
ビジネスにおいて、コミュニケーション能力は成果を左右する重要なスキルの一つです。そのため、「プレゼンテーションでもっと魅力的に話したい」や「人を引きつける会話力を身につけたい」と考えるビジネスパーソンも多いでしょう。
そのような方におすすめのテクニックは、ストーリーテリングです。Appleの創業者スティーブ・ジョブズ氏もこのテクニックを巧みに活用していたことで知られています。本記事では、ビジネスパーソン向けにストーリーテリングの基礎知識や成功事例、メリット、やり方をわかりやすく紹介します。
ストーリーテリングとは
ストーリーテリングとは、物語を通じて情報や想いを伝えるコミュニケーション技術です。伝えたいメッセージを体験談やエピソードといった「物語」にのせて語ることで、相手の心に届きやすくなります。こうした特長から、ストーリーテリングは営業やプレゼンテーションなど、様々なビジネスシーンで活用されている効果的なテクニックです。
成功事例:スティーブ・ジョブズ氏のスピーチ
ストーリーテリングの達人として、真っ先に名前が挙がるのは、Appleの創業者スティーブ・ジョブズ氏です。同氏はプレゼンテーションの天才として知られ、Apple製品の魅力を多くの人にわかりやすく伝えました。その一例が、初代iPhoneの発表会で語られた次のフレーズです。
「どう操作する?マウスは無理だ。スタイラスか?ボツだ。誰が望む?すぐ無くしそうだ。スタイラスはやめとこう。皆が生まれながらに持つ世界最高のデバイス、指だ」
引用:iPhone を発表するスティーブ・ジョブス(日本語字幕)
このスピーチは、iPhoneの操作方法を紹介する場面で語られたものです。ジョブズ氏は、マウスやスタイラス(※タッチ画面操作用のペン型デバイス)といった選択肢を順に否定しながら、聴衆が思わず納得し、映像を思い描ける語り口で話を展開しました。そして最後に、「世界最高のデバイスは指だ」と印象的な言葉で締めくくり、聴衆の記憶に深く刻み込んだのです。
ビジネスでストーリーテリングを使うメリット

ストーリーテリングは、プレゼンテーションや営業などの幅広いビジネスシーンで有効です。その理由として、4つのメリットを紹介します。
共感を得られる
ストーリーテリングを使うことで、聞き手の共感を得られます。物語として語られることで、聞き手はその内容を「自分ごと」として受け止めやすくなるからです。例えば、製品の機能を淡々と説明するよりも、「その製品がどの課題を解決し、誰の生活をどのように変えたのか」というエピソードを語ったほうが、聞き手の心に響き、自然と耳を傾けてもらえるでしょう。このように共感を得られることで、話に興味を持ってもらえる確率が高まり、より深いコミュニケーションにつながります。
記憶に残りやすくなる
物語には、人の記憶に残りやすいという特性があります。単なる事実を述べた説明よりも、物語として語られた内容のほうが、脳内で映像化され視覚的イメージとして記録されやすいためです。ビジネスにおいて情報が記憶に残ることは、商品やサービスを思い出してもらえる確率を高めるので、結果的に販売機会の増加につながります。
複雑な情報をわかりやすく伝えられる
ビジネスにおけるコミュニケーションでは、専門的な内容や複雑なプロセスを説明する場面も多くあります。そのような場面でストーリーテリングは非常に有効です。実際の体験談などを交えて話すことで、抽象的な内容を具体化し、聞き手が理解しやすくなるためです。
行動を促せる
ストーリーテリングには、人の行動を後押しする力があります。物語として伝えることで相手の心に響き、感情が動くとそれが行動につながるからです。
例えば、「この製品は費用対効果が高いです」と説明しても、聞き手の感情にはあまり響かないかもしれません。しかし、「この製品を導入した企業が、半年で業績を回復させた」という具体的な物語を伝えると、「自分も同じように成果を出したい」や「試してみたい」と感情が動き、行動を促せるでしょう。
このように、ストーリーテリングは聞き手の共感や納得感を引き出し、自然なかたちで行動を促せます。ビジネスにおいては、次のような場面で特に有効です。
- 商品やサービスの購入を後押ししたいとき
- 提案やプレゼンテーションへの賛同を得たいとき
- 採用活動で応募を促したいとき
つまり、ビジネスで成果を高めるには、ただ情報を伝えるのではなく、心に響く「物語」を語ることが大切です。
ストーリーテリングのやり方

ストーリーテリングを実践するには感覚やセンスが必要と思うかもしれません。しかし、手順とポイントを押さえることで、誰でも実践可能です。ここでは、ビジネスシーンで活用するためのストーリーテリングの手順を解説します。
手順① ターゲットを明確にする
まずは、「誰に向けて話すのか」を明確にします。相手が経営者なのか、営業担当なのか、あるいは消費者なのかによって、伝える内容や話の切り口が大きく変わるためです。ターゲットを具体的に設定することで、聞き手が「自分ごと」として捉え、共感を得られやすくなります。
この手順で有効なのが、「ペルソナ」の作成です。ペルソナとは、年齢・職業・価値観・ニーズなどを細かく設定した、架空の理想的なターゲット像を指します。具体的なペルソナを設定することで、相手の心に響く物語が組み立てやすくなります。
手順② ターゲットの興味・関心を把握する
次に、ターゲットが「何に関心を持っているか」や「どんな悩みや課題を抱えているか」を想像します。例えば、業務効率を上げたい人には、生産性向上に関する物語が心に響くでしょう。このように、相手の関心やニーズを理解し、それに合ったテーマを選ぶことが聞き手を物語に引き込むための鍵です。
手順③ ターゲットが共感する内容を考える
ストーリーテリングで大切なのは、聞き手の共感を得ることです。「自分にもあてはまりそう」や「似た経験がある」と感じてもらえるような内容を考えましょう。そのために効果的なのは、自分の失敗談を取り入れることです。例えば、「最初はうまくいかなかった」や「迷った時期があった」といったエピソードは、リアリティがあり、聞き手の心に響きやすくなります。
手順④ STAGEの要素に沿って物語を作る
物語は、「STAGEの法則」の5つの要素を軸に組み立てることで、説得力のある構成になります。
- S(Situation:場面)
例:A社は競合との価格競争が激化し、売上が減少傾向にありました。
- T(Trouble:課題)
例:A社の最大の課題は「新規顧客の獲得」です。広告や営業活動を行っても効果が見えず、限られたリソースでどのように新規顧客を増やすかが悩みの種でした。
- A(Action:行動)
例:そこで、導入したのが営業支援ツールです。顧客情報の一元管理やニーズに応じた資料の自動作成など、業務の効率化を図りました。
- G(Goal:結果)
例:ツールの導入後、一貫性のある顧客対応が功を奏し、導入から3カ月で新規顧客の獲得数が前年比150%を達成しました。
- E(Essence:結び)
例:A社の成功の秘訣は、ツールを活用して「顧客の悩みを一秒でも早く解決する」という思いを徹底したことです。
このように、STAGEの法則のフレームワークに沿って物語を構成すれば、聞き手に伝わりやすくなります。
ストーリーテリングを使う際の注意点
ストーリーテリングは、ビジネスにおいて効果的なコミュニケーション手法です。しかし、あくまで「手段」であり、目的を見失わないことが大切です。使用する際には、次の点に注意しましょう。
- 過度な演出や誇張は避ける
- 話が長すぎないようにする
- 本題から逸れないようにする
特に、過度な演出や誇張は、かえって信頼を損ねるリスクがあるので注意が必要です。
ストーリーテリングをビジネスに役立てよう
ストーリーテリングは、聞き手の行動を引き出すための効果的なテクニックです。様々なビジネスシーンで活用できるため、ビジネスパーソンにとって身につけたいスキルの一つと言えます。この機会にストーリーテリングを習得し、コミュニケーション力を高めてみてはいかがでしょうか。