オフィス回帰とは、リモートワーク主体の従業員に対して、出社回数を増やす動きのことです。アフターコロナとなり、日本やアメリカなどでオフィス回帰が広がっています。そこで本記事では、オフィス回帰の各国の現状と事例、企業側のメリット・デメリットを紹介します。
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オフィス回帰の現状
世界の流れを把握するために、まずは日本・アメリカ・ドイツのオフィス回帰の現状を紹介します。
日本
国土交通省の「令和5年度テレワーク人口実態調査-調査結果(概要)-」によると、2023年(R5)の全国平均のテレワーク実施率は16.1%でした。コロナ禍前の2019年(R1)の15.2%と比較して高いものの、コロナ禍の2021年(R3)の21.4%を頂点にそれ以降はほぼ一定割合で減少し、コロナ改善の水準に戻りつつあります。
また、2023年の首都圏は28.0%と他の地域と比較して高いものの、それ以外の近畿圏・中京圏・地方都市圏ではコロナ禍前よりも低くなっているのが現状です。この調査から日本において、オフィス回帰が広がっていると言えます。
出典:国土交通省「令和5年度テレワーク人口実態調査-調査結果(概要)-」
アメリカ
Pew Research Centerの「About a third of U.S. workers who can work from home now do so all the time」によると、2023年時点において、アメリカでリモートワーク可能な職業に就く労働者の35%がリモートワークをしているとのことです。2020年のコロナ禍の55%から大きく下落しているものの、コロナ禍前の7%よりも依然として高いのが現状です。そのため、アメリカではオフィス回帰が広がっているものの、リモートワークの働き方も定着していると言えるでしょう。
ドイツ
ドイツも各国と同様に、コロナ禍でリモートワークが急激に普及した国の1つです。しかし、日本やアメリカと異なり、オフィス回帰の動きが弱く、リモートワークが定着しています。ZEWの「Prevalence of Working from Home in the New Normal」によると、情報サービス関連の企業で80%、製造業においても45%の企業がリモートワークの選択肢を提供しているとのことです。このようなリモートワークを選択できる割合は、コロナ禍で急激に高まりました。その後、若干の減少が見られるものの、高水準を維持しています。
出典:ZEW「Prevalence of Working from Home in the New Normal」
オフィス回帰の企業側のメリット・デメリット
ドイツのようにオフィス回帰が弱い国がある一方で、日本のようにリモートワーク実施率がコロナ禍前の水準に戻りそうな国もあります。その要因は、オフィス回帰にはメリットだけではなく、デメリットもあるためです。そこで、この章では企業がオフィス回帰をするメリット・デメリットを紹介します。
メリット① コミュニケーションが活発になる
オフィス回帰の企業側のメリットは、コミュニケーションが活発になることです。リモートワークでは、従業員が個々に仕事を行うため同僚や上司とのコミュニケーションの機会が減ります。そのため、上司や同僚との信頼関係を構築しにくいのがデメリットです。従業員に出社を求めることで、物理的にコミュニケーションがしやすくなり、信頼関係の構築を推進できると期待されています。
メリット② 企業文化を浸透させやすい
オフィス回帰の企業側のメリットは、従業員に企業文化を浸透させやすくなることです。従業員がオフィスに集まることで、企業の雰囲気や価値観などを共有できるためです。また、企業文化が浸透することで、組織としての一体感が生まれ、従業員の愛社精神の向上も期待できます。
メリット③ 業務の進捗を把握しやすい
オフィス回帰の企業側のメリットは、業務の進捗を把握しやすいことです。従業員がオフィスに集まることで、上司は従業員の進捗を必要に応じて直接確認できるためです。また、進捗の遅れが発生した場合は、従業員からもリアルタイムに報告することもできます。このように、業務全体を管理しやすいという理由からオフィス回帰が広がっています。
デメリット① コストが増える
オフィス回帰の企業側のデメリットは、コストが増えることです。従業員をオフィスに出社させるには、オフィスの賃料や光熱費に加えて、従業員の交通費などが発生するためです。また、場合によっては感染症対策や環境整備のための設備を導入する必要性もあるため、想定以上の費用が発生するリスクがあります。
デメリット② 離職につながる恐れがある
オフィス回帰の企業側のデメリットは、従業員の離職につながる恐れがあることです。なぜなら、リモートワークの働き方を重要視している従業員もいるためです。実際に、国土交通省の「令和5年度テレワーク人口実態調査-調査結果(概要)-」によると、勤務先が出勤を指示・推奨した場合、どの年代でも転職又は独立起業を検討する従業員がいます。特に若い年代ほど高くなる傾向にあります。
出典:国土交通省「令和5年度テレワーク人口実態調査-調査結果(概要)-」
デメリット③ 地方在住者への対応が必要になる
オフィス回帰の企業側のデメリットは、地方在住者への対応が必要になることです。リモートワークの推進により、地方に移り住んだ方やリモートワークを前提に地方で採用された方がいるためです。オフィス回帰の際には、このような従業員に対して、どのような対応をするのかが問題となります。場合によっては、転居支援や特例としてリモートワークを認めるなどの制度設計が必要です。
オフィス回帰の事例
日本やアメリカでは一部の企業がオフィス回帰を決定しています。その中から3社の事例を紹介します。
Amazon
アメリカの大手IT企業のAmazonは、2025年1月よりリモートワークを廃止して出社を義務化する予定です。これにより2023年以降、少なくとも週3日は出社するように求めていたものがさらに強化されます。このことについて、アンディ・ジャシー最高経営責任者(CEO)は、「過去5年間を振り返り、オフィスで一緒に過ごすことの利点は大きい」とのことです。ただし、従業員の30%が離職する可能性も指摘されており、その動向に注目が集まっています。
参考:NHK「アマゾン 従業員に週5日出社を要請 対面の利点大きいと判断」
参考:Worker’s Resort「オフィス回帰は時代遅れ? アマゾンの出社義務化を巡り賛否の声」
Zoom
Zoomは、Web会議サービス「Zoom」を運営しているアメリカの企業です。同社のサービスは、コロナ禍に非接触で会議ができるとして多くの企業が利用しました。しかし、そのZoomは2023年8月にフルリモートワークを廃止し、週2日出勤することを求めています。リモートワークの重要な役割を担ってきたZoomだけに、この方針転換は大きな話題になりました。
本田技研工業株式会社
本田技研工業株式会社は、2020年4月から全社的に在宅勤務の制度を導入していましたが、2022年の5月から週5日間の出社を義務化しています。このように、同社は早い段階でリモートワークを廃止してオフィス回帰を行った企業です。なお、2024年3月期の営業利益が1兆3,819億円で過去最高を更新しており、オフィス回帰後の業績は好調です。
出典:本田技研工業株式会社「業績ハイライト」
オフィス回帰は選択肢の1つ
アメリカの大手IT企業であるAmazonが出社を義務化する予定であることから、オフィス回帰に注目が集まっています。また、本田技研工業株式会社のようにオフィス回帰後に業績を伸ばしている企業もあることから、リモートワークの生産性が低いと感じている経営者様にとって、オフィス回帰も選択肢の1つと言えます。この機会に、従業員の労働形態について検討してみてはいかがでしょうか。