空間コンピューティング(Spatial Computing)は、現実空間とデジタル空間を融合する技術の総称です。今後、市場規模の急激な拡大が見込まれる中、活用する企業も増えています。本記事では新規事業のアイデアを探している方に向けて、空間コンピューティングの意味や関連技術、企業が活用するメリットを紹介します。
Contents
空間コンピューティングとは
空間コンピューティングは、2003年にアメリカのサイモン・グリーンウォルド氏により、「機械が実際のオブジェクト(物体)や空間への参照を保持し、操作する機械との人間の相互作用」と定義されました。簡単に言えば、現実空間とデジタル空間を融合する技術の総称です。
参考:サイモン・グリーンウォルド「Spatial Computing」
空間コンピューティングの市場規模
空間コンピューティングの市場規模は、今後、急激に拡大すると見込まれています。Global Market Insightsの「空間コンピューティング市場規模と共有統計レポート2032」によると、2023年から2032年の年平均成長率は19%以上です。具体的に2022年の市場規模が1,059億ドルに対して、2032年には5,609億ドルに達する見込みです。つまり、10年で市場規模が5倍以上に拡大すると試算されています。
空間コンピューティングの代表的な技術
空間コンピューティングをビジネスで活用するには、どのような技術があるのかを把握することが重要です。この章では、空間コンピューティングの代表的な6つの技術を紹介します。
AR(拡張現実)
ARは「Augmented Reality」の略で、日本語で拡張現実のことです。現実空間にデジタル空間の情報を重ねて表示する技術のことで、主にスマートフォンやメガネ型のデバイス(スマートグラス)を使用して実現します。例えば、スマートフォンのカメラを介して見る現実空間に、画面上でデジタル空間の情報を追加表示するといった具合です。活用方法としては、街の情報と連動したゲームや道案内アプリ、店舗のお得情報の表示などが考えられます。
VR(仮想現実)
VRは「Virtual Reality」の略で、日本語で仮想現実のことです。一般的にヘッドマウントディスプレイを装着し、人の動きに合わせてデジタル空間の情報を映すことで、デジタル空間を疑似体験できる技術です。体験型アトラクションや観光産業、住宅販売などでよく活用されています。また、危険性の高い業務をVRでシミュレーションすることで、安全な社員教育も実現できます。
MR(複合現実)
MRは「Mixed Reality」の略で、日本語で複合現実のことです。ARとVRを組み合わせた技術で、ヘッドマウントディスプレイに現実空間の情報とデジタル空間のオブジェクトを映します。そして、まるで現実空間に存在するかのように、デジタル空間のオブジェクトを操作できるのが特長です。その特徴から医療・製造・航空などの分野において、技術の習得を目的としたバーチャルシミュレーションに活用されています。
ハンドトラッキング
ハンドトラッキングは、ユーザーの手の動きを検知・認識する技術です。ハンドトラッキングを活用することで、現実空間とデジタル空間の手の動きが連動します。自分が操作しているような体験を得られるのが特長で、AR・VR・MRの操作性を高めるのに活用されています。
アイトラッキング
アイトラッキングは、ユーザーの目の動きを検知・認識する技術です。アイトラッキングを用いることで、視線による操作ができます。例えば、デジタル空間のオブジェクトに視線を向けると、メニュー画面が開いたり、オブジェクトの情報が表示されたりといった具合です。また、熟練技術者の視線をアイトラッキングで解析することで、作業効率の改善や効率的な技術伝承にも役立てられています。
3Dスキャン技術
3Dスキャン技術は、ユーザーの現実空間の周辺情報を取得するセンサー技術です。3Dスキャン技術を用いて現実空間内の障害物を検知することで、ユーザーが障害物にぶつかるのを予防します。また、現実空間の3D情報をデジタル空間に取り込む際にも活用されています。
空間コンピューティングを企業が活用するメリットと事例
空間コンピューティングを企業が活用するメリットは、「新規事業を創出できる」「顧客体験価値を向上できる」「社員教育の均一化・効率化を図れる」です。これら3つのメリットと、わかりやすい事例を紹介します。
メリット① 新規事業を創出できる
空間コンピューティングは登場して日が浅いため、既存事業と組み合わせることで、これまでにはない価値を持つ商品やサービスを創出しやすいのがメリットです。
企業の事例として、株式会社mediVRの「mediVRカグラ」を紹介します。
「mediVRカグラ」は、株式会社mediVRと大阪大学が連携し開発した、VR機器を用いたリハビリテーション用訓練装置です。
VRを装着した状態で椅子に座ったまま左右交互に腕を伸ばすことで、姿勢のバランスや重心移動のコツを掴むのに役立つとのことです。この他にも、離床練習や転倒予防などの様々なリハビリテーションに活用されています。※離床とは、寝ている状態から起きることです。離床練習は、本人の生活の質を向上させるだけではなく、介護者の負担軽減にも役立ちます。[崇青7]
従来のリハビリテーションは、評価や指示が曖昧になりやすいのが課題でしたが、「mediVRカグラ」は評価や指示を定量的に示せるのが強みです。なお、同事業は経済産業省・厚生労働省が主催する2018年の「ジャパンヘルスケアビジネスコンテスト」において、グランプリを受賞しています。
メリット② 顧客体験価値を向上できる
企業が空間コンピューティングを活用するメリットは、顧客体験価値を向上できることです。ARやVRなどを活用したデジタルコンテンツは、従来の手法よりも多くの情報量を提供できたり、新たな楽しみを提供できたりするためです。
企業の事例として、株式会社三越伊勢丹のスマートフォン向け仮想都市空間サービス「REV WORLDS」を紹介します。
株式会社三越伊勢丹は、仮想都市空間サービス上に仮想伊勢丹新宿店を運営しています。その仮想伊勢丹新宿店では、デパ地下やファッション、ギフトなどの様々なショップが出店し、仮想店舗内の商品は実際にオンラインストアから購入することも可能です。ユーザーは自宅にいながら、三越伊勢丹でショッピングする雰囲気を楽しめます。
メリット③ 社員教育の均一化・効率化を図れる
企業が空間コンピューティングを活用するメリットは、社員教育の均一化・効率化を図れることです。ARやVRを使った教育コンテンツを制作することで、教育担当者ごとの質のムラをなくし、反復して教育を実施することで効率的に理解度を高められるためです。
企業の事例として、全日本空輸株式会社(ANA)の取り組みを紹介します。
ANAは客室乗務員向け機内訓練として、実際に再現が困難な機内での火災や急減圧などの緊急事態、機内設備の安全確認作業をVRで再現しています。反復学習することで、万が一の緊急事態に迅速に対応できることを目指しています。
なお、航空業界の訓練用としてCGを用いたVRの本格導入は、世界初とのことです。
空間コンピューティング市場に参入しよう
空間コンピューティングはARやVR、トラッキング技術など、現実空間とデジタル空間を融合する技術の総称です。今後の市場規模は急激に拡大することが予想されており、企業にとってビジネスチャンスの多い分野です。新規事業のアイデアに悩んでいる方は、この機会に空間コンピューティングを検討してみてはいかがでしょうか。