東日本大震災や熊本地震、北海道胆振東部地震、能登半島地震、また豪雨災害など、日本は自然災害の多い国です。しかし、普段から災害意識を高く維持し続けることは困難です。
また、防災対策と言えば、防災グッズや非常食のように非常時のみを想定して備えるのが一般的でしょう。しかし、防災グッズのある場所の近くで被災するとは限りませんし、管理不足だといざというときに使用できない可能性もゼロではありません。
そこで、「備えない防災」として、フェーズフリーが注目されています。
本記事では新規事業のアイデアを探しているビジネスパーソンに向けて、フェーズフリーの意味やメリット、事例を紹介します。
Contents
フェーズフリーとは
フェーズフリーとは、日常時(平常時)に使っている商品やサービス、施設を非常時(災害時)にも役立つようなデザインや機能にする考え方です。例えば、防寒着としても使用できるレインコートが該当します。
5 原則
フェーズフリーを新商品やサービスに取り入れるために、押さえる必要があるのは以下の5原則です。5原則に基づいた教育や活動などによって、フェーズフリーが実現できると定義されているためです。
●フェーズフリーの5原則
- 常活性:どのような状況でも利用できること
- 日常性:日常から使えること
- 直感性:使い方や利用方法が分かりやすいこと
- 触発性:多くの人に安全や安心に関する意識を提供すること
- 普及性:普及しやすいことや誰でも活用できること
フェーズフリーを取り入れる際は、5原則を満たしているかをチェックしましょう。
日本でフェーズフリーが重要な理由
フェーズフリーは、2014年に防災の専門家である佐藤唯行氏(現在は一般社団法人フェーズフリー協会代表理事)が提唱した概念です。その後、同氏の広報活動などにより、近年では多くの企業や自治体において、商品やサービス、施設に取り入れる動きが広がっています。この章では、フェーズフリーが広がっている背景と、その重要性について解説します。
自然災害が増加傾向にある
日本は災害大国と呼ばれるように、地震や台風、大雪などの自然災害の多い国です。一般財団法人国土技術研究センターの調査によると、世界で発生したマグニチュード6以上の地震の18.5%が日本で起こり、世界で年平均26.1個発生した台風のうち、11.5個が日本に接近したとのことです。また、全世界の活火山の7.1%が日本にあり、世界有数の豪雪地帯も日本にあります。
このように、もともと自然災害の多い地域であることに加えて、地球温暖化の影響で土砂災害や洪水の発生件数も増加しています。国土交通省の「令和3年の土砂災害」によると、2012年~2021年に発生した土砂災害は年平均1,450件で、2002年~2011年の年平均1,150件から約1.3倍増加しました。
出典:国土交通省砂防部「令和3年の土砂災害」
つまり、日本では自然災害が増加傾向にあることから、被害軽減のためにフェーズフリーが重要と考えられています。
防災意識に頼った防災対策には限界がある
フェーズフリーが重要な理由は、防災意識を高めるだけでは防災対策として不十分なためです。
フェーズフリーが提唱された2014年は、2011年の東日本大震災の影響を受けて、日本全国で防災意識が高まっていました。しかし、それでも多くの人は具体的な備えをしていなかったとのことです。
国土交通省の「国土交通白書 2021」において、「最近2年から3年に行っている自然災害への対策」を全国の10,000人を対象にアンケートしたところ、「食料・水等の備蓄や非常持ち出しバッグ等の準備」と回答した人は全体の35.8%でした。
このように、多くの人が対策をしない要因は、「何をどのくらい備えれば良いのか分からない」や「非常時のためにコストをかけられない」などの考えにより、実行に移せないためと思われます。
そこで、意識して対策しなくても、自然に防災対策となるフェーズフリーが重要と考えられています。
企業がフェーズフリーを採用するメリット
企業が自社の商品やサービス、施設にフェーズフリーを採用するメリットは、以下のとおりです。
- ブランド価値の向上
- 競合企業との差別化
- ビジネスチャンスの獲得
- 災害対策費用の削減
- フェーズフリー認証マークによるマーケティング効果
この章では、企業のメリットに焦点を当てて解説します。
ブランド価値の向上
企業がフェーズフリーを採用すると、消費者から「災害時にも役立つ商品やサービスを提供している」と認識され、自社ブランドの価値が向上します。特に、災害リスクが高いとされる地域の住民にとっては、安心感につながるため、企業への信頼感も強まるでしょう。
競合企業との差別化
フェーズフリーを採用することは、商品やサービスに「災害時にも役立つ」という付加価値を与えることです。そのため、競合他社との差別化や競争優位性の確保につながります。
ビジネスチャンスの獲得
多くの自治体がフェーズフリーの概念を採用した街づくりを目指しています。そのため、フェーズフリーの商品やサービスを展開できると、ビジネスチャンスを獲得できる可能性が高まります。
フェーズフリー認証マークによるマーケティング効果
企業がフェーズフリーを採用するメリットは、一般社団法人フェーズフリー協会の審査をクリアするとフェーズフリー認証マークを使用できることです。認証マークをパッケージに記載することで、消費者にフェーズフリー商品であることを分かりやすく明示できるため、マーケティング効果が期待できます。
災害対策費用の削減
これまでのメリットのような外向きのものだけでなく、コスト削減も実現できます。具体的には、日常時と非常時で兼用できる備品を購入することで、災害対策費用を削減できます。フェーズフリーの商品を選択することで、類似の商品を日常時用と非常時用で別々に買いそろえる必要がないためです。また、普段は日常時用として使われるため、維持・管理費用がかからず、保管スペースの節約にもなります。
フェーズフリーの事例
フェーズフリーの事例として、フェーズフリー認証を取得した2商品を紹介します。
エレコム株式会社:防災 乾電池式懐中電灯 枕元ライト
出典:エレコム株式会社「防災 乾電池式懐中電灯 枕元ライト」
エレコム株式会社の「防災 乾電池式懐中電灯 枕元ライト」は、普段は乾電池式の枕元ライトとして使用可能です。また、懐中電灯やスマートフォンの充電器としても活用できるので、非常時はモバイルバッテリーの役割も果たせます。電気が復旧していなくても、乾電池さえあればスマートフォンを充電できるのが魅力です。
株式会社キングジム:日常で使える防災スリッパ
出典:株式会社キングジム「日常で使える防災スリッパ」
株式会社キングジムの「日常で使える防災スリッパ」は、商品名のとおり普段はスリッパとして活用できます。そして、丈夫なインソールを採用しているため、非常時にガラスや陶器などの破片を踏んでケガするのを防止できるのが特長です。また、付属のゴムバンドをかかとに装着することで、足場が不安定な場所でも脱げにくくなります。さらに、快適な履き心地や洗濯可能など、普段から使いやすい工夫が施されています。
新規事業案にフェーズフリーを検討しよう
フェーズフリーは、「備えない防災」として注目されている概念です。日常時に使用する商品やサービス、施設が非常時にも役立つことから、自治体でも採用する動きが広がっています。フェーズフリー認証された商品やサービス、施設はまだ82個しかないため、新規事業のアイデアを探している方は、この機会にフェーズフリーを検討してみてはいかがでしょうか。