2024年3月26日、経済産業省は「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を公表しました。
同ガイドラインにおいて、企業はビジネスケアラーに対して支援をすることを求められています。ここで、「ビジネスケアラーって何?」と思う方もいるでしょう。
そこで、本記事ではビジネスケアラーの概要や企業が支援に取り組むメリット、支援策3選を紹介します。
Contents
ビジネスケアラーとは
ビジネスケアラーとは、仕事をしながら家族などの介護をする人のことです。ワーキングケアラーとも呼ばれています。超高齢化の日本において、ビジネスケアラーは増加傾向にあります。
ビジネスケアラーが抱える課題
ビジネスケアラーの問題について理解を深めるために、まずはビジネスケアラー本人がどのような課題を抱えているのかを把握しましょう。
体力的・精神的な負担の増加
ビジネスケアラーが仕事と介護を両立するには、体力的・精神的に大きな負担を伴います。日中は仕事、帰宅後は介護をこなす必要があり、十分な睡眠時間やプライベートの時間を確保できなくなるためです。このような負担が蓄積することで、心身ともに疲労してしまいます。
パフォーマンスの低下
仕事と介護の両立で疲弊すると、仕事への意欲や集中力が低下してパフォーマンスも低下します。例えば、毎晩介護に追われて十分な睡眠が取れないと、会議中に集中力が持続できなかったり、ミスをしやすくなったりするでしょう。このような状態が続けば、日々の業務に支障をきたし、本人のパフォーマンスの低下だけではなく組織全体の生産性にも悪影響を及ぼします。
介護離職の増加
ビジネスケアラーは介護離職につながりやすいのが課題です。仕事と介護の両立が難しい職場であったり、パフォーマンスの低下から「周囲に迷惑をかけている」と思い込んだりするためです。介護離職は本人にとってキャリアの喪失につながりますし、企業も人材を失うことは大きな損失となります。
ビジネスケアラーの増加がもたらす社会的な問題点
経済産業省の試算によると、ビジネスケアラーは2030年に約318万人に増加する見込みです。2020年は約262万人がビジネスケアラーであったことから、10年で56万人が増加することを意味します。この数は、労働力人口の21人に1人に相当します。
出展:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
ビジネスケアラーの増加は、様々な問題を発生させると懸念されています。この章では、懸念される社会的な問題点について解説します。
9兆円以上の経済損失が発生
ビジネスケアラーが予想通りに増加すると、介護離職や労働生産性の低下により、2030年には日本全体で9兆1,792億円の経済損失が発生する見込みです。経済損失の内訳は以下のとおりです。
出展:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
日本全体でみると経済損失の金額が大きいため、イメージしにくいかもしれません。そこで、経済損失を企業の規模別に試算したのが、以下の図です。
出展:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
上記の2つの損失を合計すると、大企業(製造業・従業員数3,000名)は1社あたり年間6億2,415万円、中小企業(製造業・従業員数100名)は1社あたり年間773万円の経済損失です。
つまり、ビジネスケアラーの増加による経済損失は、企業にも大きな負担が発生することを意味します。
介護離職による人材不足の深刻化
現在の日本では少子高齢化・人口減少を背景に、人材不足が慢性化しています。実際に以下のグラフのように、2012年以降の雇用人員判断D.I.(雇用人員判断指数)は「0」を下回る状態が続いています。
※雇用人員判断D.I.とは、日銀短観において雇用人員が「過剰」と答えた企業の割合から、「不足」と答えた企業の割合を引いた値です。「0」を上回ると人手が足りている企業の割合が多く、反対に下回ると人手が不足している企業の割合が多いことを示します。
出展:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
ビジネスケアラーが増加すると、介護離職が増加すると見込まれることから、人材不足がますます深刻化すると懸念されています。
企業がビジネスケアラーを支援するメリット
ビジネスケアラーの増加による問題が懸念される中、企業にも対応が求められています。企業側からするとビジネスケアラーへの支援は、コストや負担の増加につながると思うかもしれません。しかし、実は支援することで企業にも多くのメリットがあります。この章では、企業がビジネスケアラーを支援するメリットについて詳しく解説します。
メリット① 人材の確保
企業がビジネスケアラーを支援することで得られるメリットの1つ目は、人材を確保できることです。もし企業が適切な支援をしなければ、ビジネスケアラーは疲弊し介護離職につながるかもしれません。すると、企業は人材を失うことになります。
新たに人材を採用したり、教育したりするのは時間とコストがかかります。そもそも人材不足が蔓延化している現代、優秀な人材を見つけること自体が容易ではありません。
そこで、ビジネスケアラーをサポートして介護離職を防ぐことが大切です。貴重な人材を引き続き活用することで、企業の競争力も維持できます。つまり、支援することで、企業にも中長期的に利益があります。
メリット② 企業イメージの向上
企業がビジネスケアラーを支援する2つ目のメリットは、企業イメージの向上です。例えば、ある企業が社員の介護支援制度を導入するとします。この取り組みが広く認知されると、求職者から魅力的な職場として選ばれる可能性が高まります。「この会社なら安心して働ける」と感じてもらえるためです。また、同時にステークホルダーからも「社員を大切にする企業」として評価されるため、企業価値の向上といった好影響が期待できます。
ビジネスケアラーへの支援策3選
ビジネスケアラーが抱える課題を解消するためには、従業員が介護と仕事を両立できるような支援策が必要です。この章では、企業の取り組みとして有効な支援策を紹介します。
相談窓口の設置
企業ができる支援策は相談窓口の設置です。支援を効果的に行うためには、従業員の実態を正確に把握することが不可欠だからです。特に、親の介護が必要になりやすい40代以上の従業員の場合は、責任ある仕事が任されていることも多いため、「会社に迷惑をかけたくない」と思って相談しにくいと感じている方もいるでしょう。しかし、いくら責任感が強くても仕事と介護の両立に疲弊してしまうと、仕事のパフォーマンスが低下することもあります。このような事態を防ぐために、従業員が気軽に相談できる窓口の設置が有効な支援策と言えます。
人事労務制度の充実
企業ができるビジネスケアラーへの支援策は、人事労務制度の充実です。具体的には、テレワークやフレックス制度など、柔軟な働き方を実現するための制度を充実させることです。柔軟な働き方を認めることで、時間の調節がしやすくなり、ビジネスケアラーは仕事と介護の両立における負担を軽減できます。
介護経験者同士のコミュニティを形成
ビジネスケアラーの精神的な負担を軽減するためには、介護経験者同士のコミュニティを形成することが有効です。例えば、同じような経験をした仲間と話し合う場があれば、ビジネスケアラー同士で知見を共有できるためです。また、話し合える場があることで、孤独感の緩和にもつながります。
ビジネスケアラーへの支援事業を検討しよう
ビジネスケアラーの増加による2030年の経済損失は、9兆1,792億円と試算されています。この経済損失を軽減するには、企業の取り組みが不可欠です。また、経済産業省が「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を作成して、ビジネスケアラーへの支援を推進していることから、企業はますます取り組みが求められるでしょう。そこで、新規事業のアイデアを探している経営者様は、支援に役立つ事業案を検討してみてはいかがでしょうか。