MROC(エムロック)とは?消費者インサイトを探る手法

マーケティングにおいて、消費者インサイト(深層の欲求や感情)の把握は重要な要素です。消費者が何を求め、どのように感じているかを理解することで、より効果的な商品開発やサービスの改善ができるからです。その消費者インサイトをリサーチする手法に、MROC(エムロック)があります。本記事では、MROCの意味やメリット・デメリット、活用事例をわかりやすく紹介します。 

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MROCとは? 

MROCとは、「Market Research Online Community」の略で、「マーケット調査のためのオンラインコミュニティ」を意味します。これはSNSや掲示板などオンライン上のコミュニティに特定の条件を満たす消費者を招待し、消費者同士の交流や書き込み、言動などを観察して消費者インサイトを把握する手法です。 

MROCの仕組み 

MROCの特徴的な仕組みは、企業が設定した条件を満たす消費者をオンライン上のクローズドなコミュニティに招待することです。媒体は主に会員制のSNSや掲示板などで、招待する人数は数十人から数百人です。 

企業は形成したコミュニティを数週間から1年以上にわたって運営し、消費者同士の意見交換や言動を観察して消費者インサイトを調査します。消費者の生の声がリアルタイムで収集できることから、新商品の開発やサービス改善に役立ちます。 

従来のリサーチ手法との違い 

MROCは、アンケートやインタビューといった従来のリサーチ手法と異なる点が多くあります。具体的な違いは以下のとおりです。 

・持続性 

従来のリサーチ手法では、調査の持続性がありません。例えば、アンケートやインタビューを行うのは1回限りの場合がほとんどです。
一方、MROCでは数週間から1年以上にわたって情報収集を行います。 

・調査の目的 

従来のリサーチ手法の目的は、企業が知りたい情報を定量的・定性的に確認することです。その内容に合わせて、様々な方法を駆使してきました。
一方、MROCは企業が知りたい情報ではなく、消費者の生の声や感情、気持ちなどを知ることが目的です。 

・匿名性 

消費者同士が意見交換をしてアイデアを探す従来の手法として、グループインタビューがあります。消費者の生の声を収集できますが、消費者同士が顔を合わせて意見を交換するので、テーマによって意見が出にくい場合もあります。
一方、MROCはオンライン上のコミュニティで意見交換を行うため、匿名性が高く、デリケートな内容のテーマについても意見しやすいのが特長です。 

MROCが登場した背景 

MROCの歴史は、2000年代にアメリカの調査会社「Communispace」が提供したのが始まりとされています。この手法は2000年代後半になると広く知られるようになり、マーケティングリサーチの新しいアプローチ方法として注目を集めました。 

当時は、インターネットが急速に普及し、ソーシャルメディアが台頭してきた時代です。その結果、人々はオンラインで自由に意見交換できるようになりました。そこで、ソーシャルメディアを活用した新たなリサーチ方法として、MROCが開発されたのです。 

MROCのメリット 

企業にとってMROCは多くのメリットがあります。ここでは、4つのメリットについて解説します。 

メリット① 消費者インサイトを把握できる 

MROCを実施する最大のメリットは、消費者インサイトを把握できることです。従来のリサーチ手法では、消費者インサイトやニーズをあらかじめ仮定し、その仮定が正しいかどうかを調査で確認していました。一方、MROCは消費者同士が自由に出した意見から消費者インサイトを探す手法です。そのため、企業が想定していない消費者インサイトを把握することができます。 

メリット② 地理的・時間的な制約がない 

MROCはオンライン上のコミュニティで実施するリサーチ手法のため、調査対象の消費者を選ぶ際に地理的・時間的な制約がありません。幅広い対象者から選定できるため、商品やサービスに対する興味や愛着が強い方を集めやすくなります。 

メリット③ 情報収集だけではなく発信もできる 

MROCは双方向のコミュニケーションが可能なため、消費者へ情報を発信する際にも利用できます。他に、アンケートやインタビューといった調査を行うことも可能です。 

メリット④ リアルタイムの情報を収集できる 

MROCは消費者の意見をリアルタイムに収集できるのがメリットです。そして、長期間実施することで深い情報や意見の交換ができるのも魅力です。さらに、消費者の意見や言動の変容から新たな気づきを得ることもできます。 

MROCのデメリット 

MROCはメリットが多い一方で、デメリットもあります。ここでは2つのデメリットについて解説します。 

デメリット① コミュニティを形成する必要がある 

1つ目のデメリットは、実施するにはコミュニティを形成する必要があることです。
具体的には、以下のような準備が求められます。 

媒体の構築:オンラインコミュニティを運営するためのプラットフォームの選定と構築 

参加者の選定:調査目的に合った条件を満たす参加者の選定とリクルート 

ルール作り:コミュニティ内での活動方針やルールの明確化 

さらに参加者が安心して本音を語れる環境を整えることも重要な要素です。そのためには、適切なファシリテーターの選定や運営戦略の立案も必要です。これらの準備に手間がかかることがMROCのデメリットと言えます。 

デメリット② 膨大な情報を観察する必要がある 

2つ目のデメリットは、膨大な情報を観察し分析する必要があることです。 

MROCでは、数十人から数百人の参加者が長期間にわたって自由に意見を交換します。その結果、生まれる情報量は膨大です。その中から、企業にとって価値のある消費者インサイトを見つけ出すには、以下のような課題があります。 

  • テキストデータの量が膨大で、分析に時間がかかる。 
  • オンラインコミュニティでは参加者の表情や声のトーンなどの情報がないため、発言の背景にある感情を把握するのが難しい。 

これらを克服するには、データ分析のスキルや経験を持つ人材の確保が必要です。 

MROCの活用事例 

MROCの活用事例として、クラフトフーズの「100キロカロリーパック」プロジェクトをご紹介します。 同社はアメリカに本社を置く食品・飲料の世界的なコングロマリットで、「ナビスコ」や「オレオ」などの人気ブランドを持っています。 

このプロジェクトの目的は、健康志向の高まりに合わせた新しいアイデアを生み出すことでした。 そのため、クラフトフーズは「ダイエット志向の人」と「健康志向の人」を条件に300人の女性を選び、MROCを実施しました。 

このMROCから得られた消費者インサイトは、「健康的なおやつを食べたい」という思いがある反面、「甘くてカロリーの高いクッキーやクラッカーも食べたい」というものです。 

そこで、消費者インサイトをもとにクラフトフーズは、既存商品のクッキーやクラッカーを1パックあたり100キロカロリーに抑えた商品を開発しました。結果、ダイエット志向や健康志向の方でも罪悪感なく食べられるとして大ヒットし、初年度に1億ドルの売上を達成しました。この事例は、消費者インサイトを把握することの重要性を示しています。 

参考:三菱総合研究所 事業予測情報センター 主席研究員 佐野 紳也「早わかり「MROC成功のカギ」」 

MROCで消費者インサイトを見つけよう 

MROCは、オンライン上のクローズドなコミュニティに特定の消費者を招待し、自由な意見交換の中から消費者インサイトを把握するリサーチ手法です。そして、現代は消費者一人ひとりの価値観やライフスタイルが多様化しており、消費者インサイトを正確に把握することの重要性が増しています。新商品や新規事業のアイデアに悩んでいるご担当者様は、この機会にMROCの実施を検討してみてはいかがでしょうか。