新規事業のアイデアを探している方の中には、「事業を通じて社会貢献をしたい」と考えている方もいらっしゃるでしょう。
そこで今回は、日本の社会的な課題の1つであるフードデザートを取り上げます。
フードデザートとは、簡単に言えば生鮮食品の入手が困難な地域のことです。少子高齢化によりフードデザートの拡大が懸念されており、早急な対応が求められています。
本記事ではフードデザートの意味や原因、解決策をわかりやすく解説します。
Contents
フードデザートとは
フードデザートとは、新鮮な食材の入手が困難な地域のことです。日本語で「食の砂漠」とも呼ばれています。
1970年~1990年代半ばのイギリスでは、多くのスーパーマーケットが郊外に出店しました。すると、市街地の中小規模の食料品店やショッピングセンターが相次いで廃業し、郊外のスーパーマーケットに通えない社会的弱者は、市街地に残っていた雑貨店で買い物をするしかありませんでした。しかし、市街地の雑貨店で取り扱っている食品は値段が高く、食材の品ぞろえが悪かったので、食生活の乱れによる健康被害が社会問題となります。イギリス政府は、この社会問題をフードデザート問題と命名しました。
アメリカにおいても、フードデザートにファストフード店の出店が相次いだことで、栄養過多による肥満の増加が社会問題となっています。
日本におけるフードデザートの現状
農林水産政策研究所が公表している「食料品アクセスマップ」は、食料品アクセス困難人口の割合を示した地図です。食料品アクセス困難人口とは、店舗まで500m以上かつ、自動車を利用できない65歳以上の高齢者の人口です。ここで言う店舗は、食料・鮮魚・野菜・果物小売業、百貨店、総合スーパー、食料品スーパー、コンビニエンスストア、ドラッグストアを指します。
出典:農林水産政策研究所「食料品アクセスマップ」
「食料品アクセスマップ」は食料品アクセス困難人口の割合により色が変わり、黄色の地域が30%超から40%以下で、オレンジの地域が40%超を意味します。そして、2020年の「食料品アクセスマップ」では、広い範囲で黄色やオレンジの地域を確認できます。
また、農林水産政策研究所が公表している食料品アクセス困難人口の推計値をまとめたのが以下のグラフです。
参考:農林水産政策研究所「食料品アクセスマップ」
※2015年以前のデータは、店舗にドラッグストアを含みません。
2005年の食料品アクセス困難人口は全国で678万人でしたが、2020年には900万人を超えており、15年で200万人以上増加しました。
食料品アクセスマップと食料品アクセス困難人口の推計値の推移から、日本ではフードデザートが拡大していると推測できます。
日本のフードデザート拡大の原因
日本においてフードデザートが拡大している原因は、地域によって異なります。地域ごとの主な原因は以下のとおりです。
- 大都市:商店街が衰退することで買い物環境が悪化する
- ベッドタウン:急速な高齢化により、団地内の店舗が運営できなくなる
- 地方都市:郊外への出店によって中心街の店舗が撤退する
- 農村や山間部:過疎化で商圏人口を維持できなくなり、店舗がなくなる
今後は、大都市・ベッドタウン・地方都市でも高齢化率が上昇すると見込まれているため、これらの3地域でもフードデザートの問題が深刻化する可能性があります。
フードデザートの問題点
フードデザートの地域内では、以下の問題が発生しやすくなります。
- 低栄養リスクの増大
- 生きがいの減少
- 商店街の衰退による防犯機能の低下
この章では、フードデザートの問題点について詳しく解説します。
低栄養リスクの増大
フードデザート内では、新鮮な食材の入手が困難であることから、低栄養リスクの増大が問題です。ビタミンや食物繊維、ミネラルなどの栄養が不足することにより、健康被害を生じる恐れがあるためです。また、低栄養素の状態になると自立度の低下や、要介護度の上昇といった影響も考えられます。実際に、イギリスの研究「Food Poverty」によると、イギリスでは低栄養な食事による死亡者数は年間7万人と試算されています。
生きがいの減少
フードデザートの問題は、地域住民の生きがいが減少する恐れがあることです。特に高齢者にとって買い物は、外出機会の主な要因です。買い物に行けないことは外出頻度の低下を招き、生きがいの減少の要因となります。そして、高齢者がひきこもり状態になれば、心身が衰えて介護が必要になったり、社会的に孤立したりする可能性があります。
商店街の衰退による防犯機能の低下
フードデザートの問題点は、商店街が衰退すると地域の防犯機能も低下することです。人通りが少なくなり、空き店舗が増えると犯罪の温床になりやすいためです。また、犯罪率が高くなると一般市民はそのような地域での買い物を避ける可能性が高まるため、負の連鎖によってますます店舗の経営が難しくなります。
フードデザートの解決策
ここまで解説してきたように、フードデザートは早急に対応が必要な課題です。そこで、この章ではフードデザートの4つの解決策を紹介します。
商店街の復活・維持
フードデザートの解決策は、根本的な要因の1つである商店街を復活・維持することです。具体的な対策例は以下のとおりです。
- 商店街を回遊する「スタンプラリー」を実施する
- 地域住民を呼び込むための「ワークショップ」を開催する
- 商店街ブランドを立ち上げる 等
このような対策により、社会的弱者の買い物の場所を確保できます。
移動販売・宅配サービスの促進
フードデザートを解決するには、地域住人に商品を届ける仕組みを構築することが有効です。具体的には、移動販売や宅配サービスの促進が挙げられます。国内では、地域のスーパーマーケットと提携することで、成功している移動販売事業の事例もあります。
フードバンクの普及
フードバンクとは、賞味期限が近付いた商品や外見を理由に販売できない食品などを引き取り、必要とする人へ配布する活動のことです。農林水産省の調査によると、2022年度の日本において、食べられずに廃棄された食品ロス量は472万トンでした。フードバンクが普及することで、このような食品ロスを削減して、フードデザートによる問題を軽減できると期待されています。
移動手段の提供
フードデザートを解消するには、離れた店舗に行くための移動手段を確保することが有効です。すでに、自動車教習所の送迎バス・スクールバス・タクシーの相乗り、バスの増便といった取り組みが実施されています。また、2024年4月より一部の地域でライドシェアが解禁されました。ライドシェアは、タクシー事業者の管理下のもと、一般ドライバーや地域の自家用車を活用し、有償で提供される運送サービスです。高齢者が移動手段を確保しやすくなると期待されています。他にも、自動運転バスの導入に取り組んでいる自治体もあります。
フードデザート対策に取り組んでみよう
フードデザートは新鮮な食材の入手が困難な地域を指し、イギリスやアメリカだけではなく、日本においても社会的な課題の1つです。少子高齢化・人口減少が進行する日本は、フードデザート拡大の懸念があるため、早急な対応が求められています。
そのため、企業が社会貢献できる分野とも言えます。新規事業のアイデアに悩んでいる方は、この機会にフードデザート対策に取り組んでみてはいかがでしょうか。