2024年11月30日、トランプ次期米大統領は自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」において、BRICS(ブリックス)諸国が脱ドル化を推進した場合に100%の関税を課すという考えを発表しました。この発表により、「脱ドル化」に注目が集まっています。しかし、日本では馴染みのないキーワードのため「脱ドル化って何?」と思う方もいるでしょう。そこで、本記事ではドル化の意味やメリット・デメリット、脱ドル化の意味や注目される背景をわかりやすく解説します。
※BRICSとは、ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ共和国の頭文字から名前をとった首脳会議のことです。さらに現在は、エジプト・エチオピア・イラン・サウジアラビア・アラブ首長国連邦が加盟しています。
参考:Bloomberg「ドルを武器化するトランプ氏、BRICSへの無用な挑発になる恐れ」
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ドル化とは
脱ドル化を知るには、まずはドル化について理解を深めることが大切です。
ドル化とは、アメリカ以外の国においてドルが自国通貨並みに利用されることを指します。そして、ドルを自国の法定通貨と認めている場合を「公式的なドル化」と呼び、法定通貨と認めていない場合を「非公式なドル化」と呼びます。
海外旅行をした際、アメリカ以外でドルを使用した経験のある方も多いでしょう。このように、ドルが現地の通貨並みに広く使える状態をドル化と呼びます。
なぜドル化が発生するのかと言えば、多くの場合は自国通貨の信用性が低いためです。資産を守るために、不安定な自国通貨ではなく、価値の安定しているドルが好まれるためです。
ドル化している国・地域を以下の表にまとめました。
公式的なドル化 | 非公式的なドル化 | |
国・地域 | ・エクアドル ・パナマ ・プエルトリコ | ・アルゼンチン ・ボリビア ・カンボジア |
参考:畑瀬 真理子「最近のドル化(dollarization)・ユーロ化(euroization)を巡る議論について」
上記の国の中から、例としてカンボジアの状況を紹介します。JETRO(日本貿易振興機構)によると、カンボジアは高度にドル化をしており、2020年時点で現金の83.7%がドルとのことです。そして、預金についても2023年時点で90.3%が外貨建て(主にドル建て)で行われており、現地通貨のリエルはあまり使われていない状況です。
参考:JETRO「為替管理制度|カンボジア」
ドル化のメリット・デメリット
多くの国がドル化をしているのはメリットがあるためです。しかし、ドル化にはデメリットもあります。ここでは公式なドル化をした場合のメリット・デメリットについて紹介します。
メリット① インフレをコントロールしやすくなる
公式なドル化のメリットは、インフレをコントロールしやすくなることです。自国通貨の信用が低い場合、政治的・経済的混乱が生じると、自国通貨の価値の急落や資本の逃避などにより高インフレが発生するリスクがあります。一方、ドルは信用が高く為替レートが安定しているため、ドル化することでインフレをコントロールしやすくなります。
デメリット① 独自の金融政策ができなくなる
公式なドル化を行うデメリットは、金利の調整などの独自の金融政策ができなくなることです。それだけではなく、アメリカの金融政策の影響が大きくなるのも問題です。例えば、ドル化した国がインフレになると金利上昇の金融政策が有効ですが、アメリカが景気後退によって金利を下げることもあります。このように、公式なドル化をしてしまうと本来すべき金融政策を実施できないだけではなく、意図せずに反対の金融政策が実施されてしまう可能性もあります。
デメリット② 為替レートの変動による調整機能がなくなる
公式なドル化を実施するデメリットは、為替レートの変動による調整機能がなくなることです。例えば、日本では円安が進むと輸出産業が有利になるため、景気回復の起爆剤になります。しかし、公式なドル化では、このような自国通貨の為替レートの変動における恩恵を受けることができません。
脱ドル化とは
脱ドル化とは、国際取引や中央銀行の外貨準備におけるドル依存を抑制するために、他の通貨を利用することです。外貨準備は、政府や中央銀行が保有する外貨建て資産のことで、為替介入や外貨建て債務の返済が困難になったときに使用します。脱ドル化が進んでいることは、以下のように外貨準備高の通貨シェアが低下していることからもわかります。
出典:IMF BLOG「準備資産の国際システムにおけるドルの優位性:最新の動き」
2000年のドルの外貨準備高の通貨シェアは70%を超えていました。しかし、2020年には60%を下回っています。
脱ドル化が注目される背景
脱ドル化が注目される背景として、4つの出来事が関係しています。
ロシアへの経済制裁
1つ目の背景は、ロシアへの経済制裁です。ウクライナ侵攻信仰に伴い、ロシアは欧米から経済制裁を受けています。そのため、ロシアではドルの調達が難しくなり、原油などを人民元で取引するケースが増えています。つまり、経済制裁をきっかけにロシアはドル離れを加速させ、さらには脱ドル化の機運を高めようとしているのです。
中露を中心とした脱ドル化の推進
2つ目の背景は、中露を中心とした脱ドル化の推進です。具体的には中露が加盟するBRICSにおいて、新たな通貨の創設などが検討されています。これはドルの影響力を抑えることを目的としており、中露以外のBRICSの加盟国がこの動きに追随するかに注目が集まっています。
トランプ次期米大統領の強硬な発言
3つ目の背景は、トランプ次期米大統領の強硬な発言です。トランプ次期米大統領は「脱ドルを容認しない」と発言するなど、脱ドル化の動きを嫌っていることで知られています。そして、冒頭にも紹介したように、BRICS諸国に対しては脱ドル化を推進すれば「100%の関税」を課すと発表しました。この発言を受けて、BRICS諸国がどのような対応をするのかに注目が集まっています。
アメリカの財政赤字の拡大
4つ目の背景は、アメリカの財政赤字の拡大です。アメリカの2023年の財政赤字は1兆6,840億ドル(252兆6,000億円)で、累積債務残高が26兆2,400億ドル(3,936兆円)でした。米国議会予算局(CBO)の試算によると、この累積債務残高は、2034年に48兆3,000億ドル(7,245兆円)までに膨れ上がる見込みです。このように、アメリカの財政赤字が拡大するとドルのリスクが高まるため、今後さらに悪化するようであれば、ドルの信用性に悪影響が出ると考えられています。そして、ドルの信用性が低下することで、脱ドル化が加速する可能性があります。※1ドル=150円換算
参考:CBO「The Budget and Economic Outlook: 2024 to 2034」
ドル化・脱ドル化の動向に注目しよう
トランプ次期米大統領の発言により、BRICS諸国が脱ドル化を推進するかに注目が集まっています。現在のところ、新たな通貨がドルに取って代わる可能性が低いとされています。しかし、アメリカがBRICS諸国に100%の関税を課すと日本のみならず、世界経済に大きな影響が出るかもしれません。そのため、今後もBRICS諸国を含めたドル化・脱ドル化の動向に注目しましょう。