現代においては、持続可能な社会の実現に向けて、事業や活動による社会的な成果や価値が重要視されています。
そこで、注目を集めているキーワードが社会的インパクトです。
本記事ではビジネスパーソンに向けて、社会的インパクトの意味や評価方法、活用事例をわかりやすく解説します。
Contents
社会的インパクトの意味と定義
社会的インパクトの定義は、内閣府の「社会的インパクト評価の実践による人材育成・組織運営力強化調査」によると、”短期、長期の変化を含め、当該事業や活動の結果として生じた社会的、環境的な「アウトカム」”と定められています。
社会的インパクトの特徴は以下のとおりです。
- 長期間だけではなく、短期間の影響も含む
- 大規模な変化だけではなく、消費者一人の心理的変化も含む
- ポジティブな変化だけではなく、ネガティブな変化も含む
アウトカムとは、事業や取り組みによる直接・間接的な影響として、現れる変化を指します。
社会的インパクト評価が注目される背景
社会的インパクトを定量的・定性的に捉え、事業や活動の価値を示す評価方法が社会的インパクト評価です。近年、企業においては、社会的インパクト評価を高めることが求められています。ここでは、社会的インパクト評価が注目される3つの背景を紹介します。
背景① 社会的インパクト投資の拡大
社会的インパクト評価が注目される背景は、社会的インパクト投資の拡大です。社会的インパクト投資とは、社会課題の解決に役立つ事業や活動を重視した投資方法です。
GSG Impact JAPANの「日本におけるインパクト投資の現状と課題 -2022年度調査-」によると、2022年度の日本におけるインパクト投資残高は5兆8,480億円でした。2021年度は1兆3,000億円であったことから、1年で4.4倍に急拡大しています。
社会的インパクト投資残高が急拡大する中、企業価値を高めるために社会的インパクト評価が注目されています。
背景② 成果の可視化
社会的インパクト評価が注目される背景は、成果を可視化できるためです。
国際的な潮流として、投資家などのステークホルダーは企業に対して成果を強く求める傾向にあります。しかし、社会的インパクトは定量的・定性的な取り組みのため、場合によっては数値で表せません。そこで、社会的インパクト評価による成果の可視化が重要視されています。
背景③ 社会課題の多様化
社会的インパクト評価が注目される背景は、社会課題の多様化です。
日本では少子高齢化・人口減少などにより、社会課題が多様化しています。この問題点は、行政だけの施策で解決が困難になっていることです。解決策として、民間の資源を活用することで、多様な社会課題を解決できると期待されています。その際、企業への投資を拡大できるとして注目されているのが社会的インパクト評価です。
社会的インパクト評価方法の手順
社会的インパクト評価方法は、7つの手順で構成されています。ここでは、各手順について詳しく解説します。
手順① ロジックモデルの策定
始めの手順は、ロジックモデルの策定です。ロジックモデルとは、ある施策が目的を達成するまでの倫理的な因果関係を明示したものです。
具体的には、「投入(インプット)」「活動(アクティビティ)」「産出(アウトプット)」「成果(アウトカム)」の順に、一連の流れを図示します。
- 投入(インプット)
人材・資源・資金など、事業や活動に費やすリソースのこと。
- 活動(アクティビティ)
どのような施策をするのかといった活動内容のこと。
- 結果(アウトプット)
事業や活動した結果、生じたこと。
- 成果(アウトカム)
事業や活動による変化のこと。
出典:日本財団「ロジックモデル作成ガイド」
手順② 評価範囲の決定
2番目の手順は、評価範囲の決定です。具体的には、ロジックモデルの中で、どのアウトカムを評価対象とするかを決定します。
アウトカムを選択する際のポイントは以下のとおりです。
- 事業と直接的な関係性があるか
- 事業目標の達成に有効なものか
- ステークホルダーにとって重要か
- 測定にコストがかかりすぎないか
評価対象とするアウトカムが決定したら、優先順位を付けます。
手順③ 評価方法の決定
3番目の手順は、評価方法の決定です。選択したアウトカムごとに、どの指標を用いて評価するかを検討します。また、指標は定量的でなくても構いません。内容によっては定性的なデータでも指標として活用できます。この手順ではさらに、どのようにデータを収集するのか、測定方法についても決定します。
手順④ 評価のデザインを決める
4番目の手順は、評価のデザインの決定です。具体的には以下の内容を決定します。
- 影響を受けるステークホルダー
- 対象となるアウトカム
- 進捗状況を計測する指標やデータの種類
手順⑤ データの収集・測定
5番目の手順として、評価に必要な指標のデータを収集します。
手順⑥ データの分析
6番目の手順は、収集したデータの分析です。主に、以下の7つの分析モデルを活用して行います。
分析モデル | 概要 |
---|---|
事前・事後 | 実施前・実施後の指標を比較して、効果を検証する分析モデル。 |
時系列 | 実施前から実施後の指標を追うことで、長期的なトレンドの変化を検証する分析モデル。 |
クロスセクション | ある時点の事業実施状況とアウトカムの相関関係から検証する分析モデル。 |
一般指標 | 全国平均などの一般指標と比較して検証する分析モデル。 |
マッチング | 事業対象と可能な限り近いグループを選定し、そのグループと事業対象のグループのデータを比較する分析モデル。 |
実験分析 | 実施するグループと実施しないグループに分けて、効果の差を検証する分析モデル。 |
費用便益 | 社会的インパクトを貨幣価値に換算して比較する分析モデル。 |
参考:内閣府「社会的インパクト評価の実践による人材育成・組織運営力強化調査」
手順⑦ 報告・活用
最後に分析結果をレポートなどにまとめて、ステークホルダーへ報告、事業の見直しを実施します。
社会的インパクトの活用事例
出典:特定非営利活動法人マドレボニータ「マドレボニータとは」
社会的インパクト評価の活用事例として、特定非営利活動法人マドレボニータの取り組みを紹介します。
特定非営利活動法人マドレボニータは、産後うつ・乳児虐待・夫婦不和など、産後が起点となる社会問題の解決を目指している団体です。
具体的には以下の事業に取り組んでいます。
- 産前・産後のボディケア&フィットネス教室の開催
- 産後セルフケアインストラクター養成
- 調査・研究・開発事業
具体的な取り組みは、産後ケア教室のロジックモデルを作成し、Webアンケートにより受講した人と受講しなかった人を比較検討する実験分析をしました。
結果として、ロジックモデルに挙げた大半の項目で期待された変化が見られ、受講者と非受講者に起きた変化の度合いから有意差の確認もできました。
社会的インパクト評価により、事業のポジティブな影響を証明できた事例と言えます。
参考:内閣府「社会的インパクト評価について(2015-2017年度)」
まとめ
社会的インパクトは、事業や活動による影響のことです。社会課題の多様化や持続可能な社会の意識が高まる中、ビジネスにおいても注目されているキーワードです。社会的インパクトを考慮したビジネスは、企業価値を高めるのに役立ちます。この機会に、社会的インパクト評価を用いて、事業や活動の影響を可視化してみてはいかがでしょうか。