
若者の新たな消費行動として、「界隈(かいわい)消費」が注目されています。しかし、「どんな消費行動なのかイメージできない」や「企業側のメリットが知りたい」というビジネスパーソンもいらっしゃるでしょう。今回はそのような方に向けて、界隈消費の意味とメリット、企業が意図的に狙うためのポイントを紹介します。
「界隈」とは
界隈は、もともと「そのあたり一帯」を意味する言葉ですが、若者の間では特定の趣味や嗜好、話題を共感・共有できるコミュニティを指します。このキーワードは、2024年の「現代用語の基礎知識選 2024ユーキャン新語・流行語大賞」において、トップ10に選出されるほど話題になりました。「○○界隈」という形で使われることが多く、以下のように「○○」には特定のコミュニティを表す言葉が入ります。
- K-POP界隈:韓国アイドルとファンの人々
- カフェ巡り界隈:美しいカフェや映えるスイーツに魅了される人々
- お風呂キャンセル界隈:お風呂に入るのを面倒に感じてやめる人々
- 自然界隈:山や川、海といった自然に行き、その様子をSNSに投稿する人々
- 回転界隈:特定の曲に合わせて、回転する様子をSNSに投稿する人々
- 片目界隈:片目だけを見せた写真や動画をSNSに投稿する人々
- 伊能忠敬界隈:長時間あるいは長距離を歩く人々
このように、界隈はSNSで緩くつながっていることや、多様な分野に存在しているのが特徴です。
界隈消費とは
界隈消費とは、所属する界隈の価値観や文化に影響を受けて生まれる消費行動を指します。その特徴は以下のとおりです。
- 界隈ごとの特性に強く影響される
- SNSで同じ界隈の仲間に口コミが広がる
- コスパよりも界隈との関連性が重視される
- 界隈への貢献が消費行動の動機となることがある
このように、界隈消費は連帯感や共感が購買行動を後押しするのが特徴です。そのため、消費行動そのものが界隈への愛着や関心の高さを示す指標の代わりという側面もあります。
従来の消費行動との違い
従来の消費行動は自分が欲しいもの、自分の課題解決に役立つものを購入するのが主な目的です。つまり、自分の満足度や生活の利便性を高めるために商品やサービスを購入します。一方、界隈消費の目的は連帯感や共感を得ることに重点を置いています。そのため、界隈消費は自己表現の一種とも言えるでしょう。
界隈消費と従来の消費行動の違いの一覧は以下のとおりです。
特徴 | 界隈消費 | 従来の消費行動 |
目的 | 界隈で連帯感や共感を得る | 個人の満足度や利便性の向上 |
影響範囲 | SNSを通じて界隈内の多数の仲間に共有する | 家族や友人など、影響範囲が狭い |
消費行動の動機 | 自己表現・界隈への貢献 | 満足感・生活の改善 |
界隈消費によりトレンドが生まれるメカニズム

界隈消費をマーケティングで活用するには、どのような流れでトレンドが発生するのかを押さえておく必要があります。そこで、ここでは界隈消費によりトレンドが生まれるメカニズムを紹介します。
流れ① 界隈内の誰かが情報を発信する
界隈消費はほとんどの場合、影響力の強いインフルエンサーや熱量の多い人が、「この製品はいいね」と特定の商品をおすすめすることから始まります。ただし、一般の方の投稿により始まるケースもゼロではありません。
流れ② SNSで界隈内に評判が広がる
インフルエンサーなどの情報発信により界隈内で話題になると、「自分も使ってみたい」や「気になる」といった方がでます。そして、そのような方が体験談や口コミをSNSに投稿すると、さらに界隈内で評判が広がります。
流れ③ 別の界隈で話題になる
一つの界隈で話題になった製品やサービスは、別の界隈にも話題に取り上げられやすい傾向があります。なぜなら、複数の界隈に属している方を通じて、別の界隈に製品やサービスの評判が伝わるからです。すると、消費行動が拡大する可能性があります。
流れ④ 次から次へと別の界隈に伝わる
さらに次の界隈に伝わり、一つの界隈で始まったトレンドが大きなトレンドにつながることがあります。このようにSNSにおける界隈内の情報共有・共感により、連鎖的に消費が拡大することで界隈消費が発生します。
界隈消費による企業のメリット
界隈消費によって企業が得られるメリットは次の4つです。
- 新たな利用シーンの創出
界隈で製品やサービスの新たな使い方が創出される可能性がある。
・新規顧客の開拓
界隈消費により商品やサービスの口コミを拡散されることで、これまでリーチできなかった顧客層にアプローチできる
ようになり、新規顧客の開拓につながる。
・ブランド価値の向上
界隈の活動や価値の向上に貢献することで、ブランド価値の向上が期待できる。
・市場規模の拡大
複数の界隈へ評判が伝わることで、市場規模の拡大が期待できる。
このように、企業にとって界隈消費のメリットが多いことから、意図的に狙う意義は大きいと言えます。
企業が界隈消費を意図的に狙う際のポイント

企業が界隈消費を意図的に狙うには、従来と異なるアプローチが必要です。ここでは、3つのポイントを紹介します。
ポイント① 界隈の価値観やトレンドを把握する
界隈消費を狙うには、界隈ごとの価値観やトレンドを理解することが大切です。例えば、K-POP界隈では「推しを応援する文化」が根付いており、推し活グッズへの関心が高い傾向にあります。一方、カフェ巡り界隈ではSNSに映える写真や動画を投稿するために、フォトジェニックなスイーツやおしゃれな空間のカフェが重視されます。つまり、界隈で評判となるには、ターゲットの界隈について深く知ることが非常に大切です。
ポイント② 界隈を盛り上げる
従来の消費行動に対するアプローチ手法では、ターゲット像(ペルソナ)を設定し、その人物のニーズを満たす消費やサービスを提供することが重視されています。しかし、界隈消費は「界隈への貢献」も購入の動機となるため、従来の手法だけでは十分にアプローチできない場合があります。
そこでポイントとなるのは、「界隈を盛り上げる」ことです。例えば、インフルエンサーとのコラボレーション、界隈向けのイベント、ユーザー参加型キャンペーンなどの実施です。このように界隈全体が活性化する取り組みを行うことで、自社商品やサービスを展開しやすくなります。また、信頼関係を構築することで、ブランドのイメージ向上やファンの獲得にもつながるでしょう。
ポイント③ 他の界隈への伝搬を意識する
界隈消費の大きな特徴の一つは、「他の界隈に伝搬すること」です。企業からすると、別の界隈に伝搬させることで、より大きな市場を創出できます。そして、企業が意図的に伝搬を促すには、最初のターゲットの界隈を慎重に選び、そこからどの界隈へ広がりやすいかを検討することが大切です。
界隈消費を意識して若者にアプローチしよう
界隈消費は、界隈の価値観や文化に影響を受けて生まれる消費行動です。その多くは連帯感や共感を得ることが目的です。SNSの影響力が強い現代において、特に若者へアプローチするには、マーケティングに上手く取り入れる必要があります。若者向けの商品やサービスを展開している企業様は、この機会に界隈消費を意識したマーケティング戦略を検討してみてはいかがでしょうか。