新規事業のヒント!スモールコンセッションの概要と事例3選を紹介

岸田首相は2024年1月、国会の内閣総理大臣施策方針演説において、スモールコンセッションを推進することを表明しました。

しかし、スモールコンセッションという言葉に聞きなれない方もいるでしょう。

そこで、本記事では新規事業のアイデアを探している方に向けて、スモールコンセッションの概要と事例3選を紹介します。

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スモールコンセッションとは

スモールコンセッションとは、地方公共団体が所有する小規模な遊休不動産を官民連携事業によって、地域の活性化につなげる取り組みのことです。

コンセッションは、高速道路や上下水道などの料金の徴収を伴う公共施設について、地方公共団体が施設を所有したまま、運営を民間企業に委託する方法を指します。

スモールコンセッションで対象となる公共施設は、廃校などの使われていない施設や住民から寄付を受けた古民家が該当します。また、対象事業の規模は事業費10億円未満です。

従来のPPP/PFIとの違い

官民連携事業を指す言葉に、PPP(Public Private Partnership)やPFI(Private Finance Initiative)があります。PPPは、公共施設の建設・維持管理・運営を官民連携して行うことで、公共サービスの質の向上やコスト削減、地域活性化などを目指す取り組みです。PFIは、PPPの取り組みの1つで、公共施設の建設・維持管理・運営を民間企業の資金やノウハウ、技術を活用して行う取り組みを指します。

PPP/PFIの概念図は以下のとおりです。

出典:国土交通省「官民連携とは

このように、官民連携事業はスモールコンセッションが登場する以前からありました。

しかし、これまでのPPP/PFIは、「手続きが複雑で時間を要する」「公共の発想で事業化するケースが多い」「施設単体の整備や運営のみを担う」などのイメージがあり、民間企業参入の障壁となっていました。そこで、スモールコンセッションでは以下の3つを特徴としています。

  • 手続きが短期間で済む
  • 初期段階から民間のアイデアを積極的に取り入れる
  • エリアへの波及が行える仕組みを検討する

これまでのPPP/PFIとスモールコンセッションの違いをまとめると、以下のとおりです。

出典:国土交通省総合政策局社会資本整備政策課「スモールコンセッションのコンセプトについて

政府がスモールコンセッションを推進する背景

スモールコンセッションは、日本政府が推進している取り組みの1つです。

具体的に、冒頭に紹介した岸田首相の内閣総理大臣施策方針演説、2023年に内閣府が決定した「PPP/PFI推進アクションプラン(令和5年改定版)」、2024年に国土交通省が策定した「スモールコンセッション推進方策」などで言及されています。

この章では、政府がスモールコンセッションを推進する背景を解説します。

地方自治体の約3割は人口が半減

国土交通省の試算によると、地方自治体の約3割は2050年までに人口が半減する見込みです。さらに、2015年比で25%未満にまで減少する地方自治体もあります。このように、人口減少が進むことで、従来のやり方では公共サービスが提供できなくなる恐れがあることから、スモールコンセッションが推進されています。

出典:国土交通省「2050年の国土に係る状況変化

地方公共団体の職員数の減少

2023年の地方公共団体の職員数は280万人でした。1994年は328万人いたことから、30年間で48万人が減少しています。つまり、人手不足による公共サービスの質の低下を防ぐために、日本政府はスモールコンセッションを推進していると考えられます。

出典:総務省「地方公共団体の職員数の推移

廃校や空き家の増加

多くの地方公共団体が抱えている問題は、廃校や空き家の増加です。具体的には、全国で毎年300~600校が廃校となり、2021年5月1日時点で活用用途の決まっていない廃校が1,424校もあります。また、総務省の調べによると2018年の全国の空き家数は848万戸を超え、空き家率は13.6%と過去最高を更新しました。空き家が増える問題点は倒壊による被害の発生、犯罪が発生するリスクの増加、景観や衛生環境の悪化などが懸念されることです。

出典:総務省統計局「平成30年住宅・土地統計調査

さらに、公共不動産の維持費は年々増加傾向にあり、地方公共団体の財政を圧迫している要因です。そこで、利用していない遊休不動産をスモールコンセッションにより活用することで、維持補修費の削減や地域の活性化につながると期待されています。

地方財政の借入金残高

地方財政の借入金残高は、2024年度末見込みで179兆円です。1994年に急激に拡大し、20年以上にわたって借入金額は、高い水準を推移しています。つまり、スモールコンセッションは、維持修理費などが発生する遊休不動産を資産に変えることで、地方財政を改善できると期待されています。

出典:総務省「地方財政の借入金残高の状況

スモールコンセッションの事例

スモールコンセッションの事業をイメージしやすいように、この章では3つの事例を紹介します。

岡山県津山市:グラスハウス利活用事業

出典:津山市「グラスハウス利活用事業「Globe Sports Dome」がオープンしました

岡山県津山市のグリーンヒルズ津山内に位置するグラスハウスは、レジャープール施設として1998年に整備され、2011年に岡山県から津山市が譲り受けて運営を続けていました。しかし、多額の改修費用が見込まれることから、2021年3月をもって営業を終了しました。

そこで、津山市はグラスハウスの特徴的な外観を残すことを条件に、施設の再活用案を民間企業に募集します。そして、2022年5月に、総合的なスポーツ及び健康増進施設「Globe Sports Dome」に生まれ変わりました。

以前のレジャープールは撤去され、バスケットやバレーボールができるコート、50mの直線トラック、ボルダリングができるエリアなど、様々なスポーツを楽しめる空間に変わっています。老朽化により多額の修理費用が見込まれていたレジャープールを撤去することで、採算性を高めているのが同事業のポイントです。

2022年・2023年に津山市が実施したモニタリングの結果、同施設の会員数は順調に増加しているとのことです。2023年の収益はマイナスであるものの、総合的に「おおむね期待するレベルをクリアしている」と津山市から評価されています。

参考:津山市「グラスハウス利活用事業 モニタリング結果の公表について

福岡県宮若市:吉川小学校跡地の公共施設等運営事業

出典:宮若市「官民連携事業「リモートワークタウン ムスブ宮若」プロジェクト

福岡県宮若市の事例は、2016年に閉校した吉川小学校跡地を活用した取り組みです。

宮若市は、2020年に民間企業と「リモートワークタウン ムスブ宮若」を締結しました。民間企業は協定に基づいて、旧吉川小学校校舎をAI開発センターとして活用しています。

AI開発センターは、旧吉川小学校校舎をリノベーションによりオフィスとして再生し、コワーキングスペースやミーティングルームなどのテレワーク環境を整備した施設です。1階のラウンジは開放されており、芸術祭が開かれるなど、地元住人の憩いの場や観光スポットとなっています。

さらに、吉川小学校跡地のグラウンドには農業観光振興センター、体育館には地産地消のレストランが整備されています。

千葉県市原市:旧高滝小学校の活用事業

千葉県市原市の事例は、2013年に閉校した高滝小学校跡地を活用した取り組みです。

市原市は旧高滝小学校の活用方法を2019年に募集し、校舎とグラウンドをグランピング施設として活用する案を採用しました。

その後、2021年4月に「高滝湖グランピングリゾート」として生まれ変わり、開業から1年後の稼働率が70%以上で運営も順調とのことです。

そのため、スモールコンセッションによる成功事例と言えます。

※グランピングはグラマラス(優雅な)キャンプの略で、グランピング施設は気軽に豪華なキャンプを楽しめる施設のことです。

参考:市原市「【市民特派員記事】高滝湖グランピングリゾート 1周年

新規事業にスモールコンセッションを検討しよう

スモールコンセッションは、地方公共団体が所有する小規模な遊休不動産を活用する官民連携事業の取り組みです。日本政府が推進していることもあり、現在は国土交通省を中心に補助金制度が検討されています。2025年度予算概算要求に盛り込まれる予定ですので、新規事業のアイデアを探している方は、スモールコンセッションを検討してみてはいかがでしょうか。