一般的にスタートアップは1つのプロダクトに注力するのが良いとされるなか、新たなビジネスモデルとして注目されているのがコンパウンドスタートアップです。
しかし、近年登場した営業手法のため「コンパウンドスタートアップとは?」と思う方も多いでしょう。
そこで、起業を考えている方や世界の潮流を知りたい方に向けて、本記事ではコンパウンドスタートアップの意味やメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
Contents
コンパウンドスタートアップとは
出典:Rippling
コンパウンドスタートアップとは、起業時から複数のプロダクトを同時に展開する経営手法です。コンパウンド(混合)とスタートアップ(短期間で急成長を目指す経営手法)を組み合わせた造語で、アメリカのパーカー・コンラッド氏が提唱しました。
パーカー・コンラッド氏がCEOを務めるRippling社(リップリング)は、コンパウンドスタートアップで急成長を実現し、2023年の売上高が3.5億ドルで評価額が110億ドルを突破しています。
具体的にRippling社は以下の3つのクラウドサービスを提供しており、給与や人事、ITデバイス、会社の経費などを一元管理できるのが特徴です。
- HRクラウド
- ITクラウド
- Financeクラウド
パーカー・コンラッド氏は起業の早い段階から複数のプロダクトを並行させ、現在のマルチクラウドサービスの開発に成功したのです。そのため、インターネットを介してソフトウェアを提供するクラウドサービス(SaaS)の起業手法として、コンパウンドスタートアップが注目されています。
コンパウンドスタートアップが注目される背景
長らくスタートアップは、1つのプロダクトから始めるのが良いとされてきました。リソースを1つのプロダクトに集中することで、より早く成長が期待できるためです。しかし、SaaSの分野においては3つの背景により、コンパウンドスタートアップに注目が集まっています。
競争の激化
現在、インターネットやスマホなどの普及により、スタートアップが提供するサービスは無数に存在しています。日本だけでも1万社、アメリカでは7万社以上のスタートアップ企業が活動しているためです。世界規模で考えると、さらに膨大な数のスタートアップ企業がプロダクトの開発・提供を行っています。
このような競争の激化により1つのプロダクトだけでは、参入するチャンスがなくなりつつあります。そこでコンパウンドスタートアップが注目されているのです。
サービスの飽和により機能性から統合性を重視
多数のスタートアップ企業が無数のサービスを開発しました。そのために革新的なサービスではない限り、ユーザーが必要とする機能はほぼ開発されているといえます。そこで次にユーザーが重要視すると考えられるのは、機能性ではなく、複数のサービスを1つの管理画面で使えるといった統合性です。
機能ごとに別の企業のサービスを使うのは、業務が煩雑になりやすいためです。そこで、複数のサービスを統合的に使えるコンパウンドスタートアップの需要が高まると予想されています。
シングルプロダクトで対象となる市場規模の限界
コンパウンドスタートアップが注目される背景は、1つのプロダクトだけでは対象の市場で得られる利益に限界があるためです。
つまり従来のスタートアップの手法では、類似サービスの登場や競争が激化すると、想定した成長ができなくなります。そこで対象となる市場を増やすことで、企業の成長の伸び代を増やせるとしてコンパウンドスタートアップが注目されています。
コンパウンドスタートアップのメリット・デメリット
コンパウンドスタートアップで成功を収めている企業がある一方で、誰しもが複数のプロダクトを展開すれば成功するというわけではありません。コンパウンドスタートアップにはメリットがあれば、デメリットもあるためです。活用するにはメリット・デメリットを押さえておく必要があります。
メリット①抱き合わせ販売による価格の優位性
コンパウンドスタートアップのメリットは、抱き合わせ販売による価格の優位性です。抱き合わせ販売とは、複数のサービスをまとめて販売する代わりに、1つあたりのサービスの価格を下げてお得感を演出する販売方法です。1つのプロダクトに注力するスタートアップに対して、価格面で大きな強みとなります。
ほかには、1つのサービスを集客のために採算度外視の価格に設定し、別のサービスで利益を確保するといった運営方法も考えられます。このように、幅広いマーケティング戦略を採用できるのもコンパウンドスタートアップのメリットです。
3.2 メリット②クロスセルによる顧客単価の最大化
クロスセルとは、Aの商品を購入しようとしている顧客に、Aと関連のあるBの商品をおすすめしてAとBの商品の購入を促す手法です。Amazonや楽天で商品を購入する際に、「あなたへのおすすめ」から別の商品を購入した経験のある方も多いでしょう。
これと同様に、コンパウンドスタートアップは関連性のある複数のサービスを展開することで、クロスセルがしやすくなります。1つのサービスでは1つの商品しか売れなかったのが、関連性のある商品を展開することで別のサービスを購入するきっかけをつくれます。
つまりコンパウンドスタートアップのメリットは、クロスセルにより顧客単価の最大化が期待できることです。
メリット③開発コストの削減
コンパウンドスタートアップは、とくにSaaS分野において注目されています。なぜなら、プロダクト1つあたりの開発コストを下げられるためです。
コンパウンドスタートアップは、最初から一部の機能を再利用することを念頭においてソフトウェアの開発が進められます。そのため、共通の機能を開発する必要性がなく、開発コストの抑制や開発期間の短縮につながります。
デメリット①経営資源の確保が困難
コンパウンドスタートアップのデメリットは、経営資源の確保が困難なことです。例えば、プロダクトの開発に加えて、各プロダクトを連携するためのプラットフォームの開発にも人材が必要です。必要な人材や開発項目が増えることで費用も多く発生します。
つまり、プロダクト数が増えるほどに多くの経営資源の確保が必要となり、難易度が跳ね上がっていきます。これらのハードルの高さから、コンパウンドスタートアップを実現できる実業家は一握りといえるでしょう。
コンパウンドスタートアップの事例
出典:X Mile株式会社
日本においても、コンパウンドスタートアップで成功を目指している企業があります。ここでは、事例としてX Mile株式会社(クロスマイル)の事例を紹介します。
X Mile株式会社は、ノンデスク産業向けにSaaS・プラットフォームを提供している企業です。「HRプラットフォーム」と「ノンデスクプラットフォーム」を構築して組み合わせることで、ノンデスク産業の働き手の不足や労働生産性の低さといった課題解決を目指しています。※ノンデスク産業とは、物流・建設・製造・小売り・医療などの総称です。
同社は、「テクノロジーの力で、ノンデスクワーカーが主役の世界」をビジョンに掲げています。またForbes JAPANの「2024年注目の日本発スタートアップ100選」に選出され、国内のコンパウンドスタートアップ企業として注目されています。
複数のプロダクトが新たなトレンドになるかも
コンパウンドスタートアップは起業時から複数のプロダクトを立ち上げる手法です。近年、海外だけではなく日本においても注目されています。また、コンパウンドスタートアップが注目される背景から、1つのプロダクトに特化・深化した従来のスタートアップでの成功が困難になっているともいえます。これから起業を目指す方は、コンパウンドスタートアップのメリット・デメリットを押さえたうえで挑戦しましょう。