としたジョブです。例えば、「素早く移動したい」というニーズに対して、飛行機や自動車、電車などを利用するのは機能的ジョブに基づく行動と言えます。機能的ジョブにおいては、目的を達成することが最も重要であり、どのような手段や手法を用いるかは必ずしも問題ではありません。 

  • 社会的ジョブ 

社会的ジョブとは、「周囲からどのように見られたいか」といった、他者からの評価や印象を重視する目的のことです。例えば、「洗練された人に見られたい」や「成功者だと思われたい」といった欲求を満たすことが、社会的ジョブに該当します。このような社会的ジョブでは、機能的ジョブとは異なり、「どの手段を選ぶか」が重要な意味を持ちます。同じ移動手段であっても、電車ではなく高級車を選ぶのは、社会的な評価や印象を意識した選択であると言えるでしょう。 

  • 感情的ジョブ 

感情的ジョブとは、自身の内面的な感情や気分のコントロール、特定の感情を得たいといった動機に基づくジョブです。例えば、「ストレスを和らげたい」や「安心感を得たい」といった感情を満たすために、コーヒーを飲んだり、音楽を聴いたりする行動がこれにあたります。 

ジョブ理論の活用方法 

ジョブ理論をビジネスに活用するには、顧客の「片付けるべきジョブ」を正確に把握し、それに応じた適切なアプローチを取ることが大切です。そのためには、次の4つのステップを実践することが効果的です。 

ステップ① 顧客のジョブを明確にする 

最初に行うべきは、顧客の「片付けるべきジョブ」を明確にすることです。これは、顧客が商品やサービスを「雇用」する背景や動機を深く掘り下げるプロセスです。 

例えば、顧客が「カフェでコーヒーを買う」という行動の背景には、次のような様々なジョブが隠れている可能性があります。 

  • 仕事前に集中力を高めたい 
  • 一人の時間を楽しみたい 
  • オフィスに着くまでにリラックスしたい 

このような表面的なニーズの裏にある「本質的な目的」を明らかにするためには、顧客の行動観察やインタビューが有効です。 

ステップ② 商品が雇用されるストーリーを考える 

顧客がどのような状況や目的で自社の商品やサービスを「雇用」しているのかを、ストーリーとして整理します。 

例えば、「朝、満員電車に揺られながら、特定のカフェでテイクアウトしたコーヒーを飲む」というシーンを考えてみましょう。このような背景には、「慌ただしい朝に、少しだけ自分のペースを取り戻したい」といった感情的ジョブが潜んでいるかもしれません。 

このように、顧客の行動にストーリーを加えることで、求められている機能や価値をより具体的に理解できます。これは、商品開発やマーケティングにおいて重要な手がかりとなります。 

ステップ③ 雇用されない理由を洗い出す 

顧客が商品やサービスを「雇用しない」理由を検討することも大切です。競合との違いや使いにくさ、価格、ブランドイメージなど、複数の視点から阻害要因を明らかにします。これらを洗い出すことで、既存商品やサービスの改善の糸口が見つかることもあります。 

ステップ④ ジョブの完了に役立つ方法を検討する 

自社の商品やサービスが「顧客のジョブの完了」にどのように役立つかを検討します。商品設計やマーケティング施策を柔軟に見直すことが重要です。 

ジョブ理論の成功事例:ミルクシェイクの逸話 

ジョブ理論における最も有名な成功事例の一つが、クレイトン・クリステンセン教授による「ミルクシェイクの逸話」です。 

あるファーストフードチェーンは、ミルクシェイクの売上に伸び悩んでいました。味の改良や価格の見直し、プロモーション施策など様々な取り組みを行ったものの効果は出ませんでした。 
そこで、クリステンセン教授に相談したところ、同氏のチームは顧客の実際の購買行動に注目。日を変えて来店客を観察した結果、ミルクシェイクの購入者に以下のような傾向を発見しました。 

平日の朝:一人で来店し、ミルクシェイクだけを購入して車で走り去る 
休日:親子連れで来店し、店内でミルクシェイクを飲んでから帰る

この違いから、それぞれのシーンにおけるジョブや商品への要望に、次のような違いがあることに気づきます。 

平日の朝 

ジョブ:通勤中の車内で退屈しのぎとして飲みたい 
商品への要望:運転中に飲むため、手を汚さずに片手で持てて、すぐになくならないように十分な量がほしい 

■ 休日 

ジョブ:子どもへのちょっとしたご褒美として与えたい 
商品への要望:子どもが短時間で飲みきれる量にしてほしい 

売上を伸ばすためにはミルクシェイクの味や価格ではなく、顧客のジョブに応じて、サイズや提供方法を工夫することが売上向上の鍵であるとわかったのです。 

ジョブ理論でイノベーションを創出しよう 

ジョブ理論の最大の魅力は、「顧客がなぜその商品やサービスを選ぶのか」という本質的な問いに答えられる点です。これにより、顧客のジョブを達成できる商品やサービスの開発につながります。つまり、ジョブ理論は、イノベーションを生み出すための有効な考え方の一つです。 

セルウェルでは、市場調査・消費者調査・店頭調査などの支援や実行に加え、経営課題の解決につながる様々なコンサルティングサービスをご提供しています。 

事業拡大に課題をお持ちのご担当者様は、ぜひお気軽にご相談ください。