日本では、少子高齢化・人口減少を背景として、地域における移動手段の確保が課題になっています。経済産業省と国土交通省では、課題解決に向けて、2019年からスマートモビリティチャレンジに取り組んでいます。
しかし、「スマートモビリティって何?」と聞き慣れない方もいらっしゃるでしょう。
そこで、本記事ではスマートモビリティの意味やメリット、スマートモビリティチャレンジの事例をわかりやすく紹介します。
Contents
スマートモビリティとは
スマートモビリティとは、IoTやAIなどの様々なテクノロジーを駆使し、従来の交通システムやサービスをより安全で便利にするものです。スマートモビリティの代表的なテクノロジー例は以下のとおりです。
- 自動運転車
- カーシェアリング
- ライドシェアリング
- MaaS(Mobility as a Service)
- IoTセンサー
カーシェアリングは車を共同利用するサービスで、ライドシェアリングは一般のドライバーが有償で送迎するサービスを指します。MaaSは、複数の交通サービスを一元的に検索・予約・決済が可能なサービスのことです。
スマートモビリティを推進することで、地域全体に効率的な交通サービスを提供できると期待されています。
期待されるメリット
スマートモビリティが実現すると、社会全体に影響を与える可能性があります。なぜなら、以下の4つのメリットが期待されているからです。
- 安全性の向上
- 交通渋滞の緩和
- 環境汚染の抑制
- 経済的損失の軽減
ここではスマートモビリティの可能性について理解を深めるために、期待されるメリットを詳しく解説します。
安全性の向上
スマートモビリティを推進するメリットの1つ目は、安全性が向上することです。例えば、AIや高精度センサーにより歩行者や車両の動きを感知してドライバーに伝えることで、見落としによる事故を防ぐのに役立つでしょう。
また、アクセルやブレーキの踏み間違いによる急発進を防ぐ機能や、追突の危険があるときに自動ブレーキをかける機能は、すでに実用化されています。このような技術がスマートモビリティの推進により、さらに進化することで、より安全な交通サービスにつながると期待されています。
交通渋滞の緩和
スマートモビリティを推進するメリットの2つ目は、交通渋滞の緩和に役立つことです。具体的に言えば、MaaSは交通サービス間の垣根を取り払うことで、住民の移動手段を分散させます。自家用車を移動手段に使用する人が減少することで、交通渋滞の緩和が期待できるためです。
また、自動運転車などのAIによって管理された交通システムは、車両の位置関係や交通状況をリアルタイムに収集して最適なルートの走行を可能にします。すると、道路の効率性が向上して渋滞緩和に役立つとされています。
環境汚染の抑制
スマートモビリティを推進するメリットの3つ目は、環境汚染を抑制できることです。例えば、自動運転車により最適なルートを走行することで、燃料の消費量の減少や温室効果ガスの排出量を削減できます。さらに電気自動車や燃料電池車が普及することで、ネットゼロの実現も目指せます。ネットゼロは、温室効果ガスの排出量から吸収量を差し引いて正味ゼロにする考え方です。
経済的損失の軽減
スマートモビリティを推進するメリットの4つ目は、経済的損失を軽減できることです。スマートモビリティにより、安全性の高い交通サービスを提供することで、交通事故による死亡者やケガ人を減らせるためです。実際に、内閣府の「平成24年版 交通安全白書 全文PDF版」によると、2012年度の交通事故による損失は6兆3,300億円でした。GDP比の約1.3%の経済的損失が発生したことになります。スマートモビリティは、このような経済的損失を軽減できると期待されています。
スマートモビリティの市場規模
スマートモビリティは、企業にとっても大きなビジネスチャンスです。世界のスマートモビリティ市場が2023年の約2,506億ドル(約37兆5,900億円)から、2036年に約2兆2,124億ドル(約331兆8,600億円)にまで拡大する見込みのためです。2024年から2036年の年平均成長率は19.9%で、今後、急拡大が続くと試算されています。※1ドル=150円換算
参考:SDKI「世界のスマートモビリティ 市場規模」
スマートモビリティチャレンジの概要
スマートモビリティに対する期待が高まる中、経済産業省と国土交通省は2019年に、スマートモビリティチャレンジを立ち上げました。
スマートモビリティチャレンジとは、新たなモビリティサービスの社会実装による移動課題の解決及び地域活性化、地域と企業の協働による取組を促すことを目的としたプロジェクトです。
同プロジェクトでは、以下の4つのチャレンジをコンセプトに掲げています。
チャレンジ1. 地域社会における公共交通を便利に
チャレンジ2. ITのちからで地域交通の維持
チャレンジ3. ヒトもモノもサービスも運ぶ車
チャレンジ4. 自動走行技術をもっと身近に
また、経済産業省と国土交通省は、情報共有・地域と事業者とのマッチング・成果共有などを目的に、スマートモビリティチャレンジ推進協議会を運営しています。
出典:SmartMobility Challenge「スマートモビリティチャレンジ推進協議会について」
2024年8月6日時点で、124の自治体と232の事業者の全391団体が、スマートモビリティチャレンジ推進協議会に参加しています。
スマートモビリティチャレンジの事例
ここでは具体的な事例を挙げて、スマートモビリティチャレンジでは実際にどのような取組が行われているかを紹介します。
事例① 福井県永平寺町「近助タクシー」
福井県永平寺町の事例は、デマンド型乗合タクシーの「近助タクシー」です。
デマンド型乗合タクシーとは、事前に予約することで、利用者宅から目的地までの移動ができる乗合タクシーのことです。事業者は、複数の利用者からの予約状況をもとに、各利用者を送迎できるように配車することでサービスを実現しています。
デマンド型乗合タクシーのメリットは、運賃が安いことです。実際に、永平寺町の近助タクシーの利用料金は、大人300円/回、中学生以下50円/回、未就学児が無料と低く設定されています。
そして、近助タクシーの特徴は、地域住民をドライバーとして採用している点です。住民自らがドライバーになることで、利用者とともにアットホームな地域交通を目指しています。
近助タクシーは2019年11月に試験運行を開始し、2021年4月から本格運行を開始しました。初年度は1日あたり平均6.1人の利用者数でしたが、2021年には1日あたり平均19.6人にまで増加しています。
出典:永平寺町総合政策課「永平寺町 近助タクシーの取組み」
さらに、永平寺町では自動運転車による移動サービスの提供に向けた検証も行っており、スマートモビリティを推進する自治体として注目されています。
事例② 群馬県前橋市「MaeMaaS(マエマース)」
群馬県前橋市の事例は、前橋版MaaS「MaeMaaS(マエマース)」の事業化です。
2020年、前橋市は多くの交通サービスを統合して運用できるMaaSアプリを公開し、実証実験を行いました。自動運転バスの実験的な運行や、24時間利用できるシェアサイクルサービス「cogbe(コグベ)」などを展開し、合計3回の実証実験を経て2022年11月に社会実装されました。
さらに、マイナンバーカードやSuica決済との連携によりサービスを拡充し、2023年3月には「MaeMaaS」から群馬版MaaS「GunMaaS(グンマース)」となり、前橋市から群馬県に規模を拡大しています。
なお、「GunMaaS」のアプリでは、以下のサービスを利用できます。
- デマンド交通予約
- タクシー予約
- チケット購入
- リアルタイム経路検索
今後は、群馬県から全国への規模拡大を目指すとのことです。
スマートモビリティ市場に参入しよう
スマートモビリティは、世界市場の規模が急拡大する見込みです。そのため、企業にもビジネスチャンスの多い分野と言えます。また、経済産業省と国土交通省では、スマートモビリティチャレンジのプロジェクトにより取組を推進しています。そのため、スマートモビリティ市場に興味のある経営者様は、この機会に同市場への参入を検討してみてはいかがでしょうか。