
新規事業の成功確率は、10%~30%と言われています。実際に中小企業庁の「2017年版 中小企業白書」によると、新規事業に取り組んだ1,020社のうち、292社が「成功した」と回答しました。つまり、この報告書において新規事業の成功率は28.6%でした。
言い換えると、新規事業の多くは失敗に終わります。その失敗を避けるには、事業の経済性を意識したビジネスモデルを構築することが大切です。どれだけ良い商品やサービスを生み出しても、ビジネスとして成り立たせるだけの合理性がなければ、持続的な成長が見込めないためです。そこで、本記事では事業の経済性の基本知識と5つの種類、分析手法について解説します。
事業の経済性とは?
事業の経済性とは、事業をコストの視点から分析し、効率性や収益性を評価する考え方です。この考え方を活用することで、新規事業の採算性や持続可能性、競争優位性を判断できるようになります。逆に言えば、事業の経済性を軽視すると、収益性が見込めない事業に投資をしてしまい、事業撤退や損失拡大のリスクが高まります。
事業の経済性を示す5つの種類
事業の経済性の種類は、大きく分けると5つです。これらの違いを把握することで、新規事業や戦略の立案の際に、多角的な視点から検討できます。
規模の経済性
規模の経済性とは、生産量や販売量が増加するにつれて、単位当たりのコストが低下する現象を指します。
例えば、製造業において生産量が増えるほど、必要な原材料が増えます。すると、原材料の仕入れ量が増加することで値段交渉がしやすくなり、結果的に仕入れコストが低下するといった具合です。自動車産業や半導体産業などの製造業において、規模の経済性を活用したビジネスモデルがよく見られます。
稼働率の経済性
稼働率の経済性とは、既存の設備や人材の稼働率を高めることで、単位当たりのコストが低下する現象を指します。
例として、積載率50%のトラック1台で荷物を運ぶ場合と、積載率100%のトラック1台で運ぶ場合を考えてみます。
この2つのケースでは、人件費やガソリン代などの基本的なコストはほとんど変わりません。そのため、積載率を高めるほどコストパフォーマンスが上昇します。このような稼働率の経済性の代表例は、製造業や物流などです。これらのビジネスモデルでは、設備の稼働率を高めるほどに、利益率の向上が期待できます。
範囲の経済性
範囲の経済とは、事業の多角化や製品・サービスの多様化によって、単位当たりのコストが低下する現象を指します。コストが下がる理由は、複数の事業間で共通のリソースを共有できるためです。例えば、新規事業において既存事業の工場を活用した場合、新たに土地や設備、人材を確保する必要がありません。その結果、ゼロから事業を立ち上げるよりも、コストを大幅に削減できます。つまり、複数の事業を展開する際に同じ経営資源を共有することで、効率的に収益性を高めるという考え方です。
密度の経済性
密度の経済性とは、人口密度の高い地域でビジネスを展開すると、単位当たりのコストが低下する現象を指します。
例えば、都市部のコンビニチェーンにおける物流コストです。都市部のコンビニチェーンは店舗間の距離が短く、商品の配送にかかる物流コストを抑えられるためです。他にも公共交通機関や公共インフラなどが、密度の経済性の恩恵を受けやすい事業と言えます。
※密度の経済性と混同しやすい言葉に「ドミナント効果」があります。ドミナント効果とは、特定の地域に複数店舗を集中して出店することで経営コストを抑える手法です。
ネットワークの経済性
ネットワークの経済性とは、通信事業などにおいて、利用者が増えるほど単位当たりのコストが低下する現象を指します。
例えば、SNSやフリマアプリ、オンラインゲームではユーザー数が増えるにつれて1人当たりの顧客獲得コストが低下します。これは、サービスの利便性が高まることで、既存利用者による口コミや紹介が新たな利用者を呼び込み、自然と新規利用者を獲得する流れが生まれるためです。
このように「ネットワークの経済性」を持つ事業は、早い段階でシェアを拡大できれば、競合他社に対して競争優位性を築きやすいのが大きな特徴です。
なぜ事業の経済性が重要なのか
持続可能なビジネスモデルを構築するには、事業の経済性を意識することが不可欠です。
その主な理由は2つあります。
- 価格競争力の強化
事業の経済性を踏まえたビジネスモデルを構築すれば、コスト削減が可能です。それにより利益率が向上し、結果として価格競争力の強化につながります。
- 競争優位性の確立
事業の経済性を意識することで、コストを削減し、より低価格での提供が可能です。また、サービスや商品の利便性も高まり、顧客満足度の向上につながります。つまり、価格競争力を強化しながら、付加価値を加えることで他社との差別化を図ることができ、結果として競争優位性を確立できます。
事業の経済性を活用した分析手法
「事業の経済性をどのようにして取り入れるの?」という方もいらっしゃるでしょう。そのような方におすすめのフレームワークは、「アドバンテージマトリクス」と「ファイブフォース分析」です。これらを活用することで、事業の経済性を考慮したビジネスモデルが展開しやすくなります。
アドバンテージマトリクス

アドバンテージマトリクスとは、「優位性構築の可能性」と「競争要因の数」という2つの軸から事業を分類するフレームワークです。事業を4つのタイプに分け、それぞれに適した戦略を明確にできます。
さらに、アドバンテージマトリクスを活用して事業を分析することで、自社の強みと弱みを客観的に把握でき、事業の将来性や進退の判断にも役立ちます。
アドバンテージマトリクスの詳しい内容は、「アドバンテージマトリクスとは?事業戦略に役立つフレームワーク」の記事をご覧ください。
ファイブフォース分析

ファイブフォース分析とは、5つの競争要因から外部環境を分析するフレームワークです。分析対象となる5つの要素は以下のとおりです。
- 競合他社の脅威:既存の競合他社との競争によるリスク
- 新規参入者の脅威:新規参入企業との競争によるリスク
- 代替品の脅威:新たな技術や製品によってシェアを奪われるリスク
- 買い手の交渉力:納品先や消費者からの値下げ交渉による収益性の低下
- 売り手の交渉力:仕入れ先からの値上げ交渉による収益性の低下
例えば、「新規参入者の脅威」を分析する際には、その業界の参入障壁が高いか低いかをチェックします。
一般的に、規模の経済性が強く働く業界は、参入障壁が高くなる傾向にあります。このようにファイブフォース分析を活用することで、事業の経済性を考慮した分析が可能です。
事業の経済性を意識したビジネスモデルを構築しよう
新規事業を成功させるためには、優れたアイデアだけでなく、事業の経済性を意識したビジネスモデルの構築が不可欠です。事業の経済性には5つの種類があり、いずれかに対応することでコスト削減を実現し、競争力を高められるためです。また、「アドバンテージマトリクス」や「ファイブフォース分析」といったフレームワークを活用することで、事業の経済性に配慮した実践的な戦略を立案できます。これから新規事業を立ち上げる予定のビジネスパーソンは、成功確率を高めるために、事業の経済性を意識してみてはいかがでしょうか。