
次に目指すべき社会のキーワードとして、「ウェルビーイング」が注目されています。様々な場面で聞く機会も増えていますが、今さら意味を聞けないと思っているビジネスパーソンもいるでしょう。本記事ではそのような方に向けて、ウェルビーイングの意味や注目される背景、企業のメリットを紹介します。
Contents
ウェルビーイングとは
ウェルビーイングとは、well(良い)とbeing(状態)を組み合わせた言葉です。従来の概念で健康と言えば、身体的に良好な状態を指していました。一方、ウェルビーイングは身体的・精神的・社会的に良好な状態が持続していることを意味します。
この言葉が初めて登場したのは、1946年のWHO(世界保健機関)の設立時です。設立者の1人である中国人のスーミン・スー博士が「健康」を定義した際に、ウェルビーイングを用いています。
「Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。)」
引用:公益社団法人日本WHO協会「世界保健機関(WHO)憲章とは」
ウェルネスやハピネスとの違い
ウェルビーイングと混同しがちな言葉に、ウェルネスやハピネスがあります。それぞれの意味は以下のとおりです。
ウェルネス:より良く生きようとする生活態度や行動のこと。
ハピネス:喜びや幸福感を意味する言葉で、幸せと感じる瞬間のこと。
これらの意味から、ウェルビーイングはウェルネスやハピネスを含んでおり、より大きな概念と言えます。
日本の現状
日本は世界4位のGDP(国内総生産)を誇り、経済的に豊かな国です。一方、2023年の「世界幸福度ランキング」において、日本は137カ国中47位にランクインしました。つまり、日本の現状は、経済規模と比較すると生活の満足度が低い国と言えます。
「世界幸福度ランキング」とは、国際連合の持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)が毎年発表している各国の幸福度を比較したレポートです。調査は、各国の約1,000人が0~10の11段階で幸福度を評価し、その平均値をもとに順位を決定しています。
ウェルビーイングが注目される背景

2023年6月16日、「第4期教育振興基本計画」が閣議決定されました。教育振興基本計画は、国が5年ごとに策定する教育施策全体の方向性や目標を示すものです。第4期教育振興基本計画では、子どもや教師、そして社会全体のウェルビーイングの向上が基本方針の1つとして掲げられています。この章では、教育の現場にまで取り入れられるほど、ウェルビーイングが注目を集めている背景について詳しく解説します。
ポストSDGsのテーマの有力候補
SDGs(Sustainable Development Goals)は誰一人取り残さない社会の実現のために、2030年までに達成すべき持続可能な開発目標です。しかし、現状のままでは2030年までにすべての目標の達成は難しいとされています。そこで、議論が活発になっているのが次世代の目標であるポストSDGsです。そのポストSDGsの議論において注目されているキーワードがウェルビーイングです。実際に、ポストSDGsとして「SWGs(Sustainable Well-being Goals)」が提唱され始めています。
生産性の向上
ウェルビーイングが注目される背景は、社員の幸福度を向上させることで生産性も向上することが分かってきたためです。「ハーバードビジネスレビュー」の2012年5月号に掲載された「幸福の戦略」では、幸福度の高い社員はそうでない社員と比較して、創造性が3倍高く、生産性が31%高く、売上が37%高いと紹介されました。つまり、社員のウェルビーイングを向上させることで、生産性が高まり、企業全体の生産性や収益性も向上できるとして注目されています。
心の豊かさを重視する価値観の変化
経済が発展した今、経済の豊かさが幸せであるとは限らず、心の豊かさや幸福感を重視する価値観に変化しつつあります。そのため、現在、国の豊かさを測る指標にはGDPが活用されていますが、国民一人ひとりの幸福感や生活の満足度を評価するGDW(国内総充実:Gross Domestic Well-being)の導入が検討されているとのことです。
企業がウェルビーイングを取り入れるメリット

成長戦略としてウェルビーイングを取り入れる企業が増えています。なぜなら、ウェルビーイングに取り組むことは、福利厚生の強化にとどまらず、企業の成長や競争力を高めるのにも役立つためです。この章では、企業がウェルビーイングを取り入れるメリットを紹介します。
メリット① エンゲージメントの向上
企業がウェルビーイングを取り入れることで、社員は身体的・精神的・社会的に良好な状態で仕事に打ち込むことができます。すると、社員の会社に対するエンゲージメント(愛社精神)が高まり、組織内の信頼関係が強化されチームワークの向上や自発的な取り組みが促進できるでしょう。
メリット② 生産性や品質の向上
先に紹介したように幸福度の高い社員の特徴は、そうでない社員と比較して創造性・生産性が高くなることです。そのため、企業がウェルビーイングを取り入れることで、個々の社員の創造性・生産性が向上し、企業全体の生産性や品質の向上につながります。
メリット③ 離職率の減少
企業がウェルビーイングを取り入れることは、社員にとって働きやすい環境の実現を意味します。働きやすい環境が整うと、社員の満足度が高まるため、離職率が減少するでしょう。そのため、人材確保においてもウェルビーイングは有効です。
メリット④ 企業価値の向上
ウェルビーイングを重視する企業は、外部から魅力的な企業と捉えられます。すると、顧客や投資家からの信頼が高まり、ブランドイメージや企業価値の向上が期待できます。
企業がウェルビーイングを実現する方法
ウェルビーイングが企業経営に有効だと理解していても、実際にどのような方法で実現すれば良いか悩んでいる方もいるでしょう。そこで、この章では企業がウェルビーイングを実現するための方法を箇条書きで紹介します。
- リモートワークやフレックスタイム制を導入し、社員のワークライフバランスに配慮する。
- ストレスチェックの実施や相談窓口の設置などでメンタルヘルスに取り組み、社員の精神的な健康を支援する。
- 社員の身体的な健康のために、運動や健康診断、栄養指導といったヘルスケアプログラムを取り入れる。
- 社員の評価基準を明確にして、公正な評価とフィードバックができる体制を構築する。
- 社内交流を促進するために、社内イベントの開催やコミュニケーションの機会を設ける。
ウェルビーイングで企業の競争力を高めよう
ウェルビーイングは、経済の豊かさではなく心の豊かさが重視される現代において注目されているキーワードです。企業においてもウェルビーイングを取り入れることで、多くのメリットがあります。生産性や競争力を高めたい経営者様は、この機会にウェルビーイングを取り入れてみてはいかがでしょうか。